The music of mind for twintail . 作:紅鮭
───だが、その戦いは前座に過ぎなかった。
本当の戦いはここから始まるのだとはこの時誰も予想だにしていなかった…。
───現時刻より数分前
「あんの馬鹿、いくらツインテールだからって人形相手に!!」
観束家の秘密基地内で愛香は右往左往していた。
今回現れたエレメリアン──フォクスギルディは
画面越しで愛香もその光景は見せつけられていた。
だが対策法はないわけではない。
それは人形そのものを破壊すればいい。
人形を壊せば、総二は戦いに復帰できる。
だがテイルレッドの姿を模したその人形を総二は破壊できない。
たかが人形。だがそれでも、その人形の髪型はツインテールをしており、ツインテールを愛する総二はそれを破壊できないのだ。
『うああああああ……や、やめろおおおおせめて服を着させろおおおおおぉぉぉぉ!!』
(いろんな意味で)耳を防ぎたくなるような絶叫が、スピーカー越しで木霊する。
「どーしよ、そーじが!!ねぇ、こっちから発射できるミサイルとかないの?」
物騒な発言をする愛香。
周囲の被害を考えてないのだろうか?
「………………こうなれば、もう…」
トゥアールはコンソールの上で拳を握りしめ、震えていた。
調和に守られた唇からは血がにじみ、苦渋の決断をしている。
そういった風に愛香は感じ取れた。
「───愛香さん、お願いがあります」
普段の痴女っぷりからは想像できないようなシリアスさで愛香と向き合うトゥアール。
そのことからただ事ではないという風に感じる愛香。
「あたしにできること!?そーじを助けられるなら、あたし何でもするよ!」
「──では、変身してくれませんか?」
「わかったわ、変身すればいいのね!」
咄嗟に返事したものの、その意味を
「──────────は?変身?」
「私は一昨日言いましたよね?テイルギアは2つあって、既にもう一人の候補者がいると」
愛香は頷く。
それは一昨日トゥアールが言っていたことだった。
トゥアールが元居た世界から持ってきたテイルギアは2つあり、一つは総二の手へと渡り、もう一つのギアの変身候補者は既に決めている。
ただし、その変身者に渡すかどうか迷っていると。
「それが愛香さんなのです。この世界でもう一人、テイルギアを使える人間。誰よりも総二様と近くいたあなたこそ、テイルギアを使えるのです」
「──……嘘」
「嘘じゃありませんよ」
トゥアールは真剣な眼で答える。
いつもに冗談ではなさそうだ。
「同じツインテール属性を持つからこそ導かれ、引かれ合ったとも考えられます」
運命。
愛香はその言葉を初めて信じる気になった。
「……そーじ」
その言葉にどこかロマンチックな気分になるが、愛香は「ちょっと待て」と止める。
「…確かあんた、もう一人の好捕者は蛮族とか地球が滅びるとか」
「え?事実じゃないのですか?」
「何言ってんの?この人」みたいな真顔のトゥアールの顔面に問答無用の骨法が炸裂した。
「おごご…!」
「そうね、確かにあたしは蛮族かもしれない…でも、そーじを助けられる事はできるわ!」
愛香は拳を握り締め、決然とそう告げる。
「あ、愛香さん…言っていることと行動がバラバラなのはなぜでしょうか?」
「そりゃあ、あたしだってあんな変態軍団と戦うのは嫌よ。でも、戦力は多い方がいいでしょ?それに、どうしてあんたはそんなに変身者を明かすのを拒んでいたの!?」
「それは…愛香さんを、巻き込みたくなかったからです。あなたを戦いに巻き込ませれば、総二様も悲しませてしまいます。それに──この数日何度も殺されかけましたが、あなたはこの世界でできた大切な友達です…そのような争いを知らずに平穏に過ごしていてほしかった…」
涙目になりながら悲痛な叫びを訴えるトゥアールに愛香は戸惑った。
だが、その隙に白衣のポケットに『目薬』と書かれていた小さな物をそっと隠そうとしているのを見逃さなかった。
「ハイ、本音」と手を叩くと──
「テイルギアの力を維持するには私の生体データを総二様の体内に取り込む必要があるとそれっぽい嘘をついて、総二様と如何わしいことをしようと思っていたのですが、愛香さんにテイルギアを渡してしまうとあなたとも如何わしいことをやらなきゃいけなくなるからそれは嫌──」
「このド痴女がああああああああ!!ど直球に言っているんじゃねえええ!!!」
「あああ、思ったことを何でも言ってしまうこの体質が憎い!」
「なんであんたは!そういつもいつもエロいことばかり考えるのよ!」
「メスがオスに発情して何が悪いんですか!!」
ウサギみたいに盛んなトゥアール。
その無限の性欲に少子化対策待ったなし。
「開き直るにも言葉を選べあんたはあああああ!!!」
ドッゴオン!今度はジャーマンスープレックスをかまして、トゥアールを沈める。
「まあいいわ!あんたがあたしのこと嫌いなのは十分に分かったわ!でも今はそーじを助けたいの、だからあたしにテイルギアを渡して!」
「…嫌いだなんて思っていませんよ、あなたは大切な友人だっていうのは本当です。あなたをそれには巻き込みたくなかった」
ゾンビのように何事もなくムクリと起きあがったトゥアールは言う。
今までの行動から嘘っぽく聞こえてしまうが、その言葉に少しだけ嬉しくなる愛香。
「ただ、覚悟はありますね?一度変身してしまったら…もうあなたは戦いから逃げ出せなくなります。それでもかまいませんね?」
「はっ!ばかにしないで、承知の上よ!自分の行動に責任が持てないほど私は子供じゃないわ!」
不器用ながら初めての気遣いを感じ、愛香がしっかりと頷いたことを確認したトゥアールは青色に光るテイルブレスを取り出した。
「愛香さん、約束してくださいね。何があっても──」
一蓮托生。ブレスを託すトゥアールの覚悟が見て取れる。
まるで自分の子を託すような──
「──総二様の初めての女になるのは、この私に任してもらえると」
「…おい」
前言撤回。
「さあ、時間がありませんよ!いいからはいと言ってください!でなければこれは渡せませんからね!それともあれですか、今からヒーローになろうとしている方が、まさか力ずくでブレスを奪おうとでも考えているんじゃないでしょうね!」
「…」
「愛香さんはそんなこと考える人じゃないですよね……」
愛香はニッコリ笑いながら、指の関節を鳴らし──
「さあて、行きましょうか…テイル、オン!」
関節がいくつか外れ、床にめり込み転がっているトゥアールを放って、ブレスを装備した愛香は
「待ってて、そーじ! 今助けに行くから!!」
ヒーローって何?
そんな疑問が薄れゆく意識の中、脳裏に浮かぶトゥアール。
愛香にとってそれは、敵と認識したモノを情け容赦なく潰す事に他ならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれ?
意気揚々とやって来たはいいものの周囲を見渡す変身した愛香。
「また新たな敵か?とりあえず何者だ、貴様──ん?どうした、テイルレッド」
「…………─────ッ!!」
フォックスギルディを倒し、一息ついたところにまた新たな乱入者が参上した。
その乱入者に警戒を強めるテイルファング。
ふと隣にいたテイルレッドを見てみるとその乱入者に警戒しているというより、驚いて目を丸くしているといった感じだった。
「って、あれ?あの変態怪人は?──あ!テイルファング!!なんでアンタがここに?」
「初対面でいきなり呼び捨てとは、無礼な奴め」
テイルファングはいきなり乱入しておきながら呼び捨てる目の前の愛香に僅かながら苛立ちを覚えるも気を取り直して答える。
「それで貴様は何者だ?」
「あたしは、えっとー……そう、テイルブルー。テイルブルーよ!」
「テイルブルー?」
何者かを問われ、咄嗟の問に少し戸惑うも愛香──テイルブルーは名乗る。
「
「そーじ──…じゃなくて、テイルレッドがピンチみたいだったから急いできたのよ!──途中色々あったけど」
「あー…言われてみりゃあ、あのねーちゃんの装甲。レッドちゃんと似てないか?」
「フンッ、増援だったか。まあいい、一足遅かったな。あの畜生は既に倒した。だからもう増援は必要ない」
「倒した!?」
思いっきりの大遅刻。
テイルファングは新たに来たテイルブルーを一瞥すると隣に立つテイルレッドへ視線を移した。キバットの言う通り、テイルレッドのテイルギアとよく似ているので彼女はテイルレッドの仲間だったと推測する。
テイルレッドもテイルファングと視線を合わせると、テイルブルーへ急いで駆け寄っていく。
「何だよ!!どうしたんだよ、その姿!!」
「あはは、話せば長くなるから……」
こそこそとテイルファングに聞こえないように、テイルレッドとテイルブルーは話をする。
テイルブルーと名乗った戦士──自分の幼馴染である愛香がなんでテイルギアを装備しているのか、なぜ今頃ここへ来たのか、疑問は山積みだった。
「それと、さっきからトゥアールとの通信が途絶えているんだけれど、何か知らないか?」
「え…さぁ?昼寝でもしてるんじゃない?」
トゥアールを交えてその疑問に答えてもらおうと思ったが、テイルブルーは目を合わせず口笛を吹くそぶりを見せる。
そのテイルブルーを見て、いつか話したもう一人の装着者の話を思い出し、直感的にテイルレッドの脳裏に最悪の予想が頭をよぎった。
今トゥアールは無事なのだろうか!?ダラダラと冷や汗を流すテイルレッド。
ちなみに、テイルブルーはあのトゥアールとの揉め事があった所為で遅刻してしまったのだが。
「さぁ、そんな事より。ここにはもう用はないのよね?早く退却するわよ」
「あ、ああ…」
モタモタしていると報道陣が来る。
それ以上にトゥアールの安否が気になる。
属性玉を回収して、立ち去ろうとした時──
「ではな。私もここいらで凱旋させて貰うとしよう」
テイルファングも退散する準備をしていた。
と、その時──
「ちょっと待て!!」
「なんだ?」
テイルブルーに呼び止められ、苛立ちを含んだ声でテイルファングは振り返る。
「それ、どうするつもり?」
テイルファングの肩に持ち上げられている人形を指摘した。
フォックスギルディとの戦いでテイルファングが奪ったものであり、フォックスギルディが倒された今では顔写真を貼り付けたようなただの人形に戻ったが、それでもさすがエレメリアンが作った作品。人間が作ったものより一線を画す出来栄えである。
「これは私の戦利品だ。持ち帰るのに何か申し立てでもあるのか?」
「も、申し立てって…ア、アンタこそ、レッドの人形なんか持ち出して、どうするつもりよ!」
「城の飾りに丁度いいと思ってな。これほど精巧な一級品の人形など、私の知る職人でも作れるかどうかわからぬしな」
『それが君の本心かい!』
「然り」
なんとテナーはこの人形をかっぱらうつもりでいたらしい。
今思えば出陣の時、あれ程ノリノリだった事に響輔は何か引っかかりを覚えていた。
鎧を着たままのテナーが下手に攻撃すれば、あの人形をクッキーみたいに砕いてしまいかねない。完品のまま人形を奪う一心でテイルファングは手加減したり、テイルレッドとタッグを組んで戦っていたのだった。
テイルファングは呆れる響輔のみに聞こえるように小声で理由を話した。
「話は以上だ。ではな」
早々に話を切り上げて、この人形を堪能しようと無表情ながらウキウキとした雰囲気を纏わせて鼻歌の凱歌とともに立ち去ろうとするテイルファング。
「だからちょっと待て!」
「さっきから一体何だ?───貧乳」
「─────────────っ!!!!」
いい加減にくどくなって苛立ちを覚えたテイルファングがその
青空の下、さわやかなハイキングコースの真ん中で、その声が響いた途端に世界が停止した。
次の瞬間にはテイルブルーの額には青筋が浮かび、テイルレッドは声にならない悲鳴を上げた。
やってしまった。
テイルファングはやってしまった。
凶悪な竜の逆鱗に強烈なアッパーカットをお見舞いしてしまった。
睨みつけるかのごとく、眼は吊り上げ、口元は引きつる彼女。
「え?ごめんなさい。よく聴こえなかったわ。もう一度言ってくれる?」
「そうか、ハッキリと
一方、どうして憎悪に満ちた眼差しを向けられているのかテイルファングは皆目見当がつかなかった。
だが、それでも尚テイルブルーは理性を保ち言葉を放つ。
「レッドの人形に何をする気ぃ?あたしの眼が黒いうちは許さないわよ」
「だからさっきから貴様は一体何を言ってる?──そもそもこの人形は私があの畜生より奪ったものだ。私の手に収まっている以上、このテイルレッドの人形は紛れもなく私の財であり、私が所有する権利がある」
「あの変態怪人がしたみたいに妄想に耽る気でしょ!」
「は?だから貴様、一体何を言い出す」
「い、一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たり、一緒に──……あー、もう考えただけでおぞましい、いやらしいーっ!」
一人で妄想し、悶えるテイルブルー。
「ブルー、お前は一体何想像しているんだ?テイルファングがそんな事する筈がないだろ」
「いや、レッド冷静になって!多分、あいつはベッドとかであんたの人形を抱いて寝るのよ!!それでもいいの!?」
「自意識過剰過ぎだろ。それにテイルファングと……一緒に……寝る。──……悪くないかもな」
「レッドおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」
ブルーの言い分に呆れているテイルレッドは憧れのテイルファングのツインテールに包まれて寝られる想像をし、顔を赤くし満更でもないご様子。
「無視だ。無視しろ。ファング」
「もういい、貴様の妄言には付き合いきれん!ではな」
キバットとテイルファングはこれ以上相手にしてられないと悟ると足早に離れようとするのだが――
「待ちなさい!!」
ぐわしっと、テイルブルーが電光石火の速さテイルファングが肩に担ぐテイルレッドの人形の頭部を片手で鷲掴みにし、取りあげようと力を込めて一気に引っ張った。
ボキッ!!
「ボキッ?」
まるでどこぞのホラーなバッタ戦士が脊柱を引き抜くが如く、テイルレッドの人形の首をもぎ取られ、その頭部は砂糖菓子みたいにテイルブルーの驚異的な握力で握りつぶされた。
「あ…」
「なぁっ!!!?」
「うおあっおがぁあおわあ#&*£%∽^♪☆◎▲◆*£±ッ!!!!」
その所業は故意にではなかっただろう。ついうっかり壊してしまったといった感じでテイルブルーは声を漏らした。
だが、テイルファングは首だけなくなったテイルレッドの人形の成れの果てを見ていつもの鉄仮面が崩壊し、口を半開きにして放心。
テイルレッドはというとフォックスギルディの妄想劇など比ではない。自分自身を模したツインテールが粉々になるというこの世の終焉とも言える悪夢を間近で見せつけられ、ドサッと卒倒してしまった。
ちなみに総二はこの日からしばらくこの悪夢でうなされる事になるのだが、それはまた別の話。
「あ、あ…あ…ああ、ああ…」
膝をつき、首から上がなくなったテイルレッドの人形を見るも、そこにあるのは洋服売り場にあるマネキンみたいな首無しのテイルギアを纏った人形。
それを見てテイルブルーも自分の行いに良心を痛め、罪悪感を感じたのか謝ろうとした。
「ご…ごめんなさ──」
ドゴスゥッ!!!
しかしテイルブルーのその言葉が最後まで告げられることはなかった。
テイルブルーが反応出来ない速度でテイルファングがテイルブルーの顔面を殴り飛ばしていたからだ。
『何してんのぉっ!!!』
「貴様ぁ、この私の手中に収まっている財を穢すとは…中々見上げだ度胸だ。成る程なあ、よほど死にたいと見える──貧乳!!」
内にいる響輔がテイルファングの所業に仰天する。
対するテイルファングは響輔の声など聞こえていない。たとえ、聞こえていたとしても相手にしないだろう。
自分の部屋のソファーにでも座らして、見栄えのいいインテリアにでもしようかとしていたテイルファング。苦労して無傷で奪い、あとは持ち帰るだけと思った矢先、どこの馬の骨とも分からぬ
「また言ったな、コイツ!!」
テイルブルーも自分のコンプレックスを大声で言われてもはや堪忍袋の緒が切れた。
「事実だ──だが、そんなことはどうでもいい!無きに等しい貴様の胸など私は微塵も興味がない!ツインテールを破壊した行為、同じツインテールといえど極刑に値する!最早貴様は私の敵だ!!」
ツインテールを愛するが故の怒り。
同じツインテールといえどこの様な蛮行を許すほどテイルファング──テナーは寛容でもなく、性格は間違っても温厚ではない。
猛禽類のような金色の瞳が怒りを帯びてテイルブルーを睨む。
「『私の敵』?へぇ、じゃあ──アンタを存分にぶちのめしてもいいってわけ?」
テイルブルーもテイルファングは気にいらなかった。
自分よりはるかに胸が大きく、スタイル抜群、背も高く、手足もすらっと長い。
何より幼なじみは彼女の話となると目を輝かせ、鼻息を荒げて興奮し、熱く語るのに無性に苛立ちを覚える。
射殺す様な冷徹な瞳が殺気を帯びてテイルファングを捉える。
「ぶちのめす?はっ、驕慢だな。そんな薄っぺらい身体で私をどうにか出来ると思っているのなら、その思い上がり断じて甚だしい」
「あらそう?だったら、あんたの胸も削ぎ落としてやるわっ!!」
魔皇力がバチバチと黒い稲妻みたいに具現化し、テイルファングの周囲を囲む。
「全く、貴様のその貧相な胸板を見ていると。実に虫の居所が悪くなる。あの小憎らしいビショップと同じ様な胸をしよって…」
テイルファングとテイルブルー、互いのブレーキの壊れたデッドヒートレースの様な戦いが今始まろうとしていた。
今回は前編・後編に分けます。