ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編   作:ナタタク

14 / 17
第14話 海上の決闘

だんだん日が昇っていき、太陽の光が水上を走るボートを照らしている。

ボートの外でバイザーを手で抑えながらラクツは周囲の警戒を続けている。

ボートがタチワキシティを出てから既に2時間が経過している。

海図が正しければ、あと1時間あればヒウンシティに到着する。

「なぁ、ラクツの兄ちゃん…だっけか?到着まで少し休んだらどうだ?ずっと見張ってるぞ?」

水夫が操縦席から顔を出し、心配そうにラクツに尋ねる。

ラクツはボートに乗ってからずっとこうして見張りをしている。

ファイツは操縦席の後ろにある少し開けた空間で寝袋の中に入り、休んでいる。

「いえ…こういう海でもプラズマ団が襲ってくる可能性がありますから」

「心配するなって。船にはソナーがついていて、操縦中は俺がこうして見てる。それに、海上から来る相手に備えてレーダーも…」

「それに…どこかで、見られてる…。そんな気がしますから…」

双眼鏡を手にし、周囲を見渡す。

ここの海はホウエン地方ほどではないが、海があまり汚染されておらず、そのおかげでにおいの元となるプランクトンの数が抑えられており、あまり海特有のにおいを感じない。

しかし、数分経つと、紙や布が焦げたようなにおいを感じ始めた。

「なんだこの匂い…。!?匂い…??」

不快なにおいに鼻をつまむラクツだが、なぜその匂いを感じるのか疑問を抱き始める。

それと同時にボートの左右に急に合計4艘のボートが出現し、それに乗っているプラズマ団員がペリッパーとサメハダーを出す。

「な、急に出てきやがった!?!?」

「光学迷彩!?ステルスも含めて、ソナーとレーダーから逃れていたのか!?」

すぐにミジュマルを出し、彼に冷凍ビームを放たせる。

しかし、水タイプのポケモンは氷タイプの技では大したダメージを与えることができない。

そのため、ペリッパーの場合は翼を凍結させることで海上へ墜落させるのが精いっぱいだ。

「ボートのスピードを全開にしてください!相手は追いかけてきます!!」

「くぅ…了解だ!俺も死にたくないからな!!」

ホワイトから事情を聴いており、こうして襲ってくることも言われていた水夫は腹をくくり、ボートのスピードを上げていく。

飛行速度そのものは大したことのないペリッパーであれば、それでまくことができるが、問題はサメハダーの方だ。

サメハダーの最高速度は時速120キロで、こちらのボートの最高速度は時速およそ60キロ。

倍以上の最高速度をたたき出すサメハダーが追跡するのは動作もないことで、そのまま突進するなどしてボートを撃沈させられる可能性だってある。

「ラクツ君!!」

ファイツも援護するために外に出て、ダケちゃんを出す。

「ダケちゃん、メガドレイン!!」

ダケちゃんの体が緑色に発光し、同時にサメハダーからも発生する緑色の光を吸収していく。

水・悪タイプであるサメハダーに対して、草タイプのメガドレインは効果抜群であり、一撃でダウンした。

「ファイツちゃん…よし、だったら、サメハダーの牽制をする!!」

ファイツを止めようと一瞬考えたラクツだが、同じ水タイプのミジュマルしか現状手持ちにない彼ではうまく戦えないうえ、草タイプの技である草結びもここでは使えない。

やむなく、ミジュマルに牽制させるように命令し、ミジュマルは冷凍ビームでもう1匹のサメハダーの進路に氷を張って妨害を行う。

その程度では砕かれて突破されるだけなのだが、それでもわずかにスピードを落とすことができた。

そのサメハダーにメガドレインが襲い、またも一撃で撃破された。

「まずい…ボートが前から…うわああ!?!?」

「前から…うわあ!!」

「キャア!!」

突然船体が揺れ、ラクツ達が転倒する。

前方にはこちらに突撃してきたボートがあり、そこから4人のトレーナーがこちらのボートに入ってきた。

「くそ…!!」

4人とも、ゴルダックとブイゼル、モンジャラにヒヤップと水タイプのポケモンを出してくる。

ミジュマルだけでは戦えないと思い、ラクツは立ち上がり、ルカリオも出そうとする。

しかし、急に後ろから誰かによって抑え込まれ、うつ伏せになってしまう。

「何…!?」

「悪いな、ラクツの兄ちゃん。こういうことなのさ」

ラクツを抑え込んだのは水夫で、ボールからヤブクロンを出す。

そして、頭を持ち上げるとヤブクロンに至近距離からラクツに毒ガスを放たせた。

「ラクツ君!!」

「人の心配をしている場合かよ!」

ラクツに目が行ってしまったことで隙ができてしまい、モンジャラのツルで体を縛られてしまう。

同時にダケちゃんがサイコキネシスを受けて、ダウンしてしまった。

「ダケちゃん!!」

「そ、そうか…あんたが、僕たちの居場所を…ガハァっ!!」

なぜ自分たちの居場所が知られ、更に待ち伏せまでされたのかわかったラクツだが、あまりの不快なガスの匂いで嘔吐してしまう。

更に、意識もだんだん薄れつつあった。

「知ってるだろ?ヤブクロンは産業廃棄物の塊だ。そんなコイツの毒ガスを受けたら、よくて1週間は寝込んぢまって、最悪の場合はヒ素中毒と言った公害病で死んじまうって恐ろしい代物だ。本来のこいつの持ち主もこいつを受けて、今では海の底で寝ぼけてることだろうなぁ」

「お…お前…ポケモンを人殺しの道具に…!!」

偽水夫の話を聞いたラクツの中で強い怒りがこみあげてくる。

そのせいか薄れつつあった意識がわずかに回復していく。

「何が悪い?ポケモンはしょせん道具さ。それに、てめえの立場、分かってんのか?」

偽水夫の言う通り、今のラクツには彼らに対抗する手立てがない。

意識だけは失わずに済んでいるものの、やはり毒ガスのせいで身動きが取れず、今動けるのはミジュマル1匹のみ。

おまけにファイツもモンジャラの縛られているせいで動けずにいる、

この状況を打破する術を考えるが、中々いいプランが頭に浮かばない。

(くそ…一体どうしたら…!)

「隊長、こいつらの荷物を調べましたが、ペンダントは出てきません!」

2人のカバンを持って出てきた下っ端がその中身を外にぶちまける。

荷物を守るために残っていたゾロちゃんは既に戦闘不能となっていた。

空っぽのモンスターボールや傷薬などのポケモン用の薬に保存食、そして木の実などが転がるが、彼らが望んでいるペンダントはその中にはない。

「ちっ…おい、どこへ隠した!?」

それのありかを知っているであろうファイツに偽水夫が声を荒げる。

しかし、ファイツは口を閉ざしたままで何も答えを出さない。

「だったらボディチェックだ!着ているものから全部だ!!」

その言葉が何を意味するのか理解したファイツの顔が青くなる。

彼女を守ろうとミジュマルがモンジャラに向けて冷凍ビームを放とうとするが、ブイゼルのアクアジェットを側面から受けてしまう。

更にヒヤップにかみつかれ、追い討ちをかけるようにヤブクロンの毒ガスまで受けてしまう。

毒によって体力が奪われ、徹底的に痛めつけられる形となったミジュマルは力尽き、その場に倒れてしまう。

「ミジュマル!!」

「何やってんだ…てめえのポケモン、しつけがなってねえじゃねえか!!」

抵抗してきたことに腹を立てた偽水夫はラクツの腹部にけりを入れる。

先ほどの王都で胃の中が空っぽになったのもあってか、衝撃によって口から出たのは唾液と胃液だ。

それでも足りないのか、ラクツの顔をファイツが見えるように動かした後で足を踏みつけて固定する。

「こうなりゃあ、やっちまうか。よく見ときな、小僧。お前の無力をなぁ!!」

「や…やめろぉ!!」

下っ端の手にはナイフが握られている。

これからの行動を理解したラクツは必死に叫び、ファイツは恐怖のあまり、目を閉じてしまう。

「おいおい、年頃の女の子をいじめるたぁ、情けないなぁ。おじさん、見てられないよ」

「あぁ!?」

急にどこからか中年男性のけだるさに満ちた声が聞こえ、手を止めた下っ端たちが周囲を見渡す。

声自体はラクツ達が乗っているボートから聞こえているが、どこにも姿が見当たらない。

「…ペルシアン、辻斬り」

どこからか紫色の肌をしていて、丸い顔をしたペルシアンが飛び出してきて、ファイツの服を切ろうとした下っ端の右腕に深い切り傷を入れる。

出血し、あまりの激痛から下っ端は悲鳴を上げてその場を転げまわる。

「安心しな、切断とか麻痺とかにはならないから。さっさと医者に頼んで治療してもらいなぁ」

「こ、こいつ!!やっちまえ、ゴルダック!!」

ゴルダックがペルシアンに向けてサイコキネシスを放つ。

しかし、ペルシアンはサイコキネシスが起こす超能力の波の中を平然と突き進んでおり、ゴルダックを至近距離からの悪の波動で撃破した。

「ば、馬鹿な!?ペルシアンはノーマルタイプ!なんでエスパータイプの技が効かないんだ!?」

「いちいちうるさいなぁ…。おじさんのいる地方で生息してるペルシアンは悪タイプなんだよ。だから、エスパータイプの技が効かないの…と」

いつの間に偽水夫の背後に真っ白な髪と肌をして、赤いシャツに黒いジャケットとズボンをはいた、目にクマのある中年の男性が現れる。

背後を取られたことで動揺した偽水夫の延髄に手刀を叩き込み、彼を気絶させると、ラクツの腕に注射を打つ。

「これ…は…?」

「ワクチン兼治療薬だ。時間はかかるが、よくなるぞ…さて」

注射を終えた男の元へペルシアンが戻ってくる。

「な、な、なんだお前は!?何者なんだ!?」

動揺した下っ端が男に向けて疑問をぶつける。

彼の口ぶりからして、別に地方の出身者だということは確かだ。

「ああ…おじさん?おじさんはただのおじさんさ。いろいろしゃべるのくたびれるから、それでよしてくれよな。それで…後ろ、気にしなくていいのか?」

「何…う、うう、うわあああ!?!?」

振り向く暇もなく、気絶した偽水夫ともども下っ端と彼らのポケモン達が強力な念力を受けて上空へ飛んでいき、ファイツを縛っていたツルもほどけていく。

彼らの背後にはヤミラミがいて、彼がサイコキネシスでこれを引き起こしていた。

「女の子に手を出そうとした罪だ…。しばらく海でおぼれてな」

ボートから離れた場所でサイコキネシスが止まり、彼らは海へ転落する。

その間に男はラクツ達のボートの操縦を始めた。

衝突を受けたとはいえ、目的地に着くまでであれば問題はない程度の損傷で済んでいた。

「さてっと…運転交代だ」

「ハアハア…」

薬が効いてきたのか、ようやく起き上がることができたラクツはミジュマルをボールに入れると、荷物を集めているファイツの元へ歩いていく。

彼女の隣に座り、ラクツも荷物を回収した。

幸い、海に落ちてしまったものはなかった。

「ごめん、ファイツちゃん…。怖い思いをさせてしまって…」

「まったくだ。女の子一人守れないようじゃあまだまだだな…ラクツ」

「…なんで、僕の名前を!?」

教えてもないのに急に名前を呼ばれたことに驚き、ボートを操縦する男に目を向ける。

舵を握ったまま、男はラクツとファイツに目を向けた。

「あの、あなたは…?」

「俺はクチナシ。ただのおじさんさ」

 




ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 35匹
入手したポケモン 3匹
バッジ数 1

現在の使用ポケモン
ミジュマル レベル20
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し

ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル15相当に低下)
技 波動弾(?) サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)

卵(生まれるまでもう少しかかる)

ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)29匹
入手したポケモン 2匹

タマゲタケ レベル18
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん

ゾロア レベル26(親はN?)
技 だまし討ち 守る ひっかく 追い討ち

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。