ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編   作:ナタタク

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第6話 受け継いだ言葉

午後3時になり、トレーナーズスクールから逮捕されたプラズマ団のメンバーたちが拘束され、警官によって護送車まで連行されている。

彼らの指揮を執っているのはハンサムだ。

「それで、結果のほうは?」

「はい。10人逮捕、3人は残念ながら…逃げられました」

「そうか、あのテロリスト達から情報を得なければな…」

ハンサムと話していた警察官は彼に敬礼をした後、すぐに持ち場へ戻っていく。

そして、別の警官が敬礼のあとで報告する。

「警視。ここの教師からの話ですが、ラクツ元刑事とファイツさんがいないと…」

「いない…?まさか…」

「一大事ですよ。急いで取り押さえなければ…。すぐに追わなければ」

「いや、我々はこの現場の対応をしなければならない。それに、既に追手は放っている」

 

「よし、服装はこれで…」

芸能人が待機しているような楽屋の中で、ラクツは制服から着替えた自分自身の姿を見る。

赤いサンバイザーをつけ、青と灰色が基調のランニングウェアとハーフパンツを着ている。

ヒオウギシティでは制服かジャージぐらいしか着ていなかったラクツにとってはとても新鮮だった。

この服はホワイトが入手したもので、トレーナーズスクールの制服を着ているよりもこれなら追手にばれにくいかもしれないと提案された。

部屋を出て、案内役のチラーミィについていく。

エレベーターに乗って3階へ行き、ホワイトの名前が書かれたドアの前に立つ。

ホワイトに助けられた2人はそのままヒオウギシティを出て、サンギタウン東にあるタチワキシティに連れてこられた。

そこは港町であり、更に北部にポケモンとトレーナーが一緒になって映画を作れる場所、ポケウッドが完成したことで近年話題となっているところだ。

ヒオウギシティの人口増加の原因ともいわれている。

ドアを開けると、そこにはジャローダ、シキジカ、マッギョ、ママンボウ、ユニラン、バルチャイとホワイトの姿があった。

「うーん、中々似合ってるじゃない」

ラクツの姿を見たホワイトは隅々まで見ながら彼を誉める。

あんまりファッションに関心がなかったラクツはどのような反応をすればいいのかわからない。

そうしていると、今度はファイツが入ってきた。

「な…!?」

部屋に入ったファイツを見たラクツの顔が真っ赤になる。

黄色いミニスカート風のショートパンツと青と白のTシャツを着ていて、白いサンバイザーをつけている。

なお、髪形も変わっており、お団子付きのツインテールとなっている。

あまりに似合っていて、かわいらしい姿のファイツが彼にとっては刺激的だったようだ。

「ラ、ラクツ君、大丈夫??」

「…」

「あー、これは…女性に対する免疫がないみたいね」

固まったラクツを見たホワイトは苦笑する。

そして、数十分後にラクツが正気を取り戻した。

「あの、天下のBWエージェンシーのホワイト社長がどうして、見ず知らずの僕たちを助けたんですか?」

「天下のって、ちょっと厭味ったらしく聞こえるけど…。1つは友達からの頼みね。今、トレーナーズスクールで講師をしている友達がファイツちゃんを助けてほしいって」

「友達…?それは…」

「チェレン君よ。彼、おそらくファイツちゃんの素性がわかってたみたいだから。だから、あなたがちゃんと普通に生活できるように、いろいろ便宜を図っていたの」

「チェレン先生が…」

ホワイトの話を聞いたファイツが複雑な表情を浮かべる。

それが知られたくないという理由でイッシュ地方でも辺境ともいえ、プラズマ団の影響も少ないヒオウギシティへ移住したというのに、知られていたうえに見えないところで手を貸してくれていた。

ありがたいという思いと申し訳ないという思いがごちゃ混ぜになる。

「ああ、ホワイトさん。ちょっといいですか?」

「何かな?ラクツ君」

「その…ファイツちゃんの素性なんですが、できれば言わないでいただけないでしょうか?」

「え…?」

普通なら知りたいと思い、素性を教えてくれというのが当然の反応だ。

だが、ラクツは普通とは真逆の反応を見せた。

どういう神経をしているのか、分からなかった。

「彼女が知られたくなさそうだし、それに…そういうことは彼女の口からききたい。言いたくないのであれば、それでもかまわないって、僕は思っています」

「ラクツ君…」

「そう…なら、そのことは言わないことにするわ。それで…もう1つはあなたたちを逃がすため」

「逃がす…?プラズマ団からですか?」

「ええ…。ああなってしまった以上、2人ともどこでもプラズマ団に狙われる。きっと、それは今のプラズマ団のリーダーであるアクロマを倒さない限りは、ずっと…」

「アクロマ…?」

「あなたなら、知っているとは思ったけど…」

「テレビや新聞では、そういう情報は全く入ってこないんです」

ホワイトの言葉を聞き、彼女はファイツだけでなく、自分自身の素性についても知っていることが予測できた。

実際、左遷されてからこういう国際警察が扱う案件についての情報が全くと言っていいほど伝えられていない。

自分の師匠であるハンサムもそれを教えてくれるほどのお人よしではないことを弟子であるラクツ自身がよく知っている。

「そう…。少なくとも、2年前の事件のあと…ゲーチスは表舞台から消えているわ」

ゲーチス、という名前を口にしたホワイトの表情がかたくなる。

それは彼がホワイト、そしてもしかすると彼女の仲間たちにとって不倶戴天の敵だということだろうとラクツは感じられた。

「そんな彼が今何をしているのかわからないのも怖いし、今のプラズマ団の行動の目的も気になる…。少なくとも、今はファイツちゃんが目的だということは分かったわ。だから…」

「僕が彼女を守れ、ですか?」

ラクツの言葉にホワイトは黙ってうなずく。

そして、ラクツのバッジを手渡す。

「これは…」

「チェレンから預かってたもの、ベーシックバッジよ。これで、人からもらったポケモンでも、レベル20までのポケモンならいうことを聞いてもらえる、いわば、トレーナーとしての力量の証ね。今回は緊急事態だし、今後のことを考えると、あなたたちが持っていたほうがいい」

「そういうことなら…」

ジム戦もなしにバッジを手に入れるというのは少し納得がいかないものの、すべてが終わったら返せばいいと自分の中で納得させた後で、バッジケースにそれを入れた。

「そして、今後の旅費については私が可能な限り援助するわ」

「助かります。金も道具のほとんども、ヒオウギシティに置いてきてしまったので…」

学生生活が長くなってしまい、任務からも離れていたことから、すっかりこういう緊急事態を想定した備えを忘れてしまったことを悔やむ。

特に、国際警察から支給されていた技マシンのほとんどが手元にない。

あるのは一部の秘伝マシンとみねうち、冷凍ビームのみだ。

「そのかわりだけど、旅の間に探してきてほしい人がいるの」

「探してほしい人」

「人、というより…石というべきかもしれないけど…」

「それって、ライトストーンのことですか?」

ホワイトが探してほしいもの、で思い浮かぶのはそれしかなかった。

Nの城の出現、そしてプラズマ団の野望を阻止したブラックがライトストーンに取り込まれて行方不明となったことは当時、連日テレビや新聞、SNSで話題となっていた。

ライトストーンを探すため、ブラックの知人が相次いで捜索を続けたが、2年たった現在でも見つかっていない。

見つかったとしても、ライトストーンからどうやって彼を救い出すのかもわからないが。

それに、イッシュ地方以外の地方に飛んでいった可能性も考えられ、すべての地方を探すとなると膨大な時間がかかる。

深海の底、山脈のどこか、火口の中となれば最悪だ。

「…」

ホワイトの話を聞いたファイツは複雑な表情を浮かべる。

ブラックはNをゲーチスから救ってくれた存在だ。

恩人である彼を助けたいとは思うが、今の自分にそれをする資格があるのかと考えると疑問符がついてしまう。

「必ず見つける…っていう保証はできませんが、可能な限りやってみます」

「ありがとう…じゃあ、契約成立ね」

 

「ごめん…。勝手に話を進めてしまって」

楽屋に戻ったラクツはお茶が入った紙コップを座布団の上に座るファイツに渡す。

ホワイトとの話から、ずっとファイツの表情が暗いままで、ダケちゃんも心配そうに見つめている。

「明日の夜には船の準備ができるから、それまでは…」

「…どうして?」

「え…?」

「どうして、私の正体を聞かないって言ったの?」

「それは…」

ファイツの疑問を聞いたラクツは口ごもる。

しばらく両者が沈黙した後で、ファイツが再び口を開く。

「あなた…おかしい!!フィールドワークの時も、学校でプラズマ団が攻撃してきたときも、私のことを放っておくことだってできたのに…!!」

ファイツにとって、ラクツはあまりにも今までにあったことのない人間で、理解できなかった。

2度も助けられ、おまけに自分の正体を聞こうとしない。

どうしてそんなことができるのかわからない。

感謝をしているのは事実だが、そんな彼が怖くなってしまう。

「…。昔、一緒にポケモンバトルを学んだ仲間がいたんだ。今は全く音沙汰がなくて、どこで何をしているのかわからないけど…」

もう1つの紙コップにペットボトルのお茶を入れ、ゆっくり飲みながら、ラクツは彼のことを思い出す。

「それで、山でバトルの修行をしていたとき、迷子になってしまってね…心細かったよ。けど、その仲間がボロボロになりながら探しに来てくれた。それで…言ったんだ。誰かを助けるのに理由なんていらないってさ」

「誰かを助けるのに…理由はいらない…」

「…まぁ、とどのつまり、かわいい女の子の前でかっこつけたかったんだよ、僕は」

わざと雰囲気を壊すように頭をかきながら笑みを浮かべると、トイレへ行くと言い残し、紙コップをごみ箱に捨てて楽屋を出ていく。

「誰かを助けるのに、理由はいらない…」

ドアを見つめながら、ファイツは静かにラクツの言葉を反復した。

 

「…失敗、しましたか…」

「はっ、申し訳ありません。イレギュラーがあったために…」

真っ暗な研究所の中で、プラズマ団員の男が白衣の男にひざまずきながら報告する。

男は眼鏡を直し、団員に目を向ける。

「それで、イレギュラーというのは」

「はい。ターゲットと同年代ですが、トレーナーズスクールのガキどもと比較すると、かなり手ごわく…」

「…そうですか。下がってください」

「ハッ!」

団員は急いで部屋を出ていき、白衣の男は左腕につけている白い計算機を操作し始める。

(あの町には国際警察官くずれの少年がいるという情報はつかんでいましたが、まさかこの時のために…となると、彼を呼ぶことになりそうです…)




ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 17匹
入手したポケモン 3匹
バッジ数 1

現在の使用ポケモン
・ミジュマル レベル13
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し

・ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル15相当に低下)
技 波動弾(?) サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)

ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)11匹
入手したポケモン 1匹

タマゲタケ レベル15
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん


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