日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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時雨 「なぁ、今回は前書きに俺達の会話を使うらしいぞ」

みく 「何ででしょうね?」

錬  「あれじゃね、作者が説明が難しくて間に合わないんじゃね?」

作者 「錬君、余計な事言わないようにな」

ほのか「しかし、物語とこの前書きの世界は同じなの?」

作者 「例のパラレルワールドってヤツっす」

ほのか「逃げの一手って事ね」

作者 「それでは、本編をお楽しみください!」

一同 「逃げた……」


時雨の逆鱗

「いい湯だったぁ!」

 

時雨と錬の体から湯気が立ち上がっている。

錬は興味深々に時雨に問いかける。

 

「教えてくれよ、さっきの写真の人物」

 

時雨の顔は徐々に暗くなっていく。

時雨は、触れられたくない記憶にズカズカと入ってこられるような感覚を味わったいた。

 

「黙れ、錬」

「なぁ、しぐ……」

「黙れ」

 

時雨は目を細め、錬の首を掴む。

時雨の目には薄らと殺意がこもっていた。

 

「それ以上この話に触れるな、と言ったはずだ。まだわからないのか?」

 

時雨の眼力に錬は怯えた。

 

「がっ……わかったから、離してくれ」

 

錬が頷いたのを確認して、時雨は手を離した。

 

「罰として、お前はリビングで寝ろ」

 

時雨は自室に戻った。

錬がリビングに戻ると、夏奈達はパジャマ姿でココアを飲んでいた。

 

「錬、私達寝るから。」

 

そう言ってほのか達は足早に2階へと姿を消した。

 

「結構、俺だけソファーかよ」

 

グチグチと文句を言いながらも錬はリビングの様子を見回す。

 

「写真多いな」

 

錬の言う通り家族写真が多い。

背景は山だったり、海だったりと頻繁に家族で旅行しているのがよくわかる。

 

「ん?」

 

気になったのは銀髪の少女が目つきの悪い少年の肩に肘を置いている写真だった。

 

「これ、どう見ても時雨だろ……」

 

髪型が違うが、それでも時雨と似ている点が多い。

先程、錬の首を掴んだ時見せた表情が、写真の少年と瓜二つだ。

しかし、隣に写っている銀髪の少女が誰だか錬には、まだわからない。

 

「俺も寝るかな」

 

錬はソファーに座り込み、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

「ぅん……」

 

目を擦りながら、時雨は起床した。

 

「清々しい朝だな〜」

 

心にない言葉を紡ぎ出した。

ドアを開け階段を降りる。

 

「おはよ! お兄ちゃん」

「あぁ、おはよう」

 

夏奈は朝食を作っていた。

 

「簡単な、おにぎりだけでゴメンね」

「いや、ありがとう」

 

『簡単な』と言っても数は多い。

 

「あら、時雨君おはよう」

 

顔を洗い終わったらしい、ほのかがタオルで顔を拭きながらリビングに歩いてきた。

 

 

「おはよう」

「夏奈、錬は?」

「ソファーで寝てる」

「おい、錬。起きろ」

 

 

時雨の軽く手刀をかました。

 

 

「うげっ!」

 

 

寝ぼけていた錬はしっかりと目を覚ました。

 

 

「時雨か……おはよう」

「お兄ちゃん、早く食べて!!」

「いただきます」

 

 

昨日の夕食同様、沈黙に包まれた食卓となった。

 

 

「今日の8時にここを出ましょう」

 

 

朝食後、すぐにみくが皆に提案した。

時雨は素直に承諾出来なかった。

小学校に行きたくないからだ。

 

 

「まぁ、いいんじゃないかな」

 

 

錬の軽い返答で時雨達の今後の行動が決まった。

 

「1時間ある。それまでに準備を整えてくれ」

「はいよ」

 

時間はあっという間に過ぎていった。

時雨達は荷物を整え、玄関を出た。

 

「この家には、もう戻って来れないんだよね……」

 

しみじみと夏奈が呟いた。

 

「ああ、日常は崩壊したからな。早く行こう」

 

時雨とほのかを先頭に、小学校に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

小学校までは、時雨の家から普通に歩いて30分(くらい)かかる。

 

「しかし、数が多いな……」

 

愚痴が時雨の口から(こぼ)れるのも仕方がない。

時雨が倒したゾンビの中にも避難しようとした痕跡が見られた。

 

「余所見している暇は無いわ」

 

ほのかは、淡々と包丁でゾンビ相手に戦い続ける。

 

「錬、何か長い丈夫な棒は無いか?」

「ある程度の長さの竹なら落ちてるぞ」

「それなら、包丁を竹に固定してくれ。出来るだけ綺麗な竹な!」

「注文多いな」

「それまでの防衛はやってやるから、作り終わったらほのかに渡してくれ」

 

錬は器用な為、作るのに5分もかからなかった。

 

「ほのか、(ひも)とガムテープで固定したから」

「そう、ありがとう」

 

錬の背後に迫ってきていたゾンビを受け取っていた武器で迎撃した。

 

「あら、便利ね。この新しい武器(おもちゃ)

 

ほのかの小言は恐ろしいものだった。

 

「あ、ありがとう……ほのか」

「いえいえ、生き延びるためよ」

 

しかしほのかは笑わない、微笑みもしない、まるで笑うと損をすると思っているレベルだ。

それが大道寺ほのかという人物だ。

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

ゾンビの攻撃は徐々に時雨の体力と集中力を奪っていった。

 

「あ」

 

しっかり握っていたはずの木刀が手から離れる。

 

 

 

 

 

 

「時雨は、相変わらずおっちょこちょいね」

 

時雨が木刀を落とした様子を見たほのかはボソリと呟いた。

 

「相変わらずって……」

 

錬の言葉を遮るように、ほのかは駆け出した。

錬には、姫のピンチに駆けつける王子様の様に見えた。

この場合、逆だか。

 

 

 

「危ないわね」

 

颯爽と駆けつけたほのかが錬の手作りの槍でゾンビの額を突き刺した。

 

「ありがとう、ほのか」

()()()にも言ったはずよ、慢心は駄目よ」

 

時雨の全身に鳥肌がたつ。

 

「ゾンビの数が減って来たわ、走るわよ」

 

時雨達は走った、学校は目の前に見えてきたからだ。

 

 

 

 

 

 

「ですから、皆さんは私に任せれば大丈夫ですよ」

 

時雨の足が止まりかけた。

小学校のスピーカーから時雨が聞きたくない人の声が聞こえた。

 

「……下手したら校内に入れてもらえないかもな」

 

時雨は誰にも聞こえないように呟き、先に行っている夏奈達のあとを追った。

 

「すみません! 開けていただけませんか?」

 

夏奈が校門の前で呼びかける。

 

「君は……夏奈君?」

 

先程、朝礼台で語りかけていた先生が門の方に寄って来た。

 

「長元先生、お願いします。中に入れてください」

 

長元、時雨とほのかが嫌いな先生だ。

長元はチラリと夏奈の後ろにいた時雨とほのかの事を見るなり、ため息をついた。

 

「しかし、彼らは問題児ですよ? そんな人を敷地内に入れるわけにはいきません」

「な……」

 

みくも呆れて口が半開きになっていた。

この教師が言っている意味が全くわからなかった。

 

「ですので、夏奈君とそのサイドテールの君は入ってくれて構わないよ」

「……」

 

時雨は何も言わずに後ろを向き、歩き出した。

その手はプルプルと震えていた、ここで手を出す訳にはいかないと、煮え返る様な思いに蓋をして、冷静さを装った。

 

「水臭いわ、私は時雨君について行くわ。あの教師(モノ)、私も嫌いだから」

 

夏奈は、しばらく考え込んでいたがはっきりと答えた。

 

「先生……。いえ、(ヘン)(タイ)、私もお兄ちゃん(しぐれ)について行きます」

 

長元の笑顔は引きつっていた。

時雨は「ざまあみろ」と、内心思っていた。

 

「行こう、お兄ちゃん。私達の手で未来を切り開こう!!」

 

夏奈は向日葵(ひまわり)の様な笑顔を浮かべていた。

 

「ああ、俺達は生き延びるんだ」

 

「あの人に告白するまでは死ねない」と時雨は誰にも聞こえないように呟いた。




第3話書き終わりました。
最後の文のかたまりが最終回ぽい雰囲気を醸し出していますが、最終回ではありませんので。
第4話では、新しい人物が出るとか出ないとか……。
気楽にプロット作って、気楽に書いている作品です。
皆さんも気楽に読んでいただけると幸いです。

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