The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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 オブリガードとは、日本語で対旋律のことだ。

 音楽と同時に演奏され、音楽の引き立て役として演奏される旋律のことで、セカンド・メロディーとかサブ・メロディーとも言う。主旋律に対して独立した形で示され、主旋律を効果的に補う形の別の音楽であり、独立した複数の声部を指すこともある。

 ちなみに主旋律的な要素の少ない単純なものは、カウンター・ラインという。


オブリガード/テナーの真相

『ヴァンパイア……ギルディ?』

 

 目の前のエレメリアンはたしかにそう言った。

 

『どういう事なんだ、テナー!!』

 

 これがテイルファング──テナーの言っていた秘密というのか?

 そうしている間にデュラハンギルディはハルバードを振り上げこちらに迫ってきていた。

 その大鎌がテイルファングの首を狩ろうと斬撃が横薙ぎにきたのに対し、テイルファングはそれを屈んで回避。

 続いて斧による振り下ろしがくる。

 二刀の黒刃刀(ブラック・ナイフ)で受け止めるも、思ったように力が入らない。

 それどころかすぐにヒビが入り、砕けてしまった。

 

「ぐっ……!」

 

 斧の刃はテイルファングの肩を直撃した。

 幸い肩のアーマーで防ぎ、大事には至らなかったが明らかに自分の力が弱まっている。

 影創造(シャドウ・クラフト)もまるでガラス細工のように脆い。

 響輔との心の調和が取れていない──共存できていない証拠である。

 

「くっ!……小僧、今は目の前の敵に集中しろ!」

『答えてよ、テナー! 今まで僕を騙していたのか!?』

 

 テナーは響輔を叱咤するも、響輔は最早聞く耳を持っていない。あまつさえ響輔はテナーに対して敵愾心をむき出しにしている。

 

「違う! 私も奴が何を言っているのか理解できん!」

 

 絶え間なく繰り出される斬撃、刺突を回避しながらテイルファングはデュラハンギルディに問いを投げかける。

 

「デュラハンギルディと言ったな貴様、この私は貴様の事など知らぬ、ヴァンパイアギルディという名前にも身に覚えがない。 お前は何をもって、私を貴様らアルティメギルの仲間と見受けている! 答えろ!」

 

 それを聞いてデュラハンギルディは攻撃を止め、ハルバードを下ろすとテイルファングを指さした。

 

「お前じゃないよ~」

「何?」

「お前だよ。お前~」

 

 デュラハンギルディの指の先はテイルファングの下腹部。

 

『まさか!』

「いつまでも黙りこくっているんだい? ヴァンパイアギルディ隊長殿~?」

 

 

 響輔も漸く気付いた。

 ヴァンパイアギルディはテナーの事を言っているんじゃない。

 

 

 

「懐かしいねぇ~、オレ様の1番最初の名前。 もう変えちまったけど…」

 

 

 

 テイルファングのベルトのバックルに留まっていたキバットは真っ赤な目を細め、口元を切れ込みを入れた西瓜みたいにニィっとニヒルに上げるとバックルから分離し、飛翔する。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 フードはカジュアルな衣服だ。

 部屋でくつろぎたい時や外でちょっと肌寒い日は気軽に羽織れる。

 アラビアでも女はフードの一種──ヒシャブが普段着だ。

 コーディネート次第で、可愛くもカジュアルにもなる万能アイテム──それが頭巾(フード)だ。

 だけど、それら頭を覆い隠しちまう頭巾はツインテールの妨げになる。

 アルティメギルでは僕は肩身の狭い思いをしていたよ。

 

 

 

「だけど、あんたは僕にフードとツインテールの共存の可能性を教えてくれた」

 

 

『デュラハンギルディという新参者は貴様か?』

『フードに穴を空けて、そこからツインテールを通してしまえば()いのではないか?』

『貴様は中々見所がある。我が部隊でその力を存分に振るうが()い』

 

 

「僕が長年悩んでいたコンプレックスをあんたは一瞬で吹き飛ばしちまったんだ。その女が、フードからツインテールを通しているからまさかとは思ったよ。 それだけじゃない。テイルファングが使う二刀流の剣捌きもあんたの戦い方にソックリだった。 彼女はアンタの弟子かな?」

 

 

 断片的な映像からテイルファングの戦い方がヴァンパイアギルディの戦い方によく似ている事に気づいていた。

 伊達に精鋭部隊の隊員はない。

 

 

「そういう思い出話はアルバムにでもしまっとくんだな──よく覚えているよ。 あの頃のお前はまだまだ青二才だったが──成る程、よくもまあ出世したな、デュラハンギルディ」

「親しげだな。 どういう事だ?キバット」

 

 昔話に興じるキバットとデュラハンギルディの会話にテイルファングは我慢できず割って入ってきた。

 

「キバット、お前は奴を知っているのか?」

「アイツは──デュラハンギルディは俺の部下だったエレメリアンだ」

「初耳だぞ」

 

 言うべきタイミングはいつでもあったはずだ。

 テイルファングも響輔も突然の告白に内心戸惑いを隠せない。

 

「実はこの蝙蝠の姿は本来の俺の姿じゃねぇ。 この身体は作り物(ゴーレム)でキバの鎧を制御するための中核(コア)なんだ。 その中核(コア)に俺様の(プシュケー)生命(プネウマ)が内蔵されている状態だってわけだよ」

「何故、何も言わなかった」

「だって混乱するだろ?俺の正体言ったら余計に。 俺は元々は奴等と同じエレメリアンで、アルティメギルの精鋭部隊──獄の十戒(パー・ガトリ・アルク)の隊長だったよ」

『キバットが……エレメリアン?』

「あーもう! だから、あいつらとは関係ないって! 俺は足を洗ったんだ20年以上も前に」

 

 

 キバットが落ち着けと言わんばかりに混乱する響輔とテイルファングに懇切丁寧に説明していると今度はデュラハンギルディが会話に口を挟んで来た。

 

「隊長、戻って来なよアルティメギルに──獄の十戒(パー・ガトリ・アルク)に!」

 

 突然、デュラハンギルディがキバットを誘ってきた。

 

「勿論、その()も一緒に! ──その()のツインテールは見逃してあげるからさ!な?」

 

 デュラハンギルディがこちらに手を差し伸べる。

 だがキバットは真っ赤なめを細め、「ハッ!」自笑気味に笑うと

 

「そいつぁ無理な相談だ。 俺もテイルファング(コイツ)も人間のツインテールを奪うお前等の味方にはならねえ」

「どうしてだ?隊長。 どうして人間の味方をしているだよ?」

 

 デュラハンギルディが咎めるような口調で言う。

 

「別に俺ぁ、人間の味方をしているわけじゃねぇよ」

 

 一瞬、テイルファングを見やりデュラハンギルディに視線を向ける。

 

「ただ俺は…『紅音也』って人間に出会って、人間も捨てたもんじゃねぇなって思っただけだ」

「キバットッ!!」

『ッ!!? どうして父さんの名前を!!』

 

 この時、テイルファングと響輔──特に響輔は今までで一番の衝撃を受けた。

 何故、自分が口にしてもいない父親の名前をキバットは知っている!?

 

「紅音也? そいつは一体何者かな? 隊長」

「俺様の知る中で…最も偉大な人間だ! そして、テイルファングの……」

「キバット!!」

 

 テイルファングはキバットの眼前に黒刃刀を翳し、話を中断した。

 

「戯れが過ぎるぞ。 戦いの最中(さなか)、雑談は不要だ。今すぐベルトへと戻れ!」

「──ああ、了解」

 

 するとキバットは口答えする事をせず、テイルファングのバックルへ留まる。

 

「(余計な事を……)」

『テナー、どういう事なんだ!? キバットはどうして父さんのことを知っているの? それに、テナーにも関係があるみたいだし……』

「知らん! お前の父親の事など……私は知らない! キバットの出任せだ!」

「何をブツブツ独り言を……まともに話す気がないなら──」

 

 デュラハンギルディがハルバードを持ち上げ、もう片方の手に下げている髑髏の形をしたランタンが煉獄の炎みたいに激しく灯る。

 

「潰しちゃうよ?」

 

 細い腕からは想像がつかないくらい強い力で振り下ろされたハルバード。

 しかし、テナーはそれをバックステップで回避する。

 プロペラみたいに高速回転するハルバードはさっきまでの小手調べな動きではなく、段違いのスピードだった。

 もう片方の手に収まっているランタンからは灼熱の青い炎がバスケットボール程の大きさの火球となって発射。

 着弾した場所はナパーム弾みたいに爆発と炎上。

 辺り一面火の海となって、徐々に徐々にテイルファングは追い詰められていく。

 號電が嘶き、デュラハンギルディ目掛けて突進するもハルバードで蹄を弾かれ蹴り飛ばされる。

 

「鬱陶しい!」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 キャッスルドラン大広間

 

「とうとう、強い奴が来たんじゃない?コレ」

 

 デュラハンギルディの猛攻に苦戦し始めたテイルファングにヴェディが慌てる。

 

「まだ、響輔君と共存ができていない。このままじゃ──」

「何とかならないの?」

 

 マルシルやラモンも今のテイルファングの旗色の悪さを見て、自分たちに何か出来ることはないかと焦る。

 

「助けに、行こう!」

 

 力が拳を握り、立ち上がる。

 

「待て、力。 たとえ今回助けに入ったとしても結局はその場しのぎだ。第一テナーは納得しない」

 

 次狼の言うとおり、たとえ勝てたとしても次も更に強い敵が現れる。

 その度に次狼たちの手を借りてはテナーのためにはならない。

 さらに言えばプライドの高いテナーはそれを許さないだろう。

 やはりこの戦いの勝利の鍵はいかにしてテナーと響輔の心の共存できるかにかかっているだろう。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「成長したじゃないか、デュラハンギルディ」

「くっ! キバット、このままでは勝ない」

 

 相手の火力と槍術に翻弄されるテイルファング。

 

「ファング、響輔に音也とお前の過去を話そう」

「…………」

 

口を閉ざすテイルファング。

 

「逃げてんじゃねえ! 響輔にはいずれ話さなきゃなんねぇ事だ!!」

 

 唇を噛み、観念したかのように口を開いた。

 

「────響輔、聞いているか?」

『……』

「私はお前の父親を知っている」

 

 響輔はテナーの独白に無言で耳を傾ける。

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 私と音也が出会ったのは15年前の事だ──いや、正確には拾われたと言うのだろうな。

 音也は私の育ての親だ。事情は知らないがその時、人間であるお前の父がその世界に滞在していた。

 私はファンガイアの世界では貧困な生活を送っていた。

 

 

 

【おいおい、俺様のブラッディローズに手を出そうとしたから、どんな奴かと思ってみてみれば──何だ? 随分可愛いお嬢ちゃんじゃないの! どこから来た?】

 

 

 

 偶然あいつの荷物を置き引きしようとして出会った。

 その出会いから私は音也に拾われ、他二人のファンガイアと共に私は世話になった。

 私は幸せだった──音也の死んだあの日までは。

 

 

 私が音也に拾われ7年の歳月が流れた頃、ファンガイアの世界では戦争が始まっていた。

 すべての種族を統治しようと当時のチェックメイトファイブが他の魔の者(ダイモーン)と争っていたのだ。

 当時の『クィーン』はそれを反対し、音也はそれを止めるべくクィーンに力を貸して共に戦っていた。

 

 

 

【テナー、お前は今日は一日家の中にいろ】

 

 

 

 しかし私は言いつけを守らず、音也を心配して外へ飛び出して行ってしまった。

 

 

 

【テナー! こんなところで何してる!! 逃げろ!!】

 

 

 

 突然、音也の声が聞こえたかと思えば、視界が暗転した。

 私の命はそこで尽きた。

 

──いや、尽きるハズだった。

 

 死にゆく私の身体に音也は自らの(プシュケー)生命(プネウマ)を受け渡し、私の命をつなぎとめた。

 そして全ての力を使い切った音也はガラスのように砕けて死んだ。

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

「キング含め当時のチェックメイトファイブは死に、私は(のち)にクィーンとして選ばれた。 ファンガイアの世界のために戦い続け、音也の故郷へとやって来た」

 

 懺悔するかのように一通り語った(のち)、テナーはひと呼吸おいて続ける。

 

「この命は音也に貰ったようなものだ。 そして音也の故郷での任務で音也の親族に一目会っておきたかった。 響輔──お前が音也の息子だとわかって、本来は関わらず放っておくに然るにべき事なのだが……お前が死んだあの時、私は放っておくことができなかった。 済まない」

『…………』

 

 響輔は何も答えない。

 

「響輔、お前の父親を奪った私のことを憎んでも、恨んでも構わない。 だが、今は私に力を貸してほしい。私は戦いたい……──音也から教えてもらった心の音楽を守たい!! この世に存在するツインテールが奴等の手によって曇る様が我慢ならない!!」

『…………』

「響輔!」

 

 

 テナーの言葉に響輔はようやく返す。

 だが、響輔の発した言葉は実に意外なものだった。

 


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