ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編 作:ナタタク
撮影用の舞台のそばにある更衣室の中で、ラクツはリオルマンの衣装に着替え始める。
ひと昔にはやったスーパーマンというアメリカンヒーローのスーツを模した設計で、赤いV字型のマスクで目の周りを隠している。
小さな男の子なら一度はあこがれる、特撮ヒーローへの変身。
ラクツの場合、あこがれなかったかと言われるとウソになるのだが、この衣装を着るには精神的にやや成長しすぎていたかもしれない。
鏡で今の自分の姿を見て、すっかり赤面になっている。
「特撮ヒーローものに出演している人って…こんな恥ずかしい思いに耐えているのか…?」
ほぼすべての出演者がそうだというわけではないものの、ラクツは改めてこういう番組や映画に出演する俳優に敬意を表した。
そして、来ていた服や荷物をロッカーに入れ、スタジオに出てくる。
「似合っているな」
外で待っていたハチクがラクツを見て、淡々と述べる。
「あ、ありがとう…ございます」
「お待たせしましたー!」
遅れてファイツもリオルガールの衣装を着て、スタジオに現れる。
衣装の構造はリオルマンとあまり変わりない。
「似合ってるよ、ファイツちゃ…」
「ファイツちゃん、じゃないわよ!リオルマン!私はリオルガール!貴方と一緒に世界の平和を守るヒーローよ!」
「え…あ…」
衣装を着て、何かスイッチが入ってしまったのか、すっかりファイツはリオルガールになりきっている。
そういえば、彼女が更衣室に入るときも、しっかりと台本をもっていっていたことをラクツは思い出す。
「そういえば、ホワイトさんはまだ戻ってきてないんですか?」
ホワイトのことを思い出したラクツは周囲を見渡すが、どこにもホワイトの姿がない。
「ああ…。まだ戻ってきていない。一体どうしたのか…」
考え込むハチクだが、彼もなぜホワイトが戻ってきていないのかわかっていた。
だが、それを口にするわけにはいかなかった。
「探しに行ってくる」
そう言い残し、ハチクはスタジオを出ていった。
「社長…社長!!」
「んん…」
懐かしい、今すぐにでも会いたい少年の声が聞こえ、ホワイトは目を開く。
周囲にはだれもおらず、明かりも消えていて、太陽の光が照らされている。
そして、目の前には…。
「ブラック…君??」
「何やってんだよ、社長。泣き顔は似合わないぜ」
いなくなってしまった2年前と全く同じ姿で、立ったままホワイトを見ている。
彼を見たホワイトはこれが夢だということをすぐに理解した。
日中にこの場所に人やポケモンが全く通らないというのはあり得ない。
それに第一、ライトストーンすらまだ見つかっていない。
そのことは分かっているが、ホワイトはせめて夢の中だけであってもブラックに触れたいと立ち上がろうとする。
しかし、なぜか体が動かず、まるで金縛りにあったかのようだった。
幸い、口は動くし、しゃべることもできる。
「ブラック君!!あなたは今、どこにいるの!?」
「ああ…よくわからない。けどまぁ、イッシュ地方のどこかにいる。でもよ、今俺が話したいのはそれじゃなくて、あのゾロアのことだ」
ブラックの言葉にホワイトは黙り込む。
あのゾロアと言われて、思い浮かぶのは一匹だけだ。
「あいつはただ、大好きなトレーナー…まぁ、Nのために全力で何かをしようとしていただけだ。それは社長自身、分かってるだろ?」
「ブラック君…」
「俺はNのやったこと、ゲーチスのやったことは許せねえ。社長を泣かせたことは特に…。でも、あいつらのポケモンまで恨まないでやってくれ。大丈夫、社長ならできるって信じてる。それに…必ず社長と会えるってことも…」
徐々にブラックの体が透明になっていく。
ホワイトは動けないと知りつつも、必死に体を動かそうとする。
「ブラック君、ブラック君!!」
「BWエージェンシーの宣伝するって言ったろ?大丈夫、あの2人がなんとかしてくれるさ」
「あの2人…」
だんだん見えなくなるブラックが右を指さす。
何かに操られたかのように、ホワイトの顔が指さす方向に向く。
そこにはラクツとファイツの姿があった。
「ラクツ君とファイツちゃんが…?」
「ああ…。2年前に終わらせることのできなかったことも…」
「ホワイト社長…ホワイト社長!」
「んん…」
ハチクの声が聞こえると同時に、空間がいつもの光景へと変わる。
撮影道具を持った人やポケモン、そして俳優と話しながら歩くマネージャー。
「やっぱり…」
「うん?」
「いえ、なんでもありません」
目をこすり、心配してくれたウォーに小さな声でありがとうと言いながら頭を撫でる。
ウォーをボールに戻した後で、ホワイトは立ち上がる。
「撮影ですね。待たせてしまってごめんなさい!すぐに行きます!」
「ん…ああ…」
スタジオへ向けて走っていくホワイトを見たハチクはびっくりしたものの、少しだけ安心した。
(どうやら、いい夢を見ることができたみたいだな…)
ハチクがホワイトを見つけたのは数分前で、ベンチに座って眠っている彼女を見つけた。
眠っている間、彼女は苦しそうだったが、目を覚ますと同時に元気な様子を見せた。
決して空元気ではない、彼女本来の元気を。
ホワイトを追いかけるように、ハチクもスタジオへ戻っていった。
「えー、それでは…『ハチクマン』の撮影を始めたいと思います!みなさん、準備はよろしいですか?」
準備が終わったスタジオで、メガホンを手にしたホワイトが出演者たちに声をかける。
遊園地客役を務める数人のメンバー、そしてセットの外で待機しているハチク、及びラクツとファイツがOKのサインを出す。
「カメラマンさんもOK!では…よーい、アクション!!」
カチンコが鳴り、それと同時にあらかじめ録音されているナレーションが流れ始める。
(笑顔の絶えない遊園地、みんなの理想の遊園地。だが、そんな場所に怪しい影が一つ…。そう、それは事件の幕開け…。だが、しかし!影あるところに、光あり!あのヒーローが現れた!そう…彼らは正義の2人組。リオルマンとリオルガール!!)
遊園地の観客がアトラクションを楽しむ中でナレーションが終わり、それと同時に怪人ハチクマンが姿を現す。
すかさず彼はコマタナとバルチャイをボールから出し、2匹のポケモンはそれぞれ瓦割りとエアスラッシュで遊園地に攻撃を仕掛ける。
「ゆけ、我がポケモン達!この遊園地で暴れまわるのだーーー!!」
まさにベタなヒーロー番組で登場するような悪役のテンションでセリフを吐くハチク。
長年感じることのなかった、俳優としての自分の魂がよみがえったかのようで、まさに水を得た魚と言ってもいい。
2匹のポケモンが暴れまわり、悲鳴を上げながら客たちは逃げ出していく。
「そうだ、そうだ!!すべてを破壊しつくせーーー!」
「そこまでよ!」
「ヌ…何者!?」
声が聞こえたのは動きが止まった観覧車の一番上。
そこには2人組のヒーローが立っていて、ハチクマンを見下ろしている。
敵の存在に気付いたバルチャイは悪役ポケモンのお約束の技と言わんばかりにシャドーボールを放つ。
だが、リオルマンはリオルガールを抱っこして観覧車から飛び降りてシャドーボールをかわし、見事に全身すべてを使って衝撃を逃がしたうえで着地に成功した。
そして、リオルガールを下ろして彼と対峙する。
「私は理想の使者、リオルガール!!」
「俺は真実の使者、リオルマン!!悪の波紋を感知し、ただいま参上!ハチクマン!お前の悪行、これ以上許すわけにはいかない!」
「悪行を重ねるなら、私たちが相手よ!」
ハチクマンに指をさし、大声でセリフを言った2人のヒーローはミジュマルとゾロアを出す。
ミジュマルとゾロア、そしてコマタナとバルチャイは互いににらみ合う。
「遊園地…それはひと時の夢。すなわち、人々の理想の形。理想など…破壊してくれる!真実など、この手で消し去ってくれる!!コマタナ!金属音!!」
コマタナの体中についている刃が振動を起こし、激しい金属音が起こる。
ハチクマンとバルチャイなど、リオルマンとリオルガール以外は耳栓をつけているため、影響を受けることはないが、それを直接聞くことになる2人と2匹は両耳をふさぎ、必死に耐える。
「フハハハハハ!!どうだ!?この金属音は!この音の中では満足に動けまい!!シャドーボールを受けるがいい!」
続けて、とどめを刺さんとバルチャイがシャドーボールを数発放つ。
「ぐうう…ゾロア!守る!!」
耳をふさぎながら、必死に出したリオルガールの声が聞こえたゾロアはミジュマルの前に立ち。緑色のバリアを展開する。
バリアはシャドーボールをすべて受け止めた後、消滅した。
「ふん…。ただ守るだけでこの私、ハチクマンを倒せるとでも?」
「いいえ、ハチクマン!これで集中するためのエネルギーのチャージが終わったわ!」
「何?」
「俺たちは波紋を感じ取る力がある。目と耳に頼らず、波紋を感じるという7つ目の感覚がお前を倒す!」
そういって、リオルマンとリオルガールは目を閉じる。
ただし、あくまは波紋を感じるというのは設定に過ぎず、ラクツとファイツ本人にそんな能力があるわけではない。
感じたふりをして、アドリブで動くだけ。
「見えた…リオルマン!」
リオルガールがぎょっと握る手の力を強める。
体を接触させることで、自分が感じた波紋を相手に伝えることができ、力を強めることでよりダイレクトに、正確に伝えることができるというのもリオルマンとリオルガールの設定だ。
リオルガールは身体能力が低い分、抜群の波紋感知能力を持つ。
リオルマンは身体能力が高いものの、波紋感知能力が弱い。
互いの弱点を埋め会い、長所を高めて悪を滅ぼす。
これがリオルマンとリオルガールの魅力だというのがホワイト曰くだ。
「ありがとう、リオルガール!!ミジュマル、草結び!!」
耳は使えないが、目は使えるミジュマルが力を込めて草結びを放つ。
地面から出てきた草がコマタナの手足を縛り付け、その場にうつぶせで転倒させる。
草結びで草が出せるように、遊園地のタイルには隙間が用意されており、その下には土がちゃんと用意されている。
金属音を発動したまま倒れてしまうと、自身の刃にダメージが発生してしまうことから、コマタナはやむなく金属音をとめる。
「ゾロア!追い討ち!」
金属音を止めたコマタナにまさに文字通り、追い討ちをゾロアが仕掛け、動きが封じられているコマタナに皿にダメージを与えていく。
「おのれ…!!バルチャイ、コマタナを助けに…」
「させないぞ!!ミジュマル、冷凍ビームだ!!」
バルチャイに向けて、ミジュマルが冷凍ビームを放つ。
弱点である冷凍ビームを受けたらどうなるかわかっているため、バルチャイは急いでそれを回避する。
「続けてもう1度追い討ち!!」
草結びをどうにか切り取り、脱出に成功したコマタナに再び追い討ちが襲う。
再び襲う一撃が利いたのか、コマタナは目を回しながらその場に倒れる。
「ちぃ…コマタナ、戻れ!!」
ハチクマンはすぐにコマタナをボールへ戻すが、すぐに怪しげな笑みを浮かべ始めた。
「さあ、これで残ったのはバルチャイ1匹よ!」
「ふん…最初からバルチャイ1匹で十分なのだ。貴様らを始末するならば…!!」
そういって、ハチクマンが右手に持つ杖をバルチャイに向ける。
「さあ、バルチャイよ!私の悪のパワーを受け取るがいい!!」
杖から放たれる黒い光がバルチャイを襲い、光を受けたバルチャイが黒いオーラに包まれていく。
それと同時に目の色が赤く染まっていく。
「ハチクマン!お前…一体何をした!?」
「今、教えてやろう…。シャドーボール!!」
バルチャイの口にシャドーボールのエネルギーが集結する。
だが、これまでのそれと比較すると3倍以上の大きさの球体となっていて、発射される前からプレッシャーがビリビリと2人を襲っている。
「この力は…ゾロア、ミジュマル、避けて!!」
「もう遅い!!」
リオルガールが危険な波紋を感じ、叫ぶも時すでに遅く、バルチャイの強化されたシャドーボールが襲い掛かる。
先ほどまでのシャドーボールの倍以上のスピードで飛んできて、2匹のポケモンの前で爆発を引き起こした。
「ハチクマンの悪の力がバルチャイを覚醒させた。圧倒的な力を見せるあのポケモンに、このまま遊園地が破壊されてしまうのか!?どうなる?リオルマン、リオルガール!!」
ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 18匹
入手したポケモン 3匹
バッジ数 1
現在の使用ポケモン
・ミジュマル レベル13
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し
・ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル15相当に低下)
技 波動弾(?) サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)
ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)12匹
入手したポケモン 2匹
タマゲタケ レベル15
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん
ゾロア レベル25(親はN?)
技 だまし討ち 守る ひっかく 追い討ち