今回の話は原作でいうと、三浦と由比ヶ浜の揉め事があった昼休みです。
では、第8話どうぞ!
「だ〜れだ♪」
背中越しに伝わってくる柔らかな2つの感触、耳元で囁かれた悪戯っぽさのある声。
男子なら誰でも一度は女子にやってもらいたいと思う胸が高鳴るシチュエーションである。
だが、よく考えて欲しい。今の俺の状況を。めぐり先輩によって、生徒会室に閉じ込められ、そして次に視界を奪われ、耳元に謎の声を囁かれる俺。
こんな状況で胸が高鳴るだろうか。
答えは否である。こんな状況で胸が高鳴る男子はそういう気質がある奴だけだ。一般の男子は違うに決まってるはず…だよな?
結論を言おう。
……はっきり言って、めちゃくちゃ怖い。
怖いが俺はその謎の声……って言っても、最近電話した相手だけど。その人に返事をしない方が怖いと分かってるため努めて冷静に返事をする。
「にゃ、にゃんで、こ、こんにゃときょろに陽乃しゃんがいるんでしゅか!?」
……うん、冷静だった、冷静だったよ。頭の中は。
盛大に噛みまくった俺は陽乃さんから離れる。陽乃さんはというと、腹を抱えて笑っていた。
「あははは♪もう八幡くん噛みすぎだって。いやー、面白い反応が見れてお姉さん嬉しいなー」
「で、なんで陽乃さんは学校にいるんですか。大学はどうしたんですか?」
「八幡くんに会いたくて大学は休んじゃった♪」
なにその恋人の声が聞きたくて電話を掛けちゃった♪みたいなテンションで言われても何とも思わない。
……ごめんなさい、嘘です。一瞬ドキッとしました。だから、俺の頰をつつくのをやめてください。
「ちょ、ちょっと陽乃さん。恥ずかしいんでやめてもらえませんかね?」
「えー、どうしようかなー。これが結構ハマるのよ」
と言い、俺の頰をつつき続ける。
いやいや、頰をつつく行為のどこにハマる要素があるんだよ……。
「あっ、そうだ♪八幡くんもやってみる?」
陽乃さんは自分の右側の頰を俺に向けて言ってきた。
「っ///」
何も考えずに言ってるか、俺をからかって言ってるかのどっちかだろうと思った。いや絶対に後者の方だな。だって、頰を俺に向けている今も笑ってるし……。
「……い、いや、やりませんよ。そういうのはお友達とかにやってください」
あぶないあぶない。こういう事されると、うっかり勘違いして告白して3秒でフラれるところだった。いやフラれちゃうのかよ。しかも3秒って…。
「え?何言ってるの?私と八幡くんは友達でしょ。…………………今はまだね」
「へ?」
最後の方はよく聞こえなかったが、突然の陽乃さんの発言によって間抜けな声がでた。
俺と陽乃さんが友達?
「前までは友達って都合のいい道具かなと思ってたんだ」
都合のいい道具って。なにさらっと怖いこと言ってるんだよ…。
「でも今は違うよ。八幡くんに出会ってから、こうやって君と会話をしたり、一緒にいたりするだけ楽しいの。それに八幡くんの前だと雪ノ下家の雪ノ下陽乃じゃなくて、ただの雪ノ下陽乃でいられるの。きっとこういうのが友達なんだと私は思うんだ」
「それで八幡くんはどうなの?」
どうなの?ってつまり、友達かどうかって事だよな。
「え、えっと、俺は……」
今まで面と向かってそんな事を言われたことがなかったから、どう答えればいいかよく分からない。
「それとも八幡くんは私と友達じゃ……嫌?」
陽乃さんは目に涙を浮かべながら、上目遣いで俺を見てきた。
「うっ///」
やばい可愛すぎる。ていうか陽乃さん、間の使い方が上手すぎるだろ。こんな言い方されると何だか俺が悪いように思えてしまう…。
「そ、そんなことないです。俺も陽乃さんといると楽しいです。なんなら、もし一緒に学校を通えたら退屈しないだろうなと思うまであります。だから俺と陽乃さんは友達だと思います」
勢いで言ったものの、俺は自分の口から友達宣言をしたことに驚いた。
以前、平塚先生に友達の定義とは何かを聞いたときはまだ友達がどういうものなのかが分からなかった。でも陽乃さんの言葉を聞いた今ならそれが分かる気がする。
友達。それは誰しもが簡単に口にしている言葉である。でも友達とは何かを聞かれたら、その答えがたったひとつだけとは限らないと俺は思う。
もし俺がそれを聞かれたら、きっと今の俺ならこう答えるだろう。
友達とは"自分が自分でいられる相手"のことであると。
「なら、良かった。私と八幡くんは友達だね♪」
「はい。俺と陽乃さんは友達です」
比企谷八幡。高校2年生。人生で初めて友達ができました。これで俺はもうぼっちじゃない。いや、待てよ。学校では友達がいないから、結局ぼっちじゃね?
「じゃあさ、友達なんだからやってくれるよね♪」
「はい?」
え?何をやるの?
「まさかとは思うけど、自分で言ったこと忘れちゃった?」
と言い、陽乃さんは再び自分の右側の頰を俺に向けてきた。
……あ、思い出した。いや、できれば思い出したくなかった。たしか俺、あの状況を回避するために『そういうのは友達とかにやってください』って言っちゃったんだよな。あの時の俺、何言っちゃってんの。陽乃さんが友達になった今、俺が今の状況を回避するための言い訳ができなくなったじゃねえか。
ん?言い訳ができなくなった?
てことはまさか!?最初からそれが狙いでやったのか!?
あまりに自然な流れすぎて全然気づかなかった…。
「策士め」
「何のことか、さっぱり分からないなー」
陽乃さん、あなた絶対分かっててやったでしょ…。
「ほら八幡くん、やって♪」
と言い、陽乃さんは俺との距離を縮める。
近い近いいい匂い…てそうじゃない!
「あのですね、陽乃さん。さっきは友達同士なら大丈夫みたいなことは言いましたけど、それはあくまでも女の子同士の場合でですね。男女同士の場合はやらないと思うんですよ」
言い訳ができなくなった俺は、時間稼ぎをすることにした。
「そ、そうだよね。………こういうことするのは恋人同士になってからだよね///」
とどこか照れた様子で陽乃さんは言った。
「そ、そういうことです」
やべぇ。陽乃さんがそんな風に言うから、顔が熱くなってきた。
「あの〜、はるさんに比企谷くん?お楽しみのところ悪いけど昼休みが終わっちゃうよ」
と間延びした声が聞こえた。
間延びした声?
俺は陽乃さんと顔を見合わせ、声のした方に向くと、そこには生徒会長がいた。
「めぐり!?」
「めぐり先輩!?」
「うわぁっ!…もう、急にそんな大きな声出さないでよぉ」
いや無理だから。めぐり先輩、あなたいつからいたんですか?
「めぐり、いつからいたの?」
と陽乃さんは俺が疑問に思ってたことを言ってくれた。
「えっとね〜。……今来たばかりだよ」
とめぐり先輩は目を泳がせながら言う。
「「(嘘だ!!)」」
「そんなことより!」
「「(あ、話逸らした)」」
「比企谷くん。昼休み終わっちゃうから授業に遅れないようにね」
時計を見ると、授業が始まる5分前だった。
「あ、やべ。5限は体育だった…」
めぐり先輩が教えてくれなかったら、授業に遅れるところだった。
俺はめぐり先輩に礼を言い、生徒会室を出ようとした時、陽乃さんに呼び止められた。
「八幡くん、行っちゃうの?」
「そうですけど」
「ほら、はるさん。そんなこと言っちゃダメですよ。私も比企谷くんも次の授業があるんだから」
「だって…」
「だっても何もないです。比企谷くん、授業に遅れないようにもう行ってていいよ」
俺は今凄いものを見ている気がする。めぐり先輩があの陽乃さんに有無を言わせないでいるという光景。
もしかして、めぐり先輩って陽乃さんと同じくらい凄い人だったりするの?
「…分かりました。めぐり先輩、あとはよろしくお願いします」
「うん!はるさんは私にまかせて!」
わー、めちゃくちゃ頼りになる〜。
俺はめぐり先輩の言葉を聞き、体育の準備のために急いで教室に向かった。
「(陽乃さん、結局あなた何しに来たんですか……)」
と教室へ向かう最中に思った八幡だった。
◇
その日の放課後のことである。俺は雪ノ下と由比ヶ浜に昼休みのことについて質問責めにあっていた。
「ヒッキー、昼休みどこに行ってたの!」
「そうよ。比企谷くんと一緒にお昼ご飯食べたかったのに、なぜ教室にいないのかしら」
「えっ!?ゆきのん、あたしは…」
「生徒会室で魔王と闘ってた」
と俺は説明するのが面倒だったから適当に答える。
自分で言ってみてなんだが、あながちこの答え方は間違ってないと俺は思った。
「ふざけてないで真面目に答えてくれるかしら」
「ねぇ、ゆきのん。あたしは?」
ていうか、由比ヶ浜はなんでいんの?奉仕部の部員じゃないよね。
俺ガイル続vitaをプレイしてて思ったんですけど、めぐり先輩って陽乃さんとはベクトルは違いますけど、案外凄い人なんですよね。
次回はついに、材木座が登場します!材木座って俺ガイルssであまり悪い役として出てこないキャラですね。もちろん、この話で出てくる材木座もいい奴です。
感想をお待ちしております。
では次回も読んでくれる人がいたら嬉しいです!