俺のこんな学校生活も悪くない   作:天然水いろはす

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どうも忘れてた頃にやってくる天然水いろはすです。
前回の後書きの時に次回で材木座編を終わらすとか言っていたような気がするんですけど、無理でした。


高校3年の夏休みはとても忙しいです。
進学や就職を選択する大変です。この時期になると一部の人は精神的に病にかかります。
実は僕もその一人にあたります。
いや、ほんとまじで働きたくねえよ。企業見学とか全然思っていたやつと違って、もうやる気なくしたわ!
なんで学校って生徒に進学とか就職を強制的にさせんだよ。高校って義務教育でもないだから自由にさせろよ!

…………すみません取り乱しました。
この夏休み、体と精神の方を気をつけてください。


では第11話どうぞ!!



第11話

「それじゃあ行こっか♪」

 あの後、何故か満足気な顔をした陽乃さんは俺にそう言ってきた。

 機嫌が良さそうな陽乃さんとは対照的にどんよりとしている俺がいる。

 埋め合わせの件で俺と一緒にどこかへ行こうとするのは構わないが、せめて時間帯を考えて欲しい。

 初夏を迎えようとしているだけあってまだ辺りは明るい。とはいえ今は夕方。

 仕事終わりの大人たちがお腹を空かせ、我が家へと足を向けている時間である。大人に限らず、近所の公園で遊び疲れた子どもたち、放課後の部活動に励んでいた学生もまたそうだ。

 俺もその学生に当てはまり、腹ぺこを通り過ぎて吐きそうな状態だった。

 だからこの気持ち悪さをなくして万全な状態で陽乃さんを相手にするためにも、彼女に言わなければならないことがあった。

「あ、あのっ! 陽乃さん──」

「ん? なに八幡くん」

 勇気を出して陽乃さんに声をかけられたのはいいんだが、この後なんと言葉にすればいいかまで考えてなかった。

 普通に断り文句を一つ二つ言えばOKじゃね? と一瞬思ったがそうもいかなかった。よくよく考えると、この状況を作ってしまったのは俺。陽乃さんとの約束を忘れた上に、今この誘い(埋め合わせ)を断ったら本当に最低な男に成り下がりそうな気がして怖い。

 ……や、女の子との約束を忘れる時点で最低らしいから俺はもう最低な男か。

 なんて言っていいか分からないまま、ちらりと彼女を見ると、声をかけたから当たり前なのだが俺の方を見ていた陽乃さんと目が合ってしまい、反射的に顔を逸らしてしまった。なにやってんだ俺。

 そんな俺の不自然すぎる態度に彼女は心配気に俺の顔を覗き込む。

「どうしたの? 体調でも悪い?」

「や、体調は悪くないです……」

「そう、ならよかった。それにしてもいきなり私の名前呼んだりしてどうしたの。あ、まさかお姉さんのこと呼びたくなっちゃたりした♪」

 心配そうな顔、安堵する顔、男心をくすぐる魅惑的な顔と。この短時間でコロコロと変わる彼女の表情はどれも名女優かってぐらいに様になっていた。それが俺に向けているんだから心臓に悪い。普段よりも鼓動が早くなっていく。……役者なんかには向いてないな俺。まぁ、やろうと思ったことは一度もないが。

「え、ええと……どこへ行くんです?」

 結局俺は断ることを諦めた。小町ごめんな。お兄ちゃん、ちょっと帰るのが遅くなりそう。

「もぉ無視は酷いなー、まぁいいや。どこって? 『エンジェルラダー 天使の階』だよ」

「は? や、あそこってバーじゃないですか。俺未成年ですからお酒飲めませんよ」

 陽乃さんが言った『エンジェルラダー 天使の階』とは『ホテル・ロイヤルオークラ』の最上階にあるバーのことだ。しかもドレスコードなんてものがあり、高校生にとっては縁遠い場所である。

「あれ? 八幡くんあそこに行ったことあるんだ」

「や、行ったことはないですけど知識としてあるだけです」

 前に親父が酒に酔った勢いで、「あそこは俺と母さんが初めて出会った場所だ」と(つまび)らかに言っていたので今も憶えていた。いや、少しばかり語弊があるかもしれない。正確にはその後に聞かされた内容の印象が強すぎて記憶に残ってしまったと言った方が正しい。

 だいたい親の馴れ初めってだけでも砂を吐きそうな内容でウンザリしてたのに、急に親父が真面目な顔をして俺を見てくるもんだから姿勢を正して聞いていりゃあ……。

 

『八幡、お前に大事な話がある』

『……な、なんだよ?』

『お前が大人になってバーに行った時は、とにかく美人局(つつもたせ)には気をつけろよ』

『……は?』

『や、美人局に限らず、あらゆる女に気をつけろ。外面が良いからって中身も良いとは限らん。女という生き物はな……、女という生き物は、うぅ……言いたくない』

 

 思い返してみると絶対バーでなんかあっただろ親父。それにしてもお酒は怖いな。もし警察の事情聴取で犯人と思わしき人物にお酒を飲ませたら酔った勢いでなんでも言いそうな気がする。

「そうなんだ。でもあそこはお酒以外にも八幡くんの大好きなMAXコーヒーもあるよ」

「な、何だと⁉︎」

 バーだからてっきりお酒しかないとばかり思っていたから驚いてしまった。陽乃さん曰く、俺の大好きなマッ缶もあるとのことだ。お酒をメインとしているバーにも存在するマッ缶ってすごい。やはり千葉のソウルドリンクだけのことはあるな。

 

 

「およ? お兄ちゃん」

 

 

 千葉のソウルドリンクことMAXコーヒー、通称〝マッ缶〟の製造に携わった人達に感謝の念を送る俺の耳に、毎日聞いている妹のまだ幼さの残る声が届いた。

 兄の帰りがいつもより遅くて心配で探しに行こうとしてくれたのか、あるいは家の前で陽乃さんに怒られていた兄の姿を見物しに来たのか。できれば前者であることを願い、妹がいるであろう玄関に目線だけを左へと動かすが誰もいなかった。

 ……まさか幻聴?

「ねぇ八幡くん。もの凄い勢いで走ってくるあの子って八幡くんの妹だったりする?」

 陽乃さんの視線の先を追うように後ろの方を見たら、買い物した帰りなのかレジ袋を片手に陽乃さんの言う通りにもの凄い勢いで走ってくる制服姿の小町がいた。

「お、お、お兄ちゃーーん」

「こ、小町っ⁉︎」

 慌てた形相で詰め寄る小町。

 もしかして勢いよく走ったせいで止まらなくなったのでは、と危惧した俺は腕を大きく広げる。これで抱きかかえる準備は万端だ。

 そして俺と小町との距離があと一メートルと迫ったところで抱きかかえようと腕を小町の背中へと回そうとした瞬間躱された(・・・・)

 ほんの一瞬の出来事だった。何が起こったか全然わからなかった。気付けば俺は頭を押され下を向いていた。でもたった一つわかることがある。

「あのっ! うちの兄がどうもすみませんでした‼︎」

 それは俺の隣で陽乃さんに向かって謝る小町のことだけはわかる。

 ……うん、やっぱし全然わかんないや。

「なぁ小町」

「ほらお兄ちゃんも謝って」

「や、なんでだよ……」

「だって家の前にリムジンが止まってるんだよ? しかもお兄ちゃんの前にいる人、超絶美人さんだし……。絶対あの美人さん、どこかのお嬢様か何かだよ‼︎」

「それでも俺が何かやった前提はおかしいだろ」

「何言ってるのお兄ちゃん。スーパーで迷子になった女の子を迷子センターに連れて行こうとして、迷子の子がお兄ちゃんの目を見て泣いちゃって、逆にお兄ちゃんが店員さんに連れて行かれたじゃん……」

「うぐっ」

 小町さんや。マジでやめて。俺の黒歴史を陽乃さんの前で言うのだけはやめて。迷子センターに連れて行こうとしてのあたりから、陽乃のクスっていう笑いが聞こえるし。や、ホント笑い話じゃないんだよ?

「だから今回もお兄ちゃんが何かやらかしたんでしょ。でなきゃ家の前にリムジンなんか止まらないよ!」

 既に小町の頭の中では俺が何かやらかしたことになっていた。

 誰もが呆れるほどの迷推理。こんな時、「あれれーおかしいよー?」とか言いながらヒントを出してくれるメガネの小学生がいてくれたら、この小町の迷推理も間違えだと気づかせてくれるが、現実はそんな都合良くなんかできていない。

 どう弁明したら小町が思うようなことを俺がしてないと証明できるかを考えていると、この状況を破るような甲高い笑い声が住宅街に響いた。

「あっはははははっ! もう小町ちゃん最っ高! ひ、ひぃ〜、あー。ダメだ、お腹痛い」

 陽乃さんの大爆笑に俺も小町も顔を上げる。

「ほえ? なんで私の名前を?」

「あははは、は………ん、んんっ」

 陽乃さんは小さな咳払いをして笑いを収めた。今気づいたけど、女の子の咳払いってなんかちょっぴりエロいのな。ふしぎ発見。

「あ、そういえば小町ちゃんとは初対面だったね。私は雪ノ下陽乃です! 八幡くんの友達です♪」

「そうだったんですかー! いやぁ、すみません。てっきりお兄ちゃんが何かやらかしたのかと。お兄ちゃんの友達だったんですね。ん、お兄ちゃんの友、達? ……え? えええぇぇぇぇぇーーー‼︎」

 俺に友達がいることに小町は大声で叫ぶ。

 小町ぃ、ホント今日俺に対して酷くね? 俺にだって友達の一人や二人くらい……一人はいるんだからなっ!

 

 

 




感想お待ちしております。

次回は9月中には投稿します。

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