ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編 作:ナタタク
「ふう、ふう、ふう…」
森の中の小さな洞穴に入ったラクツはダケちゃんにオレンの実を食べさせる。
傷薬のような人工的な薬品よりも、オレンの実などのポケモン達にとって慣れ親しんだものを使用したほうが、おや以外のトレーナーがポケモンの治療をするときにはやりやすい。
ゆっくりと、ダケちゃんは差し出されたオレンの実を食べ、体力回復に努めていく。
「ありがとう、ええっと…」
「…ダケちゃん」
「そうそう、ダケちゃん。君のおかげで、どうにか逃げ切ることができたよ」
そう褒めながら、ラクツはダケちゃんの頭を撫でた。
これは、この洞窟に入る十数分前のこと。
「…ねえ、君のタマゲタケ、もう少し動ける…?」
「動けるって…どういうこと?」
「一つだけ、あいつらを倒す手段を思いついたんだ。けど、それにはタマゲタケの力が必要だ」
「でも…」
腕の中のダケちゃんを少女は見つめる。
ラクツに助けられる前まで、何度もダケちゃんはプラズマ団からの攻撃を受けており、PPも残りわずかになっている。
すっかりボロボロな自分のポケモンをなおも戦わせるのは酷に思える。
ポケモン図鑑を起動し、ダケちゃんの様子を確認する。
(よし…粉はまだ使える…!)
図鑑を閉じ、自分の人差し指に唾をつけて風向きを調べる。
(風向きはよし、登れる木もある…)
「ダ、ダケちゃん!?」
フラフラと腕の中でダケちゃんが動きはじめ、じっと少女を見つめる。
真剣なまなざしで、彼女に自分は大丈夫だといいたいのだろうか。
プラズマ団が放ったハトーボー達が2人を見つける。
2人は疲れ果てたのか、その場で座り込み、荒い息をしている。
そばにはポケモンがおらず、安心したハトーボー達が一斉にラクツ達に襲い掛かる。
それと同時に、ハトーボーに正面からぶつかるように強い風が吹くが、彼らにとっては飛行及び攻撃には問題ない強さだった。
「…いまだ!!」
ラクツが上を見上げ、大声を出す。
それと同時に真上にある木の枝の上に待機していたダケちゃんがしびれ粉を放ち、その隣のコダックが水遊びを始める。
コダックのような、水タイプや氷タイプのポケモンは技をいつでも出せるように、ほかの生物よりも多めに体内に水分をため込んでいる。
そのため、木の上でもコダックは自分の体から出した水で遊ぶことができる。
しびれ粉が水遊びで発生した水に付着し、その状態で風に乗ってハトーボー達にぶつかっていく。
しびれ粉がついた水を浴びたハトーボーはしびれで羽が動かなくなり、地面に墜落する。
「これでとどめだ…ミジュマル!冷凍ビーム!!」
最後の真打としてミジュマルを出す、同時に冷凍ビームが動けなくなったハトーボー達を襲う。
ビームを受け、ハトーボー達は仲良く氷の彫刻となって戦闘不能になった。
「ふうう…」
すべてのハトーボーを倒したのを確認したラクツは木に登り、ダケちゃんとコダックを回収した。
その結果、こうして安心して洞穴の中で休むことができるようになった。
治療を終えたダケちゃんは少女のそばへいき、そこで眠りにつく。
(あ…これ、よーく考えたら…)
ポケモンがいることを除くと、現在は狭い空間で男女が2人っきり。
しかも、戦闘の間は気にする暇もなかったものの、そばにいる少女は今まであった同年代の少女の中でも1,2を争うくらい可憐で、ラクツの心臓の動きを速めていく。
いくら曲がりなりにも国際警察官とはいえ、ラクツも男である以上、この感情には逆らえないものがある。
「あの…」
「え、ああ…!その、ダケちゃん…大丈夫かなーって…」
作り笑いしながら頬をかき、視線を少女からダケちゃんに向ける。
スースーと安心して眠っており、その様子を見て、もう大丈夫だと思えた。
「…ありがとう、その…」
「ああ。名前を言ってなかったね。僕はラクツ。3年3組の…」
「ラクツ君ね。私はファイツ、3年4組で、今年転校してきたばかりなの。その…助けてくれて、ありがとう」
ダケちゃんの頭を撫でながら、ファイツは頭を下げる。
「そんな…ダケちゃんがいなかったら、ハトーボーから逃げられなかったんだ。だから、僕よりもダケちゃんにお礼を言って」
「ん…。ありがとう、ダケちゃん…」
ラクツにうなずくと、お礼を言いつつ、優しくダケちゃんを撫でた。
(…?なんだろう…ファイツちゃんの目…少し悲しそうだ…)
ダケちゃんを撫でる彼女を見て、ラクツは何か違和感を感じた。
一見すると、子供をいつくしむ母親のように見えるが、悲しげで、どこかこのポケモンに対して罪を犯してしまったことを悔いているかのようにも感じられた。
「その…ボールには、戻さないの…?」
「どうして?」
「どうしてっていっても…みんな、ボールに入れているから…」
「それはそうだけど…私、ポケモンをボールに入れるのが嫌で…」
「そうか…嫌なら、仕方ないよね」
外の景色を見ながら、急にラクツは『彼』のことを思い出した。
『彼』も相棒であるポケモンをボールに入れることはせず、常に外に出して一緒に行動していた。
「(はあ、またあの人を思い出してしまった…)(バサバサ…!!)うわあ!」
「キャア!!」
急に羽をばたつかせる音が聞こえたと同時に、横から柔らかい衝撃が襲い、そのまま倒れてしまう。
「痛たた…!?!?」
目を開くと、洞穴の中からズバットが2匹程度外へ飛んでいくのが見えた。
あの羽音の正体が彼らだったことで安心したが、それで問題がすべて解決できたわけじゃない。
びっくりしたのはファイツも同様で、目の前に彼女の顔がある。
しかも、ほんのわずか数センチ離れているだけ。
また、同年代の少女と比べると発育がよく、胸が押し付けられるように当たっている。
(まずい、これは…非常にまっずい!!)
「うわあ…探してみたら、とんでもないものを…」
追い打ちをかけるように、クラスメートの男子が洞穴を見つけ、そしてラクツとファイツの姿をばっちり見ている。
もう集合時刻から20分以上過ぎていて、おそらく総出で探してくれていたのだろう。
「あああーーーー!!なんてことだ!!」
学校が終わり、帰宅したラクツが着替えないまま頭を抱えて椅子に座っている。
顔を真っ赤にさせ、水筒に残っている水をがぶ飲みした。
それで頭の中をすっきりさせたかったが、目を閉じるとまたラクツに押し倒されている時の光景が頭に浮かんでしまう。
そのせいで、学校に戻ってからの授業には集中できなかった。
これでは、なぜ彼女がプラズマ団に狙われたのかを聞くというのを失念してしまうのも仕方ないだろう。
(はああ…明日はちゃんと学校へ行けるだろうか…)
一方、ファイツの家でも…。
「ふあうう…どうしてこんなことにー…」
うつぶせで自室のベッドに倒れ、真っ赤になった顔を枕に押し付けている。
彼女もまた、ラクツと同じように、その時に事を思い出しているのだろう。
ゆっくりと顔をあげ、ベッドのそばにある小物入れを開く。
しかし、中をじっと見るだけでその中の物を出そうとしない。
「うわー!どうすればいいか教えてくださいーーー!!夢の中でもいいですからーー!」
小物入れを閉めると、また同じ状態に戻り、目を閉じて自分が自然に眠るのを待ち続けた。
幸いなことに、今日のことでいつも以上につかれていたこともあり、数分で眠ることができた。
「…ああ、どうしたんだい?ゼクロム」
真夜中に、とある山の中の洞窟で目を覚ました緑色の髪の男がそこから出て、満月を見つめるゼクロムを見る。
男の言葉に対し、ゼクロムは何も反応を見せることはないが、男は優しくうなずいた。
「ああ…もうすぐだ。僕にとって、決着をつけなければならない時が来るのが…」
男はゼクロムの背に乗ると、ゼクロムは咆哮しながら夜空を飛ぶ。
「さあ、ゼクロム。僕を連れて行ってくれ…あの場所へ。僕に人とポケモンの本当の意味を教えてくれた、人間のトモダチのもとへ」
ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 14匹
入手したポケモン 3匹
現在の使用ポケモン
・ミジュマル レベル12
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し
・ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル15相当に低下)
技 波動弾(?) サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)
・コダック レベル5
技 水遊び 引っ掻く しっぽを振る
ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)8匹
入手したポケモン 1匹
タマゲタケ レベル15
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん