The music of mind for twintail . 作:紅鮭
つまりオッパイはただの『脂肪の塊』だね(グッ!!
女って生き物はどうして体重の増減や胸の大きさに拘こだわるのか、わっかんねぇな~。
「うむ、絶景!」
トゥアールの高校デビューに失敗したその放課後、グラビアアイドルのオープンコンテスト会場にエレメリアンは出現した。
「晴天と呼ぶに相応しい青空の下、揺れ動くさまはまさに宙を横断する洗濯紐に吊り下げられた真っ白な洗濯物が如く。眺めうるだけで心洗われるというものだ、そうは思わぬか?二人とも」
「あ…ああ、まあな」
「上機嫌だねぇ~、二人は……」
その時のテイルファングとテイルレッドは傍目のキバットからでもわかるように上機嫌だった。
「何が揺れ動くって?」
「あの~、ブルーちゃん。顔怖いよ」
キバットが言うようにテイルブルーは、絶賛不機嫌真っ只中だ。
その怒りは会場にいる女性の胸に集約している。
「ツインテールの事だろ?」
「無論、ツインテールだ?それ以外に何がある?」
「…………チッ」
全然悪気なく、あっけらかんと答えるテイルレッドと不思議そうに聞き返すテイルファングに釈然としないテイルブルー。こっそり顔を歪め二人には聞こえない音量で舌打ちした。
『(そうなんだよな~、テナーはツインテールが好きな「人間モドキ」ってだけで、人間とは全く違う生物なんだよな~)』
例えば、人間に猿や動物のどこに
テナーも他人のツインテールには興味深々だった。
「待ちわびたぞ!ツインテイルズ」
華やかな会場に似つかわしくないそのエレメリアンは重戦車みたいな巨体をフワリと浮かし、ズシンッと広場に降り立った。
「やつが今日の相手か……」
「フハハ、まずはテイルファング!貴様から我と戦え!」
「ヌッ、私か?」
そのエレメリアンは「し」の字に曲がった大きな角にトードギルディに負けず劣らずの重量級の体、闘牛を連想させるエレメリアンは突然人差し指を向けて、テイルファングを指名してきた。
「テイルファング、ご指名入りました~…」
「ほぅ、私と戦いたいとは…――貴様は勇敢だな。特別に名を聞こうか?」
キバットが茶化すも不敵な笑いをこぼし、一歩前へ出るテイルファング。
「我が名はバッファローギルディ。偉大なる
「(リヴァイアギルディ…確か奴はドラグギルディとは親友の仲だったな。こりゃ有名になるのも良し悪しだぜ)」
「何故私と戦いたがる?」
「それは勿論、貴様が巨乳だからだ!!」
「「「は?」」」
単純明快。臆面もなく、大声で答えた。
三人とも気の抜けたような声を出す。ただ、テイルブルーの眉間のシワががさっきにも増まして寄った。
「我が眼力からして貴様のスリーサイズは上から94・68・90!Eの73センチだ!美しきツインテールにまごう事なき巨乳!貴様の属性力を持ち帰れば我が隊長リヴァイアギルディ様も大層お喜びになられる!」
「貴様にはいろいろ口を出したい所があるが取りあえず一つ言わせろ――」
テイルファングは両目をつむってため息をこぼし、露骨に困ったような表情をしたあと、真面目な表情で宣言する。
「私のウエストは65センチだ!」
「――いや、68センチで合ってるよ。ベルトのオレ様が断言する」
「キバット!貴様はどちらの味方だ!」
相棒の意外な裏切り。
「お前ちょっと太ったんだよ」
「太っ……!」
無遠慮な指摘に言葉を詰まらせる。
「だからお菓子や紅茶に入れる砂糖は控えろと……」
「や、やかましいぞ、コウモリ!差し出がましいわ!」
どんな強敵や変態を目の当たりにしてもうろたえないテイルファングが初めて動じた瞬間だった。
そう、テナーは愛香が胸のないことを気にしていると同じように日々変動する体重に一喜一憂しているのだ。
特に
「え?テイルファングって、体重が気になる方なの?」
プププッとテイルブルーがテイルファングの弱みを握ったとばかりに小馬鹿にする。
「――ああ、削ぎ落とす脂肪がまるでない流線的な貴様が実に羨ましいぞ」
売り言葉に買い言葉、テイルファングが応酬する。
「あ?」
「あ?」
両者張り付いた笑みを向かい合わせる。
テイルレッドはその一発触発の空気に一歩後ずさった。
「我は胸の脂肪には興味があるが、腹の脂肪はどうでも良い」
「どうでも良くないわ、たわけ者!!私にとっては死活に匹敵する問題だ!」
バッファローギルディのその言葉にコホンと咳払いし、向き直るテイルファング。
「牛の畜生――貴様、わからん様なので教えてやる。女にとって体重に関する話はたとえ地獄の釜に突き落とされても文句の言えぬ大罪と知れ!まあ、私に挑んだ時点で貴様の命運は尽きたがな」
『あ、怒って事を誤魔化したな』
それにこれは殆ど八つ当たりに等しい。
響輔はそんな中、テナーやテイルブルーが普段口にしている個々人の意見を総括すると、それは矛盾だらけだと思った。
テナーは事あるごとに、大きな胸に不満を漏らしていた。肩こりが酷い、うつ伏せに寝ると苦しい、邪魔だといつも言っている。
大きな胸をしたテナーはそれを不用なモノとして扱っているのにどうして胸の小さなテイルブルーとか愛香さんは、そんな無用の長物を求めてやまないんだろうか?
テナーは体重が減少することに喜びを感じ、増加することに悲しみを感じているみたいだけれど、乳房の大部分を占めるのは脂肪に他ならない。
胸を大きくしようする行為は脂肪の増加に繋がっている。つまり脂肪が増えるということはその分体重も増加する。女性は常にこの相反する行為を同時に行おうとしている。
とても合理的とは思えない。腹の脂肪を減少させ、胸の脂肪を増長する。この二つを同時に達成しようなんて、到底虫が良すぎる。
食べた脂肪は胸にいくと漫画の台詞で聞いた事があるも、人間でもファンガイアでもこんな都合の良い新陳代謝にはならない。
――と、そんな事を考えているうちに、相対する二人の戦士は既に戦闘態勢に入っている。
「
「そういえば言っていたわね。
げんなりするテイルレッドとは真逆にギラリと目を光らせるテイルブルー。
そんな二人――特にテイルブル―の様子に響輔以外気づく様子もなく、今戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
『テナー、テイルブルーが……』
「さあ!戦おうぞ!テイルファング!我の巨乳属性と貴様のツインテール属性どちらが上かはっきりとさせようぞ!」
「ふはははっ!ならば貴様の命をもってして思い知るが――
「オーラピラー!!んで、エグゼキュートウェーブ!!」
「――
「ひでぇ…」
突然の不意打ちにテイルファングも呆然とするしかなかった。
バッファローギルディは何が起きたかも分からぬまま爆散した。
敵とは言え、思わず同情する。
もはやどちらが敵かわからない。
「お、おい…」
テイルファングもいつものからかう様な素振りもなく、なんて声をかけようか迷うしかなかった。
テイルブルーはそんなこの場にいる者の視線など気にすることもなく、爆炎を手で掻き分け、ほどなくして敵の属性玉を拾い上げ、お宝を見つけたみたいに大きく上に掲げた。
「やったわ!レッド!
「私利私欲のために敵を血祭ってんじゃねーよ!」
「無残すぎるな」
『僕、本気でバッファローギルディが可哀想だと思ったよ』
「これで…これであたしは…ふ、ふふっ、うふふふふふふ、へへへっ❦♥」
ヒロインとして越えてはならない一線を超えようとしてしまいかねない、邪神のような笑みだった。
「テイルファングーッ!!もう巨乳はあんただけのモンじゃないわよーっ!!!ざまぁみろーっっ!!」
「あれ、お前の仲間だぞ?」
「なんだかな…自信なくなってくるよ」
「アイツ、アルティメギル討滅したら後ろから刺した方がよくね?」
『悪魔は召喚したら封印がセオリーだからね』
その後ろでキャッスルドランが属性玉を狙って接近しようにも、勝ち誇るテイルブルーに恐れをなして完全に腰が引けている。
「あ、あの~」
「ん?」
そんな二人の後ろからツインテールのグラビアアイドルのこの何人かが駆け寄ってきた。
「ツインテール、さわって貰えますか?」
「へ?」
「む?」
「今、噂になっているんですよ~!テイルレッドちゃんとテイルファングさんにツインテールをさわってもらうと、幸せになるって」
「是非、さわって下さい!」
テイルレッドはあまり邪険にできない性格なのか若干遠慮しがちになりながらも、そっとツインテールをさわる。
「そ、それじゃあ……」
「テイルファングさんもさわって頂けませんか~?」
「何?」
「テイルファングさん。さわって~!」
「いや待て、私は…」
「さわってさわって~!」
目の前で振るわれるツインテール。
それを思わず、目で追ってゴクリッと、固唾わ呑む。
ピシピシと頬と首筋にステンドグラスの模様が浮かび上がって、瞳が金貨みたいに鋭く光る。
スッと片手を持ち上げ、指先がツインテールに触れようとした瞬間――
――それを制するように自らの拳を『グッ』と握った。
「(ダメだ)」
目を伏せ、隠そうとするかのよう顔を背ける。
「はいはーい!お姉さんたちぃ~!テイルファングは、えー…先の戦いでちょっと疲れちゃったみたいなのでまた今度ね~!あ!もし良かったら俺が――」
「邪魔よ!」
「ぐえっ!!」
ベルトから離れたキバットも弾き飛ばされた。
「行くわよレッド!」
「あいたたたた!ツインテールを引っ張るな!」
そんな時、テイルブルーが空を飛んでテイルレッドを回収し、去って行った。
「行くぞキバット、来いドラン!」
「ギャァァァオオオオオオォォォォォンンッッッ!!!」
皆の注意が逸れたのを見逃さず、咄嗟に地面に墜落したキバットを拾い上げるとキャッスルドラン目掛けて走り、跳ぶ。
後ろから水着のアイドル達が不満の声を漏らすが、テイルファングはキャッスルドランに飛び乗るとどこかへ飛んで行ってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「愛香、もう諦めろって」
「ちょっと待って! 絶対、絶対発動するんだから! ワンカット挟んだら、ナイスバディになる私が立っているはずなんだから!!」
「そう言って何回目の挑戦なんですか、愛香さん?」
地下基地へと戻ってきた総二は隅っこでテイルブルーに変身して、左腕を叩いたり振り回したりしている愛香を見ながらそう言った。トゥアールもこの光景をどこか優越に浸っているような目で見ていた。
が、愛香はそんなこと眼中にないみたいに、何度も何度も
ちなみに
ここに属性玉をセットすることで様々な能力を付加させることができるのだ。例えば
愛香は
「使えない…」
愛香はこの世の終わりのような顔をしていた。その表情は数時間前の輝きに満ちていた顔と対極のものだった。
「お前、仮に使えたとしても、今まで名目通りの効果だったことがあるか? 兎耳ラビットだってウサギ耳が生えてきたりはしなかっただろ?」
「それでもねぇ、それでもあたしには最後の希望だったのよぉぉぉぉ!!」
愛香はおいおいと泣き始めた。まるであの邪神っぷりが嘘のようである。
ここで愛香が言っていた『使えない』という意味は能力が役に立たないという意味ではない。『使用できない』のだ。
トゥアール曰く、これは純度の問題らしい。これはエレメリアンたちの身体構造のせいで起きる問題なんだとか。
人間の趣味嗜好が一つではないように、エレメリアンも生きていれば人間と同じように多数の趣味や思い入れを持つようになり、それが時間と共に本来自分が持つ属性力とは違う属性力を備えてしまうケースがあるのだというのだ。
以前戦ったフォクスギルディは自分の核となる
後から得た属性力が大きければ大きいほど、本来自分が持っている属性力の純度が下がっていってしまうというのだ。今日倒したバッファローギルディはもしかしたら他にも属性力を備えていたのかもしれない。だから手に入った
「濃いドリンクを水で割るというのが分かりやすい例えかもしれませんね」
トゥアールはテーブルに置かれているジュースと水を手に取った。『本来の属性力』をジュースで例え、『後付けの属性力』を水と説明しながらテキパキと2つのドリンクを作っていく。
そしてテーブルの上には白さが濃く出ているドリンクと水っぽいドリンクの2つが出来上がる。
「おお、分かりやすい!じゃあ今日手に入れた属性玉は…」
「そうです総二様、この水っぽいドリンクが該当しますね」
そしてテイルギアもある程度の純度の属性玉でないと、発動しないようになっているらしい。
そして今日得た
「じゃあ、これどうすればいいのよ…」
愛香は宝の持ち腐れとなった属性玉を床へと転がした。
「そのことについて、私から案があるわ!」
するとどこからともなく声が聞こえたが、皆騒がなかった。もう声色で誰か分かっているからだ。
「お義母様!?」
唯一反応するのはトゥアールだが、もうこの2人の悪の幹部ごっこにリアクションするものは誰もいない。これも慣れてしまったからだ。
「そのコアを使って、新たなテイルギアを作ればいいのよ!」
その言葉と共に入ってきた母親の恰好に、総二は思いっきり噴き出した。
「あら?何を驚いているの総ちゃん?」
「実の母親が平然と悪の秘密結社みたいなコスチュームで入ってきたら誰だって驚くわ!!」
そう…総二の母、未春は悪の幹部が身に纏うような黒いマントと髪飾りを着けて、地下基地に現れたのだ。
中二病に関しては半分諦めていたようなものだが、もうここまでのレベルに達してしまったか…と総二はがっくりと肩を落とす。
衣装もどこで作ったんだ、と言わんばかりのクオリティに仕上がっている。
この恰好に黒いフルフェイスヘルメットを被ったら、もう完全に某宇宙戦争の暗黒卿だ。
「――で、さっき言っていた新たなギアって何だよ?まさか自分が変身するとか…――」
諦めたようにテーブルの席に座り、母親に問う総二。
「心配しなくても母さんにはツインテール属性がないじゃない。この間総ちゃんが手に入れたツインテール属性と今日手に入れたコアを組み合わせての新しいギアを作ったらどうかしらってこと。ここらでもう一人追加戦士をテコ入れしてもいいかなって話よ」
ツインテールの属性力を力としていたドラグギルディとの戦いを制した総二は、ツインテール属性の属性玉を持っている。
だが、それを属性玉変換機構エレメンタリーションで使うことはトゥアールから固く禁じられていた。
ギアに内蔵されているツインテールの属性力と合わさると暴走の危険があるからだという理由でだ。
結局、それは日の目を見ることもなく、総二のギアの中でそのまま保管されている。
未春はその使っていないツインテールの属性玉を使ってもう一つギアを作ってみないかと提案してきたのだ。
「いけません総二様!これ以上誰かを戦いに巻き込むのは!」
さらに部屋の隅で未練がましく
「そうよそーじ、あんな変態達とどこぞの女の子を戦わせるっていうの!?」
「それはそうだけど、この先の事を考えたらもう一人くらい…。あのテイルファングが正式に俺たちの仲間になってくれさえすれば――」
「「絶っ対ダメ(です)!!!」」
「は、はい…」
二人に気圧される総二。
特にテイルファングの名前を出した途端に二人は力強く否定した。
テイルファングに憧れに近い感情を抱いている総二に対し、愛香はもちろんトゥアールもテイルファングをライバル視していた。
「ま、まぁこれ以上新しい戦士はどうかと思いますが、少なくともここら辺で予備のギアを開発したいかな~って思っていたんです。で、そのギアに属性力のハイブリット技術を組み込んでみましょうか」
前方の電子パネルにハイブリット技術の概要が現れた。
難解すぎてちんぷんかんぷんだが、その中に2つの属性玉が存在することは辛うじて分かった。
「要は総二様が変身した時に起こる幼女化現象の逆を意図的に行うんです。さっきの使えない
耳ざとく反応する愛香。見る見るうちに顔に輝きが戻ってくる。
「じゃあ…じゃあそのギアを使えば巨乳に変身できるの!?」
「まあ、あくまでも可能性の話ですけれど…」
「じゃあお願いトゥアール!それ私にちょうだい!」
愛香は一瞬のうちに変身を解除し、トゥアールの前で頭を下げた。
なんという無駄のない無駄な動き。
「愛香さんには私があげたギアが既にあるじゃないですか」
「新しいのがあるのならこれと交換して!このギア、起動する時ガリガリ音するし、温度はやたら上がるし、いきなりフリーズしたりする時があるんだから!」
もはや末期のパソコンのような症状だ。
開発者を目の前にあれこれ好き放題言って、トゥアールに失礼だろう…と思っていたら、トゥアールは意外にも笑顔だった。
「そうですかぁ~、どうしても欲しいんですか~」
しかしその笑みは、大変意地が悪い笑みだった。
「じゃあ愛香さんには今までの詫びをしてもらわなければなりませんね~、とりあえずは土下座と私に様付けで敬って貰わなければ新しいギアは渡せま…」
「トゥアール様!今まで数々の無礼、誠に申し訳ありませんでした!!」
その間、僅かコンマ1秒。
謝罪の言葉と共に見せた土下座は美しく、優雅にさえ見えるほどだった。
「ひいいいいいいあの蛮族が平身低頭!!」
どうやらトゥアールは土下座と巨乳の究極の選択で苦悩する愛香を眺めていたかったらしいが、そのリアクションから、全くの予想外の行動であったらしい。
「乳が手に入るのならねぇ、巨乳になれるのならねぇぇ…プライドなんて捨ててやるわよぉぉぉ!!」
ゆっくりと頭を上げた愛香の頬には、血涙が流れていた。
それは魂の叫び、決して頭を下げたくない相手に下げてまで手に入れたい。
その覚悟がひしひしと伝わってきた。
「あたしはの欠点は胸がない事!ずっと胸が欲しかった…その可能性が、希望が!今、目の前にあるのよ!だったら飛びつくしかないじゃない!!」
「愛香お前、そこまで…――」
「総二様、私は基本的に愛香さんのいうことは全否定して生きていたいですが、こればかりは別です。胸がどうでもいい女の人なんていないんです。これは人生の命題なんですよ。ノースリーブのシャツの袖がどんなに伸びても長袖にならないように、貧乳はどんなに頑張っても谷間というものができないんです。だから寄せて上げるブラっていうのがあれだけ売れたんです」
深い。トゥアールのその言葉に、女の世界の奥深さを一つ知った総二であった。
「私はね、胸が手に入るのなら神にだって、悪魔にだって魂を売り渡していいわ!!」
そんな理由で売り渡されたら神様も悪魔も困るんじゃないかなあ?
「ああ、胸が、胸が欲しい…」
その悲痛な叫びは、まるで水を求めて砂漠を歩く、遭難者のようであった。そしてそんな愛香に救いの女神の手が差し伸べられる。
「…分かりました、愛香さん!その願い、聞き届けましょう」
「トゥ、トゥ、トゥアール様!!」
愛香は感極まったのか、トゥアールに抱きつき、泣いた。
その抱きついた部分が胸ではなく、腰というポイントに愛香の巨乳に対する恨みがひしひしと伝わってくる気がする。
「普段は敵ですが、今回ばかりは別です。つかの間の握手って奴ですよ」
「ありがとう、本当にありがとう!」
「いいんですよ、だって私たち…友達じゃないですか」
「あらあらいいわね、青春って奴ねぇ~」
女同士の美しい友情物語が目の前で繰り広げられているその中で、総二だけがあることに気付いた。
腰に縋り付いている愛香を慰めているトゥアールの顔が、かつてないほどの邪悪さで満ちていたことを。
そしてある一つの言葉が総二の頭に浮かんだ。
…人は可能性に救われることもあるが、その可能性によって殺されることもある、と。
一方その頃、キャッスルドランでは。
ヴェディ「こぉらーっ、テナー!!あんた体重計に細工したわね!!」
テナー「な、な、何の話だ!!」
力「ご、キロ、かる、いぞ」
テナー「そ、そんなの嘘だ!」
ラモン「この間僕、響輔おにいちゃんの手伝いでカレーを作る時スパイスを量る計りが見当たらなくて体重計を代わりに使って量ったんだ」
次狼「そのスパイスで作ったのか…」
マルシル「だからあのカレー、死ぬ程辛かったんだ…」
テナー「な、何だ!私の所為だと言いたいのか!?」
響輔「認めたね」
次狼「語るに落ちたな」
テナー「ぐおぁっ…!」
ヴェディ「あたし!翌日、トイレで大変だったんだからね!!!」