ポケットモンスターSPECIAL 新約 ブラック2ホワイト2編   作:ナタタク

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第12話 ラクツとヒュウ

バッジを受け取ったラクツはポケモンセンターでミジュマルを回復させる。

そして、夜になって静まり返った波止場でラクツとファイツはヒュウと向き合っている。

「さあ、話してもらうぞ。なんで町を飛び出したのか…?」

ヒュウの目はじっとラクツを見ている。

鋭い目線から、嘘は通用しないと言っているかのようだ。

「…狙われた」

「ん?」

「ファイツちゃんが狙われたんだ。プラズマ団に…。だから、僕は彼女と一緒に逃げた」

「狙われた?彼女が??」

ラクツの隣に立つファイツを見ながら、ラクツは納得できないように言う。

プラズマ団がポケモンを狙うのはいつものことではあるが、一見すると一般人、しかもトレーナーズスクールの学生である彼女がピンポイントで狙われる理由がわからない。

「理由は僕でもわからない…。けど、放っておけなくて…」

「まぁ、お前がそういうやつだってことは分かるけどな…」

宿題の手伝いやバトルやゲットのアドバイスから落とし物探しまで、ラクツはトレーナーズスクールでも筋金入りのお人よしっということになっている。

ラクツにとっても、ちょっと変わった学生という程度の演技をしておいた方が正体を気づかれにくいと思っていたため、そういうことにしていた。

それに、たいていのことは国際警察官の勉強や訓練をやっていたおかげで比較的容易にできることばかりだ。

「じゃあ、直接聞こうじゃねーか…。なんで狙われているのかを。ファイツ、なんで狙われている?」

ヒュウの矛先がラクツからファイツに向けられる。

ラクツが彼女と一緒に逃げる理由は分かった。

あとはファイツが狙われている理由を知るだけだ。

(ファイツちゃん、分かっているね…?)

「(ええ…)実は…」

おそらく、ポケウッドでの一件がなければ、ヒュウにこういう理由で説明することができなかっただろう。

ファイツはゾロアをヒュウに見せる。

「こいつは…?」

見たことのないポケモンにヒュウも驚きながらもじっとゾロアを見る。

「ゾロア。この子がとても珍しいポケモンだからって、プラズマ団が狙ってるの」

「珍しいから…なぁ。売り飛ばすつもりかよ…」

ヒュウは先日テレビで見たポケモンの密売業者や顧客への一斉摘発のニュースを思い出す。

別の地方や個体数の少ないポケモン、色違いポケモンといった現地では入手しにくいポケモンを手に入れたいというトレーナーは山ほどいる。

そういうポケモンを持つことはトレーナーにとっては大きなステータスとなっており、それ故にそれを狙った事件まで発生するほどだ。

裏社会でもそういったポケモンの取引はうまみのある市場であり、実際に押収した資料では金色のタマタマは1匹100万以上の値段が付いたようだ。

2年前の事件で分裂したプラズマ団にとっても、こうしたポケモンの入手は組織の運営に必要不可欠かもしれない。

表向きは宗教結社という印象が強かったそのころとは違い、町の人々から寄付金を得ることができなくなったこともあるため、なおさらだ。

「まぁ、そういうことみたいだ。その証拠に、また集まってきてるよ…」

3人がここで話している間に、プラズマ団が3人を包囲するように集まっていて、更に海上にはボートに乗った団員がキャモメを出している。

「ファイツちゃんとヒュウは逃げるんだ。僕が時間を稼ぐ!」

「ふざけるな!!」

ヒュウがテッシードとビブラーバ、そしてガーティを出す。

「ヒュウ!?」

「俺は…逃げない!」

ギリギリと歯ぎしりをするほどの怒りを宿したヒュウがじっとプラズマ団達を見る。

(ヒュウ、君は…)

「あ…ダケちゃん、ゾロア!?」

ファイツのそばにいたダケちゃんとゾロアが彼女を守ろうと前に立つ。

ダケちゃんはともかく、元々はNのポケモンであるゾロアまでも。

「2匹とも…」

ファイツはバトルでポケモンが傷つくことを恐れている。

その点は今でも変わらないが、ラクツに助けられたこととジムでの戦いを見たことで、ポケモンもまた自分の意思で戦うことがあるのだということを知った。

戦う意思を固めたポケモンに対して、自分ができることは1つだけだ。

「お願い…ダケちゃん、ゾロア…ううん、ゾロちゃん、力を貸して!」

ニックネームをつけられたゾロアは一瞬驚きを見せるものの、真剣なまなざしを見せながらコクリとうなずいた。

「2人とも…。ああ、こうなったら仕方ない!!」

2人とも逃げる気配がないのを見ると、もはや勝利条件はプラズマ団の全滅のみ。

ラクツはミジュマルだけでなく、力が封じられてるルカリオも出す。

「こいつは…ルカリオ!?」

「あの野郎、そんなポケモンまで持っていやがったか!?」

充分に懐かせたリオルでなければ進化しない、トレーナーズスクールの学生程度ではもっていないだろうと高をくくっていたプラズマ団は予想外のポケモンの登場に動揺する。

しかし、手に入れることができれば大金になると発想を転換したのか、その同様は比較的短時間で収まった。

「テッシード、10万ボルト!!」

まずは先制攻撃とテッシードが10万ボルトを放つ。

海にいたキャモメにとって電気タイプは致命的で、タイプ不一致であるにもかかわらず、一撃でダウンした。

「よし…!ルカリオ、サイコキネシス!!」

能力が封じられているルカリオが唯一使える技を発動する。

強い念力がドガースやフシデ、ベトベターを襲い、エスパータイプが弱点であるポケモンがバタバタと倒れていく。

「ダケちゃん!キノコの胞子で相手を眠らせて!ゾロちゃんは追い討ち!」

ダケちゃんがまき散らすキノコの胞子によって、コラッタやミネズミなどが睡魔に襲われる。

眠ってしまい、隙だらけになった彼らに追い討ちをかけるように、ゾロア改めゾロちゃんの追い討ちがクリティカルヒットする。

「くそ…何なんだこいつらは!?」

「あの男はともかく、ハリーセン頭まで…」

ザンギ牧場でやられた仲間からの報告を受けたのか、ラクツの危険性については既に知っているようだが、ヒュウがここまで戦えることに彼らは驚きを見せていた。

「当たり前だろうが…お前らに復讐するためだけに、俺は強くなったんだ」

「ヒュウ…」

いつもとは違う、低い声の中に激しい憎悪を忍ばせたヒュウに応えるように、ビブラーバが竜の息吹でゴルバットを攻撃する。

ゴルバットもエアカッターで応戦するが、執念の差が出たのか、押し切られて竜を模した青いブレスの直撃を受ける。

追加効果によって体がしびれたゴルバットは地面に落ち、そのままミジュマルの冷凍ビームでとどめを刺されることとなった。

「そこまでにしておけ、お前たちでは勝てん」

「何…!?」

機械音の混じった声が聞こえ、その声を聞いたプラズマ団員がビクッとして動きを止める。

ゆっくりと波止場へ歩いてくる彼は黒いスーツと黒いシルクハット、そして顔を白一色の仮面で隠していて、ボイスチェンジャーのせいで声から何者かを判別することができない。

「ふっ…そこのハリーセンみたいな頭の男。すっかり鬼になったようだな。もう昔のようには戻れんだろうな…」

「お前…は…!!」

仮面の男を見たヒュウは怒りで体を震わせる。

一方、ファイツもヒュウほどではないものの、体が震えており、彼女自身必死に抑えようとしているが、止められないようだ。

「お前の望みは分かっている。このポケモンだろう?」

仮面の男がボールを手にし、それからレパルダスを出す。

写真などで目にする通常のレパルダスとは異なり、瞳の色が赤く染まっている。

「辻斬りだ…レパルダス」

男の命令に従い、爪に白い光を宿したレパルダスがヒュウに襲い掛かる。

「く…ミジュマル、冷凍ビ…」

「手を出すな!!」

「ヒュウ…!?」

ヒュウが叫ぶと同時に、辻斬りがヒュウの右腕をかすめる。

腕には切り傷ができ、血が流れる。

「ほお…」

「レパルダス…いや、チョロネコ…やっと会えた…」

出血する右腕を左手で抑えながら、ヒュウはじっとレパルダスを見る。

だが、レパルダスはグルルルと警戒していて、ヒュウを敵と認識している。

再びレパルダスが辻斬りで攻撃しようとし、ガーティがかみついてレパルダスを取り押さえようとする。

しかし、急に頭上に現れたフローゼルから熱湯を浴びてしまう。

「ガーティ!?」

「見えなかった…さっきのフローゼル、いつの間に!?」

高い素早さを持っていることは知っているものの、ガーティの頭上に瞬間移動のごとく現れるほどの素早さをそのポケモンが持っているとは思えなかった。

特性である『すいすい』の効果で、雨であれば素早さが2倍になるため、そうであれば可能であるかもしれない。

しかし、雨は降っていない。

「どんなに怒りによって強く見せかけようが…5年前に見せたお前の心の弱さを隠せはしない」

「黙れ…!」

「取り戻すために力をつけたようだが、この程度とはな…。お前は5年前のおびえたガキのままだ」

「黙れぇぇ!!」

ヒュウが激高し、ビブラーバが竜の息吹を放つ。

フローゼルは避けようとも技で相殺しようともせず、あえて受け止めるが、ニヤリと笑うだけでまったく利いていない。

「悲しいな…力不足だ。冷凍ビーム」

フローゼルの口から冷凍ビームが放たれる。

地面・ドラゴンタイプであるビブラーバには致命的な一撃になりかねない。

「…!?ミジュマル!?」

ミジュマルがビブラーバの前に立ち、冷凍ビームを放つ。

冷凍ビームがぶつかり合うが、レベルの違いのせいか、その差は歴然だ。

わずかにぶつかり合った後で、フローゼルの冷凍ビームが押し切り、それを受けたミジュマルとビブラーバが海に吹き飛ばされる。

「ミジュマル!」

「ビブラーバ!!」

「ふっ…他愛もない。このままとどめを…」

「リーフストーム!!!」

大量のとがった葉っぱの竜巻が仮面の男とフローゼルを襲い、男はフローゼルをボールに戻すと高くジャンプして回避する。

そして、リーフストームを放ったジャローダとそのポケモンの親である女性を見る。

「ちっ…裏切り者が」

「ホワイト…さん?」

「あんまり遅いから、探したわよ…って言っても、これだと遅くなって当然かぁ」

「ふっ…少々分が悪いようだな。退くぞ」

シルクハットを直した仮面の男を中心にプラズマ団が集まっていく。

そして、彼らは複数のドガースを出すと、スモークで視界を封じていく。

「くそ…お前ら、逃げるのか!?」

「本当の強者は勝つ戦いしかしないものだ。再び会いまみえようじゃないか、弱い男…そして、ラクツ」

「何…!?」

なぜ自分の名前を知っていると聞こうとしたが、スモークが消えたころにはすでにプラズマ団の姿はなかった。

「チョロネコ…」

膝をついたヒュウは両手を地面につける。

仮面の男に対して何もできなかったこと。

そして、目の前にやっと現れたあのポケモンを鳥のドスことができなかったという事実が彼を苦しめる。

「ちく…しょう…ちくしょーーーーーー!!!!」

静寂に包まれた波止場で、ヒュウの悲しい叫びが響き渡った。




ラクツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降) 31匹
入手したポケモン 3匹
バッジ数 1

現在の使用ポケモン
・ミジュマル レベル20
技 水鉄砲 冷凍ビーム 草結び 燕返し

・ルカリオ レベル45(拘束により、能力はレベル15相当に低下)
技 波動弾(?) サイコキネシス インファイト(使用不能) シャドーボール(使用不能)

ファイツ
出会ったポケモン(図鑑入手以降)25匹
入手したポケモン 2匹

タマゲタケ レベル18
技 しびれ粉 キノコの胞子 メガドレイン がまん

ゾロア レベル26(親はN?)
技 だまし討ち 守る ひっかく 追い討ち

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