堕ちてきた元契約者は何を刻むのか   作:トントン拍子

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 お待たせしました。
 ごめんなさい!ごめんなさい!時間掛けたわりに前回の半分以下の文字数でごめんなさい!許して!許して!怒らないで!怒らないで!わたしちゃんと書くから!いやー!オガーサーン!(マナ感
 とまぁこんな感じで書いていました。戦闘描写を上手く書ける他の作者さん達が本当に羨ましい。
 最後まで書こうと思ったのですが、モチベーションの関係で今回は戦闘中盤までです。後半及び戦後は次回とさせていただきます。ご了承ください。


第一章七節 覚悟 (編集中)

 

 

 

 振るった剣が鎧を断ち皮と肉に食い込む。

 

━━━その瞬間、肌が粟立つ様に震えた

 

 刃が骨へと達し刹那の拮抗の後、臓腑に沈んでゆく。

 

━━━ぞくり、と背筋をナニかが這い回る

 

 そのまま振り抜くと敵は糸の切れた繰り人形の様に崩れ落ちる。

 

━━━堪らない

 

 崩れ落ちる瞬間に見える顔も十人が十人まったく違う。痛み、恐れ、悲しみ、怒り、絶望、逃避、不可解、気狂い、それらを混ぜ合わせたナニか、何れでもないナニか。

 感情に乏しい帝国のダニ共やドラゴンでは味わえなかったモノだ。

 獣や亜人共でもここまで彩り豊かではなかったモノだ。

 

「…クク」

 

 無意識に漏れた笑いと共に思う。成る程、【普通】の人間を斬るとこうなるのか。

 

(悪くない)

 

 最も、不満が無いわけではない。事前の情報でダニ共程とは思っていなかったが、実際に手を合わせてみるとカサンドラ軍は俺が想定していた強さを下回っていた。

 練度はそこそこ、士気もまずまず、だがそれだけ。たった二十人斬っただけでもう怯んでしまった。

 

「……どうした?どうしたどうした!話に聞くカサンドラ軍とはこの程度か!?」

 

 発破を掛けるつもりで軽く挑発すると兵士達の目に怒りが灯る。まだ折れてはいない様だ。

 

「なめるなぁ!突撃ー!」

『おおおぉぉぉぉぉぉ!』

 

 五人の槍兵がこちらへ突撃し、十数人の弓兵が弦を引き絞る。

 

(それでいい)

 

 そう、ほくそ笑みながら自らも間合いを詰めた。

 

 

 

 兵士が持っている長槍は魔女が操る木の巨人用に誂えた物で通常の槍と比較すると1.5倍程の長さがあり、柄も一回り半太い。

 剣よりも槍、槍よりも弓、戦場にて間合いが長い武器はそれだけで脅威である。斬り捨てられた仲間達を見て剣では勝てないと悟った兵士達が選択したのは剣の間合い外からの攻撃。

 柄の端を脇で固定し前傾姿勢で謎の男に突っ込む。先頭を走る兵士はこれならと勝利を確信した。後退させることが出来れば崩れかけたこちらの態勢を立て直せるし、左右に避けられても味方の弓が男へ飛ぶ。

 だが男は予想と反してこちらへ真っ直ぐ向かって来た。

 一瞬目を見開くが、結果は変わらないとばかりに走る足に力を込める。槍を捌くか避けるかして懐に潜り込もうという魂胆なのだろう。一対一なら可能だろうが今は五対一、自分の槍を捌こうとも後続から更に四本も追撃が来るのだ出来るはずがない。

 圧倒的な“個“を前にして“理“と“数“で対抗する彼等の判断は間違っていない。

 ただ、相手が悪かった。 

 

 

 突撃してくる槍兵との間を計りながら剣を振り上げる。狙うのは槍の柄でも相手の腕でもない、刃のある穂先。

 後、三歩二歩一歩、

 剣の間合いに穂先が入った瞬間、振り上げていた剣を渾身の力で振り下ろす。切り払うのではなく、打ち落とす為に振るわれた剣は穂を砕きながら槍の軌道を地面へと移させた。

 

「ぬぉ!?」

 

 いきなり槍を打ち落とされた兵士は走ってきた勢いを殺せず、つんのめりながら槍を地面に突き刺してしまう。その衝撃で柄が折れ、顔面を土砂へ擦り付けた。

 先頭が転げたのを見て後続の勢いが数瞬鈍る。それを見逃さず、足の肉が悲鳴をあげるのも構わず更に歩を進め、間を縮めた。

 残りは四。左右から来る槍を見て左端が遅れていることに気付く。足を止めずに今度は左前の槍へ剣を横薙ぎに振る。半ば手振りの為、柄をしならせる事しか出来なかったがそれで十分“隙間“ができた。体を半身にしてその隙間へ捩じ込み、槍の内側へと入る。

 すれ違い様に左前の兵士の首を斬り裂き、起き上がろうとしていた兵士の頭を蹴り飛ばす。

 蹴った手応えから首がひしゃげたのを確認することもなく槍兵の突撃を突破、そのまま奥にいる兵士達に狙いを定めた。

 

「ひっ。来るな!来るなぁ!」

 

 正面から突破してくるとは思わなかったのか慌てて弓兵が矢を射ってくる。しかし、動揺の為か隊列を組んでの一斉射ではなく疎らだ。当たらないものは無視し、避けられるものは最小限の動きで済ませ、残りは剣で弾く。

 

「あ、あぁあああぁぁぁ!」

 

 悲鳴をあげる弓兵の一人を斬り捨て敵陣の中へ斬り込んだ。

 

 

 

「ちょこまかと!」

「止めろ!同士討ちになる!」

「囲め囲め!」

「くそ!くそがぁ!」

 

 乱戦になってしまえば長槍や弓の理も機能しなくなる。特に長槍は味方、テント、物資等が邪魔をしてただの障害物の一つと化してしまった。

 逆に理を手にしたのはカイムだった。その地形を、状況を利用して、その圧倒的な“個“が敵陣を斬り裂き、薙ぎ払い、蹂躙して行く。

 

(………)

 

 手足を止めずにカイムは訝しむ。この部隊の編成の歪さに。

 槍兵を含めた歩兵の数が不自然なまでに少なく、その分弓兵が多い。何より対魔術師戦で部隊の壁となる“盾兵“が一人も見当たらない。

 魔法を使う魔女と戦うのだから近距離戦にならない限り剣や槍などは余り必要性が無い、だがそれを差し引いたとしても魔法を防ぐ為の盾兵がいないのはどういう事だと。

 今のカイムには分からない事だが、彼等の装備はハリガンが操る木の巨人用のもので、槍兵で足止めを行い、弓兵達の一斉射によって巨人を仕留めた後、砦へと進攻するのが今の魔女の砦攻略の基本戦術である。

 しかし、巨人を倒して砦に取り付こうとすると、今度は魔女達の魔法が飛んでくるのだ。当然それを防ぐ盾兵も“普段“なら存在する。

 

(…まぁいい)

 

 少し不可解に思いながらもカイムはその思考を切って捨て、戦いに没頭する。盾兵がいたとしても自分のやるべき事に変わりはない。斬り殺し、焼き払うだけだ。

 

 

 

「おらおらおらおらおらおらおらおら!」

 

 高揚し、自らも声を張り上げて、敵の怒号と罵声を聞き流しながら一人、また一人と斬り殺していると、

 

「そこまでだ!魔女に組みする不届き者め!我が名は━━━」

 

 能書きを垂れながらナーガ程の年若い兵が名乗り出てきた。鎧の意匠からするに士官だろうか。

 ちらりと周りを見ると兵士達が俺とそいつを囲んでいる。

 

(一騎討ち?時間稼ぎのつもりか?)

 

 纏めて掛かってくればいいものを、と思ったが僅かに思案してこれも一興と誘いに乗ることにした。何かを仕掛けてきたとしても奴等共々叩き潰せばいいだけの話だ。

 

「……カイム・カールレオン」

 

 こちらも名乗り返すと士官は「ゆくぞ!」と鞘から剣を抜き、斬りかかってきた。

 

「はぁ!」

 

 列帛の気合いとともに振り下ろしてきた剣を受け止め弾き返す。剣筋は悪くないが軽い。

 今度はこちらが剣を見舞う。士官は立て直す間もなく迫り来る剣を受け止めようとするが、そんな崩れた体勢で受け止められるほど俺の剣は軽くはない。

 受けきれず、がら空きになった胴体を断とうと剣を返すと士官は転げる様に剣線の外へ身を翻して、その勢いを殺さず距離を取ると剣を構え直した。

 実戦経験が薄いのか、たったこれだけのやり取りで額に汗を浮かばせ、大きく息を吐き出している。

 

「…威勢が良いのは口だけか?」

 

 警戒して向かって来ない士官にそう投げ掛け、歩きながら距離を縮める。

 

「っ、まだだ!」

 

 そう言って繰り出してきた刺突を払うが士官は歯を食い縛り、続け様に剣を二撃三撃と打ち込んできた。それらを受け流し、弾き返しながら反撃する。士官は受け流す技量も弾き返す力もないが地を踏み締め、顔を歪ませながらも俺の剣を受け止め、食らいついてきた。

 

(惜しいな)

 

 経験の薄い新兵にしては剣筋、目の良さ、判断力、意思の強さ、それぞれに光るモノがある。このまま経験を重ねていけばそれなりに楽しめる相手に成っただろう。

 だからといって見逃す気は更々無いし、そろそろ増援の魔女共も来る頃だ。あまりこいつだけに構ってはいられない。

 

「かは!?」

 

 剣戟の隙を突いて腹を蹴る。加減したため吹き飛ぶ事もなく士官は蹴られた場所を押さえながら数歩後退した。

 その瞬間、全身の力を使い士官の頭上へと跳び上がる。同時に上段に構えた剣へブレイジングウィングの魔法を付加させながら士官に狙いを定めた。

 

(手向けだ。派手に散らせてやる)

 

 使うのはドラゴンの硬い頭蓋をかち割る為に編み出した“付加“と“放出“の魔法を応用したものだ。

 避けられないと悟った士官は剣を盾に防ぐ構えをとっている。無駄だと口に笑みを浮かべ、兜割りの要領で剣を叩きつけると同時に魔法の力を放出した。

 

 

 

 巨石でも降ってきたのかと思う程の炸裂音と共に大量の火花と土煙が舞う。二人を囲んでいた兵士が反射的に目を瞑った瞬間、顔に何かがへばりついた。どろりと湿り気のある生暖かいそれを引き剥がし確認して、

 

「ひっ!?」

 

 ソレを地面に放った。

 兵士の顔に張り付いたソレは肉片のついた人の皮だった。何でコンナモノが、と混乱したまま恐る恐る部隊の副官と謎の男がいる場所へ視線を戻す。

 土煙が晴れたその場所には剣を下へ振り切ったままの男しかおらず、副官のいた所は地面が大きく陥没して所々捲れ上がっており、周囲には剣や鎧の破片と共に“副官だった“モノが散乱している。

 男がゆっくりと姿勢を戻す。口は口角を吊り上げ歯をむき出しにしてエミを作り、僅かに細められた目にはとても正気とは思えない喜悦のイロが浮かんでいた。

 

(ば、化物…)

 

 兵士の体の中でナニかが折れた。目の前にいるソレはもはや人の形をした化物。勝てるわけがない。

 剣を構えるでもなく立ったまま化物は品定めするように軽く周囲を見回すと、

 

「次」

 

 そう、言葉を発した。

 

「ぅ……ぁ…」

「じょ、冗談じゃ……」

「あ…あぁぁ…」

 

 囲んでいる兵士全員が一歩、また一歩と後ずさる。各々の恐怖が伝播し、混ざり合いながら膨れ上がってゆく。それが最高潮に達して破裂する瞬間、

 

「全ての隊員に告げる!━━━」

 

 指揮官である中隊長の叫びが響き渡った。

 

 

 

(悪夢だ)

 

 そうとしか言い様がない、と中隊長は忌々しく男を睨み付け、部下に指示を出している。

 今回の任務は木の巨人を仕留める“だけ“で砦の攻略も魔女と戦う事も想定に入ってはいない。まして、白兵の対人戦など殆ど考慮しておらず、今までの魔女との戦いから夜襲など埓の外であった。

 こちらに襲いかかってきた、恐らく魔女に加担しているであろう謎の男に陣中へ斬り込まれ、乱戦になった瞬間、中隊長の中で勝敗は決した。ならばこれ以上被害が出る前に一人でも多く【本隊】まで撤退させなければならない。

 

(撤退の指揮を任せるつもりだったんだが………あの向こう見ずめ…)

 

 そう、自身の副官を罵りつつも、その顔は自責の念に塗れている。

 才のある将来有望な若者だった。順調に経験を積んで行けば若くして中隊長(自分と同じ地位)に至ることも難しくはなかったろう。だというのに未熟さと責任感から止めようとする周囲を押し退け駆けて行ってしまった。

 

「隊長、準備が整いました」

 

 未熟な副官の為に補佐に入っていたこの部隊の“本来の副官“はそう中隊長に告げた。

 

「わかった。後は手筈通り、お前が撤退の指揮を取れ」

 

「はっ……御武運を」

 

 言い終わると同時に補佐は駆けて行く。その直後副官と男がいる所から轟音が鳴りと土煙が舞った。驚き、目を見開くが直ぐに短く目を瞑り、胸の内で副官への追悼と礼を述べる。

 そして目を開け、目の前にいる二十人の決死隊へ号令を発した。

 

「…始めるぞ」

 

 即座に決死隊を十人一班に編成し隊列を組むと中隊長はあらん限りの声を張り上げる。

 

「全ての隊員に告げる!これよりこの陣を放棄し、各自、本隊へ合流せよ!殿は我々が務める!」

 

 中隊長の言葉に兵士達は我先にと逃げ出し始めた。それを確認すると、次に男へ視線と己の剣を向け言い放つ。

 

「異端に組する外道よ!次は我等が相手だ!この首、刎ねてみよ!」

 

 その言葉に男はこちらを睨み付け、口元を笑みに歪ませながら向かって来た。

 

「構え!」

 

 中隊長の令に決死隊は弓を引き絞る。男との距離は18ヤルド(約50メートル)程。

 

「放てぇ!」

 

 男に矢が殺到した。

 

 殺戮に酔い痴れるカイム(化物)とそれに一矢報いようとする決死隊(勇者)の最後の戦いが始まった。




 今回出てきた名も無きモブ達は原作落ち龍には登場していないオリキャラです。書き終わってから見直すと、カイムがいるからってカサンドラ軍を強化し過ぎた感が否めませんでした。
 このままだと教会の討伐隊戦とか難易度がベリーハードかルナティックになるんじゃなかろうか……。と冷や汗を流しています。
 出てきたモブ達のイメージは

副官:ラノベの主人公にいそうな金髪の爽やかイケメン

中隊長:五十手前の白髪混じりで無理をせず手堅く任務をこなすやや昔気質のベテラン

補佐:眼鏡が似合いそうな中堅

兵士達:キングオブモブ

 という感じです。あくまでイメージですのであしからず。
 まだ後半の戦闘シーンが残っているので次回も今回と同じくらい時間が掛かるかもしれませんがお待ちください。
 後、小説情報の一部変更とオリキャラ(モブ)のタグを追加しました。

 ではまた次回お会いしましょう。

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