「こっち、生ビール3つ!」
「はーい。真衣、お願い」
「わかった」
真衣と呼ばれた女性はジョッキにビールを注いでいく。彼女もまた、あのゾンビ騒動で陰ながら生き延びた1人だった。そんな彼女は友人で友人であること店を経営していた。店は繁盛していて、常に黒字であった。最初は困惑することもあったが、2人で力を合わせて乗り越えてきた。
「はい、お待たせしました」
真衣は、テーブルにジョッキを置く。スーツに身を包んだ男性客は真衣のたわわな胸に夢中になっていた。
「どこ見ているんですか! それだから奥さんに怒られるんでしょ!」
「あはは、すまない。ごめんよ」
真衣はそっぽを向きそのまま、カウンターの中に戻っていった。真衣の隣に立つ女性は先ほどから注文が入ってないのに料理の下ごしらえをしていた。
「どうしたの? 下ごしらえして……」
「ん、明日の貸しきりの準備。私の知り合いが集まるらしいの。私も久々に会うから楽しみ」
「お兄さん、来れるの?」
「その、お兄ちゃんが計画したから」
その女性は笑いだした。その笑い方は、まさに絵になっている。客も思わず見とれていた。その様子に彼女は気づいていなかった。でも、誰も客は求婚はしなかった。すでに彼女が結婚していることを知っているからだ。
「ただいま~。夏奈」
「おかえりなさい、あなた」
店の扉を開けて入ってきたのは錬だった。カウンターを飛び出し、錬に抱きついた。真衣は呆れたように「毎日、これだよ」と呟いた。現在、真衣に彼氏はいない。だけど、彼女は錬との風景を見ているだけで胸がいっぱいだった。
「明日、楽しみだな」
「そうね」
錬は奥の部屋に行き、着替えて接客をした。錬が入ったことで店の回転は良くなった。そうして、閉店時間となり錬はテーブルを拭き、夏奈は仕込みを続け、真衣は皿を洗っていった。
「もう4年も経つんだな……」
「そうね、早いわね」
「じゃ、お疲れさまでした」
「お疲れさま~」
頭を軽く下げ、真衣は店をあとにした。夏奈と錬は2階の自宅に行った。シンプルに荷物は最小限で、しっかりとまとめられている。流石家事全般的に出来る夏奈である。
「……しかし、多忙なアイツらだけど来れるのか?」
「最近は外国交渉が、どうたらこうたらとか言っていたよ」
「アイツが!? アイツ英語できないハズだぞ!」
「それは努力次第じゃない?」
簡単に夕食を作りながら夏奈は答えた。簡単にというのは半分以上が昨日の残り物だからである。
「あなた、テーブル拭いておいて」
「わかった」
その時、再び錬のスマホにメールが届いた。宛先はアイツだった。内容は明日予定到着時間だった。
「真面目か」
錬は1人で笑いだした。夏奈は不思議そうに肉じゃがを運んだ。錬は夏奈から肉じゃがを受け取り、テーブルに並べた。夕食のメニューはご飯、味噌汁、肉じゃが、焼き魚だった。
「旨そうだな、いただきます!」
「いただきます」
2人は会話しながら食事を楽しんだ。
「満腹だぜ」
「満足してもらえてよかった」
「おう!」
錬はそのまま、風呂場に行き入浴を済ませ就寝した。仕事の疲れもあるため、直ぐに眠れた。後片付けが終わった夏奈は幸せそうに眠る錬の額にキスをした。
翌日、錬が起きるより前に夏奈は起きた。人は楽しみなことがあると眠れなくなると言うがまさに夏奈はその状態だった。朝食を簡単に作っていると錬が起きてきた。
「おはよ、夏奈」
「おはよう、あなた」
昨晩と同様に料理を作り、テーブルに並べ、それを食べる。その後支度を始めて錬を見送った。見送る際に今日は早く帰ってくるように伝えた。
「さて、開店の準備しなきゃ」
夏奈は店に降りていき、ドアの鍵を開錠する。準備を始めて20分くらい経ったときに真衣が店に現れた。
「おはよー、夏奈」
「おはよう」
真衣は着替えてカウンターに立った。材料の確認をしたり、道具の点検をしている間に開店時刻となった。夏奈は店先に
「夏奈ちゃん、おはよう」
「夏奈さん、おはよう」
街の人が夏奈に挨拶をする。夏奈は頭を軽く下げ挨拶をする。そして、店に戻る。
「もうやっているかい?」
男性3人組がドアを少し開け中を覗いていた。夏奈は、もう開店していますよとだけ伝えた。彼らはズラズラと店内に入ってくる。
「はい、お冷です」
「あ、ありがとうございます」
彼らはメニュー見ながら、何を頼むか話し合っていた。結局彼らはカツ丼を頼むことにしたらしくオーダーを入れた。
「あれから1週間経ちましたけど、古川さん厳しいですよ……」
「古川さんかそこまで熱が入っているんだよ、月波さんの作品に」
「困ったことがあつたら自分に相談してくださいよ」
「ありがとうこざいます、コリペアさん」
その時、真衣の表情が変わった。真衣は昔から小説投稿サイトで小説を読み漁る程、物語が好きだった。彼女の最近のお気に入り小説を書いている人が目の前にいることを知り、興奮が隠せなかった。
「こ、コリペアさんと月波さん、更に三ツ葉さんまで……」
「真衣、あの3人の事知っているの?」
「夏奈は知らないの? あの3人は小説家さんだよ」
そこから真衣は夏奈に3人の事を説明し始めた。夏奈は聞きながらも注文された料理を調理している。完成した料理を真衣に渡し運ぶ様に促した。
「お、お待たせしました。か、カツ丼です」
「ありがとう」
雅樹はカツ丼を受け取り、他の2人の前に置いた。真衣は思っていた言葉を口にした。
「コリペアさん、三ツ葉さん、月波さん。サインしてください! ずっとファンでした」
「あ、ありがとう。でも、コリペアさんと三ツ葉さんほど有名じゃないから」
「そんなことないです。私は今は無き『日無』からファンです」
「アレを読んでくれている人がいたんだ」
「それで、今回ようやく三ツ葉さんの協力のもとアレンジ版の『日壊』が書籍化が始まったんですよね!」
真衣は興奮気味に答えた。『日無』は雅樹が昔、妄想だけでプロットを組まずに書いた作品だった。公開していたのは僅かな時間で見れた人は少なかった。そして、そのアレンジ版として注目が集まったのが『日壊』である。
「その作品を知っているのは珍しいね。ありがとう」
そう言って順番にサインを書いた。真衣は嬉しそうに持ってその場でクルクルと回った。その様子を見て夏奈は微笑んだ。
「さて、いただきます」
3人はそれぞれ、食べ始めた。途中何度か電話に出て対応していた。どうやら電話の相手は先ほどの古川さんと呼ばれた人だろう。雅樹は頭を何度も下げていた。
「すみません、あの、小説のミスが出たみたいで……」
「相変わらずだな、まだ凡ミスするんかよ」
三ツ葉の指摘で雅樹は苦笑いを浮かべながら、カツ丼代を置き店をあとにした。
「相変わらずですね。『日無』の頃からミスが目立ちましたからね」
「大丈夫ですかね」
「そう言っているコリペアさんも早く続き書かないと、怒られますよ?」
「はははっ」
コリペアは笑うが、三ツ葉は完璧な指摘をしている。だからこそ彼が書く小説はキャラクターの可愛さが読者に伝わるのだろう。そう、真衣は思っていた。
「真衣、もうすぐでお昼時だから混むわよ。準備して」
「はいはい、了解です」
真衣はカウンターに戻り注文が多い料理の下ごしらえを始めた。
「じゃあ、俺達も食べ終わったから、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
雅樹が置いていったカツ丼代を持ち財布からお金お取り出して、お会計を済ました彼らは店を出ていった。真衣はサインを眺めていた。あの日ゾンビに襲われた人と同一人物とは思えないほどその笑顔は輝いていた。
はい、作者です。
前回登場した、古川優輝、山田亮斗は私のリア友の名前を少し変えて登場させました。
そして今回も出番があった3人。糠天使コリペア、三ツ葉亮、月波雅樹はそれぞれハーメルンで活動されているユーザーさんを登場させました。(許可は取ってあります)
さて、次回いよいよ 日常が崩壊した世界で。 は完結します。
たった4ヶ月で完結とあっけない気がしますが、まあ、もう書く事無いんですよね。
だらだらと連載するくらいなら、きっぱりと完結させた方がよいと思いました。
それでは、次回 最終回でお会いしましょう。