作者は爽健◯茶派です。
「See you」
電話を置き、ほのかは深いため息をついた。その様子を見た時雨は呆れた顔で、ペットボトルのお茶を手渡した。
「それって、爽健◯茶?」
「そうだが?」
「私は、綾◯派なのよ」
何やら、ほのかには何か譲れないものがあるのだろう。文句を言いつつも、ちゃっかりと飲むのがほのかである。時雨は呆れつつも手元のスケジュール帳を眺めて、ほのかに伝えた。
「今日の10時にフェスタグローバルオート社と会議、続いて12時に昼食、そして13時にブラックカイト社と会議、16時に企業の視察。18時に夕食です」
「いつもより、2時間も早いわね」
「そ、そうだな」
時雨は悟られないように、出来る限り普通に対応した。その時、社長室のドアをノックする音がした。ほのかは、中に入るように指示した。入ってきたのは早紀だった。
「時雨〜、菓子パン買ってきて〜」
「早紀様、私が行きますので時雨様にすぐに頼ろうとするのはやめてください」
早紀の背後から由美が現れ、早紀の肩を掴む。早紀は素直に由美の指示に従った。
「社長の座を下りてから凄く元気になったよな」
「そうね、それはそうで面倒よね」
ほのかは頭を抱え、時雨の笑顔は引きつっていた。ほのかは手元の資料を眺めて頬杖をついた。
「そろそろ、最初の仕事に行くぞ」
「えー、しーくんともっといたい……」
駄々っ子の様に足をバタバタとさせた。それは時雨の前だから見せる顔だった。時雨はほのかを抱え上げ、会社をあとにした。彼女が社長になった時、経営不振を予測した人が現れ大道寺グループの弱体化が予想された。しかし、ほのかの努力と時雨の支えがあり、グループの規模は拡大された。
「ほのか様、時雨様、お送りいたします」
「由美、頼んだぞ」
由美は一礼して車のドアを開けた。ほのかと時雨は後部座席に乗り込んだ。
「由美の運転を見るとゾンビ騒動の時の逃走中のことを思い出すわね」
「そうですか?」
由美の問いかけに対してほのかは鼻で笑った。時雨は流れる街を眺める。4年前、1度は機能を失った都心部も今では嘘のように活気で満ちていた。その横顔を見つめるほのかはこの男性の妻になれて良かったと心の底から思うのであった。
「お嬢様、本日もスピーディに片付けてきてください。18時から大変重要な用事がございますので」
「そう? わかったわ」
内心、ほのかはわかっていなかった。時雨も何も言わないので謎が謎を呼んでいた。
会議が終わる頃には、日は暮れ始めていた。時雨は先ほどから時計を気にしていた。
「さっきから時計を気にしているようだけど、どうしたの?」
「い、いや、気にするな」
「気なるわよ、今朝からそうやってはぐらかして……。まさか……不倫!?」
「な訳あるか! 俺からのサプライズだよ」
「え」
「行くぞ」
時雨はほのかの手を掴み、由美の運転する車でとある場所を目指した。車に揺られること50分。車はある店前で止まった。
「ここは?」
「俺の妹の夏奈っていただろ。アイツが経営している店だ。今日は打ち上げだ」
ほのかは呆然としたが、その背中を時雨に押され店内に入っていった。
「ほのかさん、いらっしゃい!」
「夏奈、久しぶり」
「よー、ほのか久しぶり! 時雨と元気にやっているか?」
既に半数以上の懐かしいメンバーが集まっていた。そこには海の姿もあった。ほのかは海に駆け寄る。
「海さん! くるみは、くるみは大丈夫なんですか?」
「あの子なら大丈夫。元気に生活しているわ。今ではスポーツクラブでトレーナーをやっているわ」
「そうですか……良かったです」
ほのかは自然に溢れてきた涙を拭う。その様子を見た海はこの4年間本気で自分の娘のことを心配してくれた人がいるんだと改めて思った。
「時雨、しっかり休んでる?」
「母さん、大丈夫だよ」
右手に日本酒が入ったグラスを持ち、瞳が近づいてくる。ほのかは瞳に対して軽くお辞儀をする。瞳も左手を軽く上げそれに反応した。
「しかし、ほのかが本当に後を継ぐとはな」
「それだけ努力はしたわ。それよりもお店、大丈夫なの?」
「その心配はない。夏奈に事前に頼んで貸し切りにしてもらってある。少しは肩の力を抜きな。今日でほのかが社長になってから1年なんだから」
ほのかはその事をすっかり忘れていたようた。夏奈から花束を受け取り、嬉しく涙を流す。
「時雨も、昔と変わって丸くなったわね……」
自分の息子の成長を感じ、瞳は実に嬉しそうだった。その時、時雨は実がいないことに気がつく。
「早紀さん、実さんが見当たらないのですが」
「あの人は恥ずかしがり屋だからね。こういう集まりは基本参加しないわ」
「そうですか」
「料理できたわよ」
夏奈は大きなケーキを運んできた。普段は和食がメインのため、形は完璧ではないがそれでも、豪華なものであった。
「味は俺の保証付きだ。なんて言ったって俺の妻だぜ!」
「当たり前よ。うちの由美が認めた人物よ」
切り分けられたものを、ほのかは皿は受け取ったが食べようとはしなかった。
「どうしたんだ?」
「えっと……しーくんに食べさせてほしいなって……」
周囲にいた皆は、ほのかの反応の変化に驚きを隠せなかった。今までのほのかだったら絶対に見せない反応だったからだ。
「はいはい、お嬢様」
フォークに適量ケーキを取り、ほのかの口に運ぶ。ほのかは本当に美味しそうにケーキを食べた。その様子を見て早紀は両手で顔を覆い、左右に揺れている。
「本当にかわいいな、ほのかは」
そう言って時雨はほのかの頭を撫でた。ほのかは撫でられ、幸せそうに微笑んだ。その時、時雨のスマホがメールが届いたことを表した。
「早紀さん、彼女来れそうです」
「本当? よかった」
ほのかは夏奈のケーキに夢中で早紀と時雨の会話を聞いていなかった。
「夏奈、本当に美味しいよ。ありがとう」
「いえ、喜んでもらえて嬉しいです」
プチ女子会が始まった。そこにドアをノックする。しかし、なかなか入って来ようとはしなかった。しばらく待つと1人のジャージ姿の女性が入ってきた。
「す、すみません。せっかくお誘いしていただいたのに遅れてしまい……」
「大丈夫だ、気にするな」
「す、すみません。時雨さん」
「昔みたいに、兄貴って呼んでくれないのか?」
「そうだね、兄貴」
「しーくん、もしかして……」
「久しぶり、くるみです」
ほのかは、くるみに抱きついた。くるみは驚きながらも、ほのかを抱き返した。その笑顔は、やはり4年前には見ることが出来ないほど輝いていた。
「ほのか」
感激しているほのかに時雨は話しかけた。
「ほのか、今幸せか?」
ほのかは一瞬、戸惑ったが直ぐに笑顔に戻りはっきりとこう言った。
「もちろんよ、しーくん!」
彼らは幸せに満ち溢れていた。だが、この先何が起こるかはわからない。故に、再びこの平穏な日常が崩壊したしないことを願いながら、この物語の幕を下ろそうと思う。
はい、作者です。
今回、こうして完結することが出来ました。
元旦から連載を開始して、割と直ぐに完結しましたね。
日常が崩壊した世界で。を書いて私が伝えたかったのは、当たり前の平和が一番幸せだということを伝えたかったです。
連載中にインフルエンザを発症したり、大変でしたが楽しかったです。
また、新たな小説を書こうと思っています。よかったら見てくださいね。それでは、またどこかでお会い出来ることを楽しみにしています。
スペシャルサンクス
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