堕ちてきた元契約者は何を刻むのか   作:トントン拍子

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 お待たせしました。切る場所が見つからず難儀しました。
 山無し谷無しの会話回です。さらっと読んでください。
 遅くなりましたが
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第一章三節 対話 (編集中)

 

 

 闇の中に落ちていた意識が光へ浮上するような感覚とともに目が覚める。

 

(………)

 

 ぼんやりとした意識のまま、頭の中にひとつだけ疑問が浮かんだ。

 

(何故、()()()()()?)

 

 あの時、俺は妙な格好をした女共と男に斬り掛かって返り討ちにされたはずだ。奴等が自分を生かす意味など何処にもない。

 では何故、と考えていると、

 

「@、¢§%、@#£¢§%&」

 

 横から声がした。

 聞き覚えのある言葉の響きに視線を向けると、金髪の女二人がこちらを観察するように見ている。

 どちらも自分に殺気を向けてきたあの女ではない。

 手前の一人は敵意すらない勝気そうな目で興味深そうに俺を覗いており、奥にいるもう一人は手前のとは逆に気弱そうな表情でこちらを眺めている。

 奥の女の近くに蓋の空いた樽が二本置かれているが酒ではなく水の匂いがした。

 

「▽*¢☆#▲£※」

 

 また、別の方向から声がした。

 そちらに視線を向けると、今度は見覚えのある顔だった。

 先ほど殺りあった(あわ)(べに)髪の怪力女が顔に感情を乗せず俺を見下ろしている。

 起き上がろうとして、手を縛られていることに気付く。

 手を目の前まで持ってくると(そう)(こく)の髪で手首を縛られていて、伝わってくる感触は髪や縄の類いではなく(てっ)()の束のようなものだった。

 そのまま視線を自身の体に向けると鎧や衣服を脱がされ、身に付けているのは下半身の肌着一枚だけになっていた。

 さらには傷の縫合や包帯が見て取れ、丁寧に治療がされている。

 

(…何故だ?)

 

 ますます訳が分からない。奴等からすれば言葉も通じず、殺しに来た相手を何故生かそうとする。

 

(捕虜のつもりか?)

 

 それとも奴隷の方か。少なくとも奴等が俺に何らかの価値を見出だしたのだろう。

 

(………どうでもいいか)

 

 そこまで考えて一度思考を放棄する。

 一々こんな風にごちゃごちゃ考えるのは帝国との戦いの最中に出会った隠者(レオナール)だけで十分だ。

 手を下ろし、天井を見上げた。

 淡紅髪が(いぶか)しむように眉をひそめていたが無視する。こちらが大人しくしているのを(しばら)く見ていたが、やがて近くの椅子に腰を下ろしたようだ。

 少しの間、静寂がこの部屋を包んでいたが徐々に話し声が聞こえ始める。

 主に喋っているのは金髪の二人だけみたいだが、幾つかの燭台に照らされた室内には時折女共の会話が聞こえるだけで、後は静かなものだった。

 

 

 

 

 

 椅子に座り、誰にも気づかれないように息を吐く。

 男の視線が私に向いた瞬間、体が(こわ)()った。

 幸いにもあの時のような()ではなかったので表面上何事もないように振る舞えたが、もし同じ目を向けられていたらと思うと冷や汗が流れそうになる。

 もう一度、男の方を見る。彼はぼんやりと天井を見ているだけで身動き一つしない。

 

(本当に同一人物なのかしら?)

 

 と、思わず疑ってしまう程だ。私達に襲いかかってきた時の彼が全てを燃やし尽くす業火ならば、今の彼は(くすぶ)る火の粉のようにどこか(はかな)げである。

 

「アイス、あたし等本当に必要だったのか?」

 

「そう…ですよね。先程聞いた話とだいぶ様子が違いますし、ああやって大人しくしているんですから、そこまで危険ではないのでは?」

 

「念のためよ。姉様が戻るまでお願い」

 

 ケイとノノエルが私の返答を聞いて、ますます訝しむような顔をした。

 

「念のためって…幾ら魔法が使えるからって、普通あんな死にかけの人間にここまでする必要がある?」

 

「そもそも、魔女ですらない()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「あなた達の疑問も最もだけれど、さっき話したことは全て事実よ。その証拠に、彼から魔力を感じるでしょ?」

 

「それは……そうだけどさー」

 

 まだ納得しきれないのか、ケイは両手を頭の後ろで組み宙を仰ぐ。

 この子の悪い癖だ。どんな事柄であれ自身が納得出来ない事にはとことん首を突っ込む性分なので説明するこちらも骨が折れる。

 

(それも、仕方ないのかもしれない)

 

 二人ともあの時の男の(アレ)を見ていないのだから、姉様や私がここまで警戒する理由に至らないのだろう。

 気弱なノノエルが私の立場だったのなら、これでも少ないと後二、三人は増やしていたかもしれない。

 彼の治療が終わった後、ナーガさんは「今日は色々ありすぎて疲れた」と姉様に許可を取り、あてがわれた部屋に足早に戻ってしまった。

 残った姉様と私は互いにやることを確認し合い、行動に移る。

 この二人を呼んだのは私の提案だった。肉体を硬化して私と同じく肉弾戦ができるケイと、彼を炎使いと仮定して炎を相殺できる水使いのノノエルに事情を説明して共に監視をしてもらう。

 姉様は通訳の呪符だけでも作って貰うためにレラに頼み込んでいるから戻るまで今少し時間が掛かるだろう。

 

(ユウキにも声をかけてくる、と言っていたけれど…)

 

 門前払いされるのが容易に想像できた。

 ユウキとて自身の事だけで(かん)(しゃく)を起こすほど子供ではない。

 根は優しい子だ。多少私怨が入ってはいるが、あの怒りは姉様、()いては一族のみんなを思っての事だと理解できる。

 それだけに、

 

(そう(やす)(やす)と収まるわけがないか………)

 

 そこまで考えて、まるであの子の母親にでもなったかのような気分を味わう。

 

(姉様の苦労性でも移ったのかしら)

 

 ユウキとはあまり年は離れていない筈なのに、と内心で嘆息して時折ケイやノノエルから来る質問に受け答えをしながら姉様が戻って来るまで男の監視を続けた。

 

 

 

 

 

 女共が話始めてから少し時間が経つが、一向に状況が動かない。

 こちらが目を覚ましたのだから更に拘束されるか、牢屋にでもぶち込まれるか、或いは何かしらの手段で意思の疎通をしてくるものだと思っていたが当てが外れた。

 

(………)

 

 こうなると、放棄したはずの思考がまた頭の中を巡り始める。

 やはり剣を振り回し、敵を斬り殺している方が自分の性に合っていると、ロクでもないことを思いながら今一度、思考に埋没し始めた。

 思い返すのはこの状況になった奴等との戦闘である。

 いくら心身共に弱っていたとしても、相手の戦力をここまで大きく見誤ったのは久しぶりだった。

 【魔術師】とは自分がいた連合でも、帝国のダニ共でも、余程の高位でない限り、何らかの(しょく)(ばい)を持っているのが常だ。

 いや、むしろ高位の魔術師ほど手製や複雑な術式を編み込んだ(じゅ)()を多様する者が(ほと)んどだった。

 一部の例外を除いて、無手の奴等は魔術を極めた狂人か一芸に特化した凡人、または己を過信した愚者の(いず)れかだ。

 魔法が秘められている形見の愛剣も父が王に即位した時、とある一族の鍛冶師達に資金と材料を惜しみなく提供して作らせた逸品である。

 その一族の秘伝の技術によって作られた(それ)は武器としてだけでなく呪具(魔法の媒体)としての側面も持ち合わせていた。

 不確定な部分も多いが、先の戦闘と自身の持つ知識に(のっと)ればこいつ等は一芸特化型なのだろうと、一応の当たりをつける。

 あの時それとなく探りを入れていたが、魔力を感じたのは女共だけで男の方は魔力を感じず、かわりに姿勢や重心の置き方から体術と武器術に心得があるようだった。

 唯一、触媒らしき物を持っていたのは腰に呪符のような物を貼り付けていた緑髪の女だけで残りは丸腰。

 故に油断し、更には魔術師は中遠距離での戦闘でなければ己の敵ではないという先入観と過信から慢心した。

 

(その結果がこの様か)

 

 呆れ、自分を罵る。今になって冷静に思い返せば自身の短絡さや()(かつ)さしか出てこない。

 あの時、俺は本当に生き残るために戦っていたのか。

 

(………いや、違う)

 

 もしかしたら心のどこかで自棄や身投げのような感覚があったのかもしれない。

 それは何故だ。浮かんでくるのは「アイツ」だった。

 それと同時に「アイツ」を斬り伏せた時の感触が(よみがえ)り、体の奥にナニカが(よど)み膨れ上がる。

 どうして不用意に奴等へ斬り掛かった。あの金髪の女が自分に殺気を向けてきたからだ。()()()()それだけで。しかしこちらは手負い、先に仕掛けなければ命を落としていたかもしれない。その結果返り討ちにあって拘束されている。いやだが、

 

 

 

━━━なぜシカシだがソモソモいやソレニ

 

 

 

 そして問いと理由(言い訳)の堂々巡りが始まった。

 巡り続けるそれを振り払うため、目を瞑り息を吐き出す。

 馬鹿馬鹿しい。結局の所、その全ては俺自身の所為ではないか。

 

(………)

 

 まだ、少し疲れているのかもしれない。

 そう強引に結論を出して、思考を完全に放棄するため眠ろうとした時、戸の開く音と共に誰かが入ってきた。

 どうでもいいと思いながらも、意思とは逆に視線がそちらへ向く。

 入ってきたのは自分の手を縛っている髪の持ち主だった。淡紅髪共と少し言葉を交えた後、こちらに向かって来る。

 俺のいる寝台まで来ると蒼黒髪は、おもむろに話しかけてきた。

 

「▲§◇*○%、◎£¥▼〒@%¢$#★」

 

 やはり聞いたことのない響だ。何かを問いかけていることぐらいしか分からない。

 蒼黒髪の女は僅にため息を吐くと額に呪符を貼り付ける。あの男が貼っていたやつと同じ物か。何をと思う間もなく蒼黒髪は同じものを差し出してきた。

 それを受け取り確認する。微弱だが魔力を感じた。書かれている文字は神官や魔術師達が使っている神言・呪文文字に似ているがそれだけだ。

 蒼黒髪を見ると己の額を指差している。

 

(…あぁ)

 

 呪符を渡してきた意図を察し札を額に貼り付ける。それを確認した蒼黒髪はもう一度話しかけてきた。

 

「$の¢葉ばが分£%?分かる◎なら#事&しよ」

 

 頭の中で女の声が響く。所々聞き取りづらいが「アイツ」と会話している時の感覚に近いためその様に意識すると、

 

「おい、聞こえておるのか?返事くらいしろと言っている」

 

 今度ははっきりと聞こえた。

 

「…聞こえている」

 

「よし…さて、このやり取りも二度目になるがこちらから名乗らせてもらう。吾の名はハリガン・ハリウェイ・ハインドラ。この黒の森に住む魔女、ハインドラ一族の長をしている。そなたの名は?」

 

 蒼黒髪の女ハリガンが俺の名を聞いてきた。こちらも名乗ろうと口を開きかけて、止まる。こうやって肉声で【人】に名乗るのは何時ぶりだろうかと、妙な感慨深さを感じた。「アイツ」と契約して声を失っていた期間はそれほど長いわけではなかったはずだが。

 僅かばかり感慨に浸っているとハリガンが訝しそうにこちらを見ていた。気を取り直し名乗る。

 

「…カイム。カイム・カールレオン」

 

「カイムか、そなたは此処に来るまでの事は覚えておるか?」

 

 いきなり変な質問をされ、眉を顰める。

 

「それがどうした?」

 

「そなたよりも先に来た男が記憶を無くしておってな。念のため確認させてくれ」

 

 あの動きにくそうな服を着た男の顔が浮かぶ。奴も自分と同じように転移してきたのか。

 

「カイムよ、改めて問う。そなたはどうやって此処へ来た」

 

「………ドラゴン共と殺りあっている最中に足場が無くなり、いきなりあの湯浴み場に放り出された」

 

「ドラゴン?竜とか?なぜ…いやそれは後でよい。ならば自分のいた国の名や地名は?」

 

「…ミッドガルド。俺のいた地の名だ」

 

 故郷はすでに滅んでいるので地名だけ口にする。

 

「ふむ………聞いたこのない地名だ。やはりそなたも異界より来た彷徨い人か」

 

 【異界】。そんな感じはしていた。俺のいた所とは有様が違いすぎる。あの空が赤くなる前と比べてみてもどことなく【世界の在り方】そのものが違うように思えた。それよりも、

 

「俺からも聞きたいことがある。…何故生かした?」

 

「なに、単純なことだ。そなたの持つ力に興味が湧いたからだ」

 

「ふざけるな、たかがその程度の理由で殺しに来た相手を助けるわけがない。本当の理由を言え」

 

「そう言われてもな。事実、半分はそう思ったから助けたのだ」

 

「………残りは?」

 

「そなたの目だ」

 

 僅に頭が混乱する。理解できない、何を言っているんだこの女は。こちらが顔を顰めているとハリガンは意を酌んだのか口を開いた。

 

「まぁ、それだけでは分からんよな。といっても吾も上手く説明は出来ぬのだが。何と言えば伝わるか……そう、そなたの目に光を見た」

 

「光?」

 

「あぁ、光だ。決意と言ってもいい。まるで【何としてでも生き残る】と叫ぶかのようだったよ。そして己の前に立ちはだかる全てに対し【抗う】気勢を感じた」

 

「………」

 

 言葉が出てこない。この女、ハリガンが口にした言葉は俺達の【誓い】そのものだった。俺と「アイツ」しか知らないそれを何故こいつが。

 

「……訳が分からん」

 

 半ば負け惜しみの様に吐き捨てて、目と顔を背けた。

 

「そうだな、吾自身可笑しな事を言っているとは思う。しかしそなたと相対したあの時、確かにそう見えた」

 

 苦笑するようにハリガンはそう先の言葉に付け足した。お互い僅に沈黙した後、顔を戻し今度はこちらから口を開いた。

 

「………俺の力に興味があると言ったな。あれはどういう意味だ?」

 

「そちらは言葉通りだ。特に、そなたが使った魔法は吾等からすればあり得ぬ事だからな」

 

「……魔法など素質と最低限の技術さえあれば誰でも使えるだろ。それの何があり得ない?」

 

 条件さえ満たせば年端もいかない幼子や知能の低い亜人種でさえ魔法を行使できる。何故そこまで特別視する必要がある。

 俺の言葉聞いてハリガンは数瞬呆けた後、徐々に顔を引き攣らせ始めた。奥にいる女共も目を見開いたり胡散臭げにこちらを見ている。

 

「す、すまないカイム。…度々になるが今一度確認させてくれ。そなたの居た世界では素質と技術さえあれば誰でも魔法が使えると言ったな?それは…女だけでなく……男も使えるのか?」

 

 ハリガンは絞り出すように俺に問いかけてきた。

 

「だからそう言っている」

 

「その素質とは親から子へ血で受け継がれていれば確実に目覚めるのか?」

 

「…詳しくは知らない。大体はその筈だ。」

 

「あの時そなたは炎を使っていたな。今開示できるだけで良い、他に何ができる?」

 

「……魔力の密度を上げて敵の魔法や呪いに対抗したりはする」

 

「では技術体系は?男女の区別がないのならある程度普及しているのだろう。どの様に確立されている?」

 

「………いい加減にしろ。下らないことを一々聞くな」

 

 矢継ぎ早に問いただされて苛立ちが募る。傷の治療の恩と体が弱っていなければこの場で蹴り飛ばしていた。

 

「下らなくなどない!………いや、すまぬ。そなたの事だけ聞いて吾等の話をしていなかったな。少々長くなるが良いか?」

 

「……あぁ、話せ」

 

これ以上問い質されるのはごめん蒙る。

 

「わかった。と、その前にアイス」

 

 ハリガンが淡紅髪の女アイスに声をかける。するとアイスは厚手の布を持ち、こちらまで来るとそれを俺に掛けた。

 

「会話に集中していて忘れていた許せ。衣服や防具は血だらけだったのでな、水で洗い流して乾かしているから明日まで待っておれ」

 

「そうか」

 

「…礼ぐらい言ったらどうだ?まぁ良い、………吾等魔女はな━━━」

 

 ハリガンは静かに語り始めた。魔女の事、人と国の事、教会の事、この世界の事を。




 読んで頂いた方の中にはカイムのイメージが違うと感じる方もいらっしゃると思いますがご容赦ください。
 ゲーム中のセリフを聞き直してこんな感じかなと四苦八苦しながら書いています。もっと言うなら落ち龍側もそうなんですが………。
 明日、一節二節をほんの少し修正します。

 では、また次回お会いしましょう。

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