日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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繰り返される脱出

「ウソだろ……」

 

 

外の見回りに向かうために、玄関のドアを開けた錬は思わず震える。昨日殲滅したのと同等の数くらいのゾンビが、門の前にいた。錬は、音をたてないように慎重にドアを閉める。そして、時雨の部屋に向かって駆け出した。

 

 

「時雨……って、お取り込み中だったかな?」

「気にするな。それよりどうしたんだ、錬」

 

 

錬は時雨に簡単に現状を説明する。一瞬、時雨は目を見開いたが、直ぐに作戦を練り始めた。錬からの情報を基にすると、正面玄関からの脱出の成功確率は、ほぼ不可能である。しかも、車が止めてあるガレージのシャッターを開けるときに音が出る危険がある。かといって裏口かあは脱出か容易ではあるが、その後の足となるものが無い。荷物を運ばなくてはならないので、裏口から脱出しても後々苦労することなる。

 

 

「そう言えば、くるみ、アレはあるか?」

 

 

くるみは、無言で頷いて時雨にアルモノを渡した。

 

 

「準備ができ次第脱出しよう」

「そうね」

 

 

錬は居間に向かい、夏奈に脱出することを伝えた。夏奈はテキパキと荷物をまとめ始めた。

 

数十分後……

 

 

「慎重に行くぞ」

「そうね、時雨君も無理だけはしないことね」

 

 

先頭に立つ錬はドアをゆっくりと開け、ガレージに向かって駆け出した。そのあとを皆が続き、最後に時雨がドアを閉めた。錬は車のトランクを開け、荷物を投げ入れ後部座席に飛び乗った。夏奈はくるみを抱え、錬が開けたドアから車に飛び乗った。

 

 

「計画は順調だな」

 

 

ポツリと時雨は呟き、手に持っている小さなビニール袋から防犯ブザーを取り出した。その紐を引くと、大きな音が辺りに響き渡る。そして、時雨は防犯ブザーをガレージとは逆方向の道に向けて投げた。

 

 

「よし、大分移動してくれたな」

 

 

その様子を時雨の少し前を走る、ほのかの確認した。そしてポケットからガレージの扉を開閉するためのリモコンを取り出した。そして、スイッチを押す。

 

 

「お兄ちゃん、ほのかさん、急いで!」

「わかっているわよ」 「わかってる」

 

 

時雨とほのかは流れる様に走り、車に乗り込む。ドアを閉めると同時に、由美はアクセルを踏み込む。何体かゾンビを轢き飛ばしながら車は、一般道を再びエンジン音を奏でながら走り始めた。

 

 

 

 

 

「まったく、安心できる場所はねえのかよ」

「諦めろ、生き残れている方が奇跡的だ」

 

 

時雨は流れる窓の風景を眺めてた。ふと、前を向くと肘をドア アームレストにかけ、唇を尖らせていた。その時、隣に座っている錬が肘で時雨の肩をつついた。

 

 

「ったく……。時雨~何か話そうぜ~」

「断る、お前と話すと疲れる」

「ひどいな」

 

 

そう言っても、錬はニコニコと笑いながら時雨の肩に手を乗せている。一方の時雨も諦めているようで、目が完全に死んでいた。しかし、錬は全く気にする様子も見せず会話を続けた。

 

 

「気を変えるためにも、少し明るい話をしようじゃないか」

「……好きにしろ」

「じゃあ、そうだな……恋バナとか、どうだ? 王道かもしれないが」

 

 

そう笑いながら錬が言うと前の席に座っている、ほのかの表情が変わる。その反応を錬は見逃さなかった。痛いところを的確に突いていく。その度に、ほのかは「うるさいわね」とだけ返し外の様子を眺めていた。何を言っても、面白い反応が返ってこないので、飽きた錬は寄りかかりながら時雨の方を向き、ニヤリと笑いながらいじり始めた。

 

 

「で、お前はいるのか? 好きな人」

「う、煩いな、黙って次の泊まれそうな場所を探せ」

「いるってことだな」

 

 

時雨は深いため息を1つ吐き、目を閉じた。

 

 

「時雨様、この近くにガソリンスタンドはありますか?」

 

 

どうやらガソリンに余裕が無くなったようだ。生憎、時雨はこの辺りの地理は詳しくない。その時、ほのかが助け船を出す。

 

 

「由美、この次の信号を左折しなさい。右手に見えてくるはずよ」

 

 

スマートフォンを片手に持ち、由美に教えガソリンスタンドに向かう。

 

 

 

「ここもか……」

 

 

ガソリンスタンドの近くに取り巻くかのように数多くのゾンビが徘徊している。由美はガソリンスタンドから少し遠い位置に車を停車する。

 

 

「一番危険なのはガソリンを入れている間です。」

「そうだな、無防備な訳なんだからな」

 

 

話し合った結果、時雨と錬が守ることになり、その間に由美がガソリンを入れるとなった。由美はエンジンをかけ、アクセルを踏み込む。

 

 

「行きますよ。お嬢様達は何があっても動かないでください。飛び道具も使わないでください」

「行くぞ」

 

 

時雨と錬が車から飛び降り、戦闘体制に入る。

 

 

「7分、耐えれば良いから」

「サービス残業はしないからな、時雨」

 

 

時雨は腰を落とし、ゾンビに接近する。首を切り落とし、次の獲物(ゾンビ)に攻撃を仕掛ける。当然、戦闘時に音が発生してしまう。だから時雨は出来るだけ車から離れていった。少しでも、由美達の負担を減らすために。

 

 

「まったく、疲れるなぁ……」

 

 

遠くでポツリと愚痴を溢す錬がいた。時雨は錬のことを睨み付ける。その時目の前にゾンビが正に覆い被ろうとしてくる。彼は、ゾンビの左肩を蹴り、出来た隙にゾンビの首を切り落とす。

 

 

「……危なかったな」

 

 

そう言いつつも、時雨は殺戮機械の様にゾンビの首を切る。時雨の服には返り血、背後には血溜まりが無数に出来ている。

 

 

「お兄ちゃん、戻ってきて行けるから」

「わかった」

 

 

時雨と錬は車に戻り、由美はエンジンをかけた。時雨は着ていた服を取り替える。脱いだ服は窓を開け、投げ捨てた。

白い布は風で舞い上がる。空は曇天だった。




まずは、謝罪から失礼します。今日のキャス終了時から何だか体が怠いです。熱っぽいです。風邪かな? 分かりませんが、文字数が……。
さらに更新速度がぶれそうです。すみません。

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