ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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アリスとユージオ!!!
夏が楽しみ!!


14話 テロリスト

 

「ディミトリエ・ヴァトラーだと?」

 

「え、えぇ………」

 

その日の夜は珍しく南宮家全員が揃って食卓を囲んでいた。

通常なら稼業である特区警備隊から那月に依頼がきたり、鬼である夜如が夜間のアルバイトが入ったりとするのだが今日はどちらともその予定がなかった。

南宮家ではそのような日をちょっとしたイベントとして扱っている。

テーブルに並ぶ料理のグレードは一段階上がってシャンパンも開く。

会話も弾んで那月が夜如に対する毒舌も日常のとは別物で笑顔が混じる。

加えて、アスタルテが南宮家にやってきたことから今まで以上に楽しい晩餐会になるはずだった。

しかし、那月の眉間にはシワがよって見るからに不機嫌な態度をとっていた。

夜如は躊躇いがちに今日の出来事を話し始める。

 

「えっと、攻撃的な式神が暁さん宛てに招待状を送ってきたんですよ。その宛名がアルデアル公ディミトリエ・ヴァトラーって。この名前って確か………」

 

「蛇使いだな」

 

那月は嫌な気分を飲み込むようにシャンパンを飲み干した。

ディミトリエ・ヴァトラーとは吸血鬼の中でも上位の存在である貴族の部類に入る存在である。

その親は忘却の戦王(ロスト・ウォーロード)と呼ばれる吸血鬼の覇王の第一真祖。

街一つを簡単に破壊できる真祖クラスの眷獣を七十二体も従わせる怪物だ。

そんな怪物の直系の血族であるディミトリエ・ヴァトラーもまた十分化け物で、蛇使いという二つ名を世界に轟かせ自分より高位の吸血鬼である真祖に次ぐ第二世代の吸血鬼長老(ワイズマン)を二人も喰っているのだ。

それ故、ディミトリエ・ヴァトラーは”真祖に最も近い存在”とされている。

 

「あいつが暁古城と接触しようとすることも考えておくべきだったか」

 

「暁さん喰われたりしませんよね?」

 

「知らん。そもそもこのタイミングであの軽薄男が絃神島に来ることの方が問題だ。アスタルテ」

 

命令受諾(アクセプト)

 

那月は腕を組んで背もたれに寄りかかると隣に座っていたアスタルテに指示を出した。

リスのように頬を食べ物でいっぱいにしていたアスタルテは一気に口の中の食べ物を飲み込むとダイニングを出て行った。

程なくしてアスタルテが一つのタッチパネルを持って戻ってくる。

夜如は首を傾げてアスタルテからタッチパネルを受け取った。

顔を上げて那月を見ると見てみろと指でジェスチャーをしている。

夜如は電源を入れて一番最初に出てきた画面を見て目を見開いた。

 

「ナラクヴェーラ!?………って何ですか?」

 

那月は思わず深いため息を漏らし、見覚えのない単語に夜如は頬を掻く。

タッチパネルには数枚の写真が映されていた。

遺跡のような写真と石板の写真の二種類だ。

石板には意味不明な文字の羅列が刻まれている。

所々に赤線やメモが記されているところを見ると解読途中だということだろう。

しかし、記されているメモ自体も夜如には意味不明な文字だった。

唯一読める単語も夜如が理解できるものではなかった。

その問いに答えたのはアスタルテだった。

 

「ナラクヴェーラとは南アジア、第九メヘルガル遺跡から発掘された先史文明の遺産です」

 

「遺産?それの何が問題なの?」

 

「当時、繁栄していた都市や文明を滅ぼしたとされている神々の兵器です」

 

「神々の兵器!?」

 

アスタルテの説明を聞いた夜如は再度タッチパネルを見た。

神々の兵器と呼ばれそうな写真は一つもない。

 

「じゃぁこれはそのナラクヴェーラ?を呼び出したりする呪文みたい物?」

 

「否定。この石板はナラクヴェーラの起動コマンドです。本体はこの島のどこかにあると予測されます」

 

「起動コマンドねぇ………本体が絃神島に!?」

 

夜如は勢いよく立ち上がって叫ぶ。

神々の兵器と言われて何よりも那月が警戒している代物が絃神島にあるとなると呑気に料理を食べている場合ではない。

しかし、那月は驚くほど冷静に夜如を目で椅子に座らせる。

 

「落ち着け。世界中の科学者が寄ってたかっても名前しかわからない古代文字だぞ」

 

「でも………」

 

「これを絃神島に密輸したのは黒死皇派(こくしこうは)。東欧にある戦王領域のテロリストがない頭を使ってもどうにもならんさ。しかし………」

 

那月はまた機嫌が悪そうな顔をする。

夜如も那月の言葉の意味に気づいて”あぁ”と頷く。

 

「ディミトリエ・ヴァトラーは戦王領域からの使者です。無関係とはならないと予測します」

 

表情のない瞳でアスタルテは夜如と那月があえて口に出そうとしなかった結論を言ってしまった。

吸血鬼とは永遠を生きる化け物。

生きることに退屈を覚えて日常に刺激を求めるバトルマニアなのだ。

その傾向は古くから存在する吸血鬼に多く見られ、ディミトリエ・ヴァトラーは吸血鬼の貴族と呼ばれる古くから存在する吸血鬼。

神々の兵器と戦いたいと思っても不思議ではない。

楽しい晩餐会が不穏な空気に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日になると夜如はいつも通り運送会社のアルバイトに勤しんでいた。

上司も受け取り先の人もこの絃神島に神々の兵器があることや、黒死皇派と呼ばれるテロリストが潜伏していることに気づいている様子はない。

それが当たり前で知っているはずがないのだが、それを知っている夜如の神経は敏感になっていた。

那月からは絃神島に黒死皇派、正確には壊滅した黒死皇派の残党がいるとだけ聞かされている。

黒死皇派とは魔族の中でも獣人が最高位の存在と信じるテロリスト集団のこと。

先日、夜如が特区警備隊と共に強襲した獣人グループも黒死皇派だったという。

いつ、何処で、誰が、獣人化して人々を蹂躙し始じめてもおかしくないのだ。

 

「夜如君。次はこの本を彩海学園に届けて来てね」

 

「了解です」

 

上司の指令に夜如はにこやかに返事を返した。

少なくとも近くにいる人たちだけでも守らなくてはならない。

特区警備隊が黒死皇派が潜伏している場所を特定するのも時間の問題と那月は言っていた。

それまでは働かせてもらっているこの会社を守ると夜如は固く誓う。

 

「では、行ってきます!」

 

会社の人たちの服に気づかれないよう”鬼瓦”をくっつけて、会社のビルにも大きな”鬼瓦”を設置する。

鬼瓦の効果時間は一日。

早く仕事を終わらせて社員を全員家に帰す。

それが一番の安全確保だと夜如は考えていた。

 

「ふん!!」

 

夜如は車には乗らず、荷物を抱えて一気に跳躍した。

交通ルールに縛られる車は楽ではあるが正直遅い。

それに比べて夜如が建物の上を飛んで行くと、ほとんど一直線で運送先へと辿り着くことができる。

スピードを求めるのなら夜如が荷物を担いで運んだ方が得策なのだ。

獣人をも超えるスピードとパワーを持つ鬼の力は伊達ではない。

 

「はぁ!」

 

夜如は更に大きく跳躍した。

遠くまで見渡すことができるようになり夜如のツノにも色々な情報が流れ込んでくる。

全体的に緑が少なくほとんどが白い建物ばかりな絃神島。

平和に見えるこの島は常に危険が付きまとう。

絃神島を守るために夜如は全力を尽くそう気合を入れた。

 

「ん?」

 

すると、彩海学園に近づいてくると夜如の鼻腔をくすぐる匂いが感じ取れた。

匂いは彩海学園へと近づくにつれて強みを増していく。

一般の人間なら何も感じることができないであろう微かな匂いだが、夜如にはしっかりと感じることができる。

 

「まさか!?」

 

彩海学園には中高合わせて多くの学生がいる。

今の時間帯だとちょうど昼休みのはずで常に配置されている教師兼国家攻魔師も生徒から目が離れやすくなってしまう。

そこを黒死皇派の獣人が暴れたとするとまずいことになる。

今、彩海学園には那月がいないのだ。

那月は間が悪いことに黒死皇派のアジトを見つけるために午後から彩海学園を出ると言っていた。

もう、この時間帯ではいないだろう。

 

「けど、匂いが少ない?」

 

夜如はその匂いの薄さに疑問を持っていた。

虐殺のように多くの人が殺されていたらもっと血の匂いが濃いはずなのだ。

夜如が感じている匂いは明らかに薄かった。

しかし、血の匂いが一種類という所を考えると確実に一人が大量出血している血の濃さ。

 

「重傷者か?」

 

夜如は彩海学園の校庭に着地すると持っていた荷物を投げ出して血の臭う場所へと駆け出す。

そこは保健室だった。

やはり、重傷者が出ただけだったのかと安堵してはならないが黒死皇派ではないことに安心する。

しかし、保健室についた夜如は安心した自分を呪う。

 

「アスタルテ!!!!!」

 

血を流していたのは妹だったのだ。

 




高校も卒業して、無事に看護科がある大学にも進学決定して、安心です!!

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