ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編 作:ナタタク
「じゃあ、2人とも。映画を作ってみよう!」
「な、映画…??」
ポケウッドにかくまわれた翌日、ホワイトからの提案にラクツとファイツは首をかしげる。
確かに、ポケウッドに来た以上は何か映画関連のイベントに参加するのが常識ではあるが、今の2人は逃亡生活中の身。
そんな自分たちが映画に出ていいのかと疑問を抱く。
「大丈夫!ちゃんと仮面があるし、仮面にはボイスチェンジャー機能もついてるから」
「ボイスチェンジャー!?それって、しゃべった声が全部ふもふも、とかもっふるに変わってしまうような…」
「ラクツ君、それ違う漫画のだから…」
「と、とにかく!これが台本!」
なぜか違う漫画のマスコットキャラクターのことを口にしたラクツを無視し、ホワイトは台本を渡す。
「ハチクマン…?」
「ええ。遊園地を侵略しに来た悪役のハチクマンを倒す正義のヒーローの物語よ」
「でも、ホワイトさん!私たち、俳優じゃなくて…」
「心配いらないわ。それこそがBWエージェンシーのポケウッド映画の醍醐味だから!」
「醍醐味…?」
「ええっと、正義のヒーローは2人で、ハチクマンのコマタナとバルチャイにダブルバトルを挑むと…??」
楽屋に戻った2人は渡された台本を読み始める。
ダケちゃんは台本を読んで5分後に眠ってしまい、今はファイツが用意した座布団の上で熟睡している。
上映時間は10分程度で、収録された映画については後日、ポケウッド短編映画集で上映されるとのことらしい。
確かに、短編映画であれば素人でもできないことはない。
「そういえば、ハチクマン役のハチクさんって俳優業を引退したはずじゃあ…」
ハチクが映画撮影中の事故で俳優業を引退したというのは、イッシュ地方では有名な話だ。
医者から俳優としての再起は不可能だと宣告され、酒浸りとなり、地下での賭けバトルに手を染めそうになったところをアデクに救われ、セッカシティジムリーダーに就任したらしく、2年前の事件ではプラズマ団の七賢人と戦い、プラズマ団壊滅の立役者となった。
ジムリーダーになってからは再び俳優になりたいと必死にリハビリを重ね、その結果ポケウッドで俳優業に復帰することができた。
なお、セッカジムは別の人がジムリーダーを務めているとのこと。
ハチクマンはそんな彼の復帰後初作品でもあるとホワイトから聞いている。
「使うポケモンは自由に選んでいいか…。私はダケちゃんで、ラクツ君はミジュマル。それで、セリフは…『待ちなさい!理想の使者、リオルガール!リオルマンとともに登場!!』…という感じかな?うーーーん…」
「ファ、ファイツちゃん…??」
セリフを言うときのファイツはおとなしい普段の彼女から一変し、特撮番組で登場する活発な変身ヒロインそのものとなっていた。
おとなしい彼女しか見たことのないラクツにとっては驚きだ。
「やる気、たっぷりなんだね」
「だってハチクさんの復帰作品なんだから、いい作品にしなくちゃ!だれかを助けるのに理由はいらない、でしょ?」
「…『真実の使者、リオルマン参上!夢と希望あふれる遊園地を破壊せんとするハチクマン!真実と理想の力で、あなたを倒す!』」
先ほどのファイツのように、ラクツも完全になりきってセリフを言う。
そんな彼を見たファイツは思わずクスリと笑ってしまった。
「あ…やっと笑ってくれた」
「え…?」
ラクツの安心したような笑み、そして笑ってくれたという言葉に疑問を抱くも、なぜか笑いが止まらず、おなかの底から笑ってしまった。
「アハハ!アハハハハ!!」
「…ハ、ハハ!アハハハ!!そうだよ、ファイツちゃん!!」
「アハハ!え、何、何??」
「ファイツちゃんは笑顔が一番よく似合う!」
「え、えええ!?」
ラクツの言葉で笑うのをやめたファイツの顔が真っ赤に染まる。
また、いった張本人であるラクツもまた、ファイツほどではないが顔を赤くする。
「あ、私、水もらってくる!!」
恥ずかしくてこれ以上いられないと思ったファイツは楽屋を飛び出す。
といっても、ラクツは顔を赤く染めた上に固まってしまっており、ファイツが出て行ったことには気づいていなかった。
「あああ、どうしよう…。この後、どうラクツ君と顔を合わせば…」
真っ赤になったままの自分の顔を両手で隠しつつ、2人の楽屋のある階の自販機付近のベンチに腰掛ける。
だが、顔を隠しているとどうしてもラクツの笑顔が似合う発言を思い出してしまい、それをいうラクツの顔を思い出してしまう。
まずは赤くなった顔をどうにかしようと思い、自販機でキンキンに冷えたミックスオレを買おうと立ち上がる。
「あれ…??」
立ち上がったファイツの目に灰色のしっぽが映る。
植木鉢の後ろから飛び出すように、それはある。
「ポケモンかしら?」
迷子になったポケモンかと思い、ゆっくりとそれに近づく。
人目に気付いたのか、尻尾は植木鉢の後ろに引っ込んでしまう。
ファイツが到着したとき、植木鉢の後ろには、同じ形の植木鉢が置かれていた。
「さっきのポケモン…もしかして…」
「よーし、それでは撮影を始めたいと思います!」
午後になって、ラクツ達ハチクマンの出演者やカメラマン、監督らがスタジオに集まる。
すでにスタッフによって舞台である遊園地のセットは完了している。
「…君たちが、リオルマンとリオルガール役だな」
「はい、あなたが…」
「ハチクだ。今日はよろしく頼む」
すでにハチクマンの衣装を身に着けたハチクがあいさつを済ませると、すぐに台本の読み返しを始めるためにその場を後にする。
「かなり真面目な人なんですね…」
「うん、それに今日の映画は特別だから、熱心なの。ところ、2人は使うポケモンを決めた?」
「ええ、僕はミジュマルを使います。ルカリオはちょっと調子が悪いみたいで…」
リオルマン役をやるのであれば、リオルかルカリオを使うべきだろうが、ラクツのルカリオは力の大部分がセーブされており、役を演じきれるかわからない。
継続して安定感のあるバトルをするのであれば、現状はミジュマルを使うのが唯一の手だ。
「それで、ファイツちゃんのポケモンは?」
「はい。この子がやってみたいって…」
そういったファイツは後ろにいるポケモンを抱きかかえ、ホワイトに見せる。
「この子は…」
「知ってるんですか?ホワイトさん」
見たことのないポケモンに驚きながら、ラクツは動揺を見せるホワイトに聞く。
(まさか、このポケモンって…)
「あの、ホワイトさん…?」
「ううん、なんでもない!ファイツちゃんがいいなら、それで…」
作り笑いをしながら、判断をファイツにゆだねると、ホワイトは打ち合わせがあるといって、スタジオを後にする。
ホワイトの様子のおかしさを怪しみながらも、ラクツはもう1度ファイツが抱えるポケモンを見て、それに図鑑を向ける。
「へえ、ゾロアって言うんだ。けど、いつの間に手持ちに…?」
「ポケウッドに迷い込んでたみたいで…」
「誰かの手持ちってわけでもなさそうだね」
ゾロアをよく見ると、毛並みは自然体で誰かの手が加わっていないようで、若干痩せている。
自然界では食べる量と時間のコントロールが難しく、野生のポケモンは若干痩せている傾向にある。
逆にトレーナーとともにいるポケモンは標準以上の体重となる傾向があり、現在はトレーナーとともにポケモンにも健康を、とのことでトレーナーとポケモンが合同で行うエクササイズ教室が開かれるほど、ポケモンの肥満が問題となることがある。
といっても、バトルや別に地方で行われているポケモンパフォーマンス、ポケモンコンテスト、ポケスロンをやったことのないポケモンがそうなることがほとんどで、たいていのトレーナーがいずれかをやっていることから、人間よりもポケモンが健康的な生活をしていることが多い。
「それにしても、懐かれてるんだね。ゾロアに」
「え、ええ…まぁ…」
ラクツの言葉に戸惑いながら、ファイツは優しくゾロアの頭を撫で、ゾロアも優しくなで受ける。
(このゾロア…もしかして、N様の…)
「…はぁ、もう何やってるんだろ」
スタジオを出て、廊下のベンチに腰掛けたホワイトはファイツが抱えていたゾロアのことを思い出していた。
「きっと、あのゾロアは…」
彼女の脳裏に浮かんだのはNが解放したゾロアだ。
Nはブラックに敗れた後、彼は敗北と自分の考えの誤りを認め、ゼクロムとともに旅立っていった。
ゾロアは置いていかれ、そのあと行方が分からなくなった。
そのあとで重大な事件が起こってしまったこともあり、探す余裕もなかった。
あの事件のあと、ゾロアについてアヤラギ博士と調べた結果、イッシュ地方でこのポケモンは事実上、N1人しか所持していないということが判明しており、野生のゾロアの目撃情報もゼロだ。
だから、ファイツが見せたゾロアはNのゾロアである可能性が非常に高い。
「ブラック…君…!」
ライトストーンに封印されてしまう時のブラックのことを思い出し、涙を流す。
彼に対して何もできなかった自分の無力さを呪う。
もしもそのとき、必死に手を伸ばし、ぎゅっと握りしめることができたら、何かが変わったのではないかと今となってはどうにもならない家庭を頭に浮かべてしまう。
そんな彼女を心配してか、ホワイトのボールから勝手にウォーグルが出てきて、心配そうに彼女を見る。
「ウォー…。ごめんね、ブラック君が帰ってくるまで、ちゃんとしなくちゃいけないのに…」
涙をふき、無理に笑いながらウォーグルの頭をなでる。
このウォーグルは元々、ブラックが所持していたポケモンで、彼が行方不明となった後はほかのブラックのポケモン共々、BWエージェンシーで面倒を見ている。
ホワイトの言うように、いつかブラックが帰ってくる未来のために。
ブラックのことがあり、ホワイトはプラズマ団、特にゲーチスを今もなかなか許せずにいる。
彼が行方不明となる原因となったNに対しても同様だ。
だからといって、もともと彼のポケモンであったゾロアを恨むのは筋違いだというのはホワイト本人が一番分かっている。
だが、頭ではわかっていても、どうしても心が納得してくれない。
なぜ今頃になって現れて、自分の傷をえぐるようなことをするのかとさえ思ってしまう。
「教えてよ…ブラック君。私、どうしたら…」
2年前の事件は今もホワイトのような傷を残し続けていた。
プラズマ団やNの罪の清算も、何かを失った、奪われた者たちの傷も、何も終わっていない。
ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 18匹
入手したポケモン 3匹
バッジ数 1
現在の使用ポケモン
・ミジュマル レベル13
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し
・ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル15相当に低下)
技 波動弾(?) サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)
ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)12匹
入手したポケモン 2匹
タマゲタケ レベル15
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん
ゾロア レベル25(親はN?)
技 だまし討ち 守る ひっかく 追い討ち