ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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さぁ、やっていきましょう。

ルウシェを当てるぞ!白猫プロジェクトと白猫テニス!!


昔話
1話 北の里


「ふん、酷い有り様だな」

 

とある村里。

南宮(みなみや)那月(なつき)は辺りの光景を見てつまらなそうに言った。

那月の目には破壊された家々とその家屋で暮らしていたであろう者達の死体が映っていた。

一般人が見れば目を背けてしまうこと確実な惨劇痕だ。

特に死体はあらゆる関節は折れ曲がり引きちぎられ、酷い者は顔が潰されて元の顔が判別不可能となっていた。

それは中途半端に人型を保っていることで逆に見る者に不気味な恐怖心を与えてくる。

幸いにも那月は一般人ではなかった。

悪魔と契約をして人智を超えた存在である魔女なのだ。

それも一介の魔女ではなく、魔女の中でも最上位の力を持つ魔女。

あらゆる高難度な魔術に加え、過去の行いにより冷徹無慈悲の『空隙の魔女』と世間では恐れられていたりもする。

そんな那月だからこそ、このような惨劇の光景をいくつも見て来た。

世界では更に悲惨な光景が存在している。

しかし、那月がどのような魔女であっても、それらの光景を見て一切心が揺らがないという訳ではない。

那月とて僅かではあるが悼む心は持っている。

ただ、今の那月はこの惨劇跡とは別の不気味な光景に内心溜息をついていた。

 

「早く死体を運ぶんだ!絶対にこれ以上の傷をつけるなよ!!」

 

スーツ姿の男が武装している兵士達を怒鳴りつけていた。

乱暴な命令を受けている兵士は散らばっている死体をスーツの男に言われた通り、丁寧に丁寧に運んでいる。

武装している兵士が丁重に死体を扱う姿は違和感しかない。

那月はその行動を後ろから見つめていた。

スーツの男の声音から感じられる異常な焦りと丁寧すぎる死体への配慮はまるで貴重な実験動物が死んでしまったようだった。

 

「南宮那月、周囲の警戒に行け」

 

すると、スーツの男が振り返り、傍観していた那月にも乱暴に命令する。

那月はその態度に不快感を隠さず言い返す。

 

「私に命令をするな」

 

「ここでのトップは私だ。部下は命令に従え」

 

「貴様は何か勘違いをしているな?私がここにいるのは偶然だ。私はお前の部下として派遣された訳ではない」

 

「口答えするつもりか!」

 

「全く...」

 

スーツの男は那月の態度に声を荒げる。

しかし、これ以上の問答は意味をなさないと判断した那月は更に怒鳴りつけようとしてくる男を背にして空間転移の魔術を行使する。

転移の瞬間、男が色々と叫んでいたが那月は無視し、耳に届いた雑音に溜息を吐いた。

転移した先はまだ家屋が完全に破壊されていない村里の外れだった。

 

「何故この私がこんな所で時間を浪費しなければならんのだ」

 

那月は機嫌悪く呟いた。

確かに那月は本来なら今頃すでに面倒な仕事の帰路についており、優雅な夕食を取っている筈だった。

それが緊急とは言え予想外の残業に現場指揮官の横暴な態度。

指揮官の態度に関してはプライドの高い那月が言えたことではないが、兎に角那月の機嫌は非常に悪かった。

 

「もうこのまま帰ってしまおうか」

 

那月が本気でそんなことを考えていると村を覆う森の方から不自然な物音が聞こえるのに気付いた。

この村は広大な樹海の中に存在しているようで見通しが悪い。

更に時間は夕暮れを通り過ぎて真夜中である。

月が僅かに光をもたらしているが、森の中では木々が邪魔をして音の正体は掴めない。

スーツの男にはあのような態度をとってしまったが、不本意にも那月は周囲の警戒を任されている身なので違和感があれば確認しなくてはならない。

生き残りの可能性もある。

那月は小さく溜め息を吐いて森に入った。

 

「......厄日だな」

 

音の正体はすぐに判明した。

そして、那月は今日一番の溜息を吐いた。

那月が見下ろすのは里から隠れるように倒れこんでいる傷だらけの少年だった。

その少年の額からは黒いツノが二本生えていた。

 

 

__________

 

 

「あの馬鹿犬め。戻ったらどうしてくれようか」

 

那月は美しい月夜の下で苛立ちを吐き捨てていた。

普段、那月が暮らしている場所は日本本土から遠く離れた南の島だ。

そんな那月が遥々本土にやって来たのはとある試験の監督をする為だった。

その試験とは国家攻魔官の採用試験である。

国家攻魔官とは魔術などを用いて魔導犯罪者や魔獣を捕縛し時に殺めることを目的とした、那月自身も一応副業として席を置いている職業だ。

そんな国家攻魔官には高い能力が求められ、当然過酷な試験を合格しなくてはならない。

試験内容は様々で学習面から犯罪者と対峙した際の対応や個人の能力。

あらゆる観点から評価して合否を決めていく。

しかし、試験の合否の判断は難しく試験で良い結果を残せても実践で結果を出せず最悪の場合には殉職してしまうことも珍しくない。

本来なら複数人が話し合い長い研修期間を経て慎重に判断するのだが、国家攻魔官はその危険度や能力適正、また私営攻魔官の存在により常に人手不足で試験一つに時間も人数もかけてはいられないのだ。

そこで白羽の矢が立ったのが那月である。

国家攻魔官の中でも最強クラスであり、本業の観点から人を見る目を買われ国の役人から試験官の依頼が飛んできたのだ。

しかし、那月自身は当然のように依頼が届いた瞬間、お断りのお祈りメールを送り返していた。

だというのに那月が試験場にいたのは腐れ縁の厄介な後輩が迷惑にも手を回したせいである。

何とか仕事内容を有能そうな受験者のピックアップだけに交渉することはできたが、本業への影響を考えると無駄な時間を過ごしてしまったという感覚は拭えない。

しかし、面倒ごとは立て続けに起こるもので、すぐにでも家に帰りたいという那月の心とは裏腹に非常用の着信音が携帯から鳴り響く。

那月は顔をしかめながら携帯にでる。

 

「......なんだ?」

 

『お疲れ様です南宮攻魔官。突然ですが今から指示する場所に向かってください』

 

「魔族か?」

 

『はい、それも相当危険な魔導犯罪者です。南宮攻魔官が本土にいると聞き連絡しました』

 

那月はしかめた顔を戻し意識を切り替えて戦闘に備える。

いくら人数不足といえど国家攻魔官の採用試験を行なっているここには那月以外の国家攻魔官が数人いる。

そこらの魔導犯罪者なら那月の力を借りずとも対処できる筈だ。

副業として国家攻魔官を行っている那月に直接急な連絡で依頼が届くのはそれほどの緊急事態ということである。

 

「分かった。詳しい説明を」

 

『ありがとうございます。ですが、一つお願い......いえ命令があります』

 

「......なんだと?」

 

『今から向かう場所のことを他言することは禁止です。移動を見られてもいけません』

 

那月の表情また苦虫を嚙み潰したようになるのだった。

 

 

 

__________

 

 

那月が指示された場所は北方の山奥。

どこまでも続く森、樹海と呼んだ方がしっくりくる程の大自然の中だった。

この広大な森のどこかにある里が魔導犯罪者の出た現場だという。

こんな場所に何故里があるのかと疑問を抱きつつ那月は暗闇の森を迷うことなく、転移を続けていた。

しかし、どんなに暗くても那月の視界には薄赤い光を捉えている。

一度入り込めば遭難しそうな森の中を確信をもって進んでいられるのはその光のお陰である。

同時にその光の正体が何なのかは鼻腔をくすぐる木々の焼けた匂いで想像は難くない。

 

「確かにこれは厄介な敵だな」

 

最後の転移で辿り着いたのは激しい戦場だった。

と言っても人々が殺し合っている訳ではなく、たった一体の強大敵に対して十数人の武装兵が血眼になって挑んでいる海外映画のような場面だ。

武装兵は配列を組んで規律正しく銃撃しているが、敵は武装兵の銃弾を物ともせずに暴れている。

その光景はまさに大人対子供であり、武装兵の攻撃が一切通用していないことが目に見えて分かる。

敵が凄まじく強靭な肉体を持っていることが窺える。

 

「呪詛が効いていないのか?」

 

那月は冷静に現場の状況を捉える。

魔族に対して扱う銃弾というのは魔族の異常な回復力を阻害するために呪詛を込めた特別な弾を使う。

当然、武装兵が今使用している銃弾もそれであろう。

いくら強靭な肉体を持っていようがその銃弾がまともに命中すれば大抵の魔族は肉は抉られてその部位を損傷させることなど容易な筈である。

那月の疑問は敵を観察すればすぐに分かることだった。

 

「なるほど、鬼気か」

 

那月は珍しそうに顎に手をやった。

現に敵は珍しかった。

敵は二メートルを超えており、全身は分厚い筋肉で覆われている。

そして一番の特徴は頭から生えている黒いツノだ。

日本の童話や昔話にはよく出てくる悪役。

鬼だ。

絶滅が危惧されて、世界でも希少な魔族。

その手の研究機関からしたら喉から手が出るほどの存在だ。

中でも日本の(おに)鬼族(オーガ)と違い鬼気と呼ばれている特殊な能力を持っている。

しかし、その鬼気の正体を把握している者は存在せず、実際にどのような効果をもたらすのかは行使する鬼すらも完璧には理解できていないという。

解明されていることと言えば肉体の強度や能力を向上させたりする程度である。

一部では火を噴くなどの報告があるが未知数なことに変わりはない。

 

「しかし、貴重な鬼を殺しにいっているとはな」

 

そんなことを那月が考えている最中、戦況が遂に崩れる。

 

「わあぁぁ!!」

 

隊列の一番前で銃を構える武装兵の一人が狂ったように銃弾を乱射し始めたのだ。

しかし、鬼は銃弾の雨を真っ向から受けながら突進し錯乱する武装兵をこれまた正面から殴りつける。

拳を受けた武装兵は遥か後方へと吹き飛んでいく。

そして、鬼が武装兵の一人を殴り飛ばすことで隊列は乱れ、その隙を突くように鬼は更に暴れ始める。

 

「離れろ!一旦距離を取るんだ!!」

 

隊長らしき人物か叫ぶ。

しかし、その声が届いている兵はもういない。

先程まで綺麗な隊列を組んでいた武装兵一人一人は各自で勝手に行動してしまっている。

逃げ出すものや最初に殴り飛ばされた者のように銃を乱射する者。

ただ一人の兵士がやられただけでこうも隊列が乱れることは無いだろう。

 

「精神に何らかの影響を及ぼしているのか。全く面倒な」

 

味方の武装兵が一振りの拳により吹き飛ばされている中、那月は冷静に歩を進めた。

混沌とした戦場の中、不思議と那月の前に遮るものはない。

まるでそれが当然のことのように道が開いていく。

味方からしたら意識的に退いた訳ではないだろうが那月は何食わぬ顔で鬼の目の前に立ちふさがる。

 

「おい、貴様。暴れるのを止めろ」

 

那月は暴れる鬼に怯むことなく言った。

すると、那月が持つカリスマ性なのか然程大きな声ではないにも関わらず、鬼は暴れるのを一旦止めて那月を睨んだ。

その眼は緋色に光っており、一睨しただけで対象を殺してしまいそうな鋭さを持っていた。

那月の後ろにいただけで睨まれていない筈の武装兵でさえ動きが固まり倒れ込む者までいる始末だ。

しかし、那月は臆することなく続けた。

 

「貴様はなぜ暴れている?こちらとしては怪我人が出て大変迷惑なんだが」

 

「特別な存在だ!」

 

「......なに?」

 

那月は眉を顰めた。

鬼は唇の先を釣り上げて嬉々として笑う。

那月は僅かな違和感から咄嗟に簡単な突風を発生させる魔術を駆使して後ろにいた兵を後方へ吹き飛ばした。

 

「俺が更に特別にしてやる!!」

 

 

同時に鬼が那月に向けて拳を叩きつけた。

鬼の肉体からは赤いオーラのような光が滲み出て全身を纏っている。

その威力は武装へに向けられていた拳の威力とは比べるまでもなく上昇していた。

 

「「「がぁぁぁ!!」」」

 

その衝撃は凄まじく、那月の魔術で吹き飛ばされた兵が更に後方へ吹き飛ばされるほどだった。

たった一発の拳で那月がいた場所にはクレーターが出来上がる。

異常な威力だ。

鬼は那月の存在などすぐに忘れて吹き飛ばされた兵に標的を定めた。

 

「さっさとあのガキを返しやがれ!!」

 

「......これが鬼気を宿した拳か。破壊力だけは一級品だな」

 

その言葉に鬼の行動は止まる。

鬼の背中から聞こえる声は何事もなかったかのように淡々としていた。

鬼はゆっくりと振り返る。

鬼の目は変わらず鋭いままだったが、僅かに驚きの表情があった。

対照的に声の主、那月は不敵な笑みを浮かべていた。

那月の着込んだ黒いドレスは一切変化はなく、傷どころか汚れ一つなかった。

那月は鬼の殴打が当たる寸前に空間転移で躱したのだ。

 

「俺の殴打を避けたのか?」

 

「ああ、ただの人間には反応すらできなかっただろうな。まぁ、相手が悪かったと諦めろ」

 

馬鹿にした表情を崩さず両手を軽く上げて息を吐く。

ついでに服が汚れたらどうしてくれるんだと挑発すらしているしまつだ。

那月は自分が負けるなど少しも考えていなかった。

実際のところ那月が負ける可能性は皆無だった。

希少価値で特殊な能力を持っている鬼と最強クラスの魔女である那月とでは那月が負ける理由がなかった。

 

「このガキが!!」

 

「はぁ、餓鬼(がき)というのは貴様のことを呼ぶのだ馬鹿め」

 

鬼が再度鬼気を纏った拳を叩きつけようとした時、那月の姿は既にそこになかった。

次の瞬間には鬼は自分でも気がつかぬ間に紫色に輝く鎖に縛り付けられていた。

 

「クソが!!離せ!!!」

 

鬼は鬼気を全身に纏って鎖を破壊しようと身じろぐするが、鎖は軋みもしない。

 

「無駄だ。最初の殴打で分かったが、いかに未知の力だろうと貴様にその戒めの鎖(レージング)は切れない」

 

鎖に巻かれて倒れ込む鬼を見下しながら那月は言う。

鬼は狂乱状態となりながらも叫んだ。

 

「俺の子を返しやがれ!!!ガキが!!!」

 

「さっきから貴様は何を言っているんだ?まぁ、それは私の仕事ではないな。それよりも私はガキではない!」

 

那月は自身のコンプレックスに触れられた怒りを鬼に向けて、拘束する鎖の本数を増やした。

鬼は連行される際、常に叫んでいた。

返せと。

 

 

__________

 

 

那月は倒れこんでいる少年を見てあの時の戦闘を思い出していた。

 

「この少年があの鬼の子か………」

 

暴れていた鬼はこの少年を探し回っていたのだろう。

その際に駆けつけた国の武装兵と対峙して戦闘となってしまった。

那月はそう考えると少年の傷をじっくりと観察した。

那月に医療知識があるわけではないが、傷は多くても外見上に致命傷になる傷はないように見える。

鬼ならば数日で完治してしまうだろう。

魔族の中でも飛び抜けて再生能力が高い不老不死の吸血鬼には届かなくとも鬼は高い回復力を持っている。

那月はそのことを確認したのち考え込む。

 

「どうしたものか」

 

この少年を役人に引き渡すことが那月の仕事の一つなのだろう。

普通ならそうすべき所、那月は引っかかっていた。

この小さな鬼を役人に届けたら一体どうなってしまうのだろうかと。

役人の行動や希少な鬼ということを考えれば想像は悪い方に傾く。

 

「......どうせ()()()に送られるのだろうな」

 

それは本当に気まぐれだった。

ただ、この小さな鬼の未来を想像して働いた極々僅かな同情の心と善意。

那月はその少年の額に優しく手を当てると魔力を注いだ。

 

「南宮那月。そこで何をしている!」

 

すると、後から世話しなくスーツの男がやってくる。

那月と言い問答していた人物とは違う男だ。

 

「なに、熊を追い払っただけだ」

 

那月はつまらなそうにその場を後にする。

鬼の少年は神隠しにあったかのように消えて無くなっていた。

 

 




お久しぶりです!!
天邪鬼です!!
今まではPSVITAで投稿していたんですが、今回からはパソコンでの投稿となります!
いやー、自分のパソコンっていいですね!

さて、懲りずに新作ですがまた長くなりそうなのでよろしくです!!!

では、評価と感想お願いします!!

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