日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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さぁ、今回もゾンビが現れた世界で懸命に生きる高校生の物語。
始まります。


襲撃の衝撃

時雨達は、裏口から走り続けていた。

呼吸は苦しくなり、足は言うことを聞かなくなっていた。

それでも……一歩でも遠く逃げなければゾンビに襲われ、絶命する事となる。

まさに今の彼らの原動力は『死にたくない』の一心だった。

 

「ここまで来れば……しばらくは大丈夫だろう……」

 

時雨の一言に皆足を止める。

みくはしゃがみこみ、由美は肩で息をしていた。

夏奈は冬なのに流れる汗を手で(ぬぐ)っている。

ほのかですら呼吸が乱れている。

 

「時雨、勢いで飛び出したのは良いけど、このあとどうするんだ?」

 

時雨もこのパターンは考えていなかった。

常に負のケースも考えてきた時雨だが、あの家にいられる時間はもう少し長いものだと思っていた。

だからこそ余裕があった……と言っても過言ではない。

 

「すまない、錬。このケースは考えていなかった……」

「あ? 考えていなかっただと?」

 

錬は怒りのあまり、時雨の首元を掴む。

その手は細かく震え、顔には今にも血管が浮き出そうだった。

 

「お前が……何も考えていなさそうでそれでも、しっかり考えている事を知っているから……」

 

時雨がここで謝れば状況は変わっただろう。

しかし、言われたままにするのも彼にとっては(しゃく)にさわる。

故に言葉を返すことにした。

 

「じゃあ、聞くがお前一人で何が出来る?」

「な……」

「何も出来ないだろう」

「そんなことあるかよ!」

「あるわよ」

 

口を挟んだのは、ほのかだった。

 

「錬君には言っていないけど、時雨君は夜遅くまで作戦を練っているわ」

 

続けて呼吸の乱れが治まってきたみくが話始めた。

 

「しかも、朝早く見回りもしてくれているよ」

「わかったかしら? 錬君(あなた)が考えている以上に時雨君は行動してくれているわ」

 

錬は俯いた。

自分が情けなく思えてきた。

自分のためだけでは無く、他人のために動いている時雨に対して投げつける言葉ではなかった。

 

「時雨……その……すまなかった」

「そんなこと気にしている暇があったら、泊まれる場所探すぞ」

 

そう言って時雨は歩き出した。

その胸には昔、とある人と約束した言葉を秘めて。

 

歩き出したものの、時雨はあることに気がついた。

道の両端はただ草が生えているだけで、とても家などがある場所には見えなかった。

時雨は最悪の場合、交代で見張りながらの野宿を頭の片隅に置いといた。

 

見通しが良いためゾンビの影は直ぐに見つかる。

ゾンビを上手く回避しながら、徐々にほのかの家から遠ざかる。

 

 

 

 

 

 

 

「お」

 

時雨達が発見したのは、廃墟だった。

 

「ここに立て籠ろう」

「そうだね」

 

廃墟と化した一軒家の中は意外に綺麗で、まるで直前まで誰かが住んでいたレベルだ。

時雨は空を見上げた。

夕日で空は赤く染まり始めていた、そんな空を忙しそうにヘリコプターが飛んでいる。

 

「衛生的に大丈夫?」

「みく、そこ気にしたらこの先、生き残るの大変だぞ」

 

時雨は苦笑しながら答えた。

みくも確かにね、と微笑んだ。

 

 

食事は簡単な物で済ました時雨達はバリケードの設置に取りかかった。

廃墟にあったテーブルや椅子を複雑に組み立て、玄関に設置する。

錬は、念には念を入れてと丁寧に玄関を施錠した。

 

「一応見張りは交代でしましょう」

 

ほのかの提案を受け、時雨は組み合わせを考えた。

結果、錬と夏奈、みくとほのか、時雨と由美となった。

暗くなると見張りも難しくなるため懐中電灯を使い、簡単ではあるが明かりを作る。

 

「半径1mくらいが限界だ。それ以上遠い範囲は無理だ」

「まあ、ゾンビの数を考えれば一晩で10体位だろ」

 

今宵、困難が訪れる事を彼らはまだ知らない。

 

夜8時頃、みくとほのかのペアが見張りをしている。

辺りは何も変化がない。

しかし、極限の緊張状態からみくの唇は小刻みに震え、頬を冷たい汗が滴る。

ほのかはそんな様子のみくに声をかけた。

 

「みくさん、緊張しても無駄よ。余計に力が入り動きにくくなるわ」

「そ、そうですね」

「力を抜いて……」

「そういえば、呼び方変わりましたね」

 

そう言われた時ほのかは少し驚いたような表情を浮かべた。

しかし、みくは嬉しそうににこにこしていた。

 

「でも、私は嬉しかったですよ。怖いイメージのほのかさんが私を名前で呼んでくれて」

「そ、そう?」

「良かったら友達になりません?」

「そうね、よろしく。みく」

「はい、ほのか」

 

二人はお互いの手を握った。

その時、錬と夏奈が近づいてきた。

交代を知らせに来たのだ。

ほのかは淡々と錬に現状を伝えていく、錬も頷きながら時折ほのかに聞き確認をした。

 

「そうか、大体わかった。お疲れ様〜」

 

ほのかは片手を軽く上げ、みくは軽く頭を下げた。

 

 

「しかし、何でこんな世界になったんだろうな」

「やっぱり何か事件性があるんですかね? 錬さん」

「わからん」

「ですよね」

 

錬は異変を察知した。

微かにする草を踏む音、人のようで人ではないものもうめき声。

確実に錬達の方に接近している。

やがてぼんやりと姿が懐中電灯の明かりに映る。

 

錬は先制必勝と考えていたため自作の槍をゾンビの額に向けて放つ。

刃は見事に額を貫通し、引き抜く際に変色した血を垂らした。

 

一方の夏奈も負けじと、時雨が使用していた木刀で頭を叩いていく。

大方片付いた頃、時雨と由美が姿を現した。

 

「おいおい、随分出てきたな」

 

錬と夏奈が倒したゾンビは既に時雨の予想を越えていた。

 

「まぁ、時雨と由美ならどうにか捌けるだろ」

「ああ」

「ご心配ありがとうございます」

 

錬と夏奈が廃墟に戻ったのを確認して由美は話し始めた。

 

「時雨様、いつになったら彼らに過去を明かすのですか?」

「そのつもりは無い。それに夏奈は気づき始めてる」

「そうですか」

 

沈黙が2人を襲う。

今までは不安や恐怖を隠すために、会話をしてきた。

対照的に現在時雨達は武器を入手している。

それが心強い物になっている。

 

日が昇り始め、辺りの見通しが良くなってきた。

 

ウェェェヴエァァァ!!!

 

 

「何事?」

「ゾンビの大群……」

 

今まで戦った量を簡単に越す程のゾンビの大群だった。

時雨の頭の中で錬の言葉が復唱される。

お前達なら捌けると。

 

「これは、無茶だろ」

「噛まれる可能性は高いですね」

 

時雨は動けなかった。否、状況が処理しきれなかった。

現実から逃げ出したいと思うようにもなっていた。

 

「……お前が、命をかけてでも守りたいものが見つかるといいな」

「由美、何故その言葉を……」

「その事よりもまずは目の前の大群を片付けましょう、時雨様」

「そうだな」

 

時雨は『金月』を抜き、ゾンビの首をはね飛ばす。

刀は使う者の腕前で切れ味も、耐久性も変わってくる。

推測の域を出ないが、現在の時雨は1時間程度なら切れ味を保つ事が出来る。

また時雨の体力は何だかんだ言っても高い。

そこから計算すると、時雨の活動限界は30分となる。

 

1体、2体……と確実にゾンビを倒していく。

その様子はまる戦場に現れた狂乱者(バーサーカー)の様だった。

 

一方、由美は着ているメイド服の裾をめくり白い足を晒す。

太股(ふともも)には赤いナイフホルスターが存在していた。

ナイフホルスターには、白い字で『To You Nightmare』と書かれている。

素早く由美はナイフホルスターからサバイバルナイフを取り出し、ゾンビの額に突き刺して倒していく。

 

2人の攻撃は寸分違わぬ鮮やかなものであった。

 

38……39……。

由美は数えるのを止めた。

考えている暇があったら今も迫り続けるゾンビの大群を捌く方に集中すべきと思ったからだ。

 

 

 

 

「どうやら片付いたらしいですね」

 

由美は丁寧にサバイバルナイフを拭き、ナイフホルスターに戻す。

それと同時に時雨は崩れる様に座り込んだ。

 

「久々に楽しめる戦いだった気がするよ」

「命がかかっているのに、ですか?」

「あはは……何でだろうな」

 

時雨は力無く笑う。

自分達は生きている事を噛みしめながら。

 

「そういえば、由美。お前、いつの間にサバイバルナイフ持ってたんだ?」

「時雨様が出ていった……あの時からです」

 

由美は笑いも、微笑みもせずに答えた。

 

「すまない、忘れてくれ」

「初めからそのつもりです」

「余計な事を聞いたな、先に寝てくれ。俺は刀の手入れがあるから」

「そうですか、それでは」

 

由美は一礼して廃墟の中に入っていった。

時雨も暫くしてから廃墟の中に戻った。

そして、リビングで刀の手入れをする事にした。




こんにちは、葉月雅也です。
第6話は戦闘がメインとなる様になる様しました。
前回等、戦闘では無く人間関係をメインにしましたからね。
今回は戦闘を増やせるよう努力はしました。
戦闘って大変ですね。
これから一層頑張っていきたいと思います。

これからもよろしくお願いします。

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