「ここなら、暫く立て籠れそうだな」
「そうだな。まあ、他の生存者がいて揉め事になりそうだがな」
彼らがたどり着いた場所は、ホームセンターとスーパーマーケットが一緒になっているてんぽだった。広々とした駐車場には点々とゾンビの姿が見えている。斜路を下り、駐車場内に入る。彼らは少量の荷物しか持たなかった。
「刀と銃は隠せそうな場所に隠そう。バレたら盗まれるからな」
「お兄ちゃんそれは良いんだけど、どうやって中に入れてもらうの?」
「事務所か商品搬入口のどっちかだろう。それが無理そうなら、その時は夏奈に任せるよ」
「いくわよ、時雨君」
ほのかの、かけ声に合わせて車のドアを開ける。先陣を切ったのは錬だった。しかし、刀と銃は使わないという制約のため、直前で避けるか包丁でゾンビの額を突き刺し、引き抜く。
「時雨! この位置からなら正面突破の方が早い」
「そうか、武器を隠せそうな場所はあるか?」
「自動販売機の隙間とか……。ベンチの下に固定とか」
「自販機の隙間で大丈夫か……」
「段ボールで隠せば、問題ないだろ」
彼らは数ヶ所に分けて自動販売機の隙間に武器を隠した。時雨はスーパーマーケットの正面玄関を叩く。だが、中に居るハズの人からの反応はない。当然である、現状生存できる可能性はない。また、生存者の数も日を追う毎に減少している。
時雨の後ろに居た夏奈は、ポケットから1枚のメモ用紙を取り出した。錬からボールペンを借り、言葉を並べた。そして、その紙をガラス扉に押し付けた。
「時雨君、無視していた分のゾンビが集まり始めているわ。かんしゃく玉はあるかしら?」
「あるぞ」
時雨からかんしゃく玉を受け取った、ほのかはそれをある程度離れたゾンビの足元に向けて投げた。高い音を放ちながら、ゾンビの群れは音のする方に集まっていく。
「早く、入れ」
外人が自動ドアを手動で開け、手招きをしている。時雨は頷き、皆流れ込む様に店内に入っていった。
「危なかったな。俺は、ジャック」
時雨達も順番に軽く自己紹介をしていく。ゾロゾロと他の生存者も顔を出しに来て、順々に自己紹介をしていった。全員の自己紹介が終わった後にジャックは、ほのかを見て時雨に小指を立てて見せる。時雨は呆れた顔で「違う」と言った。ジャックは寂しそうに「そうか」と言った。
「ジャック、見回りの時間は何時なの?」
「午前に2回、午後に2回だ」
その後も、ほのかはジャックにあれこれ質問を繰り返す。ジャックは質問に全てハキハキと答えていた。
「じゃあ、私達はホームセンターの方を使わせてもらうわ」
「ほいほーい」
「行きましょ」
ほのか達は足早にその場を去る。ホームセンター側に着き、ほのかは周囲を確認する。他に人が居ないことを確認し、ほのかは口を開いた。
「自動販売機の隙間に隠した武器をホームセンター内に隠すわ」
ほのかの作戦は、ジャック達は基本的にホームセンター側には来ないらしい。そこをついて、武器をホームセンターに隠すというものだ。次の見回りは、ほのかと時雨が行くと既に伝えている。その見回りの時間だが、午後6時。懐中電灯を使うことになるが、辺りは闇に包まれている。その隙にホームセンター側の自動ドアの鍵を解錠して武器をホームセンター内に隠す訳だ。
作戦決行の午後6時が近づく、夏奈は自動ドアを解錠する。ほのかと時雨は懐中電灯片手に昼間に隠した武器を取りに行く。素早く武器を回収し、ホームセンターの入り口に向かう。待機組に渡し、各々隠しに行ってもらう。入り口を閉め、夏奈は施錠する。
「見回り、終わったわよ」
「おう、ありがとな。疲れただろ。ゆっくり寝てくれや」
2人は軽くお辞儀をして、ホームセンター側に向かった。
「おかえり。お兄ちゃん、ほのかさん」
「ただいま」
ホームセンターは広いため、どこに武器を隠したのか知るのは3人だけである。情報を交換したり、乾パンを口にしながら今後の予定を練り直している間に時計は午後10時を指していた。
「そろそろ寝ましょうか」
ライトを消し、夏奈はペットコーナー、錬は日用品コーナー、由美は休憩所で、ほのかは展示用のベッドにそれぞれ眠りについた。しかし、時雨だけは眠りにつかなかった。昼間のとある人物の行動が怪しかったからだ。皆の寝る位置をバラバラにしたのも理由がある。
時雨は暗闇の中、最小限の足音で移動を開始する。ほのかが寝ているベッドの近くの柱身を潜め、その場で待機をする。すると、遠くで革靴の高い音が響く。現在、ほのかの実家で身なりを一式変えている時雨達は走りやすさを優先するため、ランニングシューズを履いている。だが、足音は革靴だ。昼間見た限り革靴を履いている人物は1人きりである。足音が徐々近くなる。順々にコーナーを回っているらしい。つまり、時雨とほのかの現在地点までは分かっていないようだ。
足音が徐々に近くなる。すると、ほのかの寝ているベッドの手前で足音が止まる。次の瞬間、掛け布団を捲る、布の音が聞こえた。時雨は持っていた懐中電灯でほのかのベッドを照らす。
「やっぱり、あんたか。ジャックさん」
「うーん。いつ気づいたのかね」
「うるさい」
時雨はジャックの鳩尾に強力な打撃を打ち込む。気を失ったジャックの首を掴んで時雨はジャックをスーパーマーケットの方に運んだ。
翌朝
ほのかが目を覚ますと、ベッドの隅に寝息をたてている時雨がいた。時雨のさらさらの髪を触っていると、ほのかの口角は少しだけ緩んだ。
「ん……。すまん、寝てしまった」
タイミング良く時雨が起きたので、ほのかは真顔に戻る。
「さっき、俺の髪の毛弄っていたよな」
「ゴミがついていただけよ」
ほのかは立ち上がり、背伸びをした。
「お兄ちゃん、おはよう」
夏奈達も起きてきたようで、いつものメンバーが集結する。その後は朝食を軽く摂取したり、ストレッチをしたりしていたら、太陽もかなり昇ってきていた。
「なあ、時雨。スーパーマーケットの方、騒がしくね?」
「確かにな……」
錬の言う通りスーパーマーケットの方が先日より、少し騒がしい。時雨たちは武装して様子を見に行くことにした。
風邪じゃなくてインフルエンザでした。