ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編   作:ナタタク

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第5話 終わる日常

「ううう…」

フィールドワークから3日が過ぎた。

フラフラとトレーナーズスクールに登校したラクツは席に着くと同時に体を前に傾け、顔面を机にくっつける。

ファイツとの一件があり、あれからなかなか眠れなくなってしまった。

眠るとまた森の中でのハプニングの光景が目に浮かび、最近ではそのまま彼女にキスされる夢を見てしまうほど、エスカレートしている。

そのため、フィールドワーク後の課題レポートを書くのを忘れてしまい、居残りで書くことになった。

ちなみに、プラズマ団が彼女を襲撃したという報告はハンサムにしている。

報告後に彼から言われたことを思い出す。

「今回、奴らはポケモンを奪ってすぐに逃げることができたはずだ。だが、それをせずに、執拗にポケモンを痛めつけたということは、彼女に何かがある可能性がある。例の物に関するものかもしれん。彼女から目を離すな」

「目を離すな…って言われても…はぁ…」

「おーい、ラクツ大丈夫かー?今日、日直だろ。代わりに課題プリント取りに行ってやろーかー?」

「ああ…頼むよ…」

「おう。ま…3日前のことは気にすんなって。男と女なら、こういうこともあるし!」

話しかけてきた友人が背中をバンとたたいてから教室を出ていく。

まったく誤解が解消されていないのだということがこの言動からわかり、もう何度目かわからないため息をつく。

フィールドワークを終えた後から、生徒だけでなく、教師にまでラクツとファイツが実は恋人関係で、2人っきりになってこそこそしているという噂が流れた。

おそらく、恋愛に関して敏感な女子が流した噂だろうが、噂は性質が悪い。

フィクションか現実かの区別がつかないまま、あっという間に伝播してしまう。

SNSや携帯といったソフトなツールがある現在ならなおさらだ。

何度釈明しようとしても、噂が消えるのには時間がかかり、SNSであるとすべてを消去するのは事実上不可能だ。

(こうなったら、噂がなくなるまでファイツと接触するのはやめておいたほうがいいか…はぁぁ…)

入手し、渡すまでの期限はハンサムから伝えられていないものの、できる限り急がなければ、また何かしらの言いがかりをつけてこの牢獄にとらわれたままになる。

接触には細心の注意を払わなければならない上に、このような噂が流されては必ずどこかで見られて、また変な噂を流されかねないし、その信ぴょう性を確立させてしまうことにもつながる。

「とにかく…これからはいつも通りにふるまって…」

「ああ、ラクツ君。彼なら今はここよ…」

「ありがとう、教えてくれて」

「ふるま…」

聞き覚えがありすぎる少女の声を耳にし、まさかと思いながらポンコツロボットのようにカクカクと顔をその方向に向ける。

扉のそばにいる、タマゲタケを抱いた少女。

彼女もいろいろとからかわれたせいか、顔を真っ赤にしている。

「ラ、ラクツ君…その、話が…」

 

そして、数時間が立って昼休み。

ラクツは屋上で弁当を食べながら待機していた。

(ファイツちゃん…一体何の話を…)

念のため、屋上に出る扉付近に光学迷彩が施されたカメラを設置しており、ミジュマルを待機させている。

仮に野次馬が近づいて来たら、建物が壊れない程度で威嚇攻撃を行うという算段だ。

弁当を食べ終え、ファイツがなぜ自分を呼び出したのかを考えていると、ハンサムの言葉を思い出す。

(例の物に関するものかもしれん。彼女から目を離すな)

「例の物…持っている可能性はあるけれど…)

考えていると、ガチャリと扉が開き、ファイツが出てくる。

扉を閉め、あたりを確認してからラクツのそばまで行く。

「ありがとう、来てくれて」

「ううん、僕は何も…。それより、ダケちゃんは元気かい?」

「うん。すっかり元気になったわ」

そういいながら、足元にいるダケちゃんを抱えてラクツに見せる。

傷1つなく、元気な笑顔を見せるダケちゃんの頭をラクツはそっと撫でた。

「それで、話というのは…」

「ん…。誰にも話していないの。本当なら、ずっと誰にも言わないつもりだった。けど、私1人じゃどうにもできなかったから…」

悔しそうに唇をかみしめ、フィールドワークの時のことを思い出す。

複数のプラズマ団を相手にしていたからとはいえ、ボロボロにされた挙句、ダケちゃんを奪われる寸前にまで追い詰められていた。

仮に、ラクツが助けに来なかったら、最悪のシナリオが待っていた。

「どうにもできないって…何を」

「それは…」

戸惑いを見せながらも、制服のポケットから小さな紙包みを出す。

「全部は言えないけれど…これをプラズマ団が狙ってる」

「プラズマ団が…執拗に襲ってたってことは、かなり重要なんだろうね?でも、どうしてそれを君が…」

紙に包まれたままで、それがどのようなものなのかは確信できない。

だが、ラクツの脳裏にはあのペンダントが浮かんだ。

「それは…ああ!?!?」

急にファイツがおびえながら両手で口をふさぐ。

「ファイツちゃん!?まさか…!!」

最悪なパターンが頭に浮かんだラクツはすぐに後ろを向く。

そこにはゴルバットがいて、視線は完全に2人に向けられていた。

(ゴルバット!?まずい…!!)

ゴルバットは超音波の膜を口に張ることで違う場所の様子を映像で映し出すことができる。

画質についてはよくなく、ゴルバット自身が目視できる距離まで接近しなければ細かいものについては映すことができないケースが多いものの、複数のゴルバットを経由することで解決することができる。

ゴルバットが下がると同時に、トレーナーズスクールの周囲で爆発が起こる。

「なんだなんだぁ!?」

「キャアアア!!」

「生徒たちを校舎へ!急げー!!」

爆発によって、特に校庭で遊んでいる生徒たちを中心に動揺が広がり、教師が彼らを校舎へ誘導する。

爆発で砕けた塀からフィールドワークの時に姿を見せたあのプラズマ団員達が入ってきて、それぞれウィンディやメグロコ、レパルダスなどのポケモンを出して侵入する。

「く…きっと狙いは…」

狙いを察したラクツは屋上から周囲を見渡す。

大雑把に見て、集まっているプラズマ団は20人。

1人3匹ポケモンを持っているとして、相手をすることになるポケモンの数は60匹。

現在のラクツの手持ちはミジュマルと拘束されたルカリオで、ファイツはダケちゃんのみ。

なお、フィールドワーク中に捕獲したコダックは預けているため、手持ちにない。

「くそ…ファイツちゃん!!」

「え、キャア!?!?」

やむなくファイツを抱きかかえたラクツは北側から飛び降りる。

国際警察での訓練で、高い場所から無傷で飛び降りる技術も得ており、トレーナーズスクールが2階建てであったこともあり、そのまま安全に着地することができた。

(確か、北東の端に非常用の出入り口があった。そこから出れば…!)

「ラクツ君!!」

ファイツの声と同時に、頭の上にダケちゃんが乗る。

そして、ラクツの背後の上空に向けてしびれ粉を放つ。

風に乗ったオレンジ色の粉がエアカッターを放とうとしたゴルバットに命中、マヒ状態になって地面に落下する。

「助かったよ、ダケちゃん。ミジュマル!!」

続けて屋上から飛び降りたミジュマルが足元のゴルバットに向けて冷凍ビームを放つ。

氷漬けになったゴルバットを足場に着地し、ラクツの前に立つ。

(…こんなにあっさり見つかって、それに…私のせいで…)

プラズマ団のポケモンによる攻撃をしのぎつつ、ファイツの手を握ったまま前へ進んでいくラクツを見る。

そして、トレーナーズスクールがプラズマ団によって壊される光景を頭に浮かべる。

(私のせいだ…私のせいで、みんな!!)

 

「チェレン先生!?」

「入口は俺がどうにかします!皆さんは校内に侵入したプラズマ団の排除をお願いします」

生徒全員の避難を確認したチェレンは後者の入り口に立ち、3つのモンスターボールを同時に投げる。

「頼むぞ…みんな!!」

ボールからはケンホロウ、ギガイアス、そしてジャローダが出てくる。

最終進化を果たした3匹のポケモンを目にしたプラズマ団員へ警戒しながら、レパルダスとゴルバットを出す。

「ったく、メンドーだな。こうしてヤケになって悪さをする悪党っていうのは」

服のポケットから眼鏡を出し、ゆっくりとかける。

元々チェレンの視力は良好で、眼鏡をかけなくても見えている。

トレーナーズスクールの教師となり、生徒や教師から眼鏡をかけていないほうがかっこいいと言われたこと、そして2年前の強さに固執していた自分と決別するために眼鏡を辞めていた。

だが、本気を出すときには眼鏡をかけるため、いわばチェレンの精神スイッチとなっているのだろう。

なお、ジャローダは2年前に育てるのを放棄したツタージャで、ポケモンリーグ後から改めて育て始めたものだ。

(警察が到着するまで遅くて10分以上はかかる。その間、生徒たちは俺が守って見せる!」

 

「よし、ここから…」

非常口を開き、学校の外に出る。

外ではポケモンを持たない警官たちが周囲の住民を避難させており、応援が到着するのを待っている。

また、ポケモンを持つ警官はプラズマ団を取り押さえるため、学校に突入した。

「とにかく、この町を離れないと。けど…そこからどうすれば…」

とにかく、町を出るために北へ向かおうとすると、2人の元へ一台の車が猛スピードで走ってきて、急ブレーキをかけて止まる。

その車の後部座席のドアが開き、助手席の窓が自動で開く。

「乗って!!」

「乗れ…って、あなたは!?」

車の付いているマーク、そして助手席に座る茶色いポニーテールの少女、

家の中でトレーニングをしているときにつけたテレビで映っていた、若干18でありながら、最近ポケウッドの運営にかかわり、急成長しているBWエージェンシーの社長。

「まさか…ホワイトさん!?」




ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 17匹
入手したポケモン 3匹

現在の使用ポケモン
・ミジュマル レベル13
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し

・ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル15相当に低下)
技 波動弾(?) サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)

ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)11匹
入手したポケモン 1匹

タマゲタケ レベル15
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん

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