The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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フハハハハハハハ!!
デュラハンを知っているか?貴様ら!

アイルランドに伝わる妖精で首無しの馬に乗って死を予言する。

開拓時代、アメリカに渡ってきた残虐なドイツ人騎士が、首を切られて殺され、首が無いまま復活し、馬に乗って森の中で次の獲物となる人間を見つけ殺害する「スリピー・ホロウ伝説」はそのデュラハンが元になったとされている。


調律/首無し造型師

アルティメギル基地のホールで再び会議が開かれていた。

「……以上、この20日間で撃破された同胞は隊員16名、戦闘員146名に及びます」

「ふう~む」

「これほどのものか、ツインテイルズ……!!」

 

ペースが落ちることはなく、アルティメギルは次々と戦力を投入。だが、神童慧理那の言葉で愛香が吹っ切れたののも手伝い、戦闘に慣れ始めた総二、テナー達はその全てをものともせず撃退。

 

「一方、この世界に降りたってより我らが手に入れた属性力は皆無。一時捕獲した属性力もツインテイルズにより奪還されています」

「いつまでも手をこまねいている訳にもいきませぬぞ」

 

侵略作戦が始まって20日いよいよ、アルティメギル側に焦りが見え始めていた。

ドラグギルディが腕組をし、ギリ、と歯を鳴らした。

それだけで全員が喉元に刃を押し当てられたような感覚に陥り、鋭い緊張に包まれる。

 

「ツインテイルズの実力は本物だ。もはや、なまなかな戦士をぶつけてもいたずらに戦力を削いでいくだけの消耗戦となろう。これより先は勇者のみに許されし聖戦であることと知れい!我こそはと志願する者はおらぬか?」

「はっ!それならば私が!」

 

若い声がドラグギルディに答えた。

 

「おお、看護服属性(ナース)の申し子と呼ばれし神童──スワンギルディ……貴様ならば誰も異論はない!」

 

冷や汗混じりだったものをはじめ多くのエレメリアンが安堵と賞賛で迎える。

 

「フッフッフッ、しかし、いきなり貴様ほどの男が行くまでもあるまいて」

「いや、だから隊長が半端な戦士じゃあ無理だって言ったばっかりだろ?」

 

張り詰めた空気が和らぎ、気運が高まっていく。

ドラグギルディも頷いた。

 

「……よかろう──だが、その前にテストを行う。お前がツインテイルズと戦うに値するかどうかをな」

 

カッ!とドラグギルディの目が見開かれ、ホールに一陣の風が吹いた。

皆がそうとしか感じられないほどの刹那、ドラグギルディは自身の剛剣を抜き、スワンギルディの眉間の数ミリ先へ切っ先を翳していた。だが、スワンギルディは微動だにしない。

 

「フッ!肝はなかなかのものだ。だがもう少し試そう──あれを」

 

戦闘員が入室し、黙礼とともにドラグギルディにかしずく。

 

「それは私のパソコン!……なぜここへ!?」

 

ドラグギルディの剣にも臆さなかったスワンギルディがはっきりと怯えていた。

 

「静まれ!これもテストの一環である!」

「まさか……あの修羅の試練、エロゲミラ・レイターを……!」

 

ほかの隊員たちも歯の根が合わずガチガチと鳴っている。

ドラグギルディが無言でマウスを動かす。

 

【はぁ~い♡ロードしまぁ~す♡】

 

甘くとろけるような声が静聴しているエレメリアン達が集うホールに木霊する。

 

「これはこの世界で数日前に発売されたばかりのゲームであろう。『おまかせナース♡エンジェルたん』──もうコンプリートしておるわ……卑しい奴よ」

 

追い討ちをかける様に皆に見えるようにPC画面が大モニターにも映し出された。

ひっ!と声を上げるスワンギルディ。

 

「しかし、そのサブデータ…サムネイルが肌ばかりよのう……」

「お許しを!!どうかお許しを!!」

「だというのに一つだけ頬を赤らめいた少女のサムネイル…このセーブデータは怪しいのう」

「あ…う……」

 

どうやら主人公の部屋で二人きりのやり取り。

だが、頬こそ赤らめいているが、つつがなく普通の会話に終始し、場面が移ってしまった。

 

「どうやら幼馴染の部屋に遊びに来て、空気が変わった事ですかさずセーブをしたのであろうな。これから二人で睦言を始めるのではないかと。だが、何事もなく終わり、次の日付のロゴが表示され、落胆──」

「あるある」

「あるある」

 

思わず共感してしまう周囲の面々。

 

「ぐわああああああああああ!!!」

 

とうとうスワンギルディは気を失い、倒れてしまった。

戦闘員が肩を貸し、運ばれていく。

 

「情けないこれしきの事でツインテイルズと交えようとするとは、笑止」

 

だが言葉とは裏腹にその目には慈しみが含まれていた。

 

「わは!相変わらずスパルタだねえ、ドラグギルディは」

 

スワンギルディが退席するのを待っていたかの様にそのホールに突如として声が響いてきた。

いきなり介入してきた声にエレメリアンの隊員達はざわめく。

 

「何者だ!」

「姿を見せよ!」

 

ドラグギルディ以外の隊員達は辺りを見回す。

するとそこに現れたのは黒い甲冑に青い炎か灯る髑髏のランタンを手に持ち、マントと一体化した赤いフードを目深く被ったエレメリアン。

 

「貴様!何処の者かは知らぬが、今は大事な会議の…!」

「静まれ、お前達!」

 

突如として会議の最中に割り込んで来たエレメリアンを咎めようとしたが、その隊員はドラグギルディの一喝でピタリと止まった。

 

「何だ?我が部隊の教育方針に異存でもあるのか?」

「いんや、僕は大賛成~。昔僕も一度味わったことある辛酸だからね~…」

「あれほどの熱気に包まれた若輩は叩いて鍛えるに越したことはない」

「だね~。苦い経験は若い内からしとかないとね──最近はストレスにひ弱なゆとり隊員が多くて多くて…───」

「無駄話はやめよ!貴様がここへ来たということはついに完成したのだな?」

「渾身の出来だよ。連日徹夜続きで…──ほら、こんなに目の下に隈が…」

「お前にはないだろう」

「あっはっはっ、そっかそっか…それ位頑張ったって事だよ」

 

 

呆れて突っ込むドラグギルディにそのエレメリアンは明るく笑って返す。

この会議に参加している者達はこの光景を見て皆唖然としている。

あのドラグギルディとまるで友人みたいに話すあのエレメリアンは何者なのだろうか?と。

それを察したそのエレメリアンは皆の方を向いて軽くお辞儀をして挨拶をした。

 

「やあ皆さん、初めまして。僕はデュラハンギルディと言います。首領様の命により、こちらの世界へとやってきました。宜しく、お願いします」

 

そのエレメリアン──デュラハンギルディが陽気に挨拶をしたのと同時にその場にいた隊員達は恐れ慄き、彼の正体を思わず口にする。

 

「デュラハンギルディ!?」

「聞いた事はある“真理究明(シークレット・リムーバー)”と呼ばれ、エロゲなどのモザイク等を何のためらいもなく抹消し、フィギュアに至っては魔改造を極めていると言われている」

「あの影の部隊──『獄の十戒(パー・ガトリ・アールク)』出身の!?」

「それ程の猛者が何故ここに!?」

 

隊員達の反応を気にする様子もなく、デュラハンギルディはアルテロイドに指示を出す。

 

「慎重にね~」

 

大きな布に隠された高さ2メートルほどの四角い物体。それをアルテロイドが数人がかりでまるで国宝を扱うように慎重に運び込まれた。

 

「はぁ~い、ではお立会い~!」

 

何を始めるのかと他の隊員は固唾を飲んで、見守っていた。

デュラハンギルディがその布を取ると、電話ボックスみたいなディスプレイケースが露となり、その中に入っていたのは一体の等身大の蝋人形だった。

 

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

「ほう、これがそうか…」

「苦労したんだよ~、部分部分しか写っていないバラバラな写真や映像から作り上げたんだから」

 

それは長身に深紅のツインテールが特徴なテイルファングの蝋人形だった。

フォックスギルディの人形属性(ドール)がないにも関わらず、その質感は本物の肌そのもの。

その出来栄えはまさに現代の弥勒菩薩、ミロのヴィーナス。

だが、菩薩やヴィーナスの様な慈愛に満ちた表情ではなく、こちらに敵意の眼差しを向け、への字の口。ポーズは左下から見上げる斜角視点、やや右側面からの側面視点、俗に言う『ガワラ立ち』というものであり、それは目を合わせただけでも、並のエレメリアンでは戦意を喪失してしまう程の出来だった。

ドラグギルディもこの人形の前では、自分の熱い魂に感動を禁じえない。

デュラハンギルディの実力の一端を垣間見た。

 

「これがテイルファング!?」

「今ようやくその全貌が!」

「実物はこれより凄いのだろうな!」

「まるで吸い込まれそうな瞳、今にも動き出しそうな出来だぞ」

「人形属性が無くても、フォックスギルディ殿にも劣らない腕を持つ!これが獄の十戒(パー・ガトリ・アールク)の実力!?」

「流石は魔改造を極めし、デュラハンギルディ殿か!!」

 

ホールは一瞬の内に歓声で包まれた。テイルファングのあまりにもリアルな蝋人形を一目見ようとホールにいる全員がカメラを手に取り、小学生みたいに卓を乗り越えていこうとする者が現れ始める。

それに対してデュラハンギルディはあくまで自分のペースを崩さない。

 

「イヤイヤ、フィギュアの魔改造何てまだまだ修行の身だよ~。ガレキの墨入れや剥がし塗装、元がいいほど手を入れづらいのは確かだし~。さすがに魔改造する度にブルッちゃってるって~。だけど、破壊なくして創造はないからね。原作への愛と想像、原型師への感謝の念を含めて…──」

「デュラハンギルディ!無駄話はやめよと言ったハズだ!貴様らもいい加減静まらぬか!!」

 

デュラハンギルディはドラグギルディの言葉でピタリと演説を止めた。

ホールが静かになり、「ウォホン」と咳払いするとドラグギルディはデュラハンギルディに労いの言葉をかける。

 

「ご苦労、デュラハンギルディ。これで我が部隊も士気を取り戻せるだろう」

「光栄に存じます──続きまして、次の出陣は僕が立候補するけど、いいかな?」

 

それを聞いた周囲の面々はドラグギルディも含めて、再び驚愕した。

 

「デュラハンギルディ殿が!?」

「しかし、あの部隊出身の隊員ならばこれほど心強い味方はおりませんぞ」

「必ずやツインテイルズを制する事ができるやもしれぬ」

 

皆が賛成しかけたその時、異を唱える者が一人いた。

 

「待て!いくらヴァンパイアギルディとの仲とは言え、これは我が指揮する隊の戦いだ。貴様の出る幕ではない」

「じゃあ~、誰が?」

「我が行く」

 

静かにドラグギルディが宣言すると、ホールがどよめきに包まれた。

 

「ドラグギルディ様自らが!?」

「偉大なる首領より実権を預かる我ら統率者ドラグギルディ様、あなた自ら行かれるなど!」

「くどい!」

 

マントを翻し、ホールを出ていくドラグギルディ。

足跡が炎となって浮き出るような幻想を抱かせる。

超絶な威圧感もはや怪物という形容は似合わない。

神獣───と呼ぶに相応しかった。

 

 

 

ホールから出ていき、誰もいない通路の真ん中で──

 

「ドラグギルディ」

 

後ろからデュラハンギルディは真面目な声で話しかける。

 

「もし、ヴァンパイアギルディ隊長に会えたなら何を話したかった?」

「無論ツインテールのことだ。我と奴は同じ属性を持つ者同士、惹かれ合い、そして我より洗練されたツインテールを持っていた。決して死ぬことはない永遠の親友(とも)であった…なのに──突如として死んだ。今でも奴の死には納得できん!あれほど強いやつが…何故…─」

 

ドラグギルディの背中越しに答えるその声は怒り、悲しみ、悔いそれらが全ての感情が混濁したものだった。

 

「…………」

 

デュラハンギルディは立ち去るそのドラグギルディの背を見て、ある一つの決意を固める。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~~♪!! ~~♪♪♪♪!!! ~~♪!!

 

「来たよ、テナー」

『そうか』

 

今日も相変わらず響輔はエレメリアンを察知していた。

周囲に人がいないことを確かめると響輔はテナーの姿へと変わる。

 

「マルシル場所は?」

【ここから少し離れた採掘場だよ】

「よし、キバット!」

 

念波の送信でマルシルに連絡を取ると、キバットを呼ぶ。

 

「あいさ了解、今日もキバって─…ん?」

『いや、ちょっと待って!逆の方向からも次元震の音が!』

「……確かに、俺様でも嫌な気配を感じるぜ!」

 

飛来して来たキバットも気配を察知する。

 

「マルシルどうだ?」

【ああ…確かに、場所は採掘場とは逆方向で、ここからかなり離れた場所────都心湾岸のコンテナ埠頭だ】

「そうか」

【採掘場はすでにテイルレッドとテイルブルーが到着済みなようだ。そこは彼女達に任せて、テナーはコンテナ埠頭に直行するのがいいだろう】

「承知した」

 

いつも通り帰城の鍵でキャッスルドランへと戻ると、テナーはテイルファングに変身し、目的地のコンテナ埠頭へと射出された。

埠頭沿岸部、コンテナが山積みとなったコンテナ埠頭。海には貨物船が停泊していた。

手頃なコンテナの上に着地し、当たりを見回す。

 

「本当にここで合っているのか?」

「座標は間違いないぜ」

「しかし、それらしいものはな───」

 

ふとテイルファングとその周囲に大きな影が落とされた。

 

「ッ!」

 

雲が太陽に隠れたのかと上を向くとそこには巨大なコンテナが頭上から迫ってきていた。

テナーはすぐにその場を脱出し、落下してきたコンテナはさっきいたコンテナに衝突すると轟音を上げて牛乳パックみたいに潰れた。

 

『テナー、後ろだ!』

 

着地して一息つく間もなく、響輔の声に即座に振り向くと後ろのコンテナが真っ二つに叩っ斬られ、その間から首無しの馬に騎乗したエレメリアンが突進してきた。馬の首の切断面からは両刃の大鎌、槍、斧を合わせた様な形状の穂先が突き出ており、それはテイルファングを串刺しにしようと迫ってきていた。

テイルファングは身軽に跳躍すると、紙一重でそれを回避した。

着地と同時に後ろを向いてそのエレメリアンを確認する。

漆黒の鎧に赤いフード付きマント。フードの中の顔はまるで奈落の底の様な深い闇であり、表情を読む事が出来ず、そこから漂う気配は不気味さを一層と醸し出していた。

そのエレメリアンは首無し馬のスピードを落とし、人差し指を上に曲げて『ついて来い』と挑発し、馬を走らせた。

 

「フンッ、まずは馬術で競おうというのか?」

「OK、ならあいつの出番だぜ」

 

サイドスロットから馬の顔をした黄金色のフエッスルを取り出すと、バックルのキバットに押し込み、キバットはそれを吹く。

 

 

『ゴ───デ────ンッ!!』

 

 

ファンファーレのような音色は次元の狭間に存在する亜空間──そこに生息するキャッスルドランにも響き渡る。

 

「あら?この音色──久しぶりね」

「號電か…」

「めず、らしい…な」

 

ヴェディ、次狼、力がそれぞれ声を漏らす中その大広間にいた小さな影が音色に反応し、むくりと起き上がる。

一目散に大広間を後にし、キャッスルドランの喉に繋がる通路へと飛び出す。

 

「いってらっしゃーい♪」

 

ダダダダダッと小刻みに走るその体が金色に光り輝き、バッカラバッカラバッカラバッカラと蹄の音を奏でて、みるみるうちに全長が3m以上の巨体へと変貌を遂げ、キャッスルドランから射出された。

 

 

光が埠頭のアスファルトへ着地した瞬間、その巨体を支える蹄がアスファルトに積った雪の様にめり込んだかと思えば、蹄を中心に放射線状に枝分かれした亀裂と破片を飛び散らし、周囲のコンテナもその衝撃でほんの一瞬だけ持ち上がった。

立派な深紅の鬣、黄金色の金属製パーツ、額の三つ目みたいな魔皇石から組み立てられたボディが美しい馬型のゴーレム──その名は號電(ゴウデン)が声高に嘶いた。

 

「よく来た、號電」

 

テイルファングが號電の頭を軽く撫でると、その背中に掛かる(くら)へ跨る。

 

『ちょっ。ちょっと待って!罠かもしれないよ!』

「ならば、どの様な罠が待っているか…それもまた一興!しっかり奴の居所を追跡しろ、小僧」

 

高層ビルの屋上を次々と飛び越える首無し馬。そして、その後を追走するテイルファングと號電。次は高速道路に降りる両者。

次々と行き交う車を追い抜き、エレメリアンと距離を縮めていく。追い越した車からは何だ、何だ?とガヤが聞こえてくる。追走中では周囲の被害も考慮し、下手に攻撃できない。

疾走するエレメリアンにテイルファングも何もせず、ただただ追走劇が繰り返される。

 

いつの間にか街を抜け、到着したのはだだっ広い荒野。

周囲には人っ子ひとりおらず、山が見えることからどこかの山岳地帯なのは確かなのだろう。

そしてエレメリアンは首無し馬を急にUターンさせるとテイルファング目掛けて突進し、突き出た大鎌の刃が目の前に迫ってきていた。

急な強襲に驚くテイルファングだが、素早く手綱を引き號電をしゃがませて滑り込ませ、テイルファング自身は宙返りをして大鎌の刃を躱し、曲芸の様な身軽さで再び號電の背中へと跨り、やり過ごした。

 

「戦いの場を選んだのか?」

 

そして両者は距離を置いて向かい合うと、まるでエンジンを蒸かすみたいに號電と首無し馬は蹄で砂利を蹴り、それに跨る双方は睨みあう。

しばらくの静寂の後、二人同時に馬を走らせた。

テイルファングとエレメリアンは互いに同じタイミングで跳躍すると全く同じ跳び蹴りを放つ。

地上の方では號電と首無し馬が正面衝突し、上空ではテイルファングのデモンズ・ヒールとエレメリアンの鋼鉄ブーツが衝突した。

 

「うぉあっ!?」

「ッッ!!」

 

両者の力は互角。

その凄まじい衝撃に耐え切れなくなり、お互い吹き飛ばされ、テイルファングとエレメリアンのもとに互の馬は駆け寄る。

 

「これは!!」

 

號電の額をよく見ると僅かに亀裂が入っており、これにはテイルファングも驚きを隠せなかった。

號電の素材はは強度があまりにも高いが故に加工が非常に難しいグレートワイバーンの骨を何年もかけて加工し、それを魔の者(ダイモーン)の世界──セレーネで最も硬い特別な純金で何重にもコーティングされた部品を使い、作成された最高の硬度を誇る馬型ゴーレム。

さらに鎧の魔皇力の恩恵もあって、テナーの知る限りの武器で傷付くなどありえない。

このエレメリアンは今までとは違う。

テナーは目の前のエレメリアンの力量に対して警戒レベルを引き上げていると、首無しの馬は一瞬で大鎌、斧、槍が合わさった形状のハルバードへと変化し、エレメリアンの手に収まるとテイルファングと改めて対峙した。

テイルファングの方も號電を退がらせる。

 

影創造(シャドウ・クラクト)──黒刃刀(ブラック・ナイフ)

 

三日月型の二刀一振りの短剣を構え、一気にエレメリアンの元へ駆け出した。

 

「はぁっ!!」

 

相手はハルバードをデッキブラシみたいに軽々と振るい、上から斧で振り下ろしと袈裟斬り、下からの振り上げと横薙ぎには大鎌、突きには槍の穂先を使い、黒刃刀(ブラック・ナイフ)のリーチが届かない範囲から攻撃を繰り返す。

テイルファングは防戦に追い込まれ、ハルバードを変幻自在に操るエレメリアンは接近戦を許させない。

 

影創造(シャドウ・クラフト)──黒毒蛇(ブラック・マンバ)

 

これは黒髪紐(ブラック・リボン)の先に黒刃刀(ブラック・ナイフ)を連結した影創造(シャドウ・クラフト)

相手を拘束する為ではなく、少し離れた敵を攻撃するための影創造(シャドウ・クラフト)。リボンの部位を操り、遠隔操作することも可能で、テイルファングは両手でそれを蛇みたいに操ることができる。

 

「今までのエレメリアンと違って饒舌ではないのだな」

 

軽く百合(ひゃくごう)以上の剣戟を交えるも、相手のエレメリアンはテイルファングの影創造(シャドウ・クラフト)に掠りさえもする事がなく、無傷な上に疲れた様子もなく、余裕とばかりにハルバードを手元で回転させる。

 

『このエレメリアン──強い!』

 

先日戦ったテイルブルーの槍術はかなり粗削りなものだったが、このエレメリアンの長物の技はかなり洗練され、目を見張るものがあった。

 

「普段なら貴様らアルティメギルは名乗りを上げてからが戦闘の合図だと思っていたが、お前はそうでないのか?」

 

テイルファングは黒刃刀の切っ先を相手に向ける。

 

「戦いの前に己の名と属性を明すが()い。それとも貴様には名がないのか?名乗る口がないのか?理性がないのか?───答えろ!」

 

そのエレメリアンは「クフッ」っと吹きだすと。

 

「クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ……」

 

不気味な笑い声を突然上げはじめた。

 

「まともに名乗っていないのはそっちの方じゃないのかな~?」

「何だと?」

 

軽薄そうな、どこか無邪気そうな口調でそのエレメリアンは言葉を返してきた。

 

「まぁ…、名乗れと言うなら名乗ろうかな~。僕は頭巾属性(フード)のエレメリアン──デュラハンギルディ」

 

黒い甲冑、大鎌のハルバードと青い炎が灯る髑髏のランタンを手に持ち、空洞であり、底のない奈落の暗闇のような頭巾(フード)を被ったエレメリアン──デュラハンギルディが名乗る。

 

「デュラハンギルディ……」

「とりあえず言ったほうがいいのかな~?久しぶり~……ですね──

──ヴァンパイアギルディ…隊長」

『ヴァンパイアギルディ?』

「…………」

 

 

 

その言葉を聞いた響輔は突然の単語に衝撃を受け戸惑い、テイルファングは怪訝そうな表情をした。


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