The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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 頭を覆い、顔を隠したりする頭巾──フードその数は約30種類もあるとされている。

 頭巾と聞いて思い浮かべる童話と言ったら『赤ずきん』──1812年に初版のフランスのグリム童話作品集に収録されて、知っている人も多いだろう。

 だがその100年以上前、1697出版したドイツのペロー童話集にもその存在が確認されていたり、他にもスウェーデンの民話『黒い森の乙女』など類話がいくつか見つかっているが詳しい原点は確認されておらず、中には中国から来たという説もある。


アンサンブル/ブレード・オブ・ウルフ

『初めて名前で呼んでくれたね、テナー』

「何?」

 

 

 テナーは響輔に父親を死なせてしまった自分の罪を糾弾されると思っていた。

 だが響輔の口から出た言葉は全く予想だにしなかったものだった。

 

 

『ずっと疑問に思っていたんだ。もうすぐテナーと二心同体になってひと月になる。なのにどうして、僕と一定の距離を置いてあまり心を開いてくれないんだろうって──ただ僕がなんの力にもなれてないから疎ましく思ってるんじゃないかなって……そう思ってた。でも違った』

「…………」

 

 

 テナーは響輔の話に嫌な顔を全くせずに聞き入っていた。

 一句一句、彼の想いを受け止めて、どんな心境なのか確かめる様子だった。

 

 

『僕には……父さんとの思い出なんてない。一体どんな人だったのか。母さんに訊いてもよくわからなかった。でも、ようやくわかった気がする』

 

「………………」

 

 

 テナーにとって響輔の父──音也はは敬愛する育ての親であり、同時に命の恩人だった。

 響輔を助けたのは音也を死なせてしまった自責の念と、過去の恩義からであり、その負い目から響輔との間に壁を作ってしまっていたのだ。

 

 

「響輔、お前は恨まないのか?私の事を──私はお前の父の命を奪ったも同然なんだぞ」

『自分の事を、そんな悪く言うなよ。テナー』

 

 

 怒りを含んだ、窘める口調で響輔は言った。

 

 

『その命は僕の父さんがくれたものなんだろ?君のことが自分の命より大事な存在だったんだから…君には自分よりたくさん生きて欲しいから──そう思ったから父さんは自分の命を差し出したんだ。そんな…父さんの行為を無下にするような言い方はやめなよ、テナー』

 

「……」

 

 

 響輔にとってテナーは今は亡き父・音也の忘れ形見であり、生きていたことへの証。

 それを否定することは音也への侮辱に他ならない。

 さっき自分が言った迂闊な言葉を省み、テナーは心の内で忸怩たる思いをした。

 

 

『でも…ありがとうテナー、本当のことを話してくれて。初めて君の本当の心がわかった気がする』

 

 

 たとえファンガイアのクィーンであり、高慢な振る舞いが目立つテナーだが、その実心には弱さと孤独を抱えていた。

 

 

 それに響輔はマルシルから前々から聞いていた。

 テナーは危険を伴い、響輔の(プシュケー)をその身に宿していることを──

 

 

「響輔、音也の息子であるお前にもこれから迷惑をかけるかもしれない。だが……私とこの世界を……この世界のツインテールを守る為に力を貸して欲しい!──頼む」

『逆だよ。むしろ頼むのはこっちの方だよ。これからもよろしくねテナー』

 

 テナーも響輔の寛大さに触れ、自分も響輔と肩を並べて共に戦っていけると不思議にもそう思えてきた。

 

「ああ、私は戦う。我が恩人とその恩人が愛したツインテールのために!」

『父さん、本当にツインテール好きだったのかよ!!?』

 

 

 テナーのその言葉から音也の意外な一面を聞いて、驚愕する響輔だった。

 このツインテールはかつて音也が最も愛した髪であり、この髪を結うとテナーは音也と共に過ごした日々のことを今でも思い出す。

 テナーの口元からは笑みがこぼれ、心は高揚とし始める。

 

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「はあああああああああぁぁっ!!」

 

 

 デュラハンギルディの連撃を掻い潜るも、今度は回避できない攻撃が襲いかかってくる。

 

 

「おい!ファング!聞いているのか!?来たぞ!!!」

「──黒刃刀(ブラック・ナイフ)…」

 

 

 そう呟くと同時にテイルファングの両手に短剣が具現化し、デュラハンギルディのハルバードを軽々と弾いた。

 即座にデュラハンギルディの懐に掻い潜ると同時に無防備な胴体にローリングソバットを叩き込み、テイルファングを上回る巨体を蹴り飛ばした。

 

 

「ごふぁっ!」

 

 

 その威力は今までと段違いであり、デュラハンギルディを軽く百メートル離した。

 

 

「悪いな、キバット。しばし、響輔と雑談をしていた」

「え?話してたって……お前ら三秒くらいしか口閉ざしていなかったぞ……?」

「──そうか、精神での会話による時間の経過は現実の時間にあまり作用しないのだな」

 

 

 キバットはそんなテイルファングを見てフッと嬉しそうに口元を釣り上げる。

 

 

「何話してたか知んねぇけど──いい顔になったじゃねぇの、テイルファング!」

「…かもしれんな」

 

 

 傍から見てはわからないだろうが、付き合いの長いキバットはテナーの顔つきが変わっている事に気付いていた。

 まるで憑き物が落ちたような清々しいその表情に──

 前を見るとデュラハンギルディはハルバードを杖に起き上がってくる。

 

 

「そんじゃ…今度こそ成功するかな?」

「ふははは、しなければ困る。奴を──いや、奴らを倒すために…これからの戦いに勝利するために!」

 

 

 テイルファングはベルトの左右のスロットホルダーに収納されているガルルフエッスルを引き抜くとそれをキバットの口に押し込む。

 

 

「ガルルセイバーッ!!」

 

 

 ホイッスルのような甲高い音が辺りに響く。

 

 

 

 

 

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 その音色はキャッスルドランにも届く。

 

 

「出番か……」

 

 

 次狼は飲みかけのコーヒーを一気に仰ぐと、次狼の双眸がまるで獣みたいに一段と鋭くなり、虹彩は血のように爛々と赤くきらめき、タキシードのネクタイを少し緩めて身を屈める。

 そして爪とぎをするみたいに床を引っ掻くと蒼炎の火花が音を立て弾け、次狼の真の姿──蒼き人狼・ウルフェン族の戦士『ガルル』の面影がちらついた。

 

 

「ウォウゥゥゥゥッ……!!」

 

 

 狼の遠吠えと共に次狼は蒼い彫像へと変化し、キャッスルドランから射出された。

 

 次狼達はファンガイアの重鎮であるテナーと『闇の契約』をすることによってキバの鎧が使用する武器へと変化。

 彼らを『アームズモンスター』と言い、フエッスルの音でキャッスルドランから呼び出すことが可能なのだ。

 

 

 

 

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 キャッスルドランから射出されたガルルの彫像はウルフェンの顔を模したサーベル──ガルルセイバーへとその姿を変え、テイルファングはその柄を左手で受け止める。

すると──

 

 

「うっ、うぐぐっ……っ!!」

 

 

 ガルルセイバーを握ったのと同時にテイルファングの左腕に激痛が走り、銀色の(カテナ)がガルルセイバーから伸び、それはテイルファングの左腕から肩にかけて覆うように巻き付かれていく。

 

 

 

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──時は遡り、キャッスルドランでの特訓の時。

 

 

 

 

「音楽が聴こえる?」

「はい、実は僕は昔から、人の…心境といいますか…その……感情といいますか……聴こえるんです。それらが…音楽になって……。それに…その人の心の…音楽の五線譜と音符が見えるんです」

 

 

 響輔はテナーの質問にしどろもどろとしながら答える。

 その場で聞いていた次狼とマルシルも興味深そうに頷く。

 かつて響輔は他の人に自分の能力について話した事があったが、その時は全く相手にされないか、もしくは馬鹿にされたりした経験があった。

 今回もテナーからどの様な目で見られるのか、それが怖かった。

 だが響輔の予想に反してテナーは納得したかのように、その能力を考察し始めた。

 

 

「心の感情を受信しているということか?」

「その理由は不明だが、もし響輔が聴き取る事の出来るその心の音楽が(プシュケー)(属性力)によってもたらされるものだとしたら…──」

「なるほど、その作用によって起こされた次元震を感知したという事か」

 

 次狼の考察にテナーは頷く。

 

「充分ありえることだね。2度も都合よくエレメリアンが出現する場所を察知できる訳がないし、その現象を偶然や勘として片付けるにはむりがある。あと、ちょっと検査してみたんだけど響輔君の(プシュケー)は少し変異的なものだった」

「変異的なもの?」

 

 マルシルの言葉を次狼が聞き返した。

 

「響輔君の(プシュケー)にファンガイアのようなツインテールの属性は含まれてなかったようだ」

「なに!?」

「それどころか、どの属性も含まないものだった。まるで透き通った水晶のような…無色透明な、それでいて何も無いわけじゃない。私も響輔君の様な(プシュケー)は初めてみる──実に興味深い」

 

 

 どの属性も含まない。

 マルシルのその言葉にテナーは驚いた。

 人間は魔の者(ダイモーン)よりも精神力が大きく発達している。

 それだけ高度な属性力を内に宿し、必ず自分が好む属性を一つは所持している。

 全くない、ということは絶対にありえない。

 

 

「そうだよね~。まぁでも、問題はそこじゃない。その変異的な(プシュケー)だからこそ代わりに響輔君は極めて特殊な体質を持ってる。テナー、それこそが、あなたをさらに強くする大きな鍵だ」

 

 

 

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 響輔の特殊な体質──それはテナーと武器状のアームズモンスター達との心の音楽の周波数を合わせて、共鳴効果をもたらす事。

 

 

 キバの鎧は展開するとファンガイアであるテナーの防具になると同時にテナーの身体の一部として一体化している。

 以前まで、武器化したアームズモンスター達はあくまでテイルファングの武器として孤立し、キバの鎧とは別々にテナーによって使役されている状態なのである。

 だが、感情を受信しやすい響輔を仲介役とする事でテイルファングは異なる種族を(なか)ば融合状態にすることが可能であるとエルフィン族呪術学者のマルシルはそう理論を導き出した。

 

 つまり響輔をとり込んでいるテナーはファンガイアの鎧と魔の者(ダイモーン)の武器──異なる種族同士でそれらを一体化さ、異なる種族の特性を取り込む事が可能であるというらしい。

 

 

「グッ!こ、これは……」

 

『うっ!特訓の時より……激し…──』

 

 

 訓練の際何度か試したがテナーと響輔はどちらも互を心底信頼できず、心の共存がうまくいっていなかった。

 まだこの理論は一度も実現していない。

 しかし、今回互いに心の内をさらけ出した両者。

 必ず成功させてみせる。

 ガルルの力にさらに強力な魔皇力が鎧に循環される。

 テナーの身体(ソーマ)生命(プネウマ)(プシュケー)が軋みを上げ、激痛が走る。

 

 

「(……大丈夫だ、きっとやる。お前らは俺の親友の──音也の子だ)」

 

 

 キバットも二人の絆を信じ、力の奔流を押し止め、属性力のコントロールに専念する。

 

 ガルルセイバーを掴む左腕。

 それを覆う(カテナ)は一気に砕け、はじけ飛び、そこにあった腕はテイルファングの物ではない。

 

 ガルルセイバーを握る左手、敵を切り裂く恐るべき左手の戦闘爪──ウルフェンクロー。

 ガルルの力を得たことで、手枷に埋め込まれた魔皇石も青く染まり、ガルルの牙が変化した肘の打撃牙──ワイルドエルボー。

 腕の装甲板──ガルルシールドに覆われた左腕──ワイルドアーム。

 外見はあまり変化していないが、ガルルの影響を受け、ノーマル状態を超越する脚力による機動力を発揮する──ワイルドレッグ。

 ガルルの影響をうけ、強靱かつ柔軟なガルルの獣毛性質を受け継いで変化した肩アーマー──ウルフェンショルダー。

 

 

 さらにテイルファングの胸部・ブラッディラングも鎖に覆われ、はじけ飛び、姿を見せたのはガルルの力の影響で変質した胸部──ウルフェンラング。

 そしてキバットの眼も、テイルファングの虹彩、髪留め──キバペルソナもガルルの力の影響を受けてコバルトブルーに変色した。

 

 

──テイルファング・ガルルチェイン

 

 

「姿が変わった?」

 

 

 デュラハンギルディもテイルファングの鎧が赤から蒼へ変貌したことに戸惑う。

 何より驚いたのはテイルファングの姿が変わったことではなく、その纏う空気。

 まるで魔獣の様に凶暴なのにそよ風みたいに静かなような、氷みたいに冷たい炎のような、対照的な雰囲気がかけ合わさったような空気だった。

 ハルバードとランタンを構えなおすと臨戦体勢を取る。

 

 鋭き蒼の眼光は目の前のデュラハンギルディを睥睨し、口内は先の尖った牙がいくつも生え並び、唸り声を静かに上げると腰を屈め、今にも走り出しそうな体勢をとる。

 

 デュラハンギルディは目の前のテイルファングに少しも目を逸らしていなかった。

 なのに──いつの間にか目の前から突然テイルファングが消え失せ、次の瞬間には脇腹に斬撃が叩き込まれていた。

 

 

「がはっ!!」

 

 

 自慢の鎧は紙のように切り裂かれ、体制を崩した。

 後ろを向くとそこにテイルファングがガルルセイバーを振り抜いた姿で存在していた。

──速い!!

 デュラハンギルディは全くもって見えない高速移動に戦慄を禁じえない。

 

 テイルファングはそのまま地面を蹴り上げると、再び姿を消した。

今度は見失わなかった。

 上を仰ぐとそこにはガルルセイバーを振り上げるテイルファングの姿が。

 軽くビルの5、6階の高さまで上昇している。

 驚異的なジャンプ力に喫驚するも空中では身動きが取れないと内心ほくそ笑み、ランタンを頭上に掲げ、火球を上空にいるテイルファングに繰り出した。

 

 それを見てテイルファングはなんと空中で跳んだ。

 飛んだのではない、跳んだのだ。

 何もない空中で透明な足場があるみたいに跳ね、火球を回避したのだ。

 

「何っ!!?」

 

 完全に物理的法則を無視した不規則な現象。

 そしてそのまま文字通り滑空するみたいに空中を滑り降りて、デュラハンギルディの背後に回ると、一閃。

 デュラハンギルディを斬り飛ばす。

 

「ごはあっ!!」

 

 ノーマル状態では百合(ひゃくごう)以上打ち合おうと、全く刃が届かなかったデュラハンギルディをいとも簡単に捉え、斬り裂く。

 

 ガルルセイバーのガルルの牙が変化した刃──ウルフェンブレード。

 分厚い鉄板であっても、まるで抵抗を感じることなく切り裂いてしまう鋭い切れ味をもつこの刃は周りの空気を震動させ、ソニックムーブのような現象を起こし、刃状の風をウルフェンブレードに取り巻き、回転させる事により、チェーンソーみたいに離れた相手に斬擊を繰り出すことが可能なのだ。

 それを抜いても、ガルルチェインの恐るべき機動力の前に圧倒されるデュラハンギルディ。

 

 

 

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魔の者(ダイモーン)・ウルフェン族。

 

 ファンガイアと同盟を結ぶ狩猟民族である。

 集団で狩りをする彼らは仲間意識が高い。

 彼らはポニーテールとはまた違った一つ結(ワンタイ)を誇りとしており、それは一人前の戦士として認められた証である。

 そしてウルフェンは驚異的な脚力の持ち主で、脚で獲物を追跡、両手の爪と牙で捉えるのがスタイルである。

 その脚力は大気を蹴り上げ、ホバー走行も可能なほど。

 平野でウルフェン族の集団に囲まれれば、魔の者(ダイモーン)最強と謳われるファンガイアでも生存率は低い。

 ただ──チェックメイトファイブという例外は除いて。

 

 

 

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「はぁああああああああっ!!!」

「うぐあああぁぁぁっ!!!」

 

 

 デュラハンギルディは自身に刃を向けるテイルファングを捉えようとするが、その姿は視認すらままならない。

 相手を探す間に、あらゆる方向から疾風の如き斬撃が繰り出される。

 目にも止まらぬ速さでデュラハンギルディを中心に駆け廻り、それを繰り出すテイルファングは姿すら見えない。

 

 

「今だ!テイルファング!」

『トドメだ!』

 

 

 キバットと響輔の激励にテイルファングはガルルセイバーのウルフェンブレードをバックルに留まっているキバットへ噛み付かせた。

 

 

「ガルル・バイト!!」

 

 

 キバットの牙を通して魔皇力がガルルセイバー全体に流動し、さらにグリップを掴むウルフェンアームを通してテイルファングの全身へ流れ渡る。

 すると、世界は漆黒の常闇へ変化した。

 大きな満月の月明かりをバックライトにしてテイルファングはガルルセイバーのグリップを口にくわえ、身を屈める。

 頭部のツインテールも青く光り、尻尾のように逆立ち、鋭く、鋭利な刃物みたいに硬質化した。

 全身をバネとして跳躍し、テイルファングの影が満月を背後に錐揉みしながら風車みたいに回転。

 

 

「な、なめるなよ~っ!!」

 

 

 デュラハンギルディはよろけながらもテイルファングが頭上から回転しながら、向かってくることに気が付き、ハルバードを振りかぶり、受け止めようとした。

だがデュラハンギルディは知らなかった。

 ガルルセイバーは満月の夜にその切れ味を何十倍にも引き上げることができるとに。

 

 

 

「ガルル・ハウリングスラッシュッ!!!」

 

 

 

 ハルバードはガルルセイバーを受け止める事に成功した。

 ほんの一瞬のみの間だが────

 

 

「ぐあああああああああああっ!!!!」

 

 

 ハルバードは両腕ごと大根みたいに細切れにされ、ガルルセイバー、ツインテールの合計3太刀から繰り出される連続剣擊を食らい、鎧は紙屑のように役に立たず、身体はあっさりと斬り捨てられる。

 ガルルの顔の幻影が浮かび、デュラハンギルディはその場に膝から崩れる。

 

 

「バ、バカな…。こんなアッサリと…どうして僕が……負ける?」

 

『まだ生きているの?』

「いや、もう決着だ」

「ああ、既に倒している」

 

 

 アルティメギルの精鋭部隊であるにもかかわらず、ガルルチェインの猛攻に手も足も出なかったことに驚愕を禁じ得ないデュラハンギルディ。

 彼はもはや、気力のみで自身の身体の崩壊を押し留めている状態だった。

 自分の命が残り僅かなのは自分自身もテイルファングの目から見ても明白だった。

 

 

「隊長、強いね…、その()

「まあな。手前味噌だが、俺手ずから戦い方を教えたんだ。強いに決まっている」

 

 

 テイルファングの強さに舌を巻き、称賛を送る満身創痍のデュラハンギルディ。

 キバットもベルトから外れ、かつての部下ながらよく戦ったと心の中でか褒め称えた。

 キバットのかつての同志の仲として、テイルファングはキバットとデュラハンギルディの二人の会話にあえて口は挟まず、側で見守る。

 

 

「ところで、俺様がヴァンパイアギルディだってこと知っているのはお前だけか?」

 

 

 キバットが尋ねる。

 

 

「ははっ…こんな飛びっきりの情報……簡単に漏らさないよ。ましてや、ドラグギルディ……隊長なんかには特に……」

「この作戦の指揮をとっているのはドラグギルディだったのか」

 

 

 キバットは大して驚いていない。

 おおよそ想像通り、解かっていたみたいな様子だった。

 

 

「今回の僕は……ただの独断先行。本来は…ドラグギルディ隊長のみ……出陣する……ハズだったからね~。でも───」

 

 

 デュラハンギルディは気楽な口調から一転、声を低く、真面目に続けた。

 

 

 「かつての親友と……戦わせるなんて…そんな酷なこと……僕には…出来なかったよ。ましてや……僕の尊敬している……隊長だ。落とし前だけは…どうしても自分の手で付けたかったよ」

「相変わらず甘ぇな。お前は。俺なら、相手の事をよく知る者同士、例え誰であろうと全力でぶつけたぜ。心境はともかく、相性がいいなら合理的に倒せると思うしな」

「ドラグギルディ隊長とは…正反対だね~。かつて降り立つ世界に……絶滅を撒き散らす…常闇のように……冷酷非道な、あのヴァンパイアギルディ……隊長が……」

「案外自分でも優しくなっちまったと思うよ。音也に出会ってから特に…」

「今更ながら……会ってみたいなぁ。その音也という…人間に…」

 

 

 懐かし様に語るキバット。

 デュラハンギルディも音也に興味を持つ。

 

 

「───ところでサキュバギルディは元気か?」

 

 

 キバットは新たなエレメリアンの名前を出した。

 

 

「…ああ、副隊長……ですか?ええ、健在ですよ。今は……ボスの所にいますけどね」

 

 

 それを聞いてキバットは目を不快そうに細め、眉を上げる。

 どこかぞっとする様な、普段のおちゃらけた目付きではない、理知的で怜悧な目付きだ。

 ドラグギルディの目論見もデュラハンギルディによって暴露された。

 ツインテイルズの活躍を世界に魅せる事により、ツインテールを増やし、ツインテール属性を奪うと。

 それを聞いてテイルファングは───

 

 

「成る程、魔女は子供を食べる際、丸々と肥やし食べると聞くが正にその通りか。だが所詮はただの皮算用。狸を討たなけれは意味がない。もっとも、この世界の狸を討ち取るのは難しいと思うがな」

 

 

しれっとして答えるその表情は冷たく、瞳の奥には熱い決意の炎が燃えていた。

 

 

 

「ハハハッ……そうか、テイルファング。お前は…中々に…手強…かったよ」

 

 

 

 デュラハンギルディもそれを見て敵ながら十全を尽くすに値した敵だったと、後悔なく、満足しながらガラスの様に砕けて散った。

 デュラハンギルディの魂たる頭巾属性(フード)属性玉(エレメーラーオーブ)は空へと上がっていき、飛来してきたキャッスルドランに捕食された。




次回はエピローグとオリ登場人物紹介で1巻を締めようと思います。

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