The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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 自分の姿を見たりするのに使う鏡。
 鏡に映像が「映る」という現象は、古来極めて神秘的なものとして捉えられた。
 そのため、単なる化粧用具としてよりも先に、祭祀の道具としての性格を帯びていた。鏡の面が、単に光線を反射する平面ではなく、世界の「こちら側」と「あちら側」を分けるレンズのような役割であると捉えられており、「鏡の向こうにもう一つの世界がある」という観念は通文化的に存在し、世界各地で見られる。

んん~、鏡の中のオレ様もやっぱりキュートでカッコイイぜ!



※本日は1周年記念だぜ。2本立てだからまだの読者は前話から!


ゴールデンウィーク/閑話休日

 ついに大型連休、ゴールデンウィークが訪れた。世間はこの長い休みを利用して、遠出や旅行などに出かける人が後を絶たない。テレビではレジャー施設の1日の入場者数を今までより大きく更新したとか、テイルレッドとテイルファングが市場に与えた経済効果はいくらかとかそんな話題ばかりをやっている。

 

 

「ふはははっ!待ちに待ったぞ!この時を!!」

「テナー様ぁ~、テンション高くな~い?」

「へぇー、ここが人間(アントローポス)の集合市場──ショッピングモールか」

 

 

 ワインレッドツインテールの黒いコートにパンツルックのテナー(響輔)、白髪カジュアルな服装のマルシル、金髪に魔女のような三角帽子、大きめのブーツを履いたヴェディの三人は先日、クラブギルディの出現したショッピングモールに来ていた。

 ちなみになぜテナーが表に出ているのかというと、自分の手で購入したいと本人が言うこともあったし、普段戦闘ばかりでたまの休日には身体を譲ってもいいと響輔は快く代わってくれた。

 この日、圧倒的人気を誇っていた「超可動(アームド)(ガール)(ツインテイルズ)シリーズ、テイルレッド」が再販したのだ。

 

 響輔はその整理券を取ることに成功。

今度は本人とマルシルとヴェディを連れて、ショッピングモールへ赴いたというわけである。

 休日に加えて本日は晴天なせいか、建物は家族連れで暖かい喧噪ににぎわっている。

 

「はい、6,980円です。再入荷限定特典の台座もお付けいたします」

「ふははっ……()い、献上を許す」

 

 順調に商品を受け取ってお金を支払う。

 

「よーし、これにて目的は果たされた。ヴェディはどこだ?」

「ぬいぐるみのコーナーにいると思うよ」

 

 服装からしてすぐに分かった。

 ものすっごく浮いている。

 

「ヴェディ、そろそろ()くぞ」

「ちょっと待って、この人形買ったらすぐに行くわ」

 

 ヴェディが手に取って見ていたのは、「ハラワタアニマル」というシリーズだった。

 

「何だここは?動物の死骸が山積みとなったこの惨憺(さんたん)たる場所は。死体置き場(モルグ)か?」

 

 そのぬいぐるみは名前の通り「はらわた」が腹から飛び出ているというキモ可愛い、グロ可愛いで話題となっているヴェディお気に入りのゴシックな動物のぬいぐるみシリーズである。

 だが、こうして棚や籠に積まれたりしているのをみるとまるで動物の死体置き場に見えなくもない。

 そのうちの一個を手に取るとマルシルと一緒にレジへ向かって足早に向かっていく。

 あんなぬいぐるみの何が良いのか理解出来ないテナーはそんなヴェディの背中を見ているとふとある物に目がいった。

 

「む?響輔、これは何をする道具だ?」

 

 ヴェティが買い物をしている間に、テナーは近くにあった妙な棒の商品を持って頭に疑問符を浮かべていた。

 片手で持てる程の大きさにその棒の先端にはマジックハンドみたいに人の手みたいのが摘むようについている。

 

「響輔、わかるか?」

『えーと、これは『ポテチタベール君』って言って…この間コンビニで買ったポテトチップス。覚えている?』

「ああ、ぱりぱりしていて美味(びみ)なあの揚げ菓子か。特に九州しょうゆが最強だな」

『テナーの中でのランキングは置いといて、これはそのお菓子を食べる際手が汚れないようにこれでポテチを掴んで食べるものなんだ』

 

 すると響輔はそれを持つテナーの右手のみ意識を切り替え、手元のスイッチを押して先端の指を動かした。おおっとやたら感心した声を出す。響輔はつくづく思う。なんとも平和な道具だなと。

 

「うむっ!響輔、この道具は素晴らしい!是非とも購入すべきだ」

『ええ?』

 

 テナーがこんなに食い付くとは予想外だった。

 

『そりゃちょっと興味引くけど、別にポテチくらい手でも食べられるじゃん』

「それでは手が汚れる。これを使えば、影創造(シャドウ・クラフト)せず、ぽてちを摘み、ソファーに寝転がってテレビを見てだらだら出来る。うむ!完璧な布陣だ」

『どこがだよ!そんなごろごろしてたらまた体重が増えるよ』

 

 満足気に怠惰フォーメーションを語るテナーに響輔は激しく突っ込む。

 響輔のその言葉を聞くと、むぐっと口を閉ざす。

 

「そうだな。よくよく考えればこれはかえって面倒くさい道具かもしれぬな。ぽてちを摘むくらい箸で事足りることだ」

『いや、まずポテチ食べる事を控えた方がいいんじゃないのかな?』

 

 先日のバッファローギルディの戦い以来テナーは体重に関して一層に敏感になったようだ。

 

『(女の子ってそんなに体重が気になるのかな?テナーなんて太っているようにはあんまり見えなかったんだけど)』

 

 響輔は一度姿見でテナーの全裸を見てしまった時や、またテナーの入浴時、(テナーは入浴好きなのか自宅の風呂場で響輔と入れ替わって、テナーが浴槽浸かることがよくある)響輔はあまり気にしていないがテナーはそれほど悪いプロポーションではなかった――と思う。うる覚えなので。

 しかし響輔は普段素っ気ないテナーにもこういった人間らしい部分があるのだなと、意外にも安堵している。

 

「はーい、テナー。お待たせ~」

「待ちくたびれたぞ。マルシル、ヴェディよ」

「いや〜、ちょっと会計が混んでてね」

「ん?何だい、そのオモチャ」

「うむ、これはポテチタベール君と言ってな…」

 

 雑談を交える三人を他所に響輔は周囲の視線を気にしていた。

 

『(それにしても目立つな)』

 

 元々美形の三人に髪の色は日本人離れしたワインレッドの髪と白髪と金髪、特にヴェディは季節はずれのハロウィンみたいなコスチューム。

 これで注目を浴びないわけがない。

 

 

「時間もあるし、もう少しショッピングモールを見て回るかい?」

 

 マルシルの提案に二人は反対せず、色々なフロアを見て回ることにした。

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 『それ』を見つめ、三人は凍りついたように固まっていた。

 普段動じないテナーさえ、魂を手放しやかのように呆然としている。

 

「コレは……何かしら?」

「虫か、動物の玩具?全くわからないね」

「響輔、この丸蓋のような物体は一体何だ?」

 

 テナーが響輔に訊く。

 

『ああ、見た目からは想像できなけど、これはロボット掃除機なんだ。ほら、よく僕が休日自宅でガーガー音がする筒と(くだ)と箱の機械見たことあるでしょ?これは手で持たなくても自動で徘徊してゴミを吸い込んでくれるものなんだ』

「ロボット?……ああ、人間(アントローポス)が手掛けるゴーレムの事か」

「何て言ったの?響輔君」

「これは自動で掃除をするためのゴーレムらしい」

「へぇ、凄いじゃない!こんな小さいのが魔力(ピュシス)もなしに動くなんて、人間(アントローポス)の技術もバカにはできないわ」

 

 家電売り場の一角にあるロボット掃除機。その実演を目の当たりにして混乱する三人に響輔はなるべく噛み砕いて説明した。

 特に魔道具の製作やキバの鎧のメンテナンスを行うヴェディは大いに感嘆の声を上げる。今まで気に止めていなかったが、この三人から見て人間の生活用品は凄く斬新な物らしい。

 この後、テナーがスマホのお試しコーナーでアプリのゲームに夢中になっていたり、ヴェディが会話するロボットにあれこれ話しかけていたり、マルシルが休憩所のマッサージチェアでうとうとしていたりなど響輔はテナーの内側から見ていてなかなか面白かった。

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

 ショッピングモールのフードコートは最近はあまり利用していなかったが、うどん、ラーメン、オムライス、ステーキ、アイス、ハンバーガー、たこ焼き、クレープ等多種多様な、店が並んでいるのをみるとついつい目移りしてしまう。

 響輔は子供の頃、母親と一緒にどれを食べるか迷った事がある。

 なのでテナーが「迷うなぁ。全ての品を食してみたいものだ」と予算を無視して言った時も、マルシルもヴェディも別段ツッコミを入れる事もなく、「その気持ちは分かるけど、支給金額には底があるからね」「それにアンタ、ダイエット中じゃなかったっけ?」と冷静に諫言を。

 三人はファーストフードの店で昼食をすることにした。

 マルシルとヴェディはハンバーガーのセット、テナーはサラダとウーロン茶で我慢している。

 

 

『テナー、食べながらでいいから聞いてくれる?』

「何だ?」

『ツインテイルズ達とは共闘はするけど協力はしないよね。彼女達の事はわからないことだらけだけど、そろそろお互いに正体さらけ出して本格的に協力してみたらどうかな?』

「だめだ」

 

 にべもなく即答し、一蹴される。

 

「どうしたの?」

「響輔君、何か話しているの?」

 

 気になったヴェディとマルシルもテナーを通して話に加わる。

 ちなみに響輔とはテナーと、ベルトと一体化しているキバットは口頭で話す事が出来るが、それ以外の者とはテナーを介してか、マルシルが魔術を施した特別な鏡を用いることでしか話す事が出来ないのである。

 テナーは早速二つ折りの手鏡を取り出すと、鏡面が相手の方を向くよう胸ポケットに差し込んだ。するとその鏡面に響輔の顔が映りこむ。

 

『テナーもあのテイルブルーが苦手だって事は分かるよ。けど、やっぱり信頼を得てお互い仲間になれば、作戦だって練りやすくなるし、戦い方だって合わせやすくなる。テナーの負担だって確実に減らせると思う』

 

 ファーストフード店の安っぽいテーブルとイスで話すには、ちょっと重過ぎる話題なのかもしれない。

 客の目の届かない隅の席だからこそ話せると思ったのだろう。

 

「それもまた一考したんだけどねぇ~」

 

 マルシルは注文したドリンクを飲みながら困惑した表情を浮かべる。

 

「我々は異世界から来た魔の者(ダイモーン)だ。アルティメギルなどといった同じ異世界から来た輩が侵略活動をしている今、不用意な接触は誤解を招きやすい。それに私達はこの異世界の住人人間(アントローポス)にはできる限りの接触は禁止されている」

 

 テナーは注文したサラダをフォークで刺し、口へかき込む。

 

「でも、彼女達の鎧には純粋に興味があるわね。人間(アントローポス)の戦闘能力をあそこまで向上させる技術なんて聞いた事がないし。お()らくあれは()ナーと()んなじ、()バの鎧に精通しているものだとふい()察する――…ぅんま~い」

 

 ヴェディもビッグなハンバーガーにかぶりつきながら答えた。

 ぴょこんとヴェディから猫耳が生え、ぴこぴこ動く。感情が昂っているサインだ。

 

「猫耳しまって!」

 

 マルシルが慌ててヴェディの耳を抑え、周りを見回す。

 

『そいえば今、テイルファングのフエッスルは何種類ぐらいあるの?』

 

 響輔は話題を変えて今度はテイルファングの鎧に関して聞いてみることにした。

 

「サポート系フエッスルは必殺技発動の『ウェイクアップフエッスル』、號電を呼ぶ『號電フエッスル』、キャッスルドランを呼ぶ『ドランフエッスル』、ブロンブースターを呼ぶ『ブロンフエッスル』の4種類。フォームチェンジ系フエッスルは『ガルルフエッスル』、『バッシャーフエッスル』、『ドッガフエッスル』、『アルテフエッスル』の4種類。合計8種類よ」

 

 以前のテナーは武器単体としてアームズモンスターを使用していた。

 しかし、内にいる響輔がアームズモンスター達の仲介役になることでキバの鎧を大きく変化させ、チェイン形態となることができる。チェイン形態は手にするアームズモンスター達の影響を受け、ツインテール属性のテイルファングにその種族の属性力を加えた所謂ハイブリッド形態である。

 まだノーマル状態とガルルチェインしか実践で使用していないが、テイルファングのフォームチェンジには「バッシャーチェイン」「ドッガチェイン」「アルテチェイン」の3つがまだ残っている。

 フォームチェンジは強力な切り札の反面、これは非常に危険な行為であり、この姿は通常では考えられない形態なのだ。

 原則、アームズモンスターはテイルファングの制御下にあるが、ファンガイアの(プシュケー)吸収能力と相まって、時として意識に反して暴走する危険性もはらんでいる。所謂「侵食」であり、テイルファングのフォームチェンジは下手をすると全身をアームズモンスターに乗っ取られる可能性があるのだ。

 その危険性を緩和し、全身をアームズモンスターに取り込まれずチェイン形態を保持していられるのは…ひとえに内にいる響輔の仲介役に加えて、キバットが魔皇力(アクティブフォース)の制御を完璧にこなしている恩恵である。

 

 と、ここまで説明した後、ヴェディはハンバーガーの最後の一口を頬張り、新しいハンバーガーを手に取る。

 

「もう、どんだけ食べるのよ」

「おのれぇ…!私を差し置いて美味そうだな。その矮小な肉体にどれほどの胃袋が内蔵されている」

 

 マルシルは呆れたようにつぶやき、テナーは恨めしそうにヴェディのハンバーガーを欲しがる。

 すでにハンバーガー3つ、ドリンク2杯、ポテト2つをヴェディ1人で平らげていた。

 

「中々ハイカラな味だわ、故郷の家族にも食べさせてあげたい」

『親思いだね。ヴェディちゃん』

 

 美味しそうにハンバーガーを頬張り、噛み締めるヴェディを響輔はテナーの内で眺めながら微笑ましそうに感心する。

 

 

 

 

「?何を勘違いしている。ヴェディは既婚の身だぞ」

『え?』

 

 既婚?つまり――――

 

『結婚しているの!?ヴェディちゃん!』

 

 響輔が驚いている事をテナーが伝えると「そうよ」とあっさり肯定した。

 

「こう見えてアタシ、もう成人よ。夫に加えて3男3女の大家族」

 

 取り出したのはヴェディを含めた家族の集合写真。

 皆、ヴェディとそれ程変わらない身長に若さなので一見兄弟かと思った。

 

「隣が夫で、前列の5人と抱いているのが子供達。ここへ来る前に末っ子が生まれたばかりでねぇ」

 

 ほっこりした顔でヴェディは写真に写ってる家族を自慢した。

 鏡面に映る響輔は未だに信じられない様に目を見開いた表情をしている。

 

「良い所だったぞ、ヴェディの故郷は。狭いながらも楽しく賑やかな場所で…」

「ヴェディの種族…シーケットは人間(アントローポス)よりも長命で、成人の平均身長は約130センチだよ。響輔君達から見ればシーケットは子供にしかみえないから無理もないけど」

『な、なるほどね〜。でも、ぬいぐるみとか…、ロリィタ服とか…』

 

 ヴェディが可愛いぬいぐるみやロリィタ服をよく集めているので響輔は子供なのかなと思い違いをしていた。

 

「なっ!――いっ、いいでしょ、別に!これはアタシの趣味なのよ!」

「響輔はまだ何も言ってはいないぞ…」

 

 子供っぽいと思われたのか、ヴェディは小さな頬を膨らませて否定する。

 その様子にテナーは何とも言えない表情で宥めた。

 マルシルもそんな和む風景に頬杖(ほほづえ)をつきながら苦笑する。

 

 

 そのあともショッピングモールでいろんな店を冷やかして回った。

 

 服屋では綺麗な容姿を持つ3人に店員さんが目を輝かせて張り切り、あらゆるタイプの服を着せては、店内中の注目を引いていた。特にファッションにあんまりこだわりを見せていないテナーは着せ替え人形にされて最初は困惑していたが、可愛い服を着て、うっすらと楽しそうに微笑み――その様子はどこにでもいそうな人間の女性そのままに見えた。

 ペットショップでは、子犬を抱っこして撫でるのに夢中なテナーに『かわいい?』と響輔が訊いたら、ハッとして「さあな」と途端に手放してしまった。――テイルレッド、カピバラのゴーデン、子犬。テナーは小さくて可愛いにモノに目がないようである。すぐ近くではヴェディがショーケースの中の猫にニャアニャアと話しかけられて、ヴェディはそれに対してコクコクと頷いていた。「ヴェディ、お前猫の言っていることが分かるのか?」と、テナーが訊いたところ「? そんなわけないじゃん。テナーって馬鹿?」などと真顔で返したヴェディはテナーに頬を仕返しとばかりに両手の人差し指でぶにっと挟まれた。店内にいた人の何人かに笑われた。

 

 

 

 

 

 一通りショッピングモールを回った後、そろそろ帰る時刻になった。

 

 

『で、どうだった、三人とも?人間のショッピングモールにきた感想は』

「んん~、とっても楽しい所だわ」

「市場のお城って感じかしら?」

「キャッスルドランで電子機器は使用可能だが、セレーネでは基本魔力(ピュシス)に頼る。ここにあるものは珍しいモノばかりだ」

 

 ウキウキと上機嫌に三人は言った。

 響輔もこんな三人の反応をみれてとても良かったと思っていた。

 

「やはり改めて思うが、人間(アントローポス)の進化は目覚ましいな」

『どういう事?』

 

 テナーの言葉の意味に疑問符を浮かべて続きを語り始める。

 

「人間はとても無力な存在だ。(プシュケー)から魔力(ピュシス)を抽出することができない。――だが同時に、自分たちの想いを現実にする能力を持っている。ウルフェンみたいな空中を跳ねる走力もなければ、マーマンみたいな遊泳能力もフランケンみたいな発電能力もない。しかし、それを成す道具を作り上げてしまう」

 

 テナーの表情こそあまり変わらないが、その声音(こわね)は、本気で人間に敬意を感じている様だった。

 

「この時代のれーぞうこもでんわもてれびもその願いの結晶だ。こういうものがあってほしいという概念があってこそ、それがいくつも実現している」

『ファンガイアの愛するツインテールも――?』

 

 不意に響輔がそんな疑問を口にすると5、6秒沈黙した後「そうだ」と肯定した。

 

「ツインテールはなぜ誕生したのか…なぜあれほどのパワーを秘めているのか、それは未だ解明されていない」

『そうなんだ』

「だが、ツインテールはファンガイアにも人間(アントローポス)にも愛されているのは確かであり、ツインテールはその二つの種族に必要とされたからこそ誕生した――のだと、私は思う」

 

 テナーの口にする魔力(ピュシス)という言葉は、これまでの言葉の経緯から察するに、ツインテールへの想い、つまり(プシュケー)から生じる不思議エネルギーの両方を指すのだろう。魔の者(ダイモーン)のファンガイアはそれらツインテールの魔力(ピュシス)を糧とし、力の源とし、愛でる種族らであるということか。

 などど響輔が考えていると、ショッピングモールを出た所で向こうから女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

 3人はそれに気づきそちらへ顔を向ける。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 キャッスルドランへ帰城したテナー、マルシル、ヴェディ。

 テナーは最高級の革張りソファーにうつ伏せに顔をうずめて、不機嫌に寝転がっていた。

 

 

「どうしたんだ?テナーの奴」

 

 そんなテナーを見かねて次狼がマルシルとヴェディに訊いた。

 

「実はね――」

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 テナー達が帰ろうとショッピングモールを出た所、小さな女の子がで父親と思わしき男性にあやされながら泣いていた。

 聞き耳を立てていると、どうやら今日購入したテイルレッドのフィギュアを無くしてしまったらしい。

 テナーはそれが分かると小走りに駆け寄り、「探し物はコレか?」と、なんの躊躇いもなく購入したテイルレッドのフィギュアを渡したのだった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 またしてもテイルレッドのフィギュアを購入できずに、ふて寝していたのだ。

 

「へぇ~!テナおねえちゃん、いい事したじゃん!」

「テナー、は、やさ、しい…」

「音也さんだって…ホラ、きっと褒めてくれるわ」

 

 その話を聞いていたラモンと力が拍手しながらテナーを褒めた。

 

「お前は小さい子には優しいからな。お礼言ってたか?その子」

「ああ…」

「今度ゾン・アマで販売していないか検索してみるからさ。ね?」

「ああ…」

 

 次狼もマルシルも慰めようとしたが、テナーは力なく相槌を打つばかりだった。

 最後は響輔が厨房からでてきた。

 

「そう気を落とさないで。今夜はテナーの好きな月見ハンバーグだよ」

「え! 本当!?やったー!」

「私卵2個ね!」

「響輔君、私にも!」

 

 ラモンは飛び跳ね、さり気なく卵の追加をするヴェディとマルシル。

 皆が大喜びする中、テナーもこちらをチラリと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

「――――ワインも開けておけよ」

「ハイハイ…」


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