The music of mind for twintail .   作:紅鮭

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後編です



ワイルドブルー/テイルブルーVSテイルファング(後編)

「はあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

拳と脚とツインテールの技を互いにぶつける両者。

その攻防は“災害”と形容する他なかった。

滑走するたびに入道雲みたいな土埃を巻き上げ、大地がカップアイスみたいに抉られ、爆撃の様な蹴りや殴打が地盤を砕く。

芝生で生い茂っていたハイキングコースがみるみるうちに更地へと変貌してゆく。

先ほどのフォックスギルディとの戦いなど比ではない。テイルファングとテイルブルーの戦いは地形を変えてしまう程、本気のせめぎ合いだった。

 

影創造(シャドウ・クラフト)──黒蝙蝠(ブラック・バット)

 

一旦、距離を置いてテイルファングの影がキバットを模した蝙蝠の大群を作り出した。

それらはテイルブルーに噛み付こうと一斉に襲い掛かるも、彼女は自らの足をを止める事はない。

見た目ゴムボールみたいに柔らかそうでも実際、黒蝙蝠(ブラック・バット)は砲丸投げの鉄球ほどの硬度をほこる。自らの拳をマシンガンの如く高速で繰り出し、黒蝙蝠(ブラック・バット)を水風船みたいに次々と粉砕してゆくテイルブルーは最早異常だった。

 

「んげぇ、ウソだろぉ!?」

「チィッ、…影創造(シャドウ・クラフト)──黒歯壁(ブラック・ドーム)

 

キバットが驚いている間にもテイルブルーは今度は巨大な 黒蝙蝠(ブラック・バット)が地面からトラバサミみたいに自分を丸呑みする様包み、周囲の攻撃を防ぐ影創造。

それを砕こうと拳を振るい上げ、飛びかかるテイルブルーだが、黒歯壁(ブラック・ドーム)はビクともしない。

 

「にゃろっ!!」

 

テイルブルーは左右の髪房を纏めるアンテナの様な鋭利なリボン─フォースリヴォンを握りこぶしで弾くと、光が水滴のように空にはじけた。

自前の武器が水飛沫と共に現れる。

地球の青をそのまま凝縮化したしたような濃密でどこまでも奥深いサファイヤブルー。

海神を彷彿とさせる蒼き三叉の長槍─ウェイブランスがその手に収まった。

 

大きく跳び、棒高跳びみたいに逆手でウェイブランスを構え、垂直に黒歯壁(ブラック・ドーム)に突き立てる。

黒歯壁(ブラック・ドーム)はガラスみたいに砕けるも、そこにテイルファングの姿はなかった。

背後から殺気を感じ振り返ると、テイルファングの拳がテイルブルーの頬を捉え、その身体を勢い良く空中へと突き飛ばし、地面を転がった勢いで大量の土埃が宙を舞う。

 

「ダメだ。手ごたえが軽い」

「攻撃の決まる瞬間、腰のブースターを逆噴射して勢いを殺しやがった。いい戦闘センスしてやがるぜ」

「そうか?ナイトやルークに比べればまだまだだと思うがな」

 

大量の土埃の中からテイルブルーが大きく跳躍、ウェイブランスを振り上げ、奇襲。

テイルファングも同じく、三日月型の二刀一対の短剣・黒刃刀(ブラック・ナイフ)を即座に具現化し、応戦。

剣戟が小刻みな金属音を奏で、両者の剣筋が閃く。

だが、すぐにテイルファングの黒刃刀(ブラック・ナイフ)がテイルブルーの攻撃に耐え切れず、砕けた。

迫り来るウェイブランスを後ろに倒れて回避し、バク転で距離を取る。

 

黒刃刀(ブラック・ナイフ)は軽いが、耐久性が低い。受けに回っちゃ不利だ!」

「分かっている。こちらも守りに徹するつもりはない。──黒薔薇(ブラック・ローズ)

 

花弁が刃状の黒薔薇が手裏剣みたいに幾つも投擲され、飛ぶ。

水を纏ったウェイブランスが水滴の斬擊を光らせ、唸る。

テイルファングは手頃にあった身の丈程の大岩を片手で地面から引っこ抜き、それを枕みたいに軽々と放る。

それを難なく拳で砕き割るテイルブルーに対し、一気に接近して再度黒刃刀(ブラック・ナイフ)で打ち合おうとしたかに思えた。

だが、切っ先がウェイブランスに触れ合い、微かに軌道をずらした次の瞬間、黒刃刀(ブラック・ナイフ)を瞬時に解除し、テイルブルーの手首をそのまま掴んで捻り、足を掛けて、合気道みたいにテイルブルーを転倒させる。

追撃の拳が来る前に即座に腰のブースターを噴かして、その場を脱出する。

 

「(なかなか機転が利くな。だが、逃がさん!)」

 

テイルファングはテイルブルー目掛けて駆け出す。

だが、想定内だとテイルブルーはほくそ笑んだかと思うと急に腰のブースターで浮き上がる。

ワイヤーアクションみたいに宙返りからの錐揉み体制のままテイルファングの背後へ。

 

「むっ!?」

 

不意を突かれたテイルファングは急いで背後を向こうとするも、テイルブルーは錐揉み回転しながら槍をプロペラみたいに大きく振るい、ウェイブランスの柄が横薙ぎにテイルファングの顔を捉える。

 

「ぐおっ!!」

 

常人がくらえば頭蓋骨を簡単に粉砕するほどの威力の攻撃にテイルファングは一瞬怯んだ。テイルブルーが着地と同時に鋭い突きが腹部目掛けて繰り出された。

 

「えっ!?」

 

だが、テイルブルーの目が驚愕に見開かれる。

 

「へっへー、残念(じゃんにぇん)でした」

 

腹部のベルトのバックルに合身しているキバットがテイルブルーの槍を歯で受け止めていた。

ウェイブランスを掴み返し、力任せにぶん投げる。

 

「よくやった、キバット」

「顎が外れるかと思ったぜ」

 

デモンズ・ガントレットを装着した手首をスナップさせるテイルファング、ウェイブランスを両手で軽く回すテイルブルー。

両者少しは頭が冷えたのか、一旦戦闘を止め真っ直ぐ互の目を見つめ合い、一定の距離を保ったまま円を描いて横歩きで相手の正体を勘ぐる。

 

「(槍は慣れてないのか少々荒削りな所がある──が、素手での戦い様からして私と同じ空手や合気道を嗜んでいる。天性の部位もあるだろうが、鍛錬積んでいるのは明らか。それに奴のツインテール──髪はもちろん、リボンにすら手入れに力を入れている事は明々白々。であるならばあれほど洗練されたツインテールを手に入れることは不可能──故に余計に業腹だな)」

 

「(しなやかな足腰、無駄のない動き、パワフルながら洗練された戦闘スキル、変幻自在の影、それにあいつ狙ってなのか偶数なのか、どんなに激しく動いても自分のツインテールは汚れひとつ付けず、私のツインテールは避けて確実に攻撃を当ててきている──コイツまじで強い)」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あーあ、派手にやってくれちゃって……」

 

その空襲を受けたような戦場を遠くの山で眺めながら、その者は気を失った総二を連れて傍観していた。

 

「おーい坊や、起きな。起きなってほら、起きないとキスするよ~?ぶちゅ〜、なんちゃって♪」

「う、う~ん……ハッ!」

「気が付いたかい?」

 

気を失った彼をここまで運び、そろそろ頃合を見計らって冗談交じりに頬を軽くはたき、起こした。

 

「うおあっ!?エ、エレメリアン!」

 

総二が自分を起こした者を目の当たりにしたとき、眠気は一気に冷め、飛び上がって驚いた。

目の前にいたのは人間ではない。

その姿はアルティメギルみたいな異形だったが、どちらかと言えば人間に酷似していた。

お嬢様結びをした絹みたいなベージュがかった白髪、耳は槍みたいに鋭く、肌も全身がまるで雪みたいに白く、無機質で艶のある陶磁器みたいな顔は仮面の様に口な鼻孔が存在せず、一対の目には白目や虹彩はなく全体が緑色に発光していた。緑の外套、黒色の胸当、黄土色の短パンといった動きやすいその服装はエルフを彷彿させる。

 

「ああ、勘違いしないでおくれ。私はアルティメギルの一員でもなければエレメリアンでもない。私はテイルファングの友達のアルテという者だ」

 

警戒する総二を宥めるようにアルテは手を翳して落ちるかせる。とりあえず敵意はないらしく、総二も警戒はとく。

 

「危ないところだったね。どういうわけだか君、あの場に倒れてたんだよ。私が運び込まなければ巻き添えをくらうところだった」

「(そういえば、気を失ってたんだっけ?)あ、ありがとうございます」

「うん、礼儀正しい。いい子だ──送ってやりたいとこだけど、私は彼女たちを止めに行かないと」

 

アルテが指差す方を見ると、緑で生い茂っていたそこはまるで焼け野原のように跡形もなく更地となっていた。

 

「何だ!!?一体、何が起こったんだ!!」

「テイルファングとテイルブルーが一問着起こしてねぇ。この有り様だよ」

 

最早弁明の余地もない。

総二は大きく頭を抱えた。気絶していたせいで何があったか分からないが、何故こんな事になったのか…俺がもっとしっかりしていたら…総二は人生で一番の自責の念に駆られていた。

 

「さーて、私は年長者らしく働くとしますか。あ、坊やは気を付けて帰るんだよ」

 

そう言うとアルテは一瞬の内に大きく跳躍し、背中から白鳥のような白い翼を出して焼け野原の方へと飛行していった。

総二そのアルテを見ながら思考を巡らす、テイルファングとは一体何者なのだろうか?アルテからは敵意が全くといっていいほど感じられなかった。彼女の仲間なのは確かだろう。だが、アルティメギルでもない彼女たちのその目的が未だ掴めない。

だが、今はそんなことはどうでもいい。

目の前の惨状をどうにかしないと。

ああ……戦場カメラマンみたいなのがうろつき始めた。

明日の一面どうなってしまうのか。

あと、トゥアールは存命なのか。

さっきから全然応答がないのが心配でたまらない。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

戦いは佳境へと突入していた。

 

「チィッ!あの槍に対抗出来る武器はアレしかねぇぞ!」

「フンッ、その様だ」

『二人ともいい加減やめてくれ!』

 

響輔の制止も聞かずに、テイルファングはサイドスロットから青いフエッスルを取り出し、キバットに吹かせる。

 

「ガルル・セイバーッ!」

 

笛の音と共に蒼い彫像がやってくる。

彫像はテイルブルーの槍を弾くとテイルファングの右手に収まり、一瞬の内に狼のサーベル『ガルルセイバー』へと変貌した。

 

「むっ!?」

 

──……まただ

テイルファングはガルルセイバーの柄を握り、トードギルディと戦った時のような違和感を感じ取る。

まるで歯車がカッチリとハマってない、しっくりこない違和感。

そんなことを考える余裕もなく、迫り来る槍を躱し、鍔迫り合い、一気に懐へ飛び込み、横薙ぎにガルルセイバーを振るう。

 

「あぐっ!?」

 

テイルブルーを取り巻くフォトンアブソーバが大きく削られた。

棒きれみたいに軽々と振るうガルルセイバーだが、まるで台風みたいな風と共に振るわれるその攻撃は重く、数合打ち合いウェイブランスを軽々と弾き、まるで自動車に跳ねられたみたいな感覚を覚え、テイルブルーは大きく吹き飛ばされた。

 

「きゃああっ!!」

「何だ?このパワーは!?」

 

しかし、その威力は本人──テイルファングも予想外だったらしく、制御できていない。

剣の力に振り回され、今にも右腕が持って行かれそうだ。

 

「オーラピラー!!」

 

だが、一瞬油断した隙にテイルブルーのオーラピラーがテイルファングを捉える。

テイルファングは水柱に拘束され、身動きが取れない。

だがその眼は戦意を喪失してはいなかった。

 

「キバット!!」

「おう!」

 

キバットにウェイクアップフエッスルを吹かせる。

 

 

「ウェイク・アップ!」

完全解放(ブレイクレリーズ)

 

美しい音色と共に常闇と燦然と輝く三日月が現出、(カテナ)が断ち切られ、拘束具(ヘルズゲート)が解放されるとその深紅の右脚に埋め込まれた三つの魔皇石が輝きを放ち。その衝撃でブルーのオーラピラーを内側からぶち破る。

テイルブルーのウェイブランスもポセイドンの槍の如く三叉へとわかれ、真の力を発揮する姿へと変わる。

テイルファングは常闇に浮かぶ三日月目掛けて高く跳び、テイルブルーはテイルファングに狙いを定め、激流の様なエネルギーが彼女の周囲を取り巻く。

 

「エグゼキュート……──」

「ダークネス……──」

「ウェ────────イブ!!」

「ムーンブレイク──────ッ!!」

 

互いの必殺技が炸裂!!

次元を貫くようなテイルブルーの刺突と空間を歪ませるテイルファングの飛び蹴りが衝突。

特大の爆発が起こり、嵐みたいなその衝撃で隣の山の大木さえもなぎ倒した。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「何なのよこれえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

次の日の朝、愛香の絶叫が観束家から響き渡った。

新聞の至る所の記事にはこう記されていた。

 

 

 

【テイルファング再び現る】

【新たな敵か!?テイルブルー】

【テイルレッドとテイルファングが手を取り合って】

【テイルファングVSテイルブルー。ハイキングコースが廃墟コースに】

【大自然メチャメチャ】

 

 

再び降臨したテイルファングは予想通り、顔写真がはっきり写っているものはないにしろ、メディアに取り上げられ、大々的に報じられた。

だが、愛香の変身したテイルブルーはなんと敵扱い。

まぁ確かにフォックスギルディがやられたあとに登場し、テイルレッドを倒して(気絶させ)テイルファングと交戦したのを見れば、新手の敵とも誤解されなくもない。

愛香はすっかりうなだれていた。

 

「なんで私ばっかり、こんな悪者みたいに取り上げられてんのよ!!ネットでもいじめとしか思えないような罵詈雑言が滝のように流出しているんですけど!!そーじ、ひどいと思わない!?」

 

ソファーに座る幼馴染に同意を求めるように声をかけるも、総二はムスッと不機嫌そうに目を背けながら。

 

「つーか、あれは愛香の自業自得だと思うぜ?」

「は?」

 

あっさりとその言葉は否定された。

 

「俺のツインテールの人形の首を捥いで、頭部を粉微塵にしやがって。あの時はショックこそ大きかっだけど、今俺怒ってんだからな」

「何よ、あたしが悪いっていうの!?」

「うん」

 

即答で返した。

それは愛香にとって泣きたくなるような返答だった。

顔のわからないどこの誰かが罵倒したのならいい。

たしかにあの時は頭にきて、冷静になった今では自分が悪いと思うところもある。

だが唯一の心のよりどころである総二の否定こそ、一番のショックであった。

 

「テイルファングが加勢に来てくれてたの見てないのか?愛香がやった事って殆ど藪蛇だと思うけどな」

「そーじ、何でテイルファングの肩ばっか持つワケ?あんな胸も背もデカイ女の!あんたどっちの味方なの!?」

「俺はツインテールの味方だ!ごはぁ!!」

「もうアンタなんかとは絶交だ、バーカ!!」

 

「私と仕事どっちが大事なの!?」と言いそうな倦怠期の妻みたいな質問に、総二はキメ顔で素直に答えると愛香の鉄拳をくらい、床に転がった

 

「もう弁明の余地皆無ですね〜。愛香さん四面楚歌でかわいそ〜。あ、でもそういえば愛香さんブレスを渡す際言いましたよね?『はっ!ばかにしないで、承知の上よ!自分の行動に責任が持てないほど私は子供じゃないわ!』って、例え世界中が敵に回っても戦い続けるヒーローって私カッコイイと思いますし。別にいいですよね~。アハハハハハハハ!──あれ?愛香さん目が笑っていませんよ?私怪我人ですからね。お手柔らかに──あ、ああーっ!!」

 

今の状況が本当に面白いのか、痛々しいコルセットを巻いたトゥアールは爆笑し、愛香の容赦ない制裁を受ける羽目になるのは言うまでもなかった。

 

 

その光景を傍目で見ていた未春は三人を見ながら思考を巡らせる。

 

「(総ちゃんは今テイルファングに夢中か~。二人にとっては大きな壁かもしれないわね~)」

 

冷静沈着で頭脳明晰、いわゆるクールビューティ。

大人びて頼りになりそうな、雰囲気には未春から見てもこの少女には見惚れており、あの二人とは全く違うタイプ。

かなり手ごわいライバルが来たにもかかわらず、未春はこれから面白くなりそうだと、ウキウキしながら皆の朝食を準備するのだった。

 

 

 

しかし、女の勘というのだろうか。

未春は何となく気づいていたテイルファング──テナーの“危うさ”に。

そして、その勘は当たっていた。

テナーがどれほどの寂しさの中戦っているのかを──。


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