何故、オリジナル話なのか。
それは俺ガイルには登場しないキャラ、所謂オリキャラを登場させるからです。
この物語を進めていく上で重要だからです。
では、第14話です!
草や木が新緑に覆われ、爽やかな風が吹く五月。
「今日もよろしくね。お兄ちゃん♪」
「はいよ」
小町がちゃんと後ろに乗ったことを確認して、俺は自転車を
本来、自転車の二人乗りは道路交通法で禁止されているのだが、ラブリーでキュートな妹の頼みなのでご容赦願いたい。
住宅街を抜け、通学路の大通りに差し掛かると、妹と同じ学生服の生徒がちらほら見えた。
複数人で楽しげに話す女子や朝っぱらから仲良く手を繋ぐカップル。そして、黒に赤いラインが入ったヘッドホンを首にかけた男子。
……おいおいマジかよ。あれって明らかに校則違反だろ。でも、カッコいいなおい。赤がちらりと覗く感じで派手すぎないというのもあるけど、何と言っても赤と黒の配色が男心をくすぐる!
若干テンションが上がっていると、くいくいっと制服が引っ張られた。
「小町ちょっと用事思い出したから、今日はここで降ろして」
「あ? 本当にここでいいのか? まだ中学校まで結構距離あるぞ」
「うん。大丈夫だから」
ここから中学校までは歩いて十五分程の距離にある。まぁ、それでも登校完了のチャイムには余裕で間に合うだろう。
俺は言われた通り、ブレーキをかけ自転車を止める。それに合わせて小町はひょいと自転車から飛び降りた。
「それじゃあ行ってくるであります!」
そう言って笑顔を向ける小町を見ていると、元気が湧いてくる。
このヒマワリのような笑顔を見るために、俺は毎回欠かさず自転車で送っているのかもしれない。
「おう。気ぃつけてな」
「お兄ちゃんも気をつけてね。また事故ったりしないでよね!」
「ああ、気をつけるよ。もう小町に悲しい思いなんかさせたくねぇしな」
俺は高校入学初日、交通事故に遭っている。
犬を助けようと道路に飛び出した結果、雪ノ下家の車に轢かれて全治一ヶ月の怪我を負った。あの時俺は堂々と学校をサボれることにヒャッホウと喜んだのだが、小町は違った。俺とは真逆で、泣きそうになって悲しんでいた。
妹を悲しませるなんて、兄として失格だった。
だから、あの日決めたのだ。
──小町には笑っていてほしい。
──小町に近づく悪い虫は排除しよう。
──小町のために何かできるなら、何でもしてやりたい。
俺は今一度、兄としてやるべきことを再確認し、小町の頭を優しく撫でた。
すると、小町の顔がみるみる赤くなる。
「お、お兄ちゃん……。も、もぉっ、馬鹿ぁっ! どこでそんな高等テクニックを覚えたの⁉︎ こ、小町、先行くね。お、お兄ちゃん、途中までだけど送ってくれてありがとー!」
そう言うや否や、小町は中学校の方へと駆け出していく。途中転びそうになっていたが、なんとか持ち
俺は小町の後ろ姿が見えなくなったことを確認し、自転車を旋回させて高校へと向かう。
小町のおかげで今日も元気百倍である。さらに今日は雲一つない快晴ときた。こんな日はベストプレイスでマッ缶を飲むに限るだろう。……あっ、そうだ! 今日は奮発して二本飲もう。うん、それがいい。
ふと、自転車の前カゴに視線を落とすと、そこには俺のじゃない黒い通学鞄があった。
「……あのアホ」
すぐさま、自転車を方向転換させて走り出す。
歩く学生を次々に追い抜いていくが、まだ小町の姿は見えない。……あいつ、いつの間に自転車よりも速くなったんだよ。
俺は妹の身体能力の高さに軽く驚いていると、曲がり角のすぐ近くで小町の声が聞こえてきた。
やっと追いついたことにほっと一安心。
俺はブレーキをかけ、徐々にスピードを落として右へ曲がる。
「おーい、こま……」
言葉が詰まった。反射的に自転車を止めてしまった。
もしかして小町の用事って──。
「
「はぁ、やっぱり比企谷さんもそう思うよね。寝癖直そうとは思ったんだけど、久しぶりに寝坊しちゃって時間がなくてさ……」
あの趣味のいいヘッドホンを首にかけた男子と一緒に登校することだったのか⁉︎ もしかして小町のかれ……待て待て待て待て! そんなはずがない。そんなわけがない。ありえない。
俺は眼前の光景に思考が回らず
それでも小町と『凛ちゃん』と呼ばれる男子の会話はなおも続く。
俺は自転車を押して歩き、一定の距離を保ちながら二人の会話を盗み聞きすることにした。
「あー、寝坊しちゃったのかぁ。一人暮らしだと起こしてくれる人がいないから大変だね」
「まぁ、二年も一人暮らしを続けてるからもう慣れたよ」
「ご飯って自分で作ってるんでしょ?」
「うん。でも、簡単なものしか作れないけどね。カレーとか生姜焼きとかポテトサラダとかね。最近は豆腐入りのハンバーグなんかにハマってたりする」
「凛ちゃん女子力高すぎるよ」
「女子力って……。僕、男なんだけど」
「じゃあ、主夫力だ。凛ちゃんは主夫力が高いんだね」
「…………」
黙って盗み聞きしていれば、何だ。あの仲良さげな雰囲気はっ! やっぱり小町のかれ……いやいや決めつけるな。まだそうと決まったわけじゃない。
ここは『今来たとこ』作戦を実行する他ない。さりげなく小町に声をかけて忘れ物を届け、さりげなく小町との関係を訊く。
我ながらよく出来た作戦……と言いたいところだが、この作戦の実行には大きなハードルがある。
何を隠そう俺はコミュ障なのだ。
初対面の人に自分から話しかけるとか無理。前にティッシュ配りのバイトをしてたけどマジで地獄だったもん。
だがしかし──。
妹のためならば、兄という生き物はどんなハードルだって飛び越えてみせるのが世の常だ。
俺が覚悟を決めて一歩を踏み出すと同時。小町があっと声を上げた。
「比企谷さん、どうしたの?」
「やっば。何か忘れてるなーって思ってたら小町の鞄がないっ! 凛ちゃんごめん。小町、ちょっと取りに行ってくる! ……って、お兄ちゃんナイスタイミングだよっ!」
「…………おー、小町。忘れ物を届けに〝今〟来たぞー」
駆け寄ろうとする小町に手で静止をかけ、俺の方から近寄っていく。
尾行していたことがバレていないか、内心ハラハラドキドキしながらも思考を巡らした。
初対面の相手。それも小町に近づく悪い虫の可能性が高い相手に対して、最初何て声をかけた方がいいだろうか。
「お前は小町の彼氏か?」
これはド直球すぎるから却下。ド直球すぎて、もしこの質問の答えがYESだった場合には膝から崩れ落ちるまである。
「初めまして『凛ちゃん』とやら。そして、さようならだ」
これも却下。大体どこのバトル漫画のシーンだよこれ。こんなの言った日には社会的に死ぬ未来しか見えないのに……一瞬、不敵に笑う自分の姿を想像してしまったのが恥ずかしい。
何かピンとくる声のかけ方はないのかと探している間に、とうとう二人の元へと来てしまった。
◇
当初の目的である小町の鞄を届けた俺は、妹の隣に鎮座するヘッドホン男子を観察する。
中学生男子にしては低身長。小町よりも背が低いことは見てわかる。だが、それを補うかのように中性的な顔立ちとふわふわした栗色の髪が相まって、とても女の子に見えてしまう。もし、制服を着ていなかったら間違いなく女の子と勘違いするに違いない。
「あ、あの……。ぼ、僕の顔に何かついてますか?」
小首を傾げたことで揺れる寝癖がまた愛らしい。
これが所謂男の娘というやつなのだろう。二次元だけの存在かと思っていたが、まさか実在するとはな。
「…………フヒッ」
「ひいっ!」
可愛らしい顔から一変、恐怖に満ちて蒼くこわばった顔へ。急にどうしたんだ?
「はぁ、お兄ちゃん……。人前でそれはやめた方がいいと思うよ? 通報されちゃうから」
小町はポーチから手鏡を取り出して、それを俺の顔の前に向けてきた。
目の前が男の娘から自分の顔へと切り替わる。
鏡に映る自分は、周りからキャーキャーと黄色い声が飛び交ってしまう程のイケメン……なんてことはなく、夜の街中を歩るけばすぐにでも職質を受けそうな危ない顔をしていた。
確かにこれは悲鳴をあげてもおかしくない。
ていうか──。
「通報されちゃうからって何だよ。そんな真面目な顔をして言わないでくれる? 完全に無意識だったからね、俺。無実だ無実」
「へぇ、無実なんだってさ。このことについてどう思う? 被害者の凛ちゃん」
「えぇっ⁉︎ ぼ、僕に振るの⁉︎ いや、まぁ確かにちょっと怖かったけど、なんていうか……その、比企谷さんのお兄さんってどこか僕と似てるような気がしたっていうか……」
次第に声が小さくなって、ヘッドホン男子は両手の親指と人差し指の指先をくっつけて作ったひし形を、大きくしたり、小さくしたりしだす。
「あ、あの……僕、比企谷さんと同じクラスの
この男の娘の下の名前は凛也というようだ。見た目に反して男らしい名前で、こう言っちゃ失礼極まりないけど『凛也』って感じがしない。だから、小町が可愛らしく『凛ちゃん』と呼んでいるのにも納得がいってしまう。
そして嬉しいことに、相手の方から自己紹介を始めてくれたおかげで自然に小町との関係を聞き出せる。
「さっきは怖がらせてしまって悪かったな。俺は比企谷八幡だ。それで一色は──」
「すみません。苗字で呼ばれるのがあんまり好きじゃないので、下の名前で呼んでくれませんか?」
青灰色の瞳が俺を捉えた。
口調こそ穏やかであるが、その瞳の奥には誰も触れさせぬ、深い
何か事情があるのだろう。
「り、凛也……でいいか?」
「はい。お心遣いありがとうございます、八幡先輩」
そう言って凛也は軽く頭を下げた。
たった二言、三言ぐらいしか言葉は交わしてはいないものの、凛也は小町に近づく悪い虫ではないという確信が何故だかあった。
女の勘ならぬ男の勘。はたまた兄の勘というやつか。
「むぅ……。小町は一年の頃から同じクラスなのに、初めて会ったはずのお兄ちゃんに負けた……」
しかし、兄の勘を持ってしても隣でぶつくさ呟かれた内容の意味がちょっとよくわからない。俺に負けたって何? 小町と勝負した覚えはないし、盟約に誓った覚えもないぞ。
さて、そろそろ本題の続きと行こうか。打ち解けたわけじゃないが、多少は話しかけやすくなった。確かに凛也は小町に近づく悪い虫ではないだろう。
でもそれは今現在の話だ。
何かの拍子でフラグが建つかもしれない。だって小町は可愛いのだから。
「それで凛也。お前は──」
「はいストーップだよ!」
「止めるな小町。俺には俺のやらねばならぬことがあるんだ」
「何訳のわからないことを言ってるのさ! お兄ちゃんも凛ちゃんもこのままだと学校に遅刻しちゃうよっ!」
「「な、何だって⁉︎」」
俺と凛也の声が重なり合う。
俺は急いでポケットの中にあるスマホを取り出し、電源を入れるとそこには八時二十三分と表示されていた。
登校完了のチャイムまで残り七分という危機的状況。だが、自転車をかっ飛ばせばギリギリまだ間に合う距離だ。
スマホをポケットにしまい、自転車のハンドルに手を掛ける。
「俺もう行くから。学校に遅刻すんじゃねぇぞ、お前ら」
「はい。八幡先輩も遅刻しないでくださいね」
「いや、小町と凛ちゃんは走れば遅刻しないと思うけど、お兄ちゃんは遅刻するかもね……」
「ちょっとー、変なフラグ建てないでくれる? 今日は一限から体育なんだから遅刻するとまずいんだよ」
俺がそう言うと、小町はご愁傷様といった顔をして自転車の後輪の方を一瞬だけ見た。
「ま、お兄ちゃんなら猛スピードで走ってけばなんとかなるって小町信じてるから! それと猫に罪はないんだからねっ!」
まったく関係のない話に俺は首を傾げる。猫に罪はないってどゆこと?
「──あ、そうだ忘れるところだったよ。昼休み、凛ちゃんに大事な話があるから時間くれないかな?」
「べつにいいけど、生徒会室でいい?」
「うん、いつもの場所だね」
小町の発言の中に大事な話とか、いつもの場所とか少々聞き流してはならない単語が出てきたたことに引っ掛かりを覚えた俺だが、今は刻々と迫る
目的の場所まで一直線に走りゆく二人の後ろ姿を見送って、俺もあの二人に見習って動き出す。
が、自転車に乗ろうとした俺の軸足に何やら柔らかい感触が当たった。気になって見てみるとそこには……。
「ニャーゴ、ニャーゴ」
空気が抜けてぺったんこになった自転車の後輪に爪とぎをしている黒猫がいた。
「おい、お前何やって……‼︎」
「ニャ……?」
この時ようやく、俺は小町が言った『猫に罪はない』っていう言葉の意味がわかった。
確かに動物は何かを犯しても法的な意味で処罰されることはない。だけど、これは流石に……。
どんなに頑張って走ったとしても、ここから学校までは十分以上かかる。もう遅刻確定である。
無駄に体力を浪費してまで、一限の体育を途中参加する気は起きない。どこかの灰色の人生を望む少年と同様、俺にはやる気が欠如している。ポジティブに表現すれば、俺はただ無気力が有り余っているだけとも言える。
「はぁ……」
もう何なのだろうと、無意識の内に溜息が零れる。自転車は黒猫にパンクさせられ遅刻確定だし、小町のあの発言が職業『お兄ちゃん』の俺の心にぐっさりと突き刺さったままだし……。
俺の今の気持ちを一言で言うならば、それは──
「不幸だッ……‼︎」
──道端で叫んでしまうほどに不幸そのものであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
一色凛也の容姿が想像つかない人は、『さくら荘のペットな彼女』の姫宮沙織みたいな感じです。
今回の話を読んでくれた方はこう思ったんじゃないでしょうか。
『戸塚とキャラ被ってんじゃん!』
『あれ? 苗字が一色ってことは、いろはすの弟なのか?』
『八幡高スペックとか言っておきながら、全然高スペックなところがないじゃないかッ‼︎』
などなど。
最後のことを思っている方が絶対にいると思うんで言わせてもらいます。
本当に! すみませんでした‼︎
なかなか原作が進まない作者が悪いんです。ご、ごめんなさい。次回はちゃんと戸塚登場させるし、高スペックなところも出すし、テニス編を終わらせるようにしますから! 許しください!
では不定期更新のこの作品を読んでるくれる読者がいてくれたら嬉しい限りです。さらばッ!