ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編   作:ナタタク

17 / 17
第17話 隠された役目

ヒウンシティ港では、ポケウッド行きの船が止まっており、観光客が続々と乗り込んでいる。

海を見つめながら、ハンサムはタバコを吸う。

その後ろにラクツがおり、彼が到着してから数分が経過する。

その間、ハンサムは彼に目を向けることも、しゃべることもせずに、ずっとタバコを吸っている。

煙草の灰が海にポタリと落ち、ハンサムはようやく煙草を吸うのをやめて、携帯灰皿で火を消した。

「とんでもないことをしてくれたな…。まさか、ペンダントを持つ少女と共に脱走するとは…」

最初にそのことを知ったときは怒りよりも先に驚きがあった。

真面目で、上司や教官の命令に素直に従う彼が、国際警察に復帰するためにずっとトレーナーズスクールで努力し続けていた彼がその努力を一片の紙のごとく捨てる行為に出るとは思いもよらなかった。

しかも、復帰条件であるペンダントを持つ少女のことを報告することもなしに、だ。

「…」

「今、この場でそのことを知っているのは私だけだ。上はまだ、このことは知らない」

「知らないって…報告していないんですか?」

「上は引きこもるのが好きだからな。報告がなければ、現場のことなど何一つわからない」

今はハンサムと自分の部下しかそのことを知らず、今は自分がその情報が漏れないように止めているところだが、それがいつまで持つかわからない。

このことが知られたら、おそらく国際警察はラクツを逮捕するために動くだろう。

教え子である彼がそのようなことになることだけは避けたい。

「ラクツ…悪いことは言わん。彼女の持っているペンダントを私に渡してくれ。そうすれば、君は国際警察に復帰できる」

「ペンダントを…」

「そうだ。プラズマ団から襲撃を受けたことは知っている。それを利用すれば、仮に知られた場合、いくらでも言い訳できる」

今、ハンサムの脳裏に描かれているシナリオはこうだ。

ラクツからペンダントを受け取り、それを上層部に提出して、彼の国際警察復帰を承認させる。

仮に彼がヒオウギシティから出たことへの説明が求められた場合は、プラズマ団からの襲撃を受け、彼らの攻撃を回避し、安全にペンダントを提出するためにやむを得ずそうしたと言えばいい。

ヒオウギシティでのプラズマ団襲撃については既に報道されており、上層部の耳にも入っている。

あとはラクツがこの提案に対して、了解すればいいだけだ。

ラクツにとって、それがベストな判断と言える。

「先生…この提案を受けた場合、彼女はどうなるんです?」

しかし、ラクツにとって心配なのは彼女のことだ。

元プラズマ団員で有ることは分かっているが、今の彼女は狙われており、そして自分の罪と向き合おうとしている。

そんな彼女を放っておくことはできなかった。

「かつての裁判で免責されている。逮捕はしない。彼女はヒオウギシティへ戻し、元の生活を送らせるさ。国際警察の監視はあるが」

「監視…?ペンダントがなければ、彼女は狙われる必要なんて…」

そういうことになると、ペンダントは彼女の手から国際警察の元へ渡ることになる。

そうなると、プラズマ団が彼女を追う必要性がなくなるはずだ。

だが、彼の口ぶりだと、それでも引き続き彼女が追われるということになる。

ハンサムはため息をついた後で、その意味を口にする。

「…彼女には、おとりになってもらう。そういうことだ」

「おとり…!?」

「あのペンダントは重要な存在だ。それが国際警察の手に渡っていることは隠さなければならんからな」

背中を向け、煙草を出したハンサムはつぶやく。

ラクツがそのようなことを納得する男ではないことは分かっている。

不器用な正義感を持った彼だからこそ、ハンサムは彼を国際警察官として鍛えてきた。

だが、今は教官ではなく上司であり、自分が国際警察の方針に反発するような姿を見せるわけにはいかなかった。

「…僕は、彼女と知り合って、そんなに時間が経っていません。きっと、知らないことの方が圧倒的に多い。だけど、彼女は普通に生きたいだけだってことは…わかっているつもりです」

「ラクツ…」

「だから…僕は…」

「ふぅ…それがお前の答えか。ならば、仕方がないな」

ため息をつき、ハンサムは持っているポケギアで誰かと通信をつなげる。

「作戦を実行しろ」

それだけ言って、通信を切ったハンサムは振り返り、ボールからグレッグルを出す。

「これから、お前を捕らえるためにここには国際警察が来る」

「先生…!?」

「お前がそれを選んでしまった以上、もうこうせざるを得ない。せめてもの情けだ…彼らが到着する前に私がお前を逮捕する。シャドーボール!」

グレッグルが両手に力を込めて、シャドーボールをラクツに向けて投げつける。

左へ大きくローリングするように飛んで回避したラクツはルカリオをボールから出す。

「ルカリオ、サイコキネシス!」

毒・格闘タイプであるグレッグルにとって、エスパータイプの技は致命的だ。

それを使ってすぐに仕留めようと考えたラクツだが、グレッグルは自分の背中に拳を押し付ける。

サイコキネシスによって発生する強い念力が周囲に拡散していくが、グレッグルは後ろへ大きく飛ぶことでそれを回避した。

「無駄だ。ツボをついて素早さを上げさせてもらった」

「ツボをつくって…確か、それで上昇する能力はランダムのはずじゃ…!」

「確かにそうだ。だが、どのツボをつけばどの能力が高まるのか、それを分かっていればいいだけのことだ」

近代医療でも効果が認められているツボ治療をハンサムの話を聞いたラクツは思い出す。

テレビなどのメディアでツボについては何度も取り上げられているが、ツボの位置によってある程度効果が決まっていることがそれらを何度も見ているとわかる。

ポケモンのツボはもちろん、人間とは異なるものの、位置などが正確に分かれば、ハンサムの言っていることはあながち嘘ではなくなる。

なお、毒タイプであるグレッグルがそんな技を使うことができる理由はドクロッグに進化したときに中指の骨のあたりに生えてくる毒の爪となる器官があるためらしい。

サイコキネシスは放つにはわずかにタイムラグが発生するため、今の素早さのグレッグルには避けられてしまう。

「波動弾!!」

クチナシによって制限が解除された波動弾をグレッグルに向けて発射する。

サイコキネシスよりもタイムラグが短く、弾速も早いことから素早さの有るポケモンでも回避が難しい技だ。

しかし、グレッグルは毒づきを放ち、波動弾を相殺する。

「やはりな…スピードから見るとその判断は悪くないが、毒タイプのグレッグルに対してはよいものではないな」

その言葉をラクツは素直に受け止めるしかない。

毒タイプのポケモンに対して、格闘タイプの技を放っても威力が半減されてしまう。

半減されるとはわかっているが、進化ポケモンであるルカリオのパワーならどうにかなると考えた。

それが甘い考えだということを思い知らされる。

「左わきにツボをつき、瓦割りだ、グレッグル!!」

ハンサムの指示通りにツボをついたグレッグルが地を蹴り、ルカリオに肉薄する。

「波動弾!!」

「無駄だ!それが命中する前に瓦割りがルカリオに当たる!」

そして、格闘タイプであるグレッグルが放つ瓦割りはルカリオにとっては最悪の相性。

ステータスで見ると、防御と特防が標準的なルカリオがそれを受けた場合、一撃で倒されてしまう可能性が高い。

「下に向けて撃つんだ!」

「下だと!?」

両手を振り下ろす形で波動弾を真下に放ち、ルカリオがいる場所で爆発が起こる。

爆発に驚いたグレッグルが後ろに下がり、爆発した場所からルカリオがいなくなっていた。

「まさか…波動弾を使って空中へ!?」

ハンサムは上へ目を向ける。

そこには両拳に凝縮した念力を宿したルカリオが落下していき、反応が遅れたグレッグルの頭に拳が命中する。

苦手なエスパータイプの技を受けたグレッグルは目を回しながら、その場で倒れた。

「なるほど…。サイコキネシスを両手にだけ宿すことで、タイムラグを減らしたということか」

フーディンやヤドキングのような高度なエスパー能力を持つポケモンはサイコキネシスをルカリオのように周囲に拡散するだけでなく、物や体の一部に集中させることができる。

先ほどの場合、ルカリオが放ったサイコキネシスのパワーはいつもの半分以下で、それを両拳に集中させていた。

そのため、一点の威力だけは高まっている。

だが、勝ったラクツはどこか納得できない感じがした。

(違う…。先生のグレッグルはもっと強い…)

国際警察の訓練の一環として、何度もハンサムとグレッグルとバトルをしたことがある。

しかし、全盛期のルカリオで勝負したとしても、一度も勝つことができなかった。

そんなグレッグルが不意打ちまがいの技を受けるとは思えない。

「先生…まさか…」

ハンサムの真意を問いただそうとした瞬間、パトカーのサイレン音が聞こえてくる。

彼の言う通り、もうすぐここには警察がやってきて、自分を捕まえようとするだろう。

「く…!」

ラクツは東西から来るパトカーから回避するため、北へ逃げ出した。

パトカーが到着し、乗っていた警察官がハンサムの元へ集まる。

「来たか…。地下水路にゲーチス派のアジトがある。令状も出ている。捜索を開始しろ」

ハンサムはイッシュ地方の裁判所で発行してもらった捜査令状を見せ、集まった警官たちは地下水路へ向かう。

彼らを見送ったハンサムはラクツが逃げた北の方角に目を向けた。

(ラクツ…今の国際警察は信用ならない。お前の元にいれば、彼女も安心だろう。きっと、想像している以上に茨の未知になるかもしれんが…)




ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 36匹
入手したポケモン 3匹
バッジ数 1

現在の使用ポケモン
ミジュマル レベル20
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し

ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル25相当に低下)
技 波動弾 サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)

卵(生まれるまでもう少しかかる)

ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)29匹
入手したポケモン 2匹

タマゲタケ レベル18
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん

ゾロア レベル26(親はN?)
技 だまし討ち 守る ひっかく 追い討ち

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。