The music of mind for twintail . 作:紅鮭
目を覚ますとそこは見知った部屋の天井──つまり響輔の自室だった。
響輔は起床し、布団から上半身を起こした。
「痛っ!イタタタッ!!」
寝違えたのか?筋肉痛か?響輔は骨や筋肉が軋むような痛覚を覚える。
寝ぼけ
「!?」
しかし、その視界に映る景色は何時もと違うものだった。眼鏡を取ったり外したりして再度確かめるが、眼鏡を掛けている時より掛けていない時の方が視界がハッキリとみえる。
「目が良くなってる?」
そう、視力が回復していたのだ。
2階の自室からリビングへ下りると母が朝ご飯を用意していた。
「あら響輔、おはよう」
響輔の母・
響輔も認める程の美人妻であり、温厚で奔放、ほわわ~んとした軟らかい印象で、つかみ所のない飄々した態度が特徴な女性である。
ただ、真夜は昔事故で右眼を失明して眼帯を付けている。
「母さん、おはよう。今日は調子いいの?」
「ええ」
響輔は用意された朝食を食べるため席に着く。
「いただきます」
朝食はトースト2枚、ウインナー3本、卵2個分の目玉焼き、特製のスムージー1杯。
それをペロリと平らげる。
「?」
「どうしたの?」
「母さん、朝食ってこれだけ?」
「何言っているの、響輔。いつもトースト1枚か2枚ですましているでしょ?」
食い足りない。
確かにいつもこのくらいの量だ。
でも、もっと食べたいと腹の虫は鳴っている。
「早く学校行きなさい。高校の入学式でしょう?」
考えても仕方がなかったので、すぐ顔を洗って、着替えて、持ち物を確認すると家を後にした。
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私立陽月学園。
新しく入る新入生がこれから始まる新しい学校生活に期待と不安で胸を膨らませ、入学式の新入生である響輔は後方の席へ座っていた。
「(いい音楽ばかりだなぁ。まるでオーケストラみたいだ)」
響輔は周りの生徒たちが奏でる心の音楽を聴き入っていた。
心が奏でる音楽は必ずしも嫌というわけではない。
「笑い」や「楽しみ」、人としてプラスに働く音楽はポップで明るく、自分も楽しくなってくるからだ。
程なくして入学式が始まり、響輔は姿勢を正す。
幾人のメイドを侍らしたこの陽月学園の生徒会長が舞台の上に来た。
「皆さん、おはようございます。私立陽月学園、生徒会長を務めさせて頂きます。
小学生と見紛う程の幼い容姿に金髪のツインテールという子供のようなあどけなさがある出で立ちからは連想できない程、礼儀正しく、力強く、そして安心さえ覚える演説が始まった。
しかし、
「(何だ?この音楽は?)」
まるで音楽のサビに突入したかのような強い、凄みのある音楽が聞こえてきた。
目の前の生徒会長からではない。
「(あの赤い髪の生徒から?)」
音符も色濃く流れてくることから間違いないだろう。
彼一人の音楽で周りの音楽を塗りつぶしてしまっている。
「(一体何が彼の心をここまで動かしているんだろう?)」
入学式が無事終わった後、響輔は教室に戻り席へ座る。
最後に先生から部活動のアンケートを提出して終わりだ。
響輔は正直、吹奏楽部やブラスバンド部等、音楽に関連のある部活動を所望した。
「(これで後は帰るだけか…午後からは何しようかな~?)」
響輔は校内を見てまわろうかと考えながら、アンケート用紙を前の席へと回した。
「あれ~、名前が未記入のものがありますねぇ~?」
「あ、すいません。多分俺です。慌ててて」
先生がおっとりとした口調で言うと、一人の赤い髪の男子生徒が反応する。
「(あの人。入学式の時に見た)」
響輔はあの赤毛の生徒に見覚えがあった。
入学式の時、周りの生徒を押し退ける程激しく音楽を奏でていた生徒だった。
「あっ、観束君だったんですか~。ツインテール部?ツインテール部なんてありましたっけ?…あ、新設希望ですね~」
「えっ!?違っ…俺は部活を作りたいんじゃなくて、その!」
「そっか~。観束君はツインテールが好きなんですね~」
「あ、はい!それはもちろん」
■──■■■■─────■■■♪
■■■──────■■■■───……♪♪
この後の続く先生の言葉に赤毛の生徒―
観束総二の三年間に及ぶ学園生活の立ち位置が決まった瞬間だった。
「それでは皆さん、HRを終わります。寄り道せずまっすぐ帰宅しましょうね〜。最近この近辺で変質者が増えているそうですから注意してくださいね♪」
「それそのタイミングでいうことか!?なぁ先生、待ってくれ!俺は本気なんだ!本気でツインテールが大好きなんだ!!あっ……違…その!!」
言い訳無用の大惨事を引き起こし、先生は当てつけとしか思えない言葉を残してHRは終了した。
周りは総二に呆れたり、ドン引きの視線を当てていたが、響輔は違った。
響輔はその光景を見ながら真剣な眼差しで総二を見ていた。
「(今一瞬、聴いた事のない凄まじい旋律が聴こえた。まさか…彼はツインテールに心の音楽を奏でているのか?)」
響輔はこの時、観束総二の名を心に刻んだ。
しかし、彼らはまだ知らない。
これから彼らが立ち向かう運命に。
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同時刻、とある部屋。
豪華なシャンデリアの明かりが上質な材木を照らし、中央には三人の男たちがテーブルを囲んでカードゲームに興じていた。
「どう、なった、か、な?」
「さあな?マルシルからは成功していると聞いているが」
トランプを一枚また一枚捨て、ゲームを進めながらいう
「やったー!革命だー!!」
「む、っ!」
「わからないものだな、運命というのは…──」
ジョーカーを含めた同じ数字の札を4枚出す。
「革命返し」
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「(ツインテールに情熱的で真摯に訴えていた音色。どうしてあんな真っ直ぐな瞳が出来るんだろう?)」
響輔は帰宅途中で思考していた。
それは入学式やHRで見かけた観束 総二についてだ。
今までたくさんの人の心の音楽を聴いてきた。
だけど、あそこまで情熱的な音楽を僕は聴いたことがなかった。
ウケ狙いじゃない、ふざけて出せる音色じゃない。
本気なんだろうか?
だとしたら凄い、僕にも彼みたいに…──
~~♪!! ~~♪♪♪♪!!! ~~♪!!
そこまで思考していると、嫌な音が頭の中に響いてきた。
「何だ?この嫌な音色!?」
聞き覚えのあるような無いような。
そんなデジャヴを感じながら響輔の足は不思議とその視認できる五線譜の先――音源へと向かっていった。
「ここは、マクシーム
そこは響輔も足を運ぶコンペンションセンター・マクシーム宙果、その駐車場。
息苦しいほどの焦げ臭さと駐車場に停めてある車が宙へ放られ、その破壊による轟音。
嫌な音は既に消えており、響輔は物陰に隠れて、様子を窺う。
その目に見えたのは黒い
「な、何だあれっ!?」
響輔が見たのは2体の怪人だった。
「者共、集まれい!」
トカゲの怪人が転倒し、炎上した車の硝煙を背景に銅鑼声で高々と宣言する。
「ふははははは!!この生きとし生ける全てのツインテールを、我らの手中に収めるのだ───っ!!」
「────……ハイ?」
シュールな変態発言に一瞬、呆けてしまった響輔であった。