一方ルパンは、一葉、四葉と御神体のある山へ・・・・・
目が覚めると、ホテルの一室だった・・・あれ?何でアジトに居ねえんだ?
ロビーに降りて来ると、次元がソファーで煙草を吹かしている。
「よう、何でこんなとこに泊まってんだ?」
「昨日襲撃されてな・・・また、アジトが、おしゃかになっちまったんだよ!」
「あれま~・・・・それで、三葉・・・じゃ無くて、俺はよく無事だったな?」
「頼りになる、お侍さんが助けてくれたんでな・・・・」
「あっそ・・・・」
「ところで、いつまでこんな事が続くんだ?さすがに、俺も庇いきれねえぞ・・・」
「彗星が、墜ちるまでだよ!」
「え?・・・何でだ?」
「考えてみろよ!何で?この時期にわざわざ、時系列ずらして入れ替わりが起こってんのか?」
「あ・・・そうか・・・彗星落下から助けるためか・・・・」
「そういう事・・・・」
「だったら、さっさと三葉に伝えて、住民を避難させた方がいいんじゃねえのか?」
「いろいろとあってな・・・・そんな、簡単な話じゃ無くなってんだよ!・・・とにかく、三葉には時期をみて知らせるから、それまでは黙っててくれ!」
「分かった・・・・」
朝、糸守の自分の体で目が覚める。
窓から、陽の光が差し込み、小鳥の囀りが聞こえて来る。車など殆ど走っていないので、騒音も無く、静かな朝だ・・・・今迄は、何も感じなかったが、平和に朝を迎えられることが、こんなに幸せだったなんて・・・・・
「お姉ちゃん!ごはんやよ!」
四葉が、声をかけてくれる・・・こんな当たり前の日常が、今は心地よい。
着替えて、下に降りる。朝食を食べていると、テレビから、またルパンのニュースが流れてくる・・・・・
『昨夜、ニューヨークのメトロポリタン美術館に、ルパン三世からの予告状が届きました・・・・』
あれ・・・この間はパリに居たと思ったら、今はニューヨークに居るんだ・・・本当に、世界を転々としてるのね・・・・
その日の夜、久しぶりに、お婆ちゃんに剣術の稽古をつけられる。剣術は古武術と同じで、幼い頃からお婆ちゃんに鍛えられていた。
私達は道場で、白い羽織袴を着て、木刀を構え向かい合っている。
「やああああっ!」
「はいっ!」
私は何度となく打ち込んで行くが、有効打は入らない。一見、私の方が押しているように見えるかもしれないが、お婆ちゃんにはまだ余裕がある・・・・私の方は、もう息があがって来ていた。
「ふんっ!」
「きゃっ!」
急に、お婆ちゃんが反撃に転じた。私は、防戦一方になり後退していく・・・
「はあっ!」
「はうっ!」
脇に、一撃を入れられてしまう・・・・私は木刀を落とし、その場に蹲ってしまう。
「鈍っとる・・・最近、鍛練を怠っておるの・・・・」
し・・・仕方が無いでしょ・・・2~3日に一度は・・・入れ替わっちゃってるんだから・・・・
「あと、素振りを千回やっておきなさい・・・・・」
そう言って、お婆ちゃんは出て行ってしまう。
せ・・・千回も?・・・・な・・・何とかしないと・・・これ以上、ノルマが厳しくなったら・・・・お・・お婆ちゃんを見返せるくらい、上達できれば・・・でも、入れ替わってたら特訓できないし・・・・
その時、ふと、この間助けてくれた、お侍さんの顔が浮かぶ。
そうだ・・・あの、五ェ門さんに頼めば・・・・・
何度もアジトを襲われたので、私(ルパン)達は郊外に拠点を移動していた。
環境的には糸守に近く、自分の体に居る時と変わり映えしないのだが、今迄のような騒動が起こらないので、私的には安心していた。
近くの空き地を使って、私は、五ェ門さんに剣術の指南を受けいた。
「はああああっ!」
お互い木刀を持ち、向かい合っている。次元さんは、少し離れたところに座って眺めている。
「やあっ!」
私は、本気で向かって行く・・・・でも、私の打ち込みは、全て簡単に弾かれてしまう・・・・つ・・・強い・・・五ェ門さんは全然本気じゃ無いのに、思い切りやっても体勢ひとつ崩せない・・・・・こ・・・これでも、物心ついた時から竹刀を握ってるのに・・・・
「はあっ!」
何度掛かっていっても、全て往なされてしまう。五ェ門さんは息ひとつ乱れていないのに、私の方は、もう息絶え絶えだ。腕も疲れて、木刀が重く感じてきている・・・・これ以上は持ちそうもない、一か八か・・・・・
「ええいっ!」
私は、最後の力を振り絞り、思い切り突っ込んだ・・・・しかし、五ェ門さんは軽く木刀を一閃しただけで、私の木刀を跳ね飛ばしてしまった。
「ま・・・参りました!」
私は、その場に跪き、頭を垂れる。
「無駄な動きが多い、それ故、直ぐに息があがってしまう・・・・また、体の軸がぶれている・・・・だから、一振り一振りに重さが足りなくなるのだ・・・・・」
「は・・・はいっ!」
「・・・・だが、中々良い太刀筋だった・・・更に精進なされよ!」
「は・・・はい!ありがとうございました!」
「ほお・・・五ェ門に、あそこまで言わせるとは・・・中々やるな、あのお嬢ちゃん・・・」
五ェ門さんに鍛えてもらった後、部屋で休んでいると、急に部屋の中に女の人が入って来た。栗色の長髪に、豊な胸、超ミニスカートからは、すらっとした長い脚が覗いている・・・・本当に、綺麗な人だ・・・・・
「ねえ、ルパ~ン・・・・」
その人は、甘いねだり声を出しながら近づき、私の真横にくっ付いて座る・・・・え?い・・・いくら何でも、これはくっ付き過ぎじゃない?胸が、体に当たってますけど・・・・
「ルパ~ン・・・お願いがあるの・・・・」
その女の人は、更に顔を近づけて来た・・・吐息が、頬に当たる・・・・
「ひゃああああああっ!」
私は、思わず飛び退いてしまった。これには、その女の人も驚いていた。
「ど・・・どうしたの?ルパン?」
「ちょ・・・ちょっと、くっ付き過ぎじゃない?・・・は・・・話なら、この距離でも、き・・聞こえるし・・・」
「何言ってるの?いつもは、あなたの方が飛び込んで来るのに・・・・」
そう言って、その女の人は、わざと胸を少し肌蹴させる。
そ・・・そうか、ルパンって、こういう色気の塊みたいな女が好みなんだ・・・・だから、私の体なんか興味無いって言ってたのね・・・・失礼しちゃう!
「い・・いつもは、どうか知りませんけど・・・わ・・私は・・・・」
「私?」
あ・・・そうか・・・私は今ルパンだから・・・・・
「俺は、そんな色仕掛けには、興味無いから!」
い・・・言っちゃった・・・・でも・・・ずっとこんな調子で迫られたらたまらない・・・私は、その気は無いから・・・・・
「あっそう!じゃあいいわ!もう、あんたなんかに頼まない!」
その女の人は、怒って、出て行ってしまった・・・・ほ・・・ほんとに良かったのかな?これで・・・・・すると・・・・・
「ふははははははは・・・・」
次元さんが、笑いながら入って来た。
「こりゃいいや、不二子の奴も、面食らっただろう。まさか、中身が女の子だなんて思わねえからな!」
え?・・・い・・・今のが、不二子さん?・・・・・あ~、だったら、この間の事、文句のひとつも言っとくんだった・・・・・
朝、三葉の体で目が覚め、いつものように制服に着替えて下に降りると・・・・・
「何で、制服着とんの?」
と、四葉に突っ込まれる。何だあ?今日って、祝日だったっけか?・・・・・
今日は、山の上にある御神体に、口噛み酒とやらを奉納する日らしい。この町だけの行事なので祝日では無いが、学校や仕事は休みらしい・・・・まあ、退屈な学校に行かなくていいのは、何よりだ。
俺と四葉、婆さんの3人で出かける。宮水神社の、裏手の山を登って行く。しかし、何で御神体が神社にでは無く、山の上にあるんだ?何か、引っ掛かる・・・・・
結構な山道を、ひたすら歩く。俺や、四葉は何とかなるだろうが、普通の婆さんには、この山道は辛そうだ・・・・しかし、流石、唯者じゃねえ!一見、歩みも遅く辛そうに歩いちゃあいるが、相当足腰しっかりしてるぜ、この婆さん!
だけど、ここは、一応演技しとくか・・・・・
「お婆ちゃん!」
俺は婆さんに背中を差し出す。
「ありがとうよ・・・」
婆さんは、そう言って俺の背中におぶさる。
ほほ・・・重さは、普通の婆さんと変わらねえな、軽りいや・・・・・
頂上に着くと、そこには、大きなカルデラ状の窪地があった。
こんなカルデラ、火山でもなけりゃ、隕石でも墜ちなきゃできねえ・・・・一体、何回彗星が墜ちてんだ?この町は・・・・・
その中央には、巨大な岩と一体化した巨木があり、それが御神体らしい。俺達は、その御神体を囲むように流れる、小川の前まで行く。
「ここから先は、隠り世。」
婆さんが語る。この先はあの世、つまりは死後の世界であり、戻るには、俺達の一番大切なものを、引き換えにしなければならないらしい・・・・その一番大切なものが、口噛み酒なのだと・・・・・この酒は、三葉と四葉が米を噛み、唾液と共に吐き出したものらしい。これが、三葉達の半分なのだそうだ・・・・
それが無いと、渡ったら帰って来れねえってか?どうにも俺は、そういう話をこじつけて、誰もここに近づけさせないようにしてるとしか思えねえ!
御神体の前まで行くと、小さな入り口があり、下に降りる階段が付いていた。中まで降りて行くと、小さな祠があり、口噛み酒はそこに奉納された。
ん?・・・・今、一瞬頬に風が当たったような?・・・・だが、上の入り口からの風じゃねえ・・・・どっかに、風穴でもあるってのか?
俺は、辺りを見回すが、どこにもそんな穴は見当たら無かった・・・・・
山を降りて来ると、もう陽が雲の後ろに隠れ掛かっていた。
「わあ~、綺麗やあ・・・・」
真っ赤な夕焼け空を見て、四葉が、草原の先まで走って行く。もう、こちらの声が四葉に届かないくらいの距離まで離れたところで、婆さんが口を開く。
「あんた、三葉やないな?・・・・」
「ほほ・・・気付いてたんか?婆さん・・・・」
「うちの孫は、2階から出入りなぞせんからな。」
「あら、見られてたの?」
「狙いは・・・・あの扉の先か?」
「だと言ったら、どうする?」
少しの間、俺と婆さんは睨み合っていた。しかし、直ぐに婆さんは目を反らし、以降は、何も言って来なかった・・・・・
翌日の夜、俺は、アジトの近くの見晴らしの良い丘の上に、ひとりで立っていた。
しばらく、夜風に当たっていると、バイクの音が近づいて来る。不二子の単車だ。
「待った?ルパン?」
「どうってことねえよ、御婦人を待つ時間は、それだけでも楽しみのひとつさ!」
「良く言うわ・・・この間は、あんな素っ気無い態度だったくせに・・・・」
この間?・・・ああ、三葉だった時のことか・・・・・
「それで、何か分かったか?」
「風魔一族は、5年前に壊滅してるわ・・・・例のティアマト彗星が墜ちた時、頭領を含めた主要部隊が糸守に居たらしくて、町と一緒に滅んじゃったそうよ!」
「ふん・・・やはりな・・・・・」
「ねえ、ルパン?あなた一体、何を狙ってるの?」
「言ったって、信じないと思うぜ・・・・ほらよ!」
俺は、報酬の極上ダイヤを不二子に渡す。
「まあ、いいわ・・・あたしを出し抜こうたって、無駄ですからね!」
そう言って、不二子は走り去る・・・・・
ふふ・・・俺は、何もしねえよ・・・・だから、お前も今回ばかりは、手の出しようがねえよ!・・・・・・
三葉とルパンの、入れ替わりに気付いた一葉・・・・しかし、敵意の無いルパンの態度に、特に何もしようとはしません・・・・・・
対するルパンは、“ティアマトの涙”を、糸守を・・・そして三葉を、どうするつもりなのか?・・・・・・