幻想戦記クロス・スクエア   作:蒼空の魔導書

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祝!【ロクでなし魔術講師と禁忌教典】アニメ放送開始!!セリカの【イクスティンション・レイ】は圧巻でした・・・。

クロス・スクエアに登場させる予定のロクアカのキャラは今のところリィエルとアルベルトと原作第7刊で初登場したイヴの三人です、もしかしたらグレンとセリカも出すかもしれません。




激突、黄金タッグVS双竜コンビ!!

『DUEL standby』

 

「来てくれ、陰鉄!」

 

「へっ、いつでもいいぜ、どっからでも来やがれ!」

 

浮かび上がったソーサラーキューブが起動しソーサラーフィールドが展開された、石畳のバトルフィールド上で伐刀者である一輝が刀型の霊装を顕現しその柄を手にする、その右隣では出雲那が腰のベルトの右側に差す鞘に収められた二つの得物の内小さい方の刀の柄を左手で握り20mの間を挟んで正面に相対する二人組を凝視し不敵の笑みを浮かべている。

 

『3・2・1————』

 

「上等!アンタ等とオレ等、どっちが上か白黒ハッキリ付けてやるぜ!」

 

「・・・・・」

 

対するその二人———スティングとローグは二人共得物を持たずに丸腰で出雲那達と対峙している、ソーサラーキューブから発せられる機械音が試合開始のカウントダウンをする中スティングは今にも飛び出して行きそうな前傾姿勢で意気込み、その右隣に立つローグは無言で拳を握る。

 

昨年の鳳凰四武祭ベスト4【青学の黄金タッグ】VSベスト8【青学の双竜】、真に強いのはどちらか———

 

『———LET's GO AHEAD!』

 

試合開始!

 

「行くぜぇぇ!」

 

「ああ」

 

互いに意思疎通し合って気合いを入れる双竜、二人は先制を仕掛ける気満々だ、スティングは出雲那を、ローグは一輝を見据えてそれぞれ正面から向かって行こうと一歩を踏み出す・・・が———

 

「「っ!?」」

 

その瞬間二人は声を発する暇も無い程の驚愕を目にした、20m先にいた筈の出雲那と一輝が【抜き足】を使用して双竜を欺き一瞬のうちに二人の至近距離(クロスレンジ)まで距離を詰めて来ていたのだ。

 

ドッ!ガッ!という打撃音と共に出雲那の柄打ちがスティングの腹に突き刺さり、一輝の峰打ちがローグの顔面を打つ。一瞬の隙を突かれてキツイ先制をもらった双竜は石畳の床を弾むように転がり、場外手前ギリギリでスタイリッシュに受け身を取ってその場に片手を着き、片膝を着く体勢でなんとか堪えた。

 

———やってくれるじゃねーか、そう来なきゃな!

 

一瞬の出来事に額に冷や汗を掻くスティングであったが、引き締まった表情でまるで油断する素振りも無くこっちを見据える出雲那と一輝を見て面白いという笑みを浮かべていた。

 

「おいおい、出雲那の奴【どっからでも来やがれ】と言っておいて速攻かよ・・・」

 

「アハッ♪、スティングとローグ棒立ちでやられてるよ~」

 

出雲那と一輝の先制の一撃があまりにもスマートに入ったので外野の善吉達は様々な反応を示す、呆然と呆れる者もいれば愉快に笑みを浮かべている者もおり、ざわざわと少し興趣が沸き上がってきていた。

 

「相手の意識の間に自分の存在を刷り込ませる歩法・・・やるわね武内君、正直驚いたわ」

 

「イッキもしばらく見ないうちに初動のキレが良くなっているじゃないの、ふふっ、手合わせするのが一段と楽しみになってきたわ!」

 

明日香とステラの編入生コンビも感心を示していた、明日香は出雲那達の一連の動作を視て【抜き足】の原理を理解して微笑を浮かべ、ステラは昔より腕を上げていた恋人を目の当たりにして面白いと不敵の笑みを浮かべている。

 

「流石イッキとイズナ、昨年の鳳凰四武祭ベスト4ってだけはあるわ♪まったく相手の頭悪そうな金髪とネクラっぽい黒髪は舐めているのかしら?煌式武装も魔装錬金武装も通常武装すら持たない丸腰でイッキ達の相手をするなんて」

 

一輝達に感心を寄せるステラであったが彼女には解せない事があった、それは今彼等と対峙している双竜コンビが二人共に丸腰のまま戦闘を始めている事だ。星脈世代ならば煌式武装、伐刀者ならば霊装、魔導士ならば魔装錬金武装を手に戦うのが基本であり、クレア・ハーヴェイ等武芸者のような特殊な戦士も百武装のような何等かの武装を使用して戦闘に臨むものだ、出雲那が通常の刀を携えるように慣れ親しんだ武装を好んで持つ戦士も少数だが存在する、このように戦士なら誰しもが武装を用いて戦闘を行うのが常識であるのだがスティングとローグは何故か丸腰だ、故にステラは双竜コンビが一輝と出雲那を舐めて掛かっているのかと不快に思っていたのだ。

 

「ヴァーミリオン、別にスティング達は出雲那達を舐めているわけじゃねーぞ、素手で戦うのがアイツ等の戦闘スタイルなんだよ」

 

ステラの発言を聞いて善吉がそう補足してきた。

 

「素手で戦う戦闘スタイル?じゃあアイツ等武装がいらないくらい相当身体能力の優れた星脈世代だっていうの?」

 

「いや、身体能力が優れているのはその通りだけど、スティングとローグは二人共魔導士だよ、かなり特殊な魔法を使う・・・ね」

 

「特殊な魔法?」

 

ステラは疑問を口にする、すると今度はマイが双竜の二人について簡単に説明をし、ステラの隣で話を聞いていた明日香がどういう事なのと首を傾げた。

 

まあ、まずは見てみなよとマイが促すようにバトルフィールド上に目線を向けると、フィールド端のスティングがなにやら思いっきり息を吸い込む動作をして何かを口内に含むかのように頬を膨らませて息を止めるかのように口を閉じていた、そして———

 

「《白竜の咆哮》っ!!」

 

出雲那達に狙いを付けるよう見定めると床に四つん這いになるよう勢いよく体勢を倒すと同時に口から吐き出すように純白のレーザー光線が放たれた。

 

「なっ!?」

 

「口からレーザーを吐いたぁっ!!?」

 

余りにも非常識な光景に明日香は声を洩らして驚きの表情を浮かべ、ステラは驚愕のあまり動揺の言葉を口にする、他の皆は見慣れているらしく平静だが、編入生である二人にとっては人間が口からレーザー光線を吐くなんて日常では考えられない事だろう・・・まあ、そもそも異能者蔓延るこの時代に非常識もヘッタクレもないのだが・・・。

 

「うおっとっ!?」

 

出雲那は直線的に正面から飛んで来たレーザーを身体を傾けてギリギリ躱す。

 

「やっハァッ!!」

 

「くっ!」

 

続けてスティングは一輝に狙いを変えて永続的に口から放出しているレーザーを曲げ、薙ぎ払うようにレーザーが一輝を襲う。瞬時に身を屈めてレーザーをやり過ごした一輝であったが、そのすぐ後ろの床を弧を描くようにレーザーが着弾し、爆煙が一輝を包囲した。

 

「・・・・・」

 

視界を封じられた一輝は動揺せずに陰鉄を正眼に構えて冷静に周囲の気配を探り始める、この不測の事態にも冷静に対処する精神力の高さは流石と言ったところだ。

 

———誰かが右方向からこっちに向かって来ている、結構気配を隠すのが上手いね・・・いつも感情を剥き出しにしているスティング君がこれほど上手く気配を隠せるとは考え難い・・・つまり今この煙に紛れて僕に奇襲を仕掛けて来ようとしているのは———

 

もう一人の相方だろう・・・一輝が予測した通り案の定スティングの相方であるローグが勢いよく視界を覆う煙を突き抜けて来て一輝を奇襲した。

 

「《影竜の斬撃》っ!!」

 

ローグは激しく迸る黒い靄のような魔力を纏った右拳を一輝に繰り出し、拳圧で周囲を覆う煙が吹き飛ばされる。

 

「!!」

 

「甘いよローグ君」

 

事前に奇襲を察知していた一輝は取り乱す事無く澄ました表情でローグの拳を陰鉄で受け流し、切り返しでローグの拳を外側に弾き飛ばして隙を作る。

 

「くっ!」

 

「おっ、来た来た!」

 

「何っ!?」

 

その隙を狙って陰鉄が再度切り返されその刃がこの身を斬り裂く前にローグは瞬時にバックステップで後方に大きく跳躍して一輝から距離を取る、しかし跳躍した先には既に出雲那が回り込んでいたのでローグは眼を見開いて驚愕する。

 

「葵柳流帯刀術、《拡星雨(かくせいう)》!!」

 

出雲那は鞘に収められた刀を左手に取り右脚を軸にして身体を一回転させ遠心力を付けると、その勢いのまま鞘付きの刀を床に突き刺し内側から掬い上げるようにゴルフスイング、それによって砕かれて打ち出された鋼石製のバトルフィールドの破片が無数に前に打ち出され、拡散された無数の【白い石】の弾丸の嵐が豪雨のようにローグの背面に襲い掛かる。

 

「おっと、させるかよっ!」

 

そして無数の白い石がローグを撃ち抜く前にスティングがローグの壁になるよう立ち塞がった。

 

「なっ!?アイツやっぱ見た目通りバカなんじゃないの?幾ら相方を庇う為とはいえ魔力障壁一つ展開しないで肉壁になるなんて!!」

 

ステラはスティングの咄嗟の行動を目の当りにして叱咤するようにそう言う、無防備のまま壁になったところで自分がやられるだけだろうし、下手をすれば防ぎきれずに相方諸共無数の破片をモロにくらって共倒れ敗北が確定してしまうだろう、なのでステラはスティングが愚かな行動をしたと思ったのだ・・・だが、次の瞬間彼女の予想は裏切られる事となる、スティングは飛来して来る無数の白い石を前にしてペロリとごちそうを目の前にする子供のように下唇を一回舐める、そして———

 

「ガブガブガブッ!バキバキバキッ!ふーっ、喰った喰った、金掛かっているだけあってなかなか美味いじゃん」

 

一欠片もの残さず喰い尽くした、飛来して来た無数の【白い石】を・・・。

 

「な、なぁぁああっ!?食べちゃったぁぁああああああああっ!!!」

 

「あ~、やっぱりそうなるよな・・・」

 

「驚いて当然よ、私も初めてこれを見た時は恥ずかしいくらいに取り乱したんだから」

 

そんなメチャクチャな光景を目の当たりにしたステラは当然驚愕して取り乱していた、当然だ、人間が石を食してしまうなんて馬鹿げた現実すぐに受け入れられる筈が無い、善吉達はこれにも見慣れている為動揺はしていないが大声で発狂するステラを見て同情している、この異常な光景を初めて目の当たりにした時今のステラと同じくらい発狂したというアリサの発言からどうやら皆この光景に慣れるのに相当苦労したという事が窺い知れる。

 

一方、ステラと同じ編入生である筈の明日香は意外な事にこの光景に納得して平静であった。

 

「・・・成程、あの二人は《滅竜魔法》の使い手、《滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)》だったのね」

 

「なんだ柊、お前スティング達が使う魔法の事知ってたのか?」

 

「ええ、希少な《古代魔法(エンシェントスペル)》だったからこの学園にその使い手がいるとは思っていなくて正直さっきは驚いたけど」

 

「ちょっ!?アスカ!知っていたのなら前もって教えなさいよ!アタシだけ大声で叫んじゃってバカみたいじゃない!!」

 

明日香はスティングとローグが使う魔法の事を知っていたようであり、善吉がそれに軽く驚く、善吉の疑問に対して明日香が答えると発狂し終えたステラがその事を教えなかった明日香に文句を言った、同じ編入生なのに自分だけ恥をかいたのが気に喰わなかったのだろう。

 

「まったくもう!・・・それにしてもレーザー吐いたり石を食べたり、アスカ、あれ本当に魔法なの?」

 

「ええそうよ、竜の肺は己の属性の息吹を吹き、竜の鱗は己と同属性の攻撃を溶かし、竜の爪は己のチカラを纏う・・・ユークリフ君とチェーニ君の【滅竜魔法】は自らの身体を竜の体質へと変換させる太古の魔法」

 

「何それ凄そうっ!!?」

 

「凄そうなんじゃなくて凄いのよ、元々は竜迎撃用の魔法だしね」

 

「・・・竜迎撃用・・・」

 

竜(ドラゴン)———40年前の第二次遭遇時に開いた次元の狭間より現れた異生物最強といわれている大型の魔獣、その巨大な体躯は圧倒的な存在感を出し、その身体は世界最硬の希少鉱物(レアメタル)オリハルコンすら凌駕する硬度を誇る鱗に覆われ、その膂力から繰り出される一撃は山をも砕き、その口から吹く焔は全てを溶かす・・・そんな竜の体質に身体を変換させる【滅竜魔法】は全魔法の中でも最強クラスの破壊力を誇り、滅竜魔法を行使する魔導士を人呼んで【滅竜魔導士】と呼ぶ。

 

明日香が説明した滅竜魔法の内容を聞いてステラは内心揺れていた、彼女は霊力を行使して異能を使う【伐刀者】であって【魔導士】ではない、しかし彼女の使う伐刀絶技の名は《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》、【竜】の名を冠する異能なのだ、故にステラはスティング達の滅竜魔法に興味を示していた、自分の異能と彼等の滅竜魔法はどちらが強いのかと。

 

「そして滅竜魔導士は自らが持つ属性と同じモノによる攻撃を無効化し、同じ属性のモノを体内に取り込む事によって自らの魔力を回復、或いは増幅させる事が可能なの。私の見立てだとチェーニ君は【影】、そしてユークリフ君は最初【光】かと思っていたけれど白い鋼石の破片を取り込んだのを見て思い直したわ、彼の属性は【白】だろうとね」

 

「凄い・・・正解だよ明日香!」

 

「まー、【白竜】と【影竜】だしね~」

 

「へぇ~、そうなんだ・・・フフフ、この学園での楽しみがまた増えたわ」

 

「何を考えているのか想像できるけど、ステラ・・・貴方今一国の皇女様に有るまじき悪い顔をしているわよ・・・」

 

「一輝との馴れ初めを聞いてもしやと思っていたけれど、やっぱりステラも戦闘狂だったんだな・・・」

 

明日香が説明し終えてスティングとローグの属性を見た予測で言い当てるとマイが明日香の予測が合っている事に感心しトニーがのほほんとした表情で言う。ステラは明日香の言った滅竜魔導士の説明を聞いて戦うのが楽しみだと思っているのがバレバレな極悪な笑みを浮かべ、アリサとリィンがそれを見て顔を引き攣らせていた。

 

一同は再び視線をバトルフィールド上に向ける、現在中央に双竜コンビが背中合わせで立ち互いに正面にいる相手と睨み合っている状況であった、スティングの正面には出雲那、ローグの正面には一輝、彼等は中央の双竜コンビを両側から挟む形で出方を窺っている。

 

「ちぇっ、やっぱ簡単にはいかねぇか・・・」

 

「うん、上手く連携が決まったかと思ったけど流石スティング君達だね、パートナーのカバーも立ち直りも迅速で追い打ちを掛ける隙がない」

 

「へっ、当然だろ!オレとローグは青学の双竜だぜ!・・・まっ、今のは少しヒヤッとしたけどな」

 

微妙な笑みを浮かべて不服そうに言う出雲那と不敵な笑みを浮かべて双竜コンビのコンビネーションに感服する一輝にスティングは強がるようにそう言う、結構ギリギリだったのかスティングとローグの額から若干の冷や汗が流れ出ている。

 

「しかしオレ達が先制されるとはやっぱ強ェなァ・・・へっ!こうじゃなきゃ張り合いが無いぜ」

 

「ああ、様子見は終わりだスティング」

 

「だな・・・んじゃ、ギアを上げていくぜっ!!」

 

スティングとローグは出雲那と一輝の力量を見て二人を滅竜魔導士のチカラを解放して戦うに値する実力者だと判断する。

 

「《ホワイトドライブ》」

 

「《シャドウドライブ》」

 

双竜が魔力を解放する、スティングの身体が穢れの無い純白の光を纏い、ローグの身体からドス黒い闇が溢れ出す。出雲那と一輝は竜殺しのチカラを間近で感じ強烈な圧力によって若干畏縮するものの、待ってましたと言っているかの如く楽しそうに笑みを浮かべてそれぞれ得物を構えた。

 

「・・・いくぜっ!」

 

第二ラウンドの始まりだ、スティングの声をゴングに双竜が同時に正面の相手に向かって勢いよく駆ける。

 

「聖なる白き裁きをくらいなァッ!《白竜の鉄拳》!!」

 

「ぐっ!!」

 

白き光を纏う白竜の拳が出雲那に放たれる、出雲那は鞘に収められた刀を盾に防御するが最強クラスの攻撃力を誇る滅竜魔法がこの程度で止められるわけがなく、出雲那は刀の防御の上から殴り付けられたスティングの白拳の衝撃によって後方に吹っ飛んでしまい、今度は彼が場外ギリギリの位置に危なげに着地した、さっきの仕返しと言ったところか。

 

「くっ!・・・ハッ!!」

 

一方一輝は闇を纏ったローグの飛び蹴りを身を屈めて下に躱し、脚を振り切った隙を狙って陰鉄を横薙ぎに振るうのだが、それはローグの胴を両断できずに空を斬った、ローグの身体が身に纏う闇と同化した為に彼の本体を捉える事ができず闇だけしか斬れなかったからだ。

 

「影は捕らえる事ができない」

 

闇を纏うローグは同化と実体化を使い分けて一輝を翻弄し攻め立てる、闇と同化している間はその刃を届かせる事は適わない。

 

「これは魔力増幅の術!?滅竜魔導士が使用するのは初めて見るけれどこんなにも凄まじいなんて・・・」

 

「イッキィーーーッ!!がんばれーーーーーっ!!!」

 

「双竜の必勝パターンに入りやがった!やべーぞ出雲那!一輝!!」

 

「これは二人の勢いを止めないと出雲那達の勝利は厳しいな」

 

「フンッ!だらしねぇな、オレ様なら逆にパワーで押し返しているところだ」

 

強大なパワーと捕らえる事ができない闇によって一方的に攻撃し出雲那達を追い詰めていく双竜、出雲那と一輝は防戦一方だ、あまりの苛烈さに外野の明日香達もヒートアップしてきている。

 

————このままじゃマズイな・・・だけどローグ君は攻撃する時に実体化するみたいだね、ならその実体化する攻撃の瞬間を見切って彼を捕らえれば!

 

攻撃が通用せず防戦一方な戦況でも黒鉄一輝は冷静に闇に紛れるローグを捉える方法を模索していた、思い出せ、痛みを受けた順序と方角を、痛みの深さを、角度を・・・そこに闇の中の影竜に刃を届かせるヒントがある。

 

「これで決めるぜっ!!」

 

一方、圧倒的なパワーによる息の吐く暇もない猛ラッシュで出雲那を完膚無きままに攻め続けていたスティングは重なるダメージによって動きが鈍くなった出雲那にとどめを刺す一撃を放とうとしていた。

 

「白き竜の拳は炎さえも灰塵へと還す———《滅竜奥義(めつりゅうおうぎ)》——」

 

握りしめる右拳に膨大な魔力が収束し、純白の極光が奔流となって白竜の右拳を包み込む・・・その魔法、竜の鱗を砕き、竜の肝を潰し、竜の魂を狩り取る・・・これぞ【滅竜奥義】———

 

「———《ホーリーノヴァ》ァァアアアアッ!!!」

 

満身創痍でフラフラな出雲那に激しく迸る純白の極光の奔流を纏ったスティングの右拳が迫る。

 

「影なる竜はその姿を見せず、確実にエモノを狩る・・・」

 

一方ローグは闇に身体を同化させた状態で眼を瞑り意識を集中させている一輝の背後を取っていた、獲物を引き裂かんと闇の中からその右腕を伸ばし、竜の爪が煌いた。

 

如何に魔術師や伐刀者とて竜の一撃などまともに受けるものなら間違いなく粉微塵に吹き飛んでしまうだろう、ソーサラーフィールドによって非殺傷ダメージとなる為実際に粉微塵になってしまうわけではないが少なくとも苦しまず一瞬で意識を刈り取られるのは確実だ、外野の明日香達も決着の瞬間に息を呑む、青学の黄金タッグ万事休すか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これを待ってたぜ」

 

「確実にエモノを・・・何だって?」

 

「「っ!!?」」

 

白竜の拳が瞬雷の顔面を砕き影竜の爪が無冠の剣王の背中を引き裂く直前で出雲那と一輝はこれを待ってましたと笑った。瞬間出雲那が今まで使わなかった【伊邪那岐】という文字が刀身が収められた鞘に刻まれた太刀を左手に取りそれを鞘に収めたままの状態で右腰から左斜めに斬り上げるように振るい弧を描く軌道で極光迸るスティングの右拳の側面を叩き出雲那の左肩の横の空間に拳の軌道を逸らす。それと同時に一輝が迂闊にも闇から姿を現したローグの右手首を振り向かずに片手で掴み取った。決まったと思われた一撃が止められた事態に双竜コンビの眼が見開かれてその顔が驚愕に染まる。

 

「葵柳流抜刀術、《朧撫子(おぼろなでしこ)》!!」

 

スティングのホーリーノヴァを逸らした出雲那は太刀を振るった勢いを殺さず左脚を軸にしてすかさずその場で回転し太刀を床に捨てる、一回転すると右腰のベルトに差してあるもう一つの刀の柄を握り、大振りで右拳を伸ばしきっている無防備な体勢のスティングの懐に左脚を踏み込んで刀を抜刀———

 

「がはぁっ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

前に重心が向いていた為にスティングは出雲那の一閃を躱す事ができず左腰から右胸にかけて逆袈裟に斬られ、同時に一輝がローグの右手を引き影竜を闇から引きずり出しそのままローグを陰鉄で一閃した。宙に放物線を描き床に倒れ摩擦で煙を巻き上げてスライドしてバトルフィールド中央で互いの頭が衝突する双竜コンビ、身体を斬られた痛みよりもこの衝撃の方が絵面的に痛そうだ、二人共仰向けに倒れたまま激突した頭を痛そうに手で押さえて悶絶している。

 

出雲那達がスティング達の決定的な一撃にカウンターを決めて返り討ちにした事により外野の明日香達も終わらなかったかと胸を撫で下ろしていた。

 

「マジかよ、アイツ等あれを躱しただけに飽き足らず一瞬でやり返しやがった」

 

「さすが昨年の鳳凰四武祭ベスト4だね、出雲那も一輝も凄いや」

 

決定的な一撃にカウンターを決めた出雲那達に善吉が呆れるように驚きマイが二人の実力に改めて感服する、他の皆も同じように圧倒されていて開いた口が塞がらない表情をしていた。

 

「【葵柳流】・・・聞いたことが無い流派ね・・・」

 

明日香は腕を組んでそう呟く、先程から出雲那が使用している剣術が珍しくて聞き覚えのない流派だったので気になったからだ、それを見兼ねたリィンが葵柳流を知らない彼女の気を使ってさり気なく説明する。

 

「【葵柳流】———《剣姫(けんき)》の名で知られる帝国ヤマト出身の剣豪《葵柳流美(あおやなぎ るみ)》が創設した【帯刀術】と【抜刀術】の流派。その独特な型から必然的に葵柳流で使う得物は東洋の【刀】に分類される物を使用する。流派の真髄は《螺旋》、【回転】の動作による武術の立ち回りで俺が修めている【八葉一刀流】にも取り入れられている武術の形の一つなんだ。全ての基本であり応用でもあるこの型から派生する技は無数に存在し、【螺旋】を極め《無》を操る者は全ての武術の究極にして到達点、《理(ことわり)》に至るとされている。【葵柳流】はそんな【螺旋】の集合体である剣技で、理に至った者はこの世で最強の剣豪【剣王(けんおう)】になると謳われているけど、葵柳流を修めた剣士で理に至れた者は流派の創設者である葵柳流美も含めて未だ嘗て一人もいないらしい・・・」

 

【理】———それはこの世の全ての事象を意味する、故にこの世の全ての【形】と【流れ】を理解し自らに取り入れる事ができる者は《理に至る者》とされているのだ。過去に理に至った武術家は【八葉一刀流】の創設者であるユン・カーファイ老師を含め世界に数える程しか存在しない。

 

「《究極の理に至る為の剣》、それが葵柳流の意味なんだそうだ、出雲那は帝国ヤマトで暮らしていた時代に葵柳流の門を叩いて門下に入り葵柳流の修練に励んできたと言っていたな、帝国ヤマトには名高い名門の剣の流派が多数存在する国だが葵柳流は知名度が低くて門下生も限りなく少ないんだ、聞き覚えが無いのも無理はないな」

 

「ふぅんなるほど、教えてくれてありがとうシュバルツァー君」

 

「なに、礼には及ばないさ、聞きたい事があったら何でも言ってくれ」

 

「まったく、リィンったらお人好しなんだから・・・」

 

礼を言う明日香に対して真顔で謙虚に返すリィン、そんな彼の真面目な態度にアリサは呆れ、明日香は微笑む。

 

「ふふふ、それはそうと黒鉄君もなかなかの胆力ね、普通チェーニ君の影の魔法のような得体の知れないチカラを向けられたら畏縮して怯むものだけど、彼は冷静さを見失わずに落ち着いて対処していたわ」

 

「当然よ、何たってイッキはアタシの彼氏で昔から追い続けて来た背中なんだから」

 

明日香は今度は一輝に注目した、するとステラが自慢気に鼻を鳴らしてそう言う、そして彼女は自分の彼氏の話が止まらなくなって熱く語り出した。

 

「フフッ、精神力の強さもイッキの強みでもあるけれど、彼の一番の強みは【見るもの全ての本質を暴く照魔鏡のように研ぎ澄まされた洞察眼】よ、たぶんイッキはさっきまでネクラ男の猛攻を最小限のダメージに抑えるように上手く受け流しながらネクラ男の動きを観察していたんだと思うわ、そしてそこから相手の思考や行動パターンを分析してネクラ男の魔法を見切ったのよ、さすがアタシのイッキ!まったく追いかけ甲斐のある背中だわ!」

 

「あはは・・・」

 

熱く語るステラの話を聞いて苦笑いをする明日香は目線をバトルフィールド上に戻す。

 

痛ってぇと頭を手で摩りながらゆっくりと立ち上がるスティングとローグ、どうやら戦闘続行は可能のようだ、さすが滅竜魔導士というべきかさっき斬られた時に受けた激痛は既に治まっているようだった、やはり身体を竜の体質に変換させる滅竜魔導士はソーサラーフィールドの影響下による非殺傷ダメージだと剣一撃を入れたところで倒すには至らないようだ。再びフィールド中央で背中合わせになる形で立ち上がった双竜は先程と同じように互いの正面の相手に向き合う、ローグの正面の一輝は陰鉄を正眼に構えて隙を見せず、スティングの正面の出雲那は先程【朧撫子】でスティングのホーリーノヴァを受け流した直後に床に捨てた【伊邪那岐】という文字が刻まれた鞘に収められた太刀を拾い上げてそれを右腰に差し、もう一つの刀の柄に手を添えた抜刀体勢でスティングと向き合った。

 

ふと明日香は疑問に思った———

 

———武内君、何であの時太刀を捨ててもう一つの刀に持ち替えて抜刀したの?あれは太刀をそのまま抜刀した方が確実にワンテンポ速く攻撃が届いたわ、それなのに得物を持ち替えるなんて効率が悪過ぎる、さっき人吉君達の決闘を観ていた時に武内君が話していた戦闘考察からして彼がそれを解っていないなんて事は考え難いわ、一体何故?

 

出雲那が【朧撫子】でホーリーノヴァを受け流した際にそのまま太刀を抜かなかったのが明日香は理解できなかった、今思えば出雲那はシグナムと決闘した時もクレア達風紀委員と決闘した時も一切その太刀を鞘から抜き放とうとしなかった・・・。

 

「・・・へっ!どうやらこの勝負、お互いマジにならないとケリが付きそうもねぇな!」

 

沈黙を破った出雲那が急に強大な電撃を身体中から放出し不敵の笑みを浮かべてそう言う、このまま戦闘を続けてもジリ貧だ、なので彼はそろそろ本気で戦り合おうと言ったのだ。

 

「おっしゃあぁぁっ!んじゃあやるか!・・・出雲那、アンタがその太刀を抜くわけにはいかないのは知っているけど、魔術師としての異能は全開で来いよなぁっ!!!」

 

出雲那の提案に触発されてスティングが両脚を大きく開いて腰を落とし滅竜魔導士が秘める膨大な魔力とチカラを体内から引きずり出す、額や腕に鱗のような痣が浮かび上がり、身体中から溢れ出る膨大な魔力が激しく輝き出した。

 

「・・・いくぞ、一輝!!」

 

「臨むところだよローグ君、僕の最弱(さいきょう)を以って、君達の【龍殺しのチカラ(さいきょう)】を打ち倒す!」

 

出雲那が太刀を抜くわけにはいかないとは一体どういう事なのだろうか?・・・それを考える暇も無くローグもスティングと同じように身体の部分部分に鱗のような痣を浮かび上がらせ膨大な魔力を放出し、一輝は宣言すると同時に青白い焔のような霊力を身体中から放出し始めた。

 

「イッキ、【アレ】を使うつもりね!」

 

「おお~、《ドラゴンフォース》だ~、アハハ♪空気がビリビリ痺れるぅ~!」

 

「ちょっ!?アイツ等摸擬戦場を壊す気か!?マジでアイツ等が暴れたらヤバイ事になる!!」

 

外野の空気も最高にヒートアップしていた、善吉を始めとした常識人は出雲那達が本気で戦闘を繰り広げた場合の大惨事を思い浮かべて慌てているが、その他の非常識人共は熱狂して盛り上がっている。

 

「へっ!んじゃあ・・・行くぜぇぇええええええええっ!!!」

 

出雲那が放出する電撃が地を穿ち、一輝が解放した霊力と剣気が大気に圧力を掛け、スティングとローグが発する竜の魔力が空を唸らせ、両雄はいよいよ本気で激突する!!最終ラウンドの始まりだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盛り上がっているところ悪いんだけど・・・・その決闘は中断してもらおうか」

 

やる気の感じられない男の声が響いた瞬間、宙に浮かぶソーサラーキューブをどこからともなく飛来してきた弾丸が貫いた。

 

「・・・えっ!?」

 

「何?突然何が起こったの?」

 

「ソーサラーフィールドが解除された?」

 

突然の事態に困惑する一同、ソーサラーキューブには外部からの攻撃を受けると緊急停止する機能がある、その為バトルフィールド全体を包み込んでいたソーサラーフィールドが解除されたのだ。

 

「おいっ!一体どこの誰だよ!?」

 

「面白くなってきたところを邪魔しやがって!出て来いっ!!」

 

出雲那とスティングが怒声をあげて叫ぶ、すると明日香達が居る場所の後方の内壁(フェンス)の上にある観客スタンドからまた声が聴こえてきた。

 

「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー、少しやかましいんじゃないの?・・・いや訂正、めっちゃやかましいわホント」

 

一同は声が聴こえて来た観客スタンドを見上げる。

 

「・・・テメェは・・・生徒会の・・・」

 

いつの間にか人が居ない筈の観客スタンドのど真ん中に肩掛けベルトが付いたスナイパーライフルを携えたボサ髪で死んだ魚のような眼をした男子生徒が立っていた、そう、生徒会長の東堂刀華に出雲那とマイを連れて来るようお使いを命じられたザ・社畜、生徒会庶務【千種霞】である。

 

「本当は決闘が終わるまで待ってもよかったんだけど・・・俺、この後の仕事が溜まっているんだよねぇ、というわけで高等部二年A組の武内出雲那とマイ・ナツメ、生徒会長東堂刀華の命により生徒会室に連行しま~っす」

 

霞は片腕を小さく上げて気怠そうに全員にそう告げる、出雲那はそれを聞いて自分が置かれた状況を察して顔面蒼白となるのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長っ!戦闘するだけの回な上にただの練習試合なのに一万字を超えてしまった・・・。

リィン「俺達外野の会話も結構書いていたからな、当然と言えるかもしれないが、上手い他作者はそれでも短く纏めているぞ」

アリサ「書き手としてまだまだ未熟な証拠よ、工夫を心掛けて地道に上達を目指すことね」

面目次第もございません・・・。


さて、今回出雲那の使う謎の流派【葵柳(あおやなぎ)流】の概要が明らかになりました!この流派は軌跡シリーズ理論に基づいて自分なりに考えたオリジナル剣術です。

リィン「確か【螺旋】の動きを基本とした【抜刀術】と【帯刀術】だったな・・・テイルズのアスベルと同じ戦闘スタイルだが・・・」

だってカッコイイじゃないですか♪

アリサ「そんな理由で考えたんかいっ!!」

リィン「ははは・・・でも話を聞く限りだとまだまだ謎の多い流派だな、創設者の【葵柳流美】は【剣姫】の称号を得るまでに具体的に何を成した人間なのかとか、八葉一刀流のような【段位】とかはあるのかとか」

アリサ「出雲那が葵柳流の門下生になった経緯も知りたいところね、ちょっと気になるし」

それは今後のお楽しみ!それではまた次回!!




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