あらすじにも書いたように独自考察とご都合主義が入ります。
肩肘張らず気楽に読んで下さい。
━━━いったい、どれほど斬り捨てただろうか
致命傷は負っていないが傷も流れた血もすでに無視できる範囲を越えていた。
しかし、それすら無視しなければ餌になるのは自分だと己に言い聞かせて剣を握り直す。
端からこの光景を見た者がいたのなら絶望するしかないと悟るだろう。
これが子ども向けの英雄譚ならば次の
だが現実にそれは有り得ない。
特に、この男には。
仲間と呼ぶには
時に敵から奪い、又はそこらで拾った武器は全て使い潰し、唯一残った形見の愛剣も
そして空には昼夜が無く、かわりに鮮血のような赤がその全てを塗り潰していた。
極めつけはその空を羽虫のように舞うドラゴンだろう。
【ドラゴン】
この世界において生物の頂点に君臨するこの絶対種は神の眷属の末裔と伝えられている。
本来は極々一部の例外を除いて自分達以外の他種族を全て見下し、同族とさえ必要以上に関わろうとはしない。
そのドラゴンが羽虫の如く集まり、赤き空を舞っているこの状況を絶望以外の何と
更にタチの悪いことにその
尽くし終えたなら次の獲物を、またその次の獲物を、と目に映る他を蹂躙して行く。
身体能力と機能は言うに及ばず、上位の個体にいたっては人を遥かに凌駕した知性と魔法、そして何より飛び抜けた適応力と順応性を併せ持つ。
中には姿形をより最適なものへ変化させてその環境に適合してしまう個体などもおり、ドラゴンという種族がどれだけ
剣を構え直し、思うように動かなくなってきた体にやや
口から炎を放ちつつ接近してくるドラゴンに対しこちらも距離を詰め、迫りくる業火の着弾地点を通り過ぎる。
そのまますれ違い様に喰らおうとしてくる牙を避け、引き裂こうとする爪を逆にその脚ごと斬り飛ばした。
痛みによって一瞬硬直したドラゴンに追撃とばかりに突き出した
長年戦場を共にした愛剣に秘められし魔法【ブレイジングウィング】は主に牽制や周囲を焼き払うために使うのだが、それではドラゴンに傷を負わせることはできない。
複数の火球をひとつに束ね、魔力を凝縮し、まるで「アイツ」の吐く炎のように射ち出したそれはドラゴンの片翼を焼き、地に
体を大地に叩きつけてもがくドラゴンの首へ大上段で飛び掛かり、魔力を付加した剣を渾身の力で降り下ろす。
首を斬り落とした感触と返り血に
こいつ等と戦い始めてから何度同じことを繰り返しているか分からない。
普段なら内なる衝動に身を任せて
迫り来る奴等を前に一つの想いが
━━━「アイツ」がいれば
直後、そんな己の女々しさに目を背け、振り払おうとも張り付いて取れないその想いに
「アイツ」との契約はすでに解かれているし、何よりアイツの命に手を
その事実に言い様のない焦燥感と、何に向けているのかも分からない怒りが胸の中で混ざり合い
止めどなく溢れてくるソレを吐き出すかのように剣を振り、魔法を見舞った。
━━━剣を振るう度に傷は増え
━━━脚を動かす度に血は流れ
━━━魔法を行使する度に精神が
ドラゴンを殺す度に劣勢へと陥ってゆく
━━━三を殺した辺りから脚が悲鳴を上げ
━━━五を数える頃には息があがり
━━━九を迎えた時には本能と体の反射のみでがむしゃらに戦った。
口から獣のような叫びとともに十匹目の頭をかち割った瞬間、意思とは無関係に両膝が折れ地面をつく。
剣を支えに立ち上がろうとするが、足が言うことをきかず、息も上手く吸うことができない。
視線だけで上を見上げると、ドラゴン共は警戒と同時にこちらを観察するように空を
もはや詰みであると悟り、同時にそれを否定する。
(まだ生きてる)
━━━
(まだ戦える)
━━━
強迫観念にも似たソレは、もう、自分だけのモノではない。「アイツ」との【繋がり】であり【誓い】でもある。
「か…かって……こい、皆殺し…にしてや…る」
思い出すのは「アイツ」と初めて出会った時。
お互い死にかけだった所に契約を持ち掛けたのは自分だった。
━━━お前に生きる意志はまだはあるのか?
「アイツ」は問い返す。
━━━他の道はない、契約だ!
「アイツ」は
━━━資格などない、ただ俺は生きたいだけだ
「アイツ」は俺を見る。
━━━憎むなら憎め、それでも俺は生きてやる!
「アイツ」は呆ける。
━━━答えろ!契約か?死か?
『契約か…死か………おぬしの生きる意志に誓おう』
その誓いと共に自分は「紅きドラゴン」の契約者となり、全てを失った。
【死ぬまで抗い、生き抜くこと】
俺にはもう、それ以外に
こちらが虫の息であることを確信した数匹のドラゴンが大きく息を吸い、その口に炎を灯す。
避けようにも体は動かず未だその場に縫いつけられたままである。
抗おうと全身全霊の力を脚に込めようとした時、一瞬の浮遊感とともに落下する。
「…!?」
驚きと疑問に言葉は紡がれず、周りの景色が黒に染まり遠退いて行く。
━━━まるで世界から追放されるように
無意識に伸ばした手から、
━━━まるで世界から解き放たれるように
俺は
戦乱の果てに混沌と絶望が
人の世界から
人々が信仰する【唯一神】ではなく、数多の【守護天】を崇める異端者にして人智を超えた異能を行使する者。
いくら強力な異能を操る彼女達でも数の暴力には勝てず、元々の絶対数が少ないこともあって敗走し、追い立てられ、更にその数を減らしていった。
そして
現在その矢面に立っている氏族の長、ハリガン・ハリウェイ・ハインドラは住居である砦の一角に己の一族を集めていた。
「ハリ
一人の少女が声をあげる。その言葉はこの場に居る全員の総意でもあった。
「あぁ、今日からこの【男】を
その言葉に集まった魔女達は「なぜ?」「どうして?」と顔を見合わせ、その後は異議と質問の嵐を長であるハリガンにぶつける。
極少数の賛成側も「長である
結果から言えば、一族の娘達からどれだけ非難否定の言葉を
通常の魔女の常識から言えばハリガンの
そもそも、魔女にとって男とは自分達の子孫を残すための【道具】でしかない。
適当に見繕って
故に魔女の一族には女しかおらず、さらに産まれた者が全てが魔女になるわけでもない。
更には母体の方も出産後は
そのため子孫を作るのは自然と魔力が
以上の事情からこのような騒ぎが起こってしまった。
(妙な所に来て妙な事になっちまったな)
そのやり玉にあげられている男は、彼女達のやり取りを見て胸の内で
黒い
年の頃は十代で、その
ハリガンが突然
一つは、魔女である自分達を
もう一つは、もしかしたら異世界から来たこの男が風を吹かせ、ただ緩やかに滅んで行くだけだった
(まぁ…悪い事ばかりでもないか………)
そう思い直し、男は強い好奇心と知性を孕んだ瞳で彼女達を眺めている。
主に、その
何故かここにいる女達は肌を多く
眼福、眼福と視線を
金色の髪を二つに束ねたユウキと呼ばれていたこの少女は自分と目を合わせた瞬間、敵意と殺意を宿したモノスゴイ目付きで睨み返してきた。
そのあまりの
「これは決定だ。変更は無い」
そう締め括りハリガンは話を終わらせ、次に養うことになるこの男「ナーガ」を紹介した。
【ナーガ】
この世界の古い言葉で龍王を意味するその名前は、彼の本名の一部らしく記憶の無い彼が唯一覚えていた己の名であった。
名を聞いた直後、魔女達は一斉に笑い出す。
どこか
紹介も終わり、この場をお開きにしようとした矢先、晴れていた空が暗雲に
が、次の瞬間まるで煙のように雷雨は消え去ってしまった。
「いきなり何だ?」
ナーガが
(これは…まるでこやつが現れた時と同じ………まさか!)
ユウキの方に目をやると、彼女も苦虫を噛み潰したような顔で首を縦に振っていた。
「アイス、レラ、一緒について来よ。ついでにナーガ、お主もだ。もしかしたらそなたの同郷の者が現れたかもしれん。他の娘達は各自部屋に戻っておれ」
ハリガンが指示を出し湯殿へ向かおうとすると。
「ハリ姉、私も!」
「ならん。そなたが居ると騒ぎが大きくなる」
「来た奴が全部コイツみたいだとは限らないじゃない!危険な奴だったらどうするの!?」
言っても聞かない娘に苛立ちが
「…
そう念を押して同行を許可し、五人で湯殿に向かう。
本来、
その初の会合は過激の一言に尽きた。
竜騎士は
まるで「俺は此処にいる」と叫ぶように、
そして彼(彼女)等も竜騎士に
これは、全てを失い堕ちてきた元契約者が再び
両者の会合の
傷心の王子が異世界で周りを振り回し、振り回されて、喧嘩したり、慰められたり、趣味に走ったりする物語です。
次の投稿までかなり時間がかかると思いますが、書き上げるまで御容赦ください。
では次回またお会いしましょう。