The music of mind for twintail . 作:紅鮭
ディスカッション/動き出す戦いの水面下
『しかし
「そんなに面白いものなの?」
『ああ、特に化学や数学の様なパズルみたく答えを導き出す学問には終わりがない。永遠と続けられる』
「まさかあれ全部、聴取しているだけで頭に入っているの?」
『ふはは、当然だ。ファンガイアの世界にも試験は存在する。ましてや私は一族の重鎮──他の世界を見て回る為には戦闘能力だけではなく、勉学にも励んでいる。それにこの程度の授業、キバットやマルシルの教えに比べれば児戯にも等しい』
「は、はぁ…」
得意げに頭の中で語る声に少年・響輔は適当に相槌を打ちながら聞き流した。
──陽月学園の教室。
放課後のチャイムが鳴る中帰り支度を済ませ、カバンを肩に掛ける響輔。
あまり聞こえない音量でブツブツと独り言をつぶやいている。
──それは周囲の目からだが。
響輔は同じ体にいる
事のあらましを説明するとそれはひと月前、高校入学の前夜──響輔は死んだ。
いや、死ぬはずだった。
響輔は偶然その場に居合わせた『テナー・オランジュス』という異世界からやって来たファンガイアの女性を助けた代償に生命活動ができなくなる程肉体が破損し、代わりに彼女の体に自分の人格と記憶を収納させる事により、『二心同体』という状態になっているのだ。
さらに、同じく異世界からの侵略集団──アルティメギルが自分たちの世界へと侵略を開始した。
目的は自分達の世界にあるツインテールの強奪。
それを阻止すべくテナーと共に響輔は『キバの鎧』を身に纏い、『テイルファング』という戦士となってアルティメギルの強豪なエレメリアンを相手に戦いに勤しんでいた。
そしてテナーと二心同体となって約ひと月が経とうとしていたある日、響輔はとある教室へと向かっている。
小中高大一貫エスカレーター式の私立陽月学園その高等部。
そこに新しい部活が加わることになる。
ツインテール部──響輔の友人、観束総二を部長とした新しい部活だ。
響輔は未だに不思議な興味を抱いている。
彼はツインテールを愛するが決してツインテールフェチというわけではない。
ツインテールを真摯に愛する心──それが音楽となって響輔の心に響いてきている。
それは何よりも炎みたいに熱く、こちらの心も闘志が湧き上がるようなそのような音楽。
部活を通じて彼とはもっと友人として解り合いたいと思いながら、扉を開いた。
「きゃっ♡総二様のエッチぃ♡」
「あっ!ご、ごめんなさい!」
扉の先には着替え途中の半裸の女性があざとらしく体をくねらせ、響輔は赤面し慌てて扉を閉めた。
「──って!あなた誰ですか!総二様だと思ってたのに!!もう」
「それはこっちのセリフ…──ってイヤ、どっかで見たことあるような?」
響輔は扉の向こうにいた女性の顔に見覚えがあり、記憶をまさぐる。
「あ!あなた確か観束トゥアールさん…でしたっけ?」
「え?どちら様でしたっけ?」
どこかでお会いしましたか?と、真面目な声で返された。
素で忘却されているらしく、響輔はちょっと傷ついた。
「この前会ったでしょ!紅響輔です!」
「クレナイキョウスケ……?キョウスケくん?キョウスケくん?──あー、そういえば総二様のお友達の方でしたっけ?」
扉越しからわざとらしく考え込む声色で受け答えをするトゥアール。
響輔はさらに傷ついた。
「それより、ノックくらいしてくださいよ、もう!」
「すいません…」
「せっかく総二様が扉を開けた瞬間、脱ぎかけの制服からブラとパンツがチラ見えする角度で振り返って『きゃっ』とか媚び媚びな声を出したかったのに!もう一回やり直しじゃないですかー!響輔くん、総二様が来たら何も言わず中へ入れてくださいよ!あ、愛香さんはうまいこと言って追い返してくださいね~♡」
『なんて淫乱で自己中な女だ、全く……』
そこはテナーに同感する響輔。
総二にぞっこんで他の男に対しては無関心なのか?
しばらくして総二と愛香が一緒にやってきた。
トゥアールが中で着替えをしている事を二人にチクると愛香は般若の如き形相で部室へと飛び込んで、ドタバタと扉越しでもわかるくらい激しいキャットファイトを繰り広げ始めた。
そんな文字通りの修羅の暴れ狂う修羅場と化している部室の外で響輔は総二に尋ねる。
「ねえ、総二君」
「ん?」
「あのトゥアールさんって…一体なんなの?」
「え!?」
「総二君の親戚って、聞いているんだけど…」
「まぁ、そうだな。親戚だよ!遠い国から来た…」
総二は口ごもる様に答える。半分は嘘ではない。
「ふぅん…」
響輔もこれ以上追及する事なく、会話を終える。
実は彼女に興味がないと言えば嘘になる。
彼女──トゥアールからは響輔のみ聴き取る事ができる心の音楽が全く聴こえないのだ。
一体、彼女は何者なのだろう?
「それにしてもよく部活の申請が通ったね」
響輔もまさか『ツインテール部』なんてよく意味のわからない部活相手に部室を提供してくれるなんて思ってもみなかったからだ。
「ああ、ここな、いままで閉鎖されてて、幽霊の目撃情報が絶えなくてな。大昔に女子生徒が自殺したとかいろいろと噂はあるみたいだし」
「曰く付きの教室だったの!?それってただ単に厄介物件を押し付けられただけじゃ……」
「いや、部員に愛香がいるって言ったら、先生、『じゃあ大丈夫ですね~』って使用を許可してくれたんだぞ」
「へ、へぇ~…」
本当に愛香が気の毒になってくる響輔。
「響輔は幽霊とか平気か?」
「え?ま、まぁ…平気といいますか、何といいますか……その……──」
実を言うと今の響輔も幽霊と言って差し支えない状態である。
加えて、吸血鬼、狼男、半魚人、人造人間の子孫、エルフ、猫女、ドラゴンの知り合いとなってそれらを間近で見ているので。
今更幽霊が目の前に現れたとしても驚きもしない。
すんなり受け入れられる自信がある。
「そうそう!そーいや、昼休みにこれ作ったんだ。見てくれよ!」
総二はカバンからツインテール部と書かれたプレートを取り出し、感慨深く見せびらかした。
「え?これって?」
「入口のルームプレートだ」
「随分と凝ったものを作ったね」
響輔の口からは自然と苦笑いが溢れる。
「こういう活動はとことん極めなきゃな!」
「こんな達筆な明朝体よりももっと可愛らしい感じにした方が良かったんじゃない?ツインテールは女の子のための髪型だよ」
「ああ、でもこれでいいんだ。見ているだけで厳かな、見ているだけで背筋を正してしましそうな、無言の迫力があるだろう!」
総二の演説を聴きながら響輔は総二の心の音楽を聴いていた力強く、燃え上がるような旋律、響輔の胸にも熱い感動を禁じえない。
心の音楽には共振作用があるのかと考える。
アニメや特撮の熱いビートの音楽を聴いていると自分の心も高ぶるみたいに、総二といると改めて思うようになる。
もし、僕がテイルファングと一緒に戦っているとその事実を教えたらどんな反応を示すか少し気になる響輔だった。
「はーい、こっちは片付いたわよ二人共」
するとひょっこり教室から顔を出した愛香。
「いやいや、片付いたよって…」
「愛香さん、これ以上曰く付きを増やさないでくださいね」
「何の話?」
「それより早く教室はいろうぜ」
「うん」
総二と響輔が入室しようとした時。
「ああっと!響輔の方は……ちょっと帰ってくれないかな?」
「え!どうして!?」
愛香は響輔のみ止め立てた。
「ちょっとね。今日だけあたしとそーじとトゥアールだけで大事な話があるの」
「同じ部員だよね!?」
「ホント、ゴメン!」
納得のいかない響輔を愛香は説得し、響輔は渋々と帰宅していった。
「おい、愛香」
響輔の後ろ姿を見ながら総二は愛香に少し抗議するみたいに呼びかける。
響輔には自分たちの正体を明かしても良かったのではないだろうか?と。
「仕方ないでしょ?響輔は何にも知らない一般人だし、あたし達がツインテイルズだって事は言わないでおいた方が無難よ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
───異世界の侵略者・アルティメギルの秘密基地。
ツインテール属性の強奪を目論むこの前線基地では数多の怪人の隊員──エレメリアンによる大混乱見舞われていた。
「報告いたします。タイガギルディ殿がツインテイルズに破れました!」
「くっ…やはりか…」
巨大なホールの会議室で沈鬱な表情で部下の報告を受けるエレメリアンがいた。
雀のような外見をしながらも、どこか老いを感じる空気を発している戦士・スパロウギルディ。
ついこの間まで、ただの側近でしかなかったスパロウギルディは、今は地球侵略を企てる侵略部隊の長に出世していた。
いや、少し違う。
つい前日、自分たちをまとめ上げていた屈強な戦士にして、本来の隊長であるドラグギルディが殉職し、古株である彼が実質的なまとめ役になったからだ。
本来、最強の属性力であるツインテール属性をドラグギルディ隊長は同じツインテール属性を持つ最強の幼女──テイルレッドに破れた。
その事実はこの秘密基地にいる全員に大きな衝撃を与えた。
それだけではない。
ホールに飾られる威風堂々たる蝋人形。
──テイルファング
彼女もまた、頭を悩ませる要因であった。
僅か10人であの『アルティメギル四頂軍』のいち部隊に匹敵する強さを誇る伝説のエレメリアン精鋭掃討部隊・
その強さはドラグギルディと対等に接する事ができるほど──つまり、ドラグギルディと同じレベルであり、彼が製作したテイルファングの蝋人形の出来から彼が歴戦の戦士であったことは火を見るより明らかだった。
だが結果は敗北。
デュラハンギルディが命の間際残した写真とメッセージ──デュラハンギルディの遺言だ。
『テイルファングは蒼く、姿を変える。その速さは僕にも捉えることは不可能だった』
その写真──今までに比べれば写りは良い方だが──そこには左腕に剣を振りかざし、蒼き鎧を身にまとうテイルファングが写っていた。
(そして、残る戦士は…)
そして、スパロウギルディはタイガギルディの戦闘映像を再生する。
ここに、最後のツインテール戦士の映像が収められている。
画面の中で四肢を広げ、腹をおっぴろげているタイガギルディ。
気味悪そうに後ずさるテイルレッド。
『な、何だよお前……腹だして寝転がって……』
『素晴らしきスク水を纏う幼女よ!後生だ!我が腹を大海原だと見立て、元気よく泳いでくれい!!』
『ぎゃあああああああああああ!変態だあああああああああああああ!!』
『気を確かに持て、テイルレッド!情けないぞ!この程度の心理攻撃に惑わされるなど!』
『そこのセパレートなお姉さんでも構わんぞ』
『痴れ者がぁっ!!これは水着ではない!』
お腹を出し、服従のポーズで横たわるタイガギルディと絶叫するテイルレッド、不愉快となるテイルファング。
タイガギルディが持つ属性力は
テイルレッドが纏うアンダースーツがスクール水着を連想させるような形状であったため、このような凶行へと出てしまったのだろう。
さらにテイルファングのアンダースーツ──ブラッド・シングレッドも最近流行りのセパレート型スクール水着に酷似しているからテイルファングも守備範囲に入っていたらしい。
『全く、こんなのいつものことでしょ?』
と、ここで現れるは最後の戦士──テイルブルー。
凶器の槍をバトンのようにクルクルと回しながら、見慣れた光景だと言わんばかりに呆れ、落ち着いている。
だがテイルブルーの登場はタイガギルディを苛立たせた。
露出多めな出で立ちを見るやいなや、不快感を露わにしたような怒号を上げる。
『失せろ、汚らわしい!そのような布面積が少ない水着など、尻を拭く紙も同然!そこの二人に誠心誠意謝るが良い』
八の字に眉を歪ませ、ウェイブランスを振り上げるテイルブルーのドアップ…映像はここで、途切れた。
「……この後、タイガギルディ様に無言でトドメを……。相変わらず冷徹にて恐ろしき戦士です」
部下からの報告を聞き終えて、スパロウギルディは頭を抱える。
もう確認したくもない。
とても恐ろしくなり、その映像の記憶をスパロウギルディは頭の奥深くに押し込んだ。
「なんと恐ろしいのだ。そして、何と強いのだ…」
最強のツインテール属性を持ち、剣を振りかざす幼女、テイルレッド。
謎は多いものの、高い
悪鬼羅刹の如く、情け容赦、手加減を微塵も見せない戦いを繰り広げる少女、テイルブルー。
この3人が戦う映像を見ながら、半分諦観しながら、そう呟く。
戦いを通し、彼女たちは今以上に成長している。戦いを始めてから一月、動きのキレも以前とは見違えるほど良くなっているのが誰の目から見ても分かる。
部下たちは次々と亡くなっていく同胞に「弔い合戦だ!」と士気を上げながら出撃していくが、全て返り討ちに合っている。
「次は誰が行く?」「~殿が行きますか?」「俺が行こう」などと息巻いている部下たちがちらほらいるが、このままでは間違いなく消耗戦となり、この部隊は壊滅する。
ドラグギルディやデュラハンギルディのような豪傑はほとんど残っていなく、どれもこれも弱卒な部下ばかりが残ってしまった。
「…ここにきて、部下共の育成をロクにしてこなかったツケが回ってきたのか」
戦闘面に関して、この部隊はドラグギルディにほとんど丸投げしていたようなものだったのだ。
(…もはや、これまでか?)
長として、スパロウギルディは決断しなければならない。
悪戯に犠牲者が増えるこの状況下で、このまま侵略活動を続けるのか。
(…それとも意気込む部下たちをなだめ、この世界から撤退するか)
そんな考えに支配されそうになった時だった。
先ほど報告しにきた部下が再び駆けこんできた。
「ス、スパロウギルディ様!」
「なんだ?」
「あ、あの…あのあのあのあの…あのお方から…お……お、お電話が……!!」
その部下は蒼白な顔色で狼狽しながら受話器を差し出してきた。
「誰からだ?」
「サ、サキュバギルディ様からです!!」
「何ぃ!!?」
思わずスパロウギルディは立ち上がった。
そのホールにいた大勢のエレメリアンはいつの間にか忽然と姿を消していた。
サキュバギルディ──それは星の数程いるエレメリアンでもアルティメギルの中では知らない者はいないとされるほど有名なエレメリアンであり、かつてはあの
今はアルティメギルの首領の側近に置かれ、謎多き首領に近いエレメリアンだと言われている。
その上司の中の上司が連絡を寄越してくるなどただ事ではない。
受話器を差し出すと、部下はそそくさと逃げるように退室していった。
「もしもし!」
『おっそーい!こちとら忙しいんだから、もっと早く出なさいよね』
「ははっ、申し訳ございません!ご尤も!」
受話器を取り、謝罪宜しく頭を下げるスパロウギルディ。
一方、サキュバギルディの方はまるで女子高生が友達と会話するみたいに軽やかな口調でスパロウギルディを叱責してきた。
「そ、それでサキュバギルディ様、突然のご連絡どうかなさいましたか?」
『おかしなことを訊くわねぇ。デュラハンギルディをそっちに送った私が──その状況確認の連絡を取るのがそんなに不思議なことかしら?』
「いえいえ、とんでもない。えー…、この度の侵略作戦の…えーと、進捗状況についてなのですが…──」
『そこまで。事情はおおよそ把握できるわ』
狼狽えながら報告するスパロウギルディを遮る。
『部隊長のドラグギルディや直属の部下のデュラハンギルディが私の電話を無視する訳ないし──もうやられちゃったんでしょ?違う?』
「はっ!お察しの通り……」
『全く、一体何やってんだか、と言いたいとこだけど…──世の中何が起きるかわからないわねぇ~』
サキュバギルディは電話越しに愉快そうに呟く。
「え?今、何か?」
『いや、何でも。でも、興味あるわね。その二人は一体誰にやられたの?』
「ツインテイルズです」
『ツインテイルズ?』
聞きなれない単語を耳にするサキュバギルディ。
「ええ、こちらの世界を守護する三人のツインテールの戦士です」
『三人?たった三人にあなた達の部隊が手も足も出ないわけ?』
眉をひそめ、情け無い。と、言わんばかりに落胆するサキュバギルディ。
「も、申し訳ありません。しかし、ドラグギルディ様とデュラハンギルディ様がそのツインテイルズに倒されたのは事実。他の隊員達の士気もすっかり下がり、状況は芳しくない有様です。サキュバギルディ様、どうか貴方の力添えを──」
『調子に乗んじゃないわよ』
さっきまでの軽やか声から一転──無機質な低い声。
電話越しに豹変した異様な雰囲気に、スパロウギルディは戦慄する。
受話器のスピーカーは今のスパロウギルディにとっては銃口よりも恐ろしく、自分が毛ほども逆らってはいけない相手だということを一瞬で再認識させられた。
『たかが上司二人やられた程度でさらに上の上司に泣き付くなんて、あなたにはプライドってモノがないの?』
「め、滅相もありません。それにサキュバギルディ様、お言葉ですが…
『自然の摂理に忠実と言いなさい』
ドラグギルディとデュラハンギルディの死を軽んじるような言い方に対し、おずおずと口答えするも、サキュバギルディはしれっと答える。
『力無い者は力有る者には敵わない。だから生物は常に力を付ける為に学び、進歩のない者は次々に遅れていく──人でもエレメリアンでも。そうは思わない?スパロウギルディ隊長ぉ?』
「ぐぅ…」
暗に部下の育成を怠った事を叱責するサキュバギルディ。
スパロウギルディもサキュバギルディの正論にぐうの音もでなかった。
『まぁ、そっちの戦力はみそっかすみたいだし、一朝一夕で力を付けろなんて無理な話だし、ある部隊をそっちに送ったわ』
「ある部隊?」
『リヴァイアギルディの部隊よ』
「リヴァイアギルディ様の部隊ですか!?」
海竜の戦士、リヴァイアギルディ。
ドラグギルディと同期の桜であり、その実力も彼と匹敵していると讃えられている。
援軍としてはこれほど心強いものはない。
微かな希望を見出したスパロウギルディだったが、サキュバギルディが更に報告した。
『それともう一つ、クラーケギルディの部隊もそっちに合流するわ』
「何ぃ!?クラーケギルディ様もですか!?」
海洋の戦士、クラーケギルディ。
長の身でありながらも自らも前線に立ち、戦うことで有名な戦士であり、その影響もあってか、クラーケギルディの部隊はアルティメギルきっての武闘派集団でも有名だった。
だがスパロウギルディはそのことで驚いているのではない。
この2つの部隊が合流するというこの事態に驚いているのだ。
リヴァイアギルディとクラーケギルディ。
この2人の仲の悪さは有名であり、互いに対抗意識を燃やしていることは誰もが承知の事実であった。
「あの犬猿の仲の2人が…我が部隊に合流するなど…!」
何か一波乱が起きる。
間違いなく起きる。
…そのような予感がスパロウギルディにはあった。
『本当は私の部下も送ってやりたいところなんだけど、どいつもこいつも食いつきの悪い連中でね。高級な餌じゃないと中々満足しないのよ。それに──』
ひと呼吸置いて。
『ダークグラスパーの視察も近いし』
□□□□□□□□□□□□□□
電話を切るサキュバギルディ。
「やーほー、隊長終わったよー」
「この世界も呆気なかったな。たった三人で片付いた」
「ふむぅ、ここまで脆弱極まれば、あって無きが如し…ですな」
まるで太陽の地表にでもいるかのように、地平線の彼方まで一面炎上した大地の上で受話器をしまい、この世界に連れてきた三人の部下へ向かい直る。
ツインテール属性が生まれる可能性のない世界を圧倒的な強さで間引くことを仕事とし、そこにいる人間や生物など虫けらのように蹴散らしてしまう。
武人のような誇りあるエレメリアンとは違い、用心深い上に残忍で血も涙もない十体のエレメリアン集団である。
20年前、隊長の脱退を皮切りに活動を停止していたが、副隊長が隊長代理となり、再び始動しはじめた。
今サキュバギルディの目の前に集合しているのはマンティコアギルディ、キリムギルディ、スキュラギルディの三体。
「何か電話してたけど、ニャンの電話?」
「ドラグギルディとその救援に向かったデュラハンギルディがやられたわ」
「「「えッ!!?」」」
その場にいた全員が目を見開く。
「あの二人が、やられたっていうのか!?」
「特にデュラハンギルディ殿の実力は知っています。そう安々とやられる筈がありません。して、一体誰がその二人を…?」
「『ツインテイルズ』って言うツインテールの三人の戦士……みたいだわ」
「熱血でキレイなお姉さん?」
それを聞いてマンティコアギルディが目を輝かせる。
「俺は美味そうに飯を頬張ってくれる女だったらいいなー」
くっくっくっ、とキリムギルディも妄想を膨らませる。
「さあ?詳細は訊いていないわ」
「しかし、あの二人──特にデュラハンギルディ殿がやられたとならば、我々も動かぬわけには行きますまい」
スキュラギルディも珍しくやる気を出す。
「まぁ待ちなさい、まずはカウンターパンチに程よい援軍を寄越したし、ダークグラスパーも近々あっちに行くから、私たちは高みの見物を決めときましょ。動くのはそれから♪──その方が盛り上がるってもんよ」
そう言って、サキュバギルディは周囲を飛翔する生物を片腕に止まらせる。