一ヶ月ぶりの更新ですね
六月の始めに教師にプロットを奪われると言う事件が発生しやる気をなくしていました。(未だにプロットは返ってきません)
まぁきっとこの作品を読んでくれる読者様はこんな作者の事情なんてどうでもいいかもしれませんが……。
おっと話が逸れました。
さて今回の第10話は材木座回です!どうぞ!!
窓から差し込む陽の光が彼──腕を組み、窓際で
だが敢えて一つだけ言わせてもらいたい。
折角カッコよく見えたんだ。なら、せめて最後までカッコよく貫き通せ、と。
俺は……いや俺たちは、聞き逃さなかった。材木座の口から微かに漏れ出た『いまの我、主人公ぽくね?……超カッコいい』という言葉を。
終いには顔がニヤける始末。
「うわぁ……」
由比ヶ浜は声に出してまで引いていた。
「やはり……」
雪ノ下は雪ノ下で、材木座に対して警戒レベルを上げていた。
俺はというと、材木座と知り合いだけあって由比ヶ浜のように引きはしない。
だが、もしここに人一人分映るであろう大きな鏡があれば、材木座にいまの自分の姿を見てもらって、『現実を見ろ。これがお前の想い描く主人公の姿なのか?』と
つまりアレだ。いまの材木座はカッコ悪いということだ。
「比企谷くん、あちらはあなたのこと知ってるようだけど……」
雪ノ下が俺の背中に隠れながらも、
「まさかこの相棒の顔を忘れたとはな……見下げ果てたぞ、八幡」
「相棒って言ってるけど……」
由比ヶ浜は俺を冷ややかな視線で見る。
や、気持ちは分かるよ……。由比ヶ浜からしてみれば教室にいた不審人物は俺のことを知っていて、しかも相棒だときた。
「そうだ相棒。貴様も覚えているだろう、あの地獄のような時間から逃げ、共に過ごした日々を……」
「ちょっと待て。何が"共に過ごした"だ、去年まで昼休みにふたりで図書館に居ただけじゃねえか……」
材木座が誤解を招くような言い方をしてきたので訂正して言い返す。
しかし、あいつの発言がスイッチになったのか、さっきから脳内で教室にいた腐女子の『ぐ腐腐腐……』という声が流れ込んでくるのはどうしたものか。
その声はもう不気味な笑いに近い。
それだけに
『さあ、こっちの世界に来なさい。こっちに来れば何ひとつ不自由のない生活が送れるわ。それに君にはいい素質がある。だけど経験が足りないわ。だから手取り足取り教えてあげる。心配しないで、最初はつらいかもしれないけど
最初は何ひとつ不自由のない生活とかナニソレ八幡的にポイント高いと思ったけど、最後なんてもう洗脳以外の何物でないじゃねえか。どこを安心すればいいんだよ。
「八幡……」
痛々しい妄想をしている俺に誰かが俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
その誰かに感謝しつつ、現実世界へと帰ってきた俺が最初に視界に捉えたのは……。
「うぉっ!──うわぁ……」
材木座の顔である。付け加えると若干涙目になっている材木座の顔だ。
「八幡聞いておるのか!」
「そ、そのまえに近いから離れろっ!」
俺が痛々しい妄想している間に先程まで窓際でカッコつけていた材木座がいつの間にか俺の目の前にいた。そのことに驚きつつも、なぜ涙目になっているのかさっぱり分からなかった。
「それで何の──」
「八幡、我って不審人物じゃないよね?」
何の用だ、と言おうとしたら材木座に遮られた。……え、なにどゆこと?ていうか、いつもの設定はどうしたの?
「あのね、ヒッキーがぼーっとしてるときにゆきのんがけんごーしょーぐん?って言う人に問い詰めたの」
状況が掴めない俺を見兼ねてか由比ヶ浜が耳打ちして教えてくれた。……でもね耳打ちして教えてくれたのはいいけど、ブラウスのボタンはちゃんと留めた方がいいと思うのですよ?
ていうかなに材木座のやつ、あの痛々しい自己紹介したの?でもまぁ由比ヶ浜のおかげで状況は理解できた。さすがにこれ以上、雪ノ下に睨まれてる材木座が可哀想だ。
「雪ノ下と由比ヶ浜、こいつは材木座義輝。……いちおう俺の知り合いだ」
俺がそう言うと雪ノ下は目を瞬かせる。
「あら、そうだったのね。材、材木座くん?だったかしら。ごめんなさい、あなたを疑ったりして……」
雪ノ下は材木座にぺこりと頭を下げた。
「いや、なに気にするでない。我も悪かったのだ。ここへ来た時、扉の鍵が掛かってたもの──」
「やっぱり鍵掛かってたのかよ……」
材木座の問題発言に俺はすぐさまツッコミを入れた。
「ヒッキー、やっぱりって?」
「それはだな、今日俺が部室に来るのが遅れたのは知ってるよな?」
そう言うと、雪ノ下と由比ヶ浜は首肯した。
「遅れたのにはワケがあってだな。部室へ向かう途中、平塚先生に捕まって課題を職員室まで運んでその時にここの鍵を渡されたんだ」
制服のポケットから鍵を取り出して二人に見せる。
「なるほど、そういうことね」
「え?どういうこと?」
雪ノ下は「事件の謎がすべて解けた」とでも言うような顔になって、逆に由比ヶ浜は頭に「??」と疑問符を浮かべていた。
「それで材木座、どうやって中に入ったんだ?」
「まさかのスルー!?」
後で由比ヶ浜に教えてやるとして……。
俺が声をかけると、さっきから完全に空気となっていた材木座は待ってましたと言わんばかりにばさっとコートを力強く
その一連の動作は前に何度か図書館で見たことがある。その時は材木座のせいで、その日の図書当番に俺までゴミを見るような目で見られたのは今でも忘れない。……くそっ、思い出したら腹が立ってきた。
兎も角これはアレだ、自分で作った剣豪将軍という設定に入り込むための前触れだ。
「ふむ。
「その
「あ、はい……」
高笑いだったはずの材木座は雪ノ下の一言に身を縮こませた。飼い主に怒られるペットみたいだな。
「で、どうやって入ったんだよ」
まさか設定が現実にってわけじゃないだろうし……。
「あれ八幡?我への当たり強くない?」
「そんなことないぞ?ちょっと昔のこと思い出して腹が立っただけだから」
「そ、そうか……。どうやってここに入ったか?だったな。ただピッキングして入っただけだぞ」
「ねぇ、ピッキングってアレだよね……」
アホの子である由比ヶ浜でさえピッキングの意味は分かるらしい。
それにしてもピッキングか……。
「なぁ雪ノ下、ピッキングって簡単にできるもんなのか?」
「簡単にできないと思うわよ。ピッキングするにはそれなりの知識が必要なはずだし、それに知識があっても難しいのではないのかしら。……けど普段からピッキングをしていれば話は別なのだけれど」
どうやら雪ノ下も俺と同じ考えらしい。由比ヶ浜もまた雪ノ下の言ったことにうんうんと頷いている。
「い、いや違うのだ八幡!た、たまたま前にネットで調べた事があって、今日初めてやったらたまたま出来てしまっただけなのだっ!」
雪ノ下と由比ヶ浜に冷たい目で見られた材木座は俺に向かって弁解する。や、俺じゃなくてあいつらに弁解しろよ……。あとたまたまを強調しすぎて逆に怪しくなってるからな。
必死に弁解する材木座はもう完全に素だった。キャラを作ってるほどあいつのキャパシティは大きくなかったらしい。
ああ!もう見てらんないよう!材木座が可哀想すぎる。元を
とにかく雪ノ下と材木座を引き離そうと一歩進むと足元でかさりと何かが音を立てた。
それは部室の中で潮風によって舞っていたプリントだった。
拾い上げると、やたら難しい漢字がびっしりと羅列されていて、その黒さに目を奪われる。
「これって……」
俺はその紙から目をあげると部屋中を見渡す。四十二字×三十四行で印字されたそれは室内に散らばっていた。一枚一枚拾い上げて番号順に並べていきながら思う。
またか、と。
またあいつの書いた物語が読めるのか、と。
自然と頰が緩むのがわかる。
「ふむ、言わずとも通じるとはさすがだな」
材木座を無視して由比ヶ浜は俺の手の中にあるものに視線をやる。
「それ何?」
紙束を手渡すと由比ヶ浜はぺらぺらとめくり読み進めようとしたが、はぁと深いため息をつくと俺に戻してきた。
「これ何?」
「小説の原稿、だと思うけどな」
俺の言葉に反応して材木座は仕切り直すようにけぷこんけぷこんと奇妙な咳払いをした。
「
「何か今とても悲しいことをさらりと言われた気がするわ……」
「まぁ読むのはいいんだが、別に奉仕部に来なくても投稿サイトとかに
「それは無理だ。
……心弱ぇー。
でも確かに顔の見えないネット越しの相手なら──。
「明らかな駄作。読んだ時間を返してほしい」「主人公に作者が見えるようで気持ち悪くて無理」「星一つ。クソみたいな小説」「読む価値無し」とかなんとか
だから一般的に考えれば、俺たちと材木座くらいの距離の人間関係なら厳しい意見は出にくい。どうしたってオブラートに包んだ言い方にはなるだろう。あくまで一般的に考えれば、の話だが。
「でもなぁ……」
俺はため息交じりにちらりと横を見た。目が合うと雪ノ下はきょとんとしている。
「たぶん、投稿サイトより雪ノ下のほうが容赦ないよ?」
◇
俺と雪ノ下、そして由比ヶ浜は材木座から預かった原稿をそれぞれ持ち帰り、一晩かけて読むことになった。
家へ帰ると、見覚えのある黒塗りの高級車が家の前に止まっていた。
俺が家の前で立ち尽くしていると車の扉が開く。そして中から出てきたのは昨日会ったばかりで俺の初めての友達である雪ノ下陽乃だった。
「ひゃっはろー八幡くん」
そう言って陽乃さんは俺に手を振ってくる。
「ど、どうも」
さすがに手を振るのは恥ずかしかったので俺は失礼のないように会釈してから家に入る。
「ちょっとその反応はないんじゃないのかなぁ」
「ぐぇっ」
家に入ることはできなかった。
襟をガッと引っ張られて首が絞まって踏み潰されたカエルみたいな声が俺の喉から鳴る。……やべぇ苦しい。
「八幡くん、大丈夫?」
ゲホゲホと咳き込んでいる俺を陽乃さんは口では心配してくれてるが、目はたいへん笑っていらっしゃる。
絶対に「あははー蛙みたい。比企谷くんだからヒキガエルかなぁ」とか思ってるよこの人は……。誰がヒキガエルだ。
「大丈夫じゃないんで家に帰っていいですか?」
「駄目だよ、八幡くん」
「や、何でですか」
もう家の前なんだけど。数歩、足を出してドアを開ければ愛し妹のおかえりの声が聞ける所にいるんですけど。
「………約束」
「はい?」
陽乃さんがなにやらボソッと呟いたのだが声が小さすぎて聞き取れない。
「だ・か・ら!約束だってば!!」
……約束?
俺は陽乃さんが言う約束に心当たりがなかった。でも陽乃さんがぷりぷりと怒っているところを見るに、俺は陽乃さんと何かの約束をしたに違いない。
約束か。陽乃さんとの約束………埋め合わせ?
「……あ」
思い、出した。陽乃さんと約束しましたね、一週間前に。しかも俺の口から言ってましたね。
「あ、って何!?もしかして忘れてたの!?……へぇ、君から今度埋め合わせするって言ったのに忘れてたんだ。ふーん、そうなんだ」
陽乃さんは眉をひそめて頰を膨らます。
「い、いや忘れてたんじゃなくて、記憶から抜け落ちてたと言いますか……」
「それを忘れてるって言うんじゃないの」
ジト目で俺を見る陽乃さんの顔が怖い。
「……おっしゃる通りです。陽乃さんとの約束を忘れてた俺が悪かったです」
「本当に悪いと思ってる?」
「はい、思ってます。本当にすみませんでした」
俺を深く頭を下げる。それを見た陽乃さんは慌てふためいていた。
「は、八幡くん!?私そんなに怒ってないから、とにかく顔を上げて!!」
恐る恐る顔を上げ、陽乃さんの顔を見ると確かにさっきのご機嫌斜めといった感じは無く、いつもの表情に戻っていた。それを見てちょっとホッとする。
「でも怒ってるんですよね?」
まぁそれでも、だ。陽乃さんが言ったそんなに怒ってないとは、つまり今もなお怒っていることでもあるのだ。
「そうだね。女の子との約束を忘れるなんて最低って思ったよ」
「ぐっ……」
返す言葉がない。
「でーも……」
陽乃さんは一旦そこで区切って、一歩前に出て俺の方に寄ってくる。
「頭、撫でてくれたら許してあげるよ。友達だからね♪」
「友達の頼みなら仕方ないですね」
俺はそう言って陽乃さんの頭を撫で始めた。途中、陽乃さんが「生意気だなぁ」とか言ってた気もするがそれどころじゃなかった。
あの時彼女の見せた表情が、俺より年上の筈なのに、子供のようにあどけないものだったからだ。
第10話は一話完結にしようと思ってたんですが、オリジナル展開も入れたので前編と後編に分けて書きたいと思います。だってこの作品は八陽ですし、八陽の展開がなきゃ詐欺もいいところですので。
だから今回の話は前編です。
次の後編も読んでくれると嬉しいです。
どんな感想も受け付けます。
では最後に今回の話を書いてて思ったことは、 やっぱり陽乃さん可愛くね?です。