ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編   作:ナタタク

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第16話 ファイツの告白

「それで、次はどこへ行く?」

いつでも出ることができるように、荷物を整えながらラクツはファイツに尋ねる。

幽閉生活を送っていて、特にその時まで入ったことのなかったイッシュ地方については、ラクツはヒオウギシティとその近辺しか知らない。

ここにいつまでもいるわけにはいかないが、ここからどこへ行けばいいのかは今のラクツには見当もつかない。

東へ行けば、スカイアローブリッジを経由してシッポウシティに行くことができ、北へ行けば、最近見つかった古代の城を観光スポットとして最大限に生かすために開発されたリゾートデザートを経由し、ライモンシティへ行くことができる。

判断の糧として、頼りになるのは転校生であるファイツだ。

少なくとも、狭い範囲の地域しか知らないラクツよりもこの場合は頼りにすることができる。

「そういわれても、どこへ行けばいいか…?」

急に聞かれても分からないため、どうすべきか考えている中、そばで地図を見ていたゾロアが地図の上に乗り、1つの町に手を置く。

「ホドモエシティ…?」

手をどかし、町の名前を口にする。

イッシュ地方を含めた多くの地方の商品がここの港に集められ、輸出入される。

最近では観光ホテルが軒を連ね、各地の強豪のトレーナーがバトルをすることができる場所であるポケモンワールドトーナメントへの招致にも成功している。

そのため、プラズマ団の事件が起こってからの2年間で最も発展した町として注目を集めている。

人の出入りが激しいこの街であれば、ある程度潜伏することは可能だ。

(だが、なぜあいつがそこを選んだんだろう…?)

たいていのポケモンは人の言葉が理解できるくらい賢く、ゾロアはどうなのかはわからないものの、ポケウッドで映画を撮ることができたため、知能があると判断してもいい。

そんな彼が選ぶのだから、なんとなく選んだという可能性は低い。

また、この街の名前を見たファイツは目を大きく開いており、いつもとは反応が違う。

質問しても、おそらく答えてもらえないかもしれないが、この街に彼女は例のペンダントにかかわる何かがあるかもしれない。

「…ほかに選択肢がないなら、そのホドモエシティへ行こう。ただ…」

いざ、ここから北へ向かおうにも、今のヒウンシティには大きな問題があった。

先日に発生した北門の崩落事故によって、現在は復旧作業が行われている途上だ。

深夜の誰も通っていないときに崩落したため、幸いなことに死傷者が出ることはなかった。

警察による調査の結果、原因が爆発物によるものだということが判明したが、なぜそのタイミングで爆発させたのかという犯人の目的は、その人物が捕まっていないこともあって不明のままで、警察も見解の発表がいまだにできていない。

現在は代替措置として船でホドモエシティへ渡航するという手段があるものの、乗船の際には身分などを確かめられることから、それをするのは難しい。

ここまで来るのに使ったあの船はまだ港にあるものの、ラクツには操縦技術がないため、動かすことは不可能だ。

「復旧工事が終わるまであと3日。その間の宿代はどうにかできるけど、その間に見つからないように、宿は変えたほうがいいかも…」

チェックアウトの準備をするため、ラクツは荷物をまとめようと立ち上がる。

だが、その彼の袖をファイツがつかんだ。

「ファイツちゃん…?」

「ラクツ君。ラクツ君に…言いたいことがあるの」

「言いたい…こと?」

座りなおしたラクツを見たファイツは自分のカバンの中にあるペンダントを出す。

国際警察が求めているものそのものであるが、ラクツは表情に出さないように気を付けながら、そのペンダントを見る。

しかし、ペンダントが開くと、ラクツの目が大きく開き、こぶしに力が入って手がびっしょりと濡れるのを感じた。

その中には行方不明であるプラズマ団の王、国際警察が指名手配しているNのブロマイドがあったからだ。

「N…どうして、彼の写真が…」

「そういう反応になっちゃうよね…。だって、みんなにとって、N様は悪者だから…」

「N様…?もしかして、君は…」

「うん。私は…2年前までプラズマ団にいたの。そして…」

閉じたペンダントをにぎりしめたファイツは苦しげな表情を浮かべ、顔を下に向ける。

今となっては思い出すことさえ苦しい、罪悪感に満ちた過去だ。

喜々として語るのではなく、間違いであり、許されないことだと気付いているうえでそれを話すことはかなり勇気が必要なことだ。

「大丈夫だよ、ファイツちゃん。ゆっくりでいい…。時間はあるんだ」

焦らせることがないように、ゆっくりとファイツに諭す。

彼女の正体はある程度察しているため、彼には余裕があった。

深呼吸をし、時間をかけて自分を落ち着かせたファイツは話を再開する。

「N様とゼクロムがブラックとレシラムに敗れて、旅立った後、プラズマ団はゲーチスの黒派とこれまでの罪の償いのために活動をする白派に分裂したわ。私はそのときは13歳で、まだ将来に可能性があるからって、プラズマ団を離れることになったの」

(黒派と白派…。プラズマ団の中ではそう呼んでいるのか…)

ラクツはザンギ牧場などで戦ったプラズマ団の下っ端の制服を思い出す。

彼らの制服は2年前までの民族衣装をイメージしたフード付コートの面影が全くない、ロケット団の制服に近い、機能性を重視したものへと変わっていた。

やり方もロケット団と同じく、ポケモンの密猟や密売、麻薬や覚せい剤の取引などの犯罪を重ねる手法へと変わっていった。

王であるNとゼクロムが一介のトレーナーであるブラックが従えたレシラムに敗北したこと、そしてN本人が敗北を認め、ゼクロムと共に失踪したことにより、宗教面での求心力が大きく失墜した。

また、この騒動の後でプラズマ団の悪事が当時のチャンピオンであるアデクやプラズマ団幹部である七賢人と戦ったジムリーダーたちの手によって白日の下にさらされたことも大きな影響となった。

黒派の存在は、彼らの行動をよりエスカレートにしてしまったのではないかという意見がある一方で、純粋な犯罪組織ということで、警察が動きやすくなったという意見もある。

実際、宗教は国境や身分に関係がないがために警察にもプラズマ団に入団する人間が現れてしまったという話がある。

既に足を洗ったとはいえ、幼くしてプラズマ団員となったファイツが目の前にいるのだから、なおさらそれが事実である可能性が高いと言える。

「あの事件の後、私は七賢人の1人であるロット様と一緒にいたわ。家族がいない私には、プラズマ団しか居場所がなかったから」

「じゃあ、どうしてトレーナーズスクールへ入ったの?」

「プラズマ団の罪を背負わせたくないって、逃げてしまったゲーチスとヴィオ様、ジャロ様以外の七賢人と一緒に警察へ出頭したの。プラズマ団のこれまでの犯罪の全責任を負うために…」

七賢人のうちの4人が自ら国際警察へ出頭したというニュースは新聞で見たことがある。

プラズマ団の拠点であるNの城には現地警察と国際警察による家宅捜索が行われ、これまでの犯罪の証拠となり資料や物品、ポケモンなどがワラワラ出てきた。

この出頭した4人への裁きはどのようになるのかはイッシュ地方全体で大きな話題となり、判決が出たのは1年前。

罪状は内乱罪未遂で、彼らは禁固15年執行猶予5年という判決が下されることとなった。

彼らが自らの罪を認め、反省しようとしていること、そして生涯をかけて被害者に対して賠償を行い、おやが見つけらないポケモン達の面倒を見続けることを確約したこと、そして4人のうちの誰も控訴しなかったことがこの判決を決めさせた。

「ロット様は判決が決まった後、ホドモエシティで贖罪の日々を送っているわ。ほかの方々の行方は分からないけど…」

「それで、君は…」

「私も…しばらくはロット様の元へいたけど、半年くらい前にお金を出して、トレーナーズスクールで新しい生き方を探せって言われて、あの町を離れたの」

お金や荷物を渡されたときのロットらプラズマ団の大人たちの優しい笑顔を思い出す。

彼らは親がわからなくなってしまったポケモン達を育てるため、被害者やその関係者に賠償をするために、日雇いの労働や出店を開くなどして働き、少しずつ金をためていた。

そんな大切ななけなしの金を渡され、これを使って新しい人生を始めろと言われたときはうれしさと自分だけ解放されることへの罪悪感など、様々な感情がごちゃ混ぜになっていたことを今でも覚えている。

そして、同じく親が誰かわからなくなってしまったポケモンの中で、自分に懐いていたダケちゃんと一緒にホドモエシティを後にした。

受け取ったお金を使ってヒオウギシティへ向かい、そこで部屋を借りてトレーナーズスクールへ入った。

部屋を借りる際、保証人としてロクト(ロットの偽名で、ファイツがプラズマ団の関係者であることを隠すため)の名前を書いた。

ペンダントの存在に気付いたのは3カ月くらい前になる。

荷物の整理をしていたときにそれを見つけた。

ロットと共にいた、愛の女神と平和の女神と呼ばれた2人の少女、ガーベナとヘレナの2人が持っていたペンダントであった。

紛れ込んでしまったのかと思い、すぐに送り返さなければと思ったが、そのことをすると自分の素性がばれてしまう恐れがあった。

ホドモエシティの教会にプラズマ団の残党が贖罪をしているという話はヒオウギシティにも伝わってきていた。

彼らの想いに応えるためにも、ファイツはペンダントを送ることができず、今こうして持っている。

「それで、このペンダントには何が…?」

「N様のブロマイドがある以外、私には…何も…。ただ、2人の女神さまがあの事件の後から持っていたわ」

(事件の後か…)

その話が正しければ、このペンダントができたのは少なくとも2年前。

そして、作ったのは白派のプラズマ団。

だとしたら、ホドモエシティへ行くことでこのペンダントに関する詳しい情報をつかむことができる。

なぜその2人の女神がそれを持っていたのか、何のためにファイツの手に渡ったのか、そしてそれを黒派が狙う理由。

胸ポケットに入れているポケギアが鳴り始める。

出して相手を確認すると、相手はハンサムだった。

「誰から電話?」

不審に思ったファイツが訪ねてくる。

「クラスメイトだよ、きっと僕のことを心配して…。待っていて」

ポケギアを持ったまま、ラクツは部屋を出ていく。

ファイツに聞かれないように、個室トイレに入って電話に出た。

「先生…」

「ラクツか…。厄介なことをしてくれたようだな」

ハンサムの口調からして、今回の行動に対して怒っているようだ。

ペンダントの持ち主である彼女とともにヒオウギシティを逃げ出してしまったため、当然のことだ。

「先生。僕は…」

「言い訳はいい。港まで1人で来い。今後のことを話し合おう。盗聴されている可能性があるからな」

「盗聴…!?先生、あなたは…」

「急げよ。君たちは…とんでもないことに巻き込まれている可能性がある。それから、通話が終わったら、すぐにそのポケギアは破壊しておけ」

答らしい答えを言わぬまま、ハンサムは電話を切る。

(ポケギアを破壊しろ…。どういうことなんだ?)

盗聴という言葉もあるように、国際警察も何かが起こっていることは確かだ。

個室トイレを出て、誰もいないことを確認した後で窓を開き、ミジュマルをそばに出した後で、外に向けてポケギアを投げる。

同時に、ミジュマルは水鉄砲でポケギアを粉々に破壊した。

 




ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 35匹
入手したポケモン 3匹
バッジ数 1

現在の使用ポケモン
ミジュマル レベル20
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し

ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル25相当に低下)
技 波動弾 サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)

卵(生まれるまでもう少しかかる)

ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)29匹
入手したポケモン 2匹

タマゲタケ レベル18
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん

ゾロア レベル26(親はN?)
技 だまし討ち 守る ひっかく 追い討ち

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