幻想戦記クロス・スクエア   作:蒼空の魔導書

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ツッコミどころが多すぎるであろう問題作の始まりです!


壊れた非常識な日常編イメージOP『Hello,World!』
TVアニメ『血界戦線』OPより


壊れた非常識な日常編
非常識な日常が壊れた夜


今より凡そ百年前、後に《第一次遭遇(ファーストアタック)》と呼ばれる事となる世界中に大多数の謎の隕石が突如として降り注いだ未曾有の大災害《落星雨(インベルティア)》によって齎された未知の元素《万応素(マナ)》の影響を受け、人々は人間の内に秘められたチカラを覚醒させた。

 

 

全ての生物が持つ潜在エネルギー————《気力》

 

一部の才能のある人間が《魔核》という名の特殊な体内器官を先天的に持って生まれ、そこから発せられる事象に干渉し超常現象を発生させる特殊エネルギー———《魔力》

 

精神体に干渉し霊的に様々な事象を発生させる魂の奥底に在る精神エネルギー————《霊力》

 

 

これらは人間が持つ《三大源力》と名付けられ、世界は暗黒の時代を迎える事となる。

 

人間という生き物は手に入れたチカラを使わずにはいられないものだ。人々はそのチカラを巡り、世界を巻き込む規模の争い《超常大戦》を引き起こし自分達の欲望の為に世界を破壊し尽くした。

 

そんなある日、今より約四十年前にあたる時期に再び【落星雨】が世界に降り注いだ《第二次遭遇(セカンドアタック)》と共に多くの外来生物が飛来、更には再び世界に分布した膨大な万応素が異次元の扉を開きそこから多くの異生物や悪霊が世界中に出現しそれらが世界中の人々を襲い、蹂躙し、皮肉にもそれが【超常大戦】を終結させたのだった。

 

生き残った人々は大戦の終結と共に今までの遺恨を水に流して結託し、世界を蹂躙する怪物達の大部分を掃討した、だがそれでもなお怪物達が居座るこの世界は平和が戻ったとは言えなかった。

 

人々は世界中に跋扈する残った怪物達の掃討やこれからの未来に三度飛来するかもしれない【落星雨】に備える為、若き戦士達を競わせて育成する都市を二大大国の一つ《武闘王国ダイランディア》より南に位置する正方形の形をした島の上に建設したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語はその都市—————戦島都市(せんとうとし)《スクエア》に集い、互いに競い高め合う少年少女達の戦いの物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おい、《決闘(デュエル)》しろよ」

 

勇ましい凛とした女性の声が微風に乗って夜空に響き渡る。

 

戦島都市スクエアは東西南北四つのエリアに区分けされており、この場所はその内の東エリアの一角であるアーケード街だ。

 

煉瓦が敷き詰められた道に煉瓦の建物、そして様々な草花で彩られたアーチが道の至る所に設置されているという安らぎを感じるこの場所でフード付きパーカーを着た高校生だと思われる少年がランニングをしているところに一人の女性が現れてその少年の行く手を阻んでいたのだった。

 

「・・・懲りねぇなアンタも、何度ブチのめされりゃ気が済むんだ?」

 

「無論私が勝つまでだ、他者に後れをとったままでは騎士の名折れだからな・・・それに、敗北したままおめおめ引き下がれる性など私は持ち合わせてなどいない、お前だってそうだろう?」

 

「・・・へっ!そうだな、負けっぱなしはムカつくしな!」

 

啖呵を切る女性に対して不敵の笑みで返答した少年はパーカーのポケットから表紙に蒼い竜が描かれている手帳のような小型端末を取り出して開き起動すると端末のディスプレイからルーン文字が模様のように細かく刻み込まれた球体のモニュメントが飛び出し空中に浮かんだ。

 

「なんだなんだ?決闘か?」

 

「こんな夜中におっぱじめるとか元気が有り余ってるわね~」

 

「いいぞ、やれやれぇっ♪」

 

モニュメントが空に浮かぶと周りに多くのギャラリーが集まって来た。世界の災厄に対抗する戦士を育成するこの都市では都市の中ならどこでも自由に戦闘を行う事が許されている、故に誰かが戦闘を行いそれが見世物になる事などこの都市では日常茶飯事な風景なのだ。

 

ただし都市としての秩序があるので【決闘】を行う際にルールが存在する、決闘するにあたり攻撃による殺傷ダメージが精神ダメージになる非殺傷フィールド《ソーサラーフィールド》を展開するモニュメント《ソーサラーキューブ》を起動し、展開されたソーサラーフィールドの結界の中で戦闘する事が義務付けられているのである。この都市は戦士を育成する場であっても殺し合いをする場ではないのでこれは戦闘によって死人が出ないようにする為の処置である(場合によってはショック死する事もあるが)。

 

『DUEL standby』

 

空中に浮かぶソーサラーキューブが起動しそこから機械音声が発せられるとソーサラーキューブを中心にドーム状の結界が展開されて二人はその中に入って20m距離を空けて互いに向かい合い戦闘準備を始めた。

 

「来い!我が魂の焔の魔剣《レヴァンティン》っ!!」

 

女性が何もない空間から片刃の刀身の剣と鞘を取り出して剣を上段に構えた、鮮やかな桃色の髪をポニーテールに束ね、射貫くような鋭い目線で目の前の少年をその双眸に捉えるその姿は中世の騎士のような勇ましさを感じさせている。

 

「へっ!新学期が始まる前の肩慣らしとしちゃあ丁度いいぜ!」

 

対する少年は腰のベルトに差している二つの得物の内【伊邪那岐】という文字が刻まれた鞘に収められた太刀より一回り小さなもう一つの刀の柄に手を添えて不敵な笑みで女性と向かい合う。前髪に黄金色のメッシュが入ったツンツンとした黒髪が微風で揺らめき、額に身に付けた青ふちのゴーグルと170cmくらいの低身長の所為で生意気そうに見えるものの、全く物怖じせず相手を真っ直ぐと見据えるその夜空と同じ色の瞳からは全てを撃ち倒す轟雷のような強い意志を感じさせていた。

 

『3・2———』

 

周りの緊張感が高まりソーサラーキューブが戦闘開始前のカウントを開始する・・・互いに戦士である以上情けは無用———

 

「《流離の烈火の将》《八神シグナム(やがみ しぐなむ)》——」

 

「《青竜(せいりゅう)学園》高等部二年《武内出雲那(たけうち いずな)》——」

 

『1————LET's GO AHEAD!』

 

「「推して参る!!」」

 

戦闘開始!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・夜だというのに騒がしいわね、これが戦島都市スクエアか・・・」

 

東エリアアーケード街より約2km離れた人気の無い高台、そこに建ち並ぶ無数の街灯の内の一つの上に驚異的な跳躍力で跳び乗って立ちアーケード街の一部に展開されたソーサラーフィールドを見据えている一人の少女がいた。

 

面積の少ない足場の上に一切の体勢の乱れもなく毅然と立つその少女は恐らく今アーケード街で戦闘を始めた出雲那と同じぐらいの年齢だろう、美しく整った亜麻色の長髪が背景の満月の光に照らされて際立ち、歪みの無い碧色の瞳は確固とした強い意志を感じさせる。

 

「あの辺りみたいね・・・成程、強い《霊圧》を感じるわ・・・」

 

少女は手に持った携帯端末を確認してそう呟くと街灯の上から大きく跳躍して建物の上を乗り継ぎ、ソーサラーフィールドが展開されている場所に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《紫電一閃(しでんいっせん)》っ!」

 

「うぉっとっ!」

 

シグナムが振るう紫炎の剣が煉瓦の地面を爆砕し発生した衝撃波が近辺のアーチを薙ぎ倒す、腰に差す二つの得物を未だにどちらも鞘から抜かない出雲那は弧を描く軌道で後退して紫炎の剣を回避し10mの高さがある煉瓦の高台の上に跳躍して跳び乗り衝撃波を回避する、その動きは凄まじく速く普通の人間の眼では捉える事は適わない速度だ・・・普通の人間ならばの話だが・・・。

 

「フッ、流石は《星脈世代(ジェネステラ)》だ、身体能力では敵わんか・・・」

 

「ほざけよ!テメェ並の星脈世代より動けるだろうが!」

 

下方から見上げて気分良さそうに称賛するシグナムに皮肉を言うなと返す出雲那、今二人が発言した【星脈世代】とは【落星雨】が世界中に散布させた【万応素】の影響で誕生した新人類であり【三大源力】の内全ての生物が持っている【気力】を先天的に実用可能な域の量を持って生まれた者をそう呼ぶ、気力は三大源力の中で最も身体強化に長けたチカラである為生まれながらにしてそれを多く保有する【星脈世代】は他の人間より頭二つ三つも飛び抜けて驚異的な身体能力を発揮できる、気力は向上性が低い他の二つのチカラと違って身体を鍛えればその分保有量が増えるので普通の人間でも鍛練や経験を積んで鍛えぬけば強力な気力使いになれるのだが、いかんせん最初から達人と言われる通常の人間と同等の気力を持って生まれる星脈世代は他とはスタート地点が違う、故に星脈世代は身体能力最強と認識されているのだ。

 

「威勢がいいのは結構だが・・・そんなところに退避したところで無駄だ!レヴァンティン、シュランゲフォルム!!」

 

レヴァンティンの柄にある弾薬の補給口を開き一発の弾薬装填したシグナムがレヴァンティンを上に掲げると同時に弾薬を発砲する、それと同時にレヴァンティンの刀身が蛇の様に【伸びた】。

 

「チッ!《法剣(テンプルソード)》かよ!」

 

無数の刃節に別れて下から襲い掛かって来るレヴァンティンの刀身を正面に見える建物に向かい跳躍して躱す出雲那、しかし無数の刃節を一本のワイヤーで通して伸ばす【法剣】は伸縮湾曲自由自在だ、数秒前まで出雲那がいた場所を通過した刀身が意志を持ったかのように曲がり出雲那を追跡する。

 

出雲那は空中で身体を捻り小さい方の刀を鞘に収めたまま手に取って振るい後方から迫り来るレヴァンティンの刀身を弾き返すのだが、弾いた刀身はすぐに方向を変えて間髪入れずに出雲那を立て続けに襲い掛かり出雲那に反撃の隙を与えない。

 

「ふっ!はっ!身体能力はオレが上でも!アイツのような《魔導士(ウィザード)》は高火力が厄介だからな!速攻で行くぜっ!!」

 

出雲那はレヴァンティンの刀身を弾き返し続けながら着地地点の建物の側壁を蹴って加速し、周囲の建物を利用して空中を凄まじい速さで縦横無尽に跳び回り蛇のように追撃して来るレヴァンティンの刀身を振り切ってシグナムの許へと向かい———

 

「くらえっ!」

 

シグナムの前にある街灯の上を蹴って大きく跳躍しそのまま急降下して特撮ヒーローの如く跳び蹴りを彼女に叩き込みに行く。

 

———法剣の弱点は連結刃を伸ばしている間は使用者が無防備になる事だ、不用意に伸ばし過ぎたな!

 

出雲那は勝利を確信してほくそ笑むと同時に跳び蹴りをシグナムに叩き込んだ、星脈世代の強大な気力で強化した凡そ数十トンの重さがある蹴りによる衝撃で爆発するように地が陥没する、こんな並外れた一撃常人が受けて無事な筈が無い・・・そう、常人なら——

 

「今日はそう簡単には行かんぞっ!ハアッ!」

 

「チッ!」

 

出雲那の渾身の跳び蹴りはシグナムが片手に持った鞘によって防がれ彼女はそのまま鞘を振り上げて出雲那を上空に弾き飛ばした、数十トンの蹴りを弾き返すシグナムの膂力も大したものだが蹴りを受けて罅一つ生じなかった彼女の鞘も相当な強度があるようだ。

 

シグナムのレヴァンティンは【魔力】制御をスムーズに行える《魔装錬金(ミスリル)武装》である、彼女のような生まれながらにして【魔核】という器官を体内に持ちそこから練り上げる魔力を使って事象干渉をし様々な超常現象を発生させる《魔法》を使う者達は【魔導士】と呼ばれ、一部例外は存在するものの魔導士の大半は魔装錬金武装を所有する保管庫用の異空間に所持していて戦闘時に《換装魔法》を使って異空間から魔装錬金武装を取り出して使用するのである。

 

「今日こそ勝たせてもらうぞ、武内出雲那っ!!」

 

シグナムはいつの間にかレヴァンティンの刀身を戻して鞘に収め抜刀の構えをして宙に舞う出雲那の姿をその鋭い双眸に収めていた。

 

「やばっ!?」

 

「《飛竜一閃(ひりゅういっせん)》っ!!!」

 

空中に投げ出されて大きな隙を見せた出雲那に向けてレヴァンティンの連結刃が鞘から抜き放たれ砲撃の様な一撃が炸裂した、炎熱付加の爆炎が周囲を爆砕し生じた衝撃波が周囲にある煉瓦造りの建物を半壊させる。

 

「きゃぁぁああああ!?」

 

「うおっ!凄ぇ風だ!飛ばされそうだぜ!」

 

衝撃波はソーサラーフィールドの外にいるギャラリーにも届いており、突風の被害を受けて騒ぎ立てる人達の声がシグナムが放った一撃の凄まじさを物語っていた。

 

この威力にこの規模・・・どうやらレヴァンティンの鞘には魔力を圧縮して事象干渉力を底上げする《縮退魔力》を精製する《魔力縮退炉》としての機能があるようだ、鞘の中で精製した縮退魔力を受け取った刀身は抜き放たれると同時に膨大な縮退魔力を炎熱に属性変換付与して纏い一気に伸ばして空中の出雲那を襲い直線上にあるモノを全て一瞬にして貫いたのだ。

 

「・・・勝った、遂に勝ったぞ!!」

 

正面を覆う爆炎と舞い上がる粉塵の中で歓喜の声をあげるシグナム、手応え有りといった表情をしている・・・だがその刹那、一陣の突風が吹き荒れて爆炎と粉塵を吹き飛ばした。

 

「《葵柳(あおやなぎ)流》帯刀術———《櫟風車(くぬぎふうしゃ)》っ!!」

 

「何ぃっ!!?」

 

爆炎が吹き飛ぶと同時にシグナムが目にしたのは出雲那が空中で身体を捻り上下反転して頭を支点にしアクロバティックに横回転して伸ばされたレヴァンティンの刀身の腹を踏みつけるように横から蹴り付けて刀身を逸らしている光景であったので彼女は驚愕した、飛竜一閃の剣速に対応されただけでなく一蹴りで爆炎どころか刀身に纏っていた炎熱ですら消し飛ばされていたからだ。

 

「惜しかったな!もう少し右にズレていたら防げなかったのによ!」

 

「くっ!」

 

「様子見は終わりだ!一気にケリを着けてやるぜっ!!」

 

悔しそうに苦虫を噛み潰したような表情をするシグナムを見据えて出雲那は決着宣言をすると彼の両足から放電現象のような何かがバチバチと弾ける、そして———

 

「《雷光石火(らいこうせっか)》っ!」

 

「っ!?」

 

連結刃となって伸びているレヴァンティンの刀身の上を【駆けた】、魔力によって動体視力を強化したシグナムにも捉える事ができない程の速力で。

 

———疾過ぎて身体が反応できない!?くっ!!

 

出雲那は稲妻と見紛う速度で連結刃を伝うようにシグナムに向かって行く、その光景はまるで黄色の雷光が連結刃を侵食するかのようだ。

 

先程魔導士が高火力である事を愚痴っていた出雲那であったが実は星脈世代である筈の彼も体内に魔核を所持している、星脈世代の中には極稀に魔核を持って生まれる者がおり、その中で強化に長けた気力を魔力とリンクさせて魔法以上の事象干渉力の異能を発現させる事ができる者を、男性は《魔術師(ダンテ)》女性は《魔女(ストレガ)》と呼んでいる。

 

「負けるものかぁぁああああああっ!!!」

 

「これで終わりだぁぁあああああっ!!!」

 

黄色の雷光が連結刃を侵食し尽くした瞬間に出雲那が鞘に収められた小さい方の刀の柄を握り抜刀の構えでシグナムの眼前に現れた、その刀の鞘は気力で事象干渉力が強化された魔力による電気の属性変換付与により凄まじいプラズマを放電している、シグナムも再び手に取った鞘を振り上げて抜き放たれようとする出雲那の刃を受けようとするが————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・もう遅い。

 

「———《雷切(らいきり)》っ!!!」

 

鞘の中に磁界を発生させてレールガンのように射出された刀の刀身は雷速を超越し有無を言わさず流離の烈火の騎士の胴を一閃して斬り抜けた。

 

「うわぁぁああぁあぁああああっ!!?」

 

「マジやべぇぇえええええええっ!!!」

 

「助けてぇぇえええぇぇえええっ!!!」

 

雷速を超越した一撃により発生した暴風のような衝撃波によってガチで吹っ飛ばされて行くギャラリー達、周囲数十メートルにあるモノはギャラリー達と共に飛んで行き建築物は次々と倒壊していく、先程シグナムが放った飛竜一閃とは比較にならない威力だ。

 

「・・・マタカテナカッタ・・・」

 

やがて衝撃波が収まると刀を振りきった格好の出雲那を後目にシグナムはそう呻きながら膝から崩れ落ちて意識を失った。

 

「またつまらぬものを斬ってしまった・・・なんてなっ!パーペキだぜっ!!」

 

『END OF DUEL! winner 武内出雲那!!』

 

出雲那が馬鹿みたいに格好付けながら刀を鞘に収めるとソーサラーキューブの両脇に出雲那とバツが付けられたシグナムの写真が表示された空間モニターが出現して機械音が出雲那の勝利を告げると自動的にソーサラーフィールドが解除されてソーサラーキューブが出雲那の手帳のディスプレイの中に戻った、これで決闘終了だ。

 

出雲那は手帳をパーカーのポケットにしまい俯せに倒れ伏して気絶しているシグナムを見る、ソーサラーフィールドの効果で非殺傷ダメージになっていたので身体は無傷だが通常なら上半身と下半身が両断されていた事だろう。

 

「ったくOBが出しゃ張り過ぎだっての・・・・・にしても」

 

出雲那は周囲を見回す、辺りは兵(つわもの)どもが夢の跡と呟きたくなるような酷い有様であった、煉瓦で敷き詰められていた道は地雷原の地雷が暴発したかのように凹凸だらけになっており煉瓦造りの建築物や草花で彩られていたゲートはサイクロンが通り過ぎた後のように倒壊していて観戦していたギャラリー達は全員どこかへと飛ばされて行ったみたいだ。

 

「チッ、この程度か、剣速も破壊力もまだまだだ、【刀華さん】の雷切にはまだまだ及ばねぇぜ・・・」

 

周囲の惨状はシグナムが放った【紫電一閃】や【飛竜一閃】の被害もあるが一番被害が大きかったのは出雲那が最後に放った【雷切】の余波だろう、だが出雲那は自分が放った雷切がまだまだ不完全だと悪態を吐く、一体彼の目指すものはどれだけ高いのだろうか?

 

「ま、これからだな・・・もうこんな時間か、明日は新学期だしそろそろ———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキ・・・ビキビキビキィィッ!出雲那が腕時計で時間を確認し既に日を跨いでいる事に気がついたので明日に支障が出ないように自分が住んでいる学生寮に帰宅しようとしたその刹那、何かが割れるような甲高い音が辺りに響いた。

 

「なっ!?・・・何だこれ・・・赤い・・・罅?」

 

身が凍るような風を感じ嫌な予感がした出雲那が後ろを振り返ると20m先に視える半壊した噴水池の前に異様な赤い罅が【顕れていた】、噴水池のふちや地面に亀裂が入っているのではない、噴水池の前の空気を割ったかのようにそれが浮かんでいる、異能者が蔓延るこのスクエアに一年でも滞在していれば並大抵の異常現象にはイヤでも耐性が付くのだがこれは流石に異常過ぎると思った出雲那は動揺せざるを得なかった。

 

「これはなんか・・・やべぇな・・・」

 

この都市で数年間戦い続けてきた経験が出雲那に危険信号を発している、【ここにいると危険だ】そう本能が叫んでいる・・・しかし赤い罅は見る見るうちに広がりはじめ空間を侵食していく、気が付けば空が朱く染まっていた、まるで血のように不気味な朱だ。

 

やがて出来上がった空間は周囲の形の変化こそ無いが辺り一面朱に染まっていた、半壊した噴水池の水は血のようだ、空気は邪気が充満しているかのように気持ち悪い、まるで滅びかけの死の世界、周囲はそんな印象の場となっていた。

 

「・・・何がなんだかわからねぇがとにかくここを離れた方がいいか・・・」

 

目を回して困惑気味な出雲那だがやはり異常現象に慣れているのか精神は平静を保っており、とにかく安全な所へ移動するべきだと判断し行動を開始する。

 

「おいっ、寝てる場合じゃねぇぞ!とっととここから離れ———」

 

先程の決闘で出雲那の雷切をモロにくらいブラックアウトして倒れているシグナムの許に駆け寄って彼女の背中を揺すり起こしていると————突如怪しい光が二人を取り囲むように無数に出現してそこから【異形】が顕れた・・・黒い色の悪魔にも似た姿をした化物が次々と出現して来てあっという間に二人を包囲したのだった。

 

「おいおい、何の冗談だこれは・・・夢じゃねぇよな・・・最悪だぜ」

 

突然の出来事に出雲那の額に冷や汗が流れる、包囲している化物共からは友好的な感じは一切しない、明らかに二人に危害を加えようとしている事は明白だ、出雲那は立ち上がり化物共を迎撃する為腰のベルトに差している二つの得物の内一回り小さな刀の柄に手を添えて身構える。

 

出雲那が周囲の化物共を睨みつけて威嚇していると丁度彼の正面にいる一体が鋭く尖った爪を振り上げて飛び掛かって来た。

 

「うぉらっ!」

 

対する出雲那は小さい方の刀を手に取り刃を鞘に収めたまま化物が飛び掛かるタイミングを合わせて薙ぎ払いを繰り出す、完璧なタイミングだ、一見すると化物には飛行能力が備わっているようには見えない為小さな放物線を描いて宙にいるこの状態じゃ躱す事は不可能だろう・・・だが——

 

「なっ!!?」

 

鞘付きの刀が化物に直撃するかと思われた瞬間になんと化物は刀を【すり抜けた】、貫通したのではなくなんの手応えもなく通り抜けたのだ。そうなると必然的に怪物の凶刃がなんの障害を受ける事なく出雲那に振り下ろされる。

 

「ぐぁ”ぁ”あ”あ”っ!!」

 

三本並ぶ凶器の爪閃が出雲那の右肩を引き裂き、激痛のあまり悲鳴を上げた出雲那は地に片膝を着いてしまう。

 

———気力で干渉力を高めた魔力でコーティングした得物がすり抜けただ?《霊体》かよコイツ等!いきなり顕れて問答無用で人間を襲う悪霊・・・《虚(ホロウ)》なのかコイツ等?

 

出雲那は左手で肩の傷口を押さえ激痛に耐えながら化物共の正体を模索する、【虚】とは40年前の第二次遭遇の影響で生じた次元の裂け目から出現した異世界の化物の一部だ、虚は死亡した生物の肉体から抜け出た魂が中心(こころ)を亡くして生まれる【堕ちた魂】所謂【悪霊】らしい、その為虚はあの世から来たのではないかと推測されているが詳しくは解明されていない・・・ただ判るのは【霊体】である虚は精神体に干渉できる【霊力】でしかダメージを与える事ができないという事だ。

 

———だとしたらオレの【魔術師】としてのチカラは通用しなくて当然か・・・なら———

 

出雲那が数秒で敵の分析を終えて再び化物共と刃を交える為に立ち上がろうとした時、後方にいる数体の化物共が彼の足下に横たわって未だに意識が戻らないシグナムににじり寄って来ていた、それを見た出雲那はギリッと歯を軋ませる。

 

「チッ、世話の焼ける先輩だぜ!」

 

舌打ちした出雲那は仕方なく気を失っているシグナムの腕を自分の肩にまわし彼女を肩に背負いながら包囲を突破しようと試みる・・・しかし、さっきからやけにおとなしい化物共に胸騒ぎを覚えた出雲那は嫌な予感がして自分の正面を振り向いてみた・・・そこには自分より遥かに巨大な黒い化物が佇んでいた。

 

———何だコイツ!?いつの間に!!

 

禍々しい黒い巨体に大木のような太い腕、頭部は前に突き出ていて前面に青い眼のようなものがありその下に人一人呑み込めそうな程大きな口がある、更には突き出た頭部の両側面にも三つずつ青い眼が存在していて凄く禍々しい形状の化物を見て出雲那は身が固まるように畏縮した。

 

巨大な化物が大木のように太い右腕を振り上げる、その腕で出雲那達を殴り飛ばす気だ、これを受けたら如何に星脈世代や魔道士といえどもひとたまりもない、絶体絶命の危機だ・・・そんな時、出雲那は化物達の存在に違和感を感じていた。

 

———コイツ等は・・・虚じゃねぇ・・・。

 

出雲那は先程出した化物達の正体の推測を否定、何故なら虚という存在は例外無く全て不気味な白い仮面を身に着けているという特徴があるからである、今彼等を襲っている化物達にはそんな仮面は身に着けていない、奴等は別の何かだ。

 

じゃあ何なんだと考える間もなくその凶腕は無慈悲に振り下ろされた。

 

「がぐぁ”ぁ”—————————っ!!!!」

 

出雲那の身体を上回るサイズの拳は彼の表面を丸ごと押し潰し、言葉にならない声をあげさせて後方に真っ直ぐ豪快に吹っ飛んで半壊している建物の壁面を背中から追突して破壊した。

 

「う”ぅ”・・・」

 

30m程吹っ飛んで破壊した建物の煉瓦に身体半分が埋もれている状態の出雲那だがなんとか生きてはいるものの無事とは言い難い、意識が朦朧としていて今にも逝ってしまいそうな危険な状態だ、額から血を流してゴーグルのレンズが赤く染まり、いくつか内臓が潰れたのか口から血が流れでている。

 

———やべぇ・・・マジやべぇ・・・身体が重くて動かねぇ・・・。

 

すぐに起き上がろうとする出雲那だったが身体がもうボロボロでもがく事しかできなかった、首を動かして前を見てみると2m前方に彼の肩から離れて投げ出されたシグナムが横たわっている、彼女に外傷は無いようだが安心できる筈がない、30m先から出雲那を殴り飛ばした巨体の化物を最後列に化物の軍団がゆっくりとこっちに向かって来ているのが見えるからだ、出雲那にはもう戦う体力は残されていない。

 

———くそ・・・こんなところで死ねるかよ・・・アイツとの約束があるんだ・・・こんなところ・・・で・・・。

 

出雲那はこんな絶望的な状況でも諦めず打開策を考える、徐々に接近してくる化物達、その間に彼の頭の中には三つの選択肢が浮かび上がった。

 

①不屈の精神で諦めない武内出雲那は突如反撃のアイデアを思い付く。

 

②頼もしい助っ人が来て助けてくれる。

 

③助からない、現実は非情である。

 

———②は期待できねぇな・・・オレの推測が正しければこの空間は《空間凍結結界》のような現実の時間軸から隔離された空間だ・・・霊力の高い人間が相当意識を集中しなければこの空間は見つけられない筈だから可能性は低い・・・③は論外だ・・・①しかねぇな・・・。

 

腹を括った出雲那は思考をフル回転させて詮索の限りを尽くす、あらゆる可能性を考えるが座学の成績が芳しくない出雲那ではどんなに考えたところで猿知恵でしかない・・・健闘虚しく化物達が残り僅か5mの位置まで接近して来た。

 

———チクショウ・・・やっぱ③になるのかよ・・・すまねぇな・・・約束・・・果たせそうもねぇ・・・。

 

朱く染まった空を見上げて嘆く出雲那、化物達は今目の前で倒れているシグナムに手を出そうとしている・・・そう、選択肢の答えは————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・②だ。

 

「出でよ、《エクセリオン=ハーツ》!!」

 

強い意志を秘めた少女の声が高らかに朱い空に響き渡る、同時に出雲那の3m手前までの範囲に迫った小型の化物達が纏めて消し飛んだ、まるで浄化されたように。

 

「う”・・・ん・・・?」

 

観念して静かに眼を瞑っていた出雲那だったが、突然聞こえてきた声と肌を撫でるような突風を感じてゆっくりと眼を開く。

 

「・・・誰・・・だ?」

 

彼が目にしたのは自分とシグナムに背を向け二人を護るように化物達の前に立ち塞がっている亜麻色の長髪の少女の姿だった、意識が朦朧としているうえに額の傷口から流れ出る血が眼に入っている為視界が霞んでいるのでハッキリとはわからないが、その少女は出雲那と同じ高校生くらいの年齢であり、背を向けているので顔は判らないが目に付くのは彼女が右手に携えている冷気を放つレイピアだ、鬼火のように青く輝くそのレイピアから放たれる冷気からは気力でも魔力でもない神秘的なチカラを感じる。

 

このチカラの正体は【三大源力】の一つ【霊力】だ、少女の持つレイピアは物質ではなく彼女の持つ霊力で《顕現》させた物である・・・出雲那は彼女の事は知らないがこの武装とそれを行使する異能者の事はよく知っている。

 

「あれは・・・《固有霊装(デバイス)》・・・・・《伐刀者(ブレイザー)》・・・か・・・」

 

【伐刀者】———己の魂を霊力で具現化させて顕現する武装【固有霊装(以下【霊装】と呼称する)】を行使し様々な異能を使い戦う者をそう呼ぶ。

 

霊装による攻撃は霊力による霊的な事象干渉であり霊体にダメージを与える事ができる、つまりこの少女は目の前の脅威を退けるチカラを持っているという事だ。

 

化物達は強大な霊力を放ち立ち塞がるこの少女の事を自分達にとってこの場で一番の脅威だと察したようであり、最後列にいる巨体の化物を除いた小型の化物達が目の前の脅威を排除しようと一斉に襲い掛かった。

 

「はぁぁあっ!」

 

多数の化物の凶爪が少女を引き裂こうとするが彼女はそんなものなど脅威にも感じている様子もなく冷静に最初に飛び掛かって来た化物を霊装で一閃した。少女を引き裂く筈だった凶爪は彼女に届くこと適わず飛び掛かった化物は空中で上半身と下半身が分断され消滅する。

 

「はっ!やっ!シュートッ!」

 

少女は踊るような鮮やかな剣技で斬り倒し冷気の飛弾を撃ち放って次々と小型の化物達を葬っていく、圧倒的だ、化物達に付け入る隙を与えない、あっという間に小型の化物達は殲滅され、残すは巨体の化物のみとなった。

 

「一気に行くわ!はぁぁあああっ!!」

 

少女は弓から放たれた矢のような勢いで一直線に巨体の化物に飛び掛かり一瞬にして無数の突きを放つ。

 

「はあっ!やあっ!」

 

あまりの速さに反応が遅れた化物は彼女の突きをまともに貰った為仰け反り、化物の懐に入った少女は化物が仰け反った隙に容赦なく交差するような氷の斬撃を二発叩き込み、化物が苦痛にもがいている間に大きく跳躍して空中で化物を睨みつける。

 

「これで終わりよ」

 

決着を宣言した少女は右手に持つ霊装に強大な霊力を纏わせる、そして地上の化物に狙いを付け・・・霊装を投げ下ろした。

 

「《クリミナルブランド》ッ!!」

 

睡蓮の華が咲いた、巨体の化物は少女が投げ下ろした霊装に貫かれ無惨に散るのであった。

 

———・・・凄ぇ、あんなデカブツを瞬殺しやがった・・・奴は何もんだ?

 

《伐刀絶技(ノウブルアーツ)》———伐刀者が霊装を行使して使う技や異能はそう呼ばれている・・・出雲那は体力の限界を迎え薄れゆく意識の中で伐刀絶技を放つ少女の姿に圧倒されていたが同時に彼女は何者なのかという疑問を抱いていた。

 

この都市は名の有る猛者達が大勢集まっている魔境だ、百を超える化物の大群を僅か数分で殲滅してしまう程の実力者なら二つ名が付くレベルで都市に名が知れ渡っている筈なのだが出雲那は少女の事を知らない。

 

出雲那は勘繰り深く考えていると落下途中の少女がこちらに振り向こうとしているので顔を見れば知っている奴かもしれないと思って彼女を凝視するが。

 

———・・・やべ・・・もう・・・・・無・・・理・・・。

 

少女が振り向く寸前で出雲那の意識は暗転してしまった、結局少女の正体は判らず仕舞いに終わったのだった。

 

 

 

斯くして運命は動き出す、数多の戦士達が集うこの戦島都市スクエアを舞台に繰り広げられる少年少女達の熱望と根性と青春の物語が幕を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一話終了っ!いやー張り切り過ぎて一万字を超えてしまいました(笑)、次からもっとコンパクトにしよっと♪

出雲那「おい!何だこのメチャクチャな世界観は!?クロス先の原作の用語がいっぱい出てきてんじゃねぇか!」

ふっ!それを言うなら【お前、混じってるな?】と言うべきところだろう?ノリが悪いなぁ(笑)。

出雲那「ウゼェ・・・」

ごちゃ混ぜ世界観だけど能力の設定に規則性を持たせる為設定を捏造しているものもあります、アスタリスクの星辰力とかハンドレッドのセンスエナジーとか特殊なチカラは一部を除いて排除していますね。

出雲那「チカラの種類が多すぎると収拾がつかなくなるからな・・・でも落第騎士の伐刀者の持つチカラが霊力になっているのは何故だ?あれは魔力だからそのままでも問題ない筈じゃね?」

それは東亰ザナドゥの適格者やBLEACHの死神も伐刀者で統一するからです、三作品共武器の顕現のやり方が似ているのでいっそのこと統一しました♪

出雲那「つまり落第騎士キャラもグリードや虚(ホロウ)と戦えるという事だな」

その通り♪

出雲那「ナルホドな・・・一応聞いておくが・・・この世界はどれだけ混じってんだ?」

どれだけ、か・・・ククク・・・・・全部だ。

出雲那「いや、さっき特殊な要素は排除したって言っただろうが!!」

皆さん!こんなふざけた作品ですが、これからよろしくお願いします!

出雲那「話を聞けぇぇえええええええっ!!!」


壊れた非常識な日常編イメージED『爆走夢歌』
TVアニメ『ソウルイーター』ED3より



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