堕ちてきた元契約者は何を刻むのか   作:トントン拍子

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 おかしい………書けば書くほどカサンドラ戦から離れて行く………。
 と言うとこで準備回です。いや、本当に申し訳ありません。自分で書いておいて何ですがDODのクロスなのに驚くほど戦闘シーンが無い。
 次こそは、次こそはは必ず。


第一章五節 接敵 (編集中)

 

 

「…何?」

 

 前置きの無い俺の言葉にハリガンは訝るように眉を寄せた。

 

「お前等に手を貸してやる。カサンドラとか言う奴等が来たら俺をそこへ連れて行け」

 

 もう一度口にするとハリガンの目に疑心と警戒が僅に宿る。

 

「いきなりだな、どういう心算だ?」

 

「今の話を聞くと俺を生かしたのはその為だろ。もしくは種馬として、だ。ならば戦わせろ」

 

「種馬はともかく確かにそういう意図も無いわけではなかったが、まさかそなたから話を切り出されるとは思わなかったぞ」

 

 ハリガンはそこで一度言葉を句切るとからかうような目付きで、

 

「しかし種馬か……案外良い案かもしれん。魔法が使える男の血を吾等に入れてみるのも一興だ。何なら吾等から見繕ってみるか?」

 

 などとほざいたので、

 

「お前等などそそらん。それに娼婦でもない生娘など面倒なだけだ」

 

 そう切り返してやる。

 言い終わると同時に魔女達の顔が怒りで朱に染まる。約一名意味が分からなかったのか隣に「なぁ、ショウフってなんだ?」と聞いて困らせていた。

 

「ふ…ふふふ………そうかそうか、そなたの考えはよぉーく分かった。水車の如くこき使ってやるから覚悟しろ」

 

 青筋を立てながらハリガンがそう宣言してきた。からかってきたのはお前だろうに。

 

「それと戦うからには吾の指示には従ってもらう。そなたに好き勝手に暴れられては吾等にも被害が出かねんからな」

 

「…あぁ、分かった」

 

 正直あれこれ指図されるのは気に食わないが手を貸すと言った手前ここは形だけでも従うことにする。

 

「ただし緊急時や必要性があった場合は独断で動かせてもらう。一々お前に掛け合ってなどいられないからな」

 

 それとは別にこちらからも釘を刺す。

 

「………よかろう。余り無茶はしてくれるなよ」

 

 僅に思案してハリガンはそれを肯定した。

 

「ではカイム、そなたの力を貸してもらうぞ」

 

「あぁ、上手く使ってみせろ」

 

 思いのほか話が早く纏まり内心ほくそ笑む。

 これで戦える。これで殺せる。これで

 

━━━__できる、か?

 

 突然、嘲笑を含んだ声が響き渡りその言葉に心臓が直に握られたかのように萎縮する。同時に周りの全てが霧のように霞んでゆく。

 

━━━戦いたい。殺したい。忘れたい。良い言い訳だな。本当は__したいだけだというのに。

 

 違う。俺は本当に、

 

━━━それだけじゃない。「アイツ」の事も妹の事も親友の事もあいつ等の事も全て__したいだけの方便だ。

 

 黙れ。そんなこと、

 

━━━新たな___であるあいつ等に____には絶好の文句だ。これで言い訳ができる。

 

 煩い。思っていない。

 

━━━結局【俺】は__したいだけなんだ。「アイツ」を斬った時も_______が無くなって__しただけだ。

 

 チガウ。

 

━━━だがもうこれで__だ。「アイツ」の代わりに奴等がいる。

 

 ダマレ。

 

━━━だからもう__ない。だからもう___しまおう。

 

 ウルサイ。

 

━━━代わりに奴等のために戦おう。【俺】に__があると思わせるために、___られないために。

 

「その耳障りな口を閉じろ!喋るな!俺はそんなこと思っていない!」

 

━━━嘘を言うな。現にあの女から了承を聞いたとき【俺】は__

 

「違う!黙れ!煩い!俺は……俺は━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。見覚えの無い部屋に一瞬戸惑うがすぐに思い出した。自分は訳も分からず異世界に転移してきたのだと。

 窓際へ視線を送ると日の強さから昼近い事が分かった。俺にしては随分深く寝ていたようだ。

 

「………」

 

 視線を天井に戻す。寝起きの気だるさとは別に苛立ちが胸の内に巣くっている。何か夢を見ていたような気がするが思い出そうとするとそれを拒絶するかのように苛立ちが強くなっていく。

 

「…」

 

 忘れよう。ロクでもない夢に違いない。内に溜まっているモノを吐き出すかのように一つ息を吐くとそのまま起き上がった。

 傷の治療したといっても昨日の今日でしかないため体の至る所から鈍痛が襲ってくるがそれを無視して寝台の側面へ座る。部屋の中央にあるテーブルには自分の衣服と防具が積まれていた。

 それのそばに歩み寄り各々の状態を確認する。胴鎧や肘当ては何時砕けてもおかしくない程損傷しており使い物にならない。籠手も所々損傷しているが鎧程ではなく一応使用は可能、衣服や細々した備品も同様だ。

 剣だけが見当たらないがおそらく魔女共が保管しているのだろう。

 

「¥*¢§%★」

 

 一通り確認が終ると同時に扉が開き声を掛けられる。視線を向けるとハリガンが食事を持ちながら入ってきた。

 

「&$▲£☆#∋□※∴∨⊆∩∠∝Å∬▼∞%」

 

 食事の乗ったトレイをテーブルの端に置きながら何かを喋っている。例の札は寝台か。取りに戻ろうとするとハリガンが新しい札を渡してきた。額に貼り付けるとあらためてハリガンは口を開いた。

 

「動けば傷が痛むだろうに」

 

 半ば呆れながらそんな言葉を吐き、次いで手を前に出せと言ってきた。言われた通りにすると手首を縛っている己の髪に触れ、その一部を摘まんだ。それをそのまま引くとするりと髪が手首からほどける。

 

「食事を持ってきたが…その前に服を着てくれ」

 

 少し固まった手首をほぐしていると何が恥ずかしいのか僅に頬を染めながらハリガンが促してきた。“そういう“経験が無いとはいえ初な小娘という年ではないだろうに。

 とは言えこちらもこのままで良いという訳ではなく衣服を掴み身に付けていく。

 

「一応鎧も持ってきたがどうだ?」

 

「確認したが使い物にならない。…此処に鍛冶屋はいるか?」

 

 駄目元で聞いてみたがハリガンは苦い顔をして首を左右へ振った。

 

「すまぬ。吾等もナイフや装飾品くらいなら自分達で拵えられるのだか鎧となるとな……。隠れ里へ行けば炉もあるし作り直せる者にも心当たりがある。だが今は訳あって行く事ができないし、よしんば持って行けても普段作っている物と勝手が違うから時間も掛かるだろうな」

 

「そうか」

 

 期待していなかった為落胆もなく、作り直せるのなら幾らか待つとハリガンに伝えた。籠手と備品以外を身に付け終わり椅子に座りながらトレイを自分前へ持くる。

 中身はパンが一本に木の実のスープ、果汁の飲料が一杯置いてある。量としては少なめだが失った血や体力を取り戻すために口に入れてゆく。

 俺が食べ始めたのを見てハリガンは対面の椅子へ腰を下ろした。

 

「食べながらでよいからそのまま聞いてくれ。もう少ししたら砦にいる娘達に顔見せをしてもらう」

 

「……そんな面倒な事をしなくてもお前から言っておけばいいだろう」

 

「そうは行かぬ。これから此所で生活するのだ、最低限の礼儀は通してもらう。第一そなたの衣食住の面倒を見るのは誰だと思っている?」

 

 小煩い奴だ。果汁独特の酸味に顔を顰めながら出そうになる溜め息もろともそれを飲み干した。

 

「姉様!」

 

 そんなことを話し合っていると慌てた様子で淡紅髪の女が入ってきた。確かアイスと言ったか。

 

「どうした?」

 

「これを」

 

 そう言ってアイスは小さく細長い紙、恐らく伝書鶏用の紙をハリガンに渡した。

 受け取ったハリガンがそれに目を通し、

 

「………っ!…都合が良いのか悪いのか」

 

 そんな悪態をついた。

 

「……カサンドラが来たのか?」

 

 残りのパンとスープを流し込みハリガンに問う。

 

「あぁ…二百人程の部隊だ。あやつ等も本格的に吾等を潰しに掛かってきたか」

 

 たったそれだけかと思うも普段が百前後と言っていたからほぼ二倍か。まぁ肩慣らしには丁度良い。

 椅子から立ち上がり籠手と剣のホルダー、備品を装備してゆく。

 

「待てカイム。そなたもついて来る気か?」

 

「そういう約定だろ」

 

「死にかけていた上にまだ病み上がりだぞ。今回は大人しくしておれ」

 

「治療してあるし半日丸々休めたから問題ない。それに“何時ものことだ“」

 

「………どうなっても知らんぞ。ならばついてまいれ」

 

 額を押さえてハリガンが折れる。昨夜の話からしてダニ共程の手応えは無いだろうが期待してしまう。

 

(失望させてくれるなよカサンドラ軍)

 

 そんなことを思いながらハリガン、アイスに続いて部屋を出た。

 

 

 

 レラと森の散策から戻るとハリガンが数人の魔女と集まって狼煙を上げていた。

 

「姉様何かあり、っ!」

 

 レラの言葉と足が途中で止まる。視線の先には昨日の男がいた。向こうもこちらに気付いて一度視線を寄越すが興味が無いのかすぐにそっぽを向く。

 

「ハリガン、何かあったのか?」

 

 警戒してその場から動かないレラの代わりにハリガン達に近付きながら問う。

 

「レラにナーガか。遅かったな、どこまで行っておったのだ?」

 

 僅に咎めるようにハリガンが問い返してきた。

 

「悪い悪い。俺があちこちに引っ張り回しちまったからな」

 

 ユウキの水浴びを盗み見ていて遅れたなど口が裂けても言えない。言ったら確実に殺される。

 

「それで、何かあったので、すか?」

 

 半ば俺に隠れるようにしてレラも近付いてきた。

 

「カサンドラ軍が二百人の部隊を率いて来たらしい。今までは百人程で偵察やら小競り合い程度だったが、今回は向こうも本腰のようだ」

 

 真剣な顔でハリガンが簡潔に説明した。レラを始めとして他の魔女も苦い顔をしている。

 

「皆、戦支度をして広場に集合せよ。集まりしだい一の砦へ向かう」

 

 ハリガンの号令に従い魔女達は一時解散する。

 

「今いたのはセレナとディーとケイにノーザです、か。他は?」

 

 レラだけは残り今いた魔女以外のことも尋ねた。

 

「アイスとノノエルは既に戻って準備しているし先ほどまでユウキもいたのだが…な」

 

「……そうで、すか」

 

 頭痛でも抑えるように目を瞑りハリガンは答えた。俺もレラもその表情で察する。こいつらとは昨日今日の付き合いだが何があったのか容易に想像できてしまった。それを聞き終えてレラも自分の部屋へ戻って行く。

 それを見送った後、今度は俺がハリガンに疑問を問う。

 

「戦は質より量だぞ。たった十人足らずで二百と戦うのは無謀じゃないか?」

 

 一の強者より十の凡兵、十の精鋭より百の雑兵。時と運、例外はあれど古来よりの常識だ。

 

「それはそなたが吾等の魔法を知らないからだ。伊達に人から異能者と恐れられておらん」

 

 そう言ってハリガンは不敵に笑った。

 

「なら見せてもらおうか。俺も連れていってくれ」

 

「駄目だ…と言いたい所だがそのつもりだ。そなたやカイムにも戦場に出てもらう」

 

 含みのある言い方に眉を顰める。何故だと問おうとして、

 

「吾も準備をせねばならん。ついて来よ」

 

 間が悪く聞きそびれてしまった。カイムと呼ばれた男と一緒にハリガンについて行く。

 居宅の前まで来るとここで少し待っていろと言い残しハリガンは部屋へ入っていった。

 待っている間手持ち無沙汰だったので男に声を掛ける。

 

「昨日はお互い災難だったな。俺はナーガ。あんたの名は?」

 

「…カイム・カールレオン」

 

「皆無?随分妙な名前だな」

 

「?」

 

 皆無…いや発音が違うか、カイムが訝しそうにこちらを見る。

 

「いやすまん。気を悪くしちまうかもれないが、あんたの名は俺のいた所の言葉では余り良い意味では使われないからな」

 

 【何もない】という意味を説明できるはずもなく言葉を濁す。

 

「…そうか」

 

 カイムもそれ以上追究しようとはせず視線を外した。

 あらためてカイムを観察する。六尺一寸程の長身に俺よりも二回り近く体の厚みがある。顔は南蛮人のように鼻が高く彫りも………待て、南蛮人とは誰だ。どこで出会った。思い出そうとしても記憶に靄が掛かり思い出せない。魚の小骨が喉に刺さったかの様な気分になる。

 

(あと一歩で思い出せそうなんだが)

 

 その一歩が出てくれない。何とかしようと記憶を掻き回していると、

 

「どうした?」

 

 隣でうんうんと唸っている俺を見かねたのかカイムが声を掛けてきた。

 

「…ん?いやすまん。少し考え事していた」

 

 思い出せないものはしょうがない。こちらも考えるのを止め二人してしばし無言になる。

 

「待たせたな」

 

 その言葉と共にハリガンが戻ってきた。

 

「遅かったな………って」

 

 ちょっと待て、おかしい、ハリガンは戦仕度の為に戻ったはずだ。

 

「何だ?何か変か?」

 

 不思議そうに自身の姿を見回しているが変以上の問題だ。

 

「時間かけた割に何も変わってねぇじゃねぇか!」

 

「よく見ろ布が薄地になっておるし衣装も細部が違うであろう」

 

「ん?んん?」

 

 確かによく見ると着けている長裳は薄くなっているし肌を隠す布の面積も狭まっている。もはや服をと言うより紐に近い。惜し気もなく晒されるハリガンの豊満すぎる肢体が実にすばら、いや違う。

 

「鎧は?槍や剣や弓は?」

 

「そんな物は吾等には必要……と、そなたにはまだ話してなかったか。時間が惜しい。歩きながら説明する」

 

 そう言ってハリガンは広場へ歩き出した。俺とカイムもその後に続く。

 

「それと戦場に行くなら獲物を返してくれ。あれがないとこっちも戦働きができん」

 

「そなた等の剣は広場の倉庫にある。着いたら返すから安心しろ」

 

 そう言い終るとハリガンは魔法の事について話始めた。

 

(武器も鎧も必要ないらしいが大丈夫なのか?)

 

 百聞は一見に如かずと言うがやはり不安は拭いきれなかった。




 この小説でのカイム像は序盤は戦闘とそれに類似する事柄以外は割りと面倒くさくて駄目な大人として書いています。そこから彼がどう変わって行くかも丁寧に書いて行きたいですね。
 次回は頑張って今月中に執筆出来ればと思っていますがどうなるか分かりません。

では、次回またお会いしましょう。

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