日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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研究所から漏れたウイルス『ゼロ』
『ゼロ』の猛威により町は一転、地獄の様な光景と化す。
何とか時雨の家に逃げ込んでこれた、時雨達。
しかし時雨は心配だった、自分の妹が生きているか……。
崩壊した世界で懸命に生きる少年少女の物語。
『日常が崩壊した世界で。』第2話


別れと再会

某中学校

 

「早く!!」

「わ、わかっているよぉ……」

 

息を切らしながらも校内を1人はショートカット、1人はロングヘア、1人はポニーテールを揺らしながら駆け抜ける。

彼女達が異変に気がついたのは部活の朝練習が終わり、教室に向かっている時だった。

 

「でも、こっちで大丈夫なの?」

「裏口から出れれば多分逃げ切れるよ」

 

しかし、少女達はまだわかっていなかった。

ゾンビは知能が低下する代わりに筋力と聴力が飛躍的に向上するという事に。

 

ガッ

 

「!?」

 

偶然開いていた地窓から手が伸び、少女のうちの1人の足を掴む。

掴まれたロングヘアの少女は派手に転倒した。

 

「!!」

 

少女は振り向き、今来た道を戻ろうした。

 

「来ちゃダメ!!」

「!?」

「私の事はいいから……」

「……」

 

少女は唇を噛みながらも、彼女が出した真摯な決断を断る事は出来なかった。

戻らないというのは友達思いな少女が出来る最善策だった。

 

「……。ありがとう、真衣(まい)

「泣くのもダメだよ、こんな状況だからこそ笑顔でいなきゃ」

 

少女は深呼吸して走り出した。

だか、友人との別れは少女の心を締め付けた。

それでも走らなきゃ、その一心で走り続けた。

 

 

……この世界の神はこの少女に何か恨み妬みがあるのだろうか。

 

「あっ」

 

曲がり角でゾンビと遭遇してしまった。

しかも少女達は音を出しすぎた。

 

「私何とかするから!」

「でも!!」

「あなただけは、生き延びて……。私の希望だから」

 

少女の友人は近くにあった箒で応戦し始めた。

 

「早くっ!!」

「ごめんね……」

 

少女は呟き颯爽と隣を駆けて行った。

 

「どうしたらいいの? お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

少女が颯爽と駆けて行って数分が経ったのを確認して、彼女は安堵した。

 

「あなたには頼れる兄がいるでしょ……夏奈」

 

先程の戦いも決して無傷ではなかった。

 

「……ぐふっ」

 

嘔吐するように吐血する。

少女の友人も決してゾンビを知らない訳では無いし、噛まれたらどうなるかも知っていた。

 

「……私、田中(すず)は夏奈の事が好きでした」

 

誰もいないからこそ、鈴は口に出せたのかもしれない。

 

「死ぬのは怖いけど、これ感染しちゃってるよね……」

 

鈴の腕には噛まれた傷がついていた。

間違いなく感染してしまっている。

 

「……」

 

無言で窓を開け、身を乗り出した。

冬場で冷たい空気が鈴を包む。

そよ風が鈴のショートカットの髪を僅かに揺らす。

 

「……オシャレ、してみたかったな」

 

鈴は目を閉じ重力に体を預けた。

 

グシャ

 

静かな校舎裏に嫌な音が響いた。

 

 

 

 

 

「頼れるのは……お兄ちゃんしかいない」

 

時雨の事だ、高校から自宅に帰ってきているだろうと夏奈は賭けることにした。

出来るだけ音を立てないように階段を降り、裏口に着いた。

 

「あとは、家に帰るだけだけど……」

 

この時、夏奈不安だった。

いくら運動部だと言っても、体力に限界はある。

しかも状況は日常とは大きく異なっている。

ポニーテールにしていない前髪が汗で(ひたい)にくっついて気持ちが悪いと思いながら足になりそうな物を探した。

 

「あ」

 

夏奈が見つけたのは鍵がかけていない自転車だった。

 

「借ります」

 

素早くまたがりペダルを強くこぎだした。

夏奈を乗せた自転車は勢いよく進んだ。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

夏奈は自転車を全力で漕ぐ。

足を止めたら待ち受けるのは死のみ、その事を夏奈は理解していた。

だからこそ全力漕ぎ続けた。

 

「あっ……」

 

道に転がっていた小石にハンドルを取られ、派手に転倒した。

 

ガシャーン

 

「ヤバっ……」

 

夏奈の心配は自身の怪我ではない、壮大に音を立ててしまったことだ。

案の定、音の発生源である夏奈の方にゾンビが数体集まり出した。

 

「何やってるの?」

 

1人の少女が夏奈に話しかけてきた。

少女の特徴は右手に鉄パイプを持ち、髪型はほのかと同じくまとめていなかった。

 

「自転車で逃げようとして転んだのね」

 

状況を理解する為、少女はあえて口した。

夏奈は少女の後ろからゾンビが来ているのに気がついた。

 

「危ないですっ!!」

()()()?」

 

少女は躊躇いも無くゾンビの頭に鉄パイプを振り下ろす。

 

ぐしゃっとゾンビの頭が潰れる。

 

「ふーん、ゾンビって脆いのね……」

 

少女は不気味な笑みを浮かべる。

まるで、慈愛が無い様に夏奈は見えた。

 

 

「早く、家に帰りなさい」

「あ、ありがとうございます。私、相川夏奈って言います。最後にお名前聞いていいですか?」

「……黒崎(くろさき)くるみ よ」

「くるみさん、ありがとうございます」

 

夏奈はくるみの横を駆け抜けて行った。

 

「相川……聞いたことある苗字ね」

 

くるみは戦闘をしながら思い出すことにした。

そして最後の1体を倒した時、思い出した。

 

「相川……兄貴の苗字も確か相川……」

 

くるみは笑った。

理由は本人もわからない、ただその感情が溢れてきたからだ。

 

「会えたら、その時は……」

 

くるみは再び頭を抱えて笑った。

 

 

 

 

夏奈は走った、正直今までで1番全力で走った。

 

「お兄ちゃん!!」

「夏奈!?」

 

夏奈が家に帰って来れたのは、時雨達が帰ってきた3時間後の事だった。

 

「夏奈! 大丈夫か? 怪我とかしてないか?」

「だ、大丈夫だよ〜」

「大丈夫じゃない! ほら擦りむいているじゃないか!!」

 

擦り傷は自転車に乗って転んだ時のものだ。

 

「ほら、消毒して……」

 

「あら時雨君、妹に優しいのね」

 

この時、時雨は笑顔で言えたならほのかはかわいいのだろうと想像した。

想像したと言うのはほのかは絶対に笑わない。

昔は『氷結のほのか』と呼ばれていた事もあった。

 

「夏奈はどうやって逃げてきたんだ?」

「私は……」

 

夏奈は簡単にここまでの経緯を説明した。

その後、時雨も家に着くまでの経緯を伝えた、時雨達は情報共有出来た。

 

「そうなると……。みく、これからどうするんだ?」

「錬さん、小学校がこの町の避難所ですよね」

「あ、ああ」

「なら、行きましょう」

「みく待て、もう日も落ちてきた」

 

時雨が気にしたのは日照時間だ。

季節は冬に近づいている故、日照時間が短くなってきている。

今から小学校に向かったところで日没に間に合う可能性は低い、いや無いに等しい。

 

「しかし、あの学校だけは行きたくないな」

 

時雨は苦笑いを浮かべる。

みくは首を傾げる。

時雨の苦笑いの理由がわかっていなかった。

 

 

「とりあえず、持てるだけの道具は準備しておこう」

 

時雨の合図と共に皆が武器になりそうな物を探した。

 

小1時間後

 

「見つかったのはこれだけか……」

 

包丁4本、時雨の木刀だけだった。

まさに近距離の武器しかなかった。

 

「不安だね、これだけで生き延びていかないといけないんだもね……」

 

 

「夏奈さん、勝手にキッチン借りしました」

「ほのかさんって料理出来るの?」

「ええ、一応人並みに」

 

そう言ってテーブルに料理を並べていく。

 

「でも、ほのか」

「余計な心配よ、時雨君。火は使ってないから」

「火を使わなくてもオムライスって作れるのか?」

「ええ、電子レンジで作れるわ」

 

 

「いただきます」

 

 

ほのかの料理はとても美味しいと時雨は思った。

 

「ほのか、美味いな。きっと、いい嫁になれるな」

「そう、ありがとう」

 

会話が途切れる。

食事ではなく、まるで葬儀の参列のようだった。

 

「……ごちそうさま」

 

結局沈黙に耐えきれず、時雨は自室に戻った。

ベットに仰向けで寝転び、1つため息をつく。

 

「表情に出さなくても、相当心の方にダメージが残っているようだな」

 

部屋の入口に寄りかかり話しかけてきたのは錬だった。

 

「それは、そうだろ」

「まぁ、時雨ならすぐにこの環境にも慣れそうだな」

「用はそれだけか?」

 

時雨は早く現実逃避がしたかった。

すぐに現実は受け入れられない、だからこそアニメの世界に1度逃げ込みたかった。

 

「いや、違う」

 

錬ははっきりと言い切った。

 

「この写真のもっと細かい情報が欲しい」

 

時雨は起き上がり、錬が持っていた写真を破り捨てた。

 

「錬、この件は忘れろ」

「は?」

「誰だって忘れたい過去の1つや2つ(くらい)あるだろ」

 

そう言い残し、時雨は部屋を出て階段を降りていった。

 

「時雨……お前とこの少女の関係は何なんだよ……」

 

錬は吐き捨てる様に呟いた。

 

「あ、お兄ちゃん、お風呂先に貰ったからね」

「ああ、構わん。先に女性達が入ってくれれば、俺も気楽に入れる」

「そういえば、ほのかとみくの服ってどうするんだ?」

「私の着てもらおうかなって」

「そうか」

 

 

 

 

「ねえ、ほのかさん」

「何ですか?」

「ほのかさんって何で生き延びたいの……?」

 

浴槽に浸かっていたみくは、体を洗っていたほのかに聞いた。

みく自身が生きる意味を失っていたから……。

 

「そうね、特に無いわ」

「え!?」

 

予想外の回答にみくは困惑した。

ほのかなら明確な目的があると思っていたからだ。

 

「私の生きる意味を聞いたところで何も意味を成さないわ、自分で見つけ出しなさい」

 

相変わらずの無表情でほのかは答えた。

みくもその言葉を受けて改めて考え直そうと思った。

 

「先に上がるわ」

 

体に付いた泡を丁寧に落としたほのかは体を拭きスタスタと出て行った。

みくもあたふたしながらもほのかの後に続いた。

 

 

ほのかとみくは着替え終わり、リビングへ戻った。

 

「お風呂、ありがとうございました」

「ほのかさん、みくさん服のサイズ大丈夫ですか?」

「ええ、ちょうどいいわ」

「大丈夫です、ありがとうございます」

 

 

「じゃ、俺達も風呂入るから」

 

 

タオルを肩にかけて時雨は鼻歌交じりに浴室に向かった。

いつの間に2階から降りてきていた錬もついて行った。




初めましての方は初めまして。
葉月雅也と申します。
本日やっと第2話が投稿出来そうです。
第1話の訂正、第2話のアドバイスをしてくださった、四ツ葉 黒亮 さん、黒鳶 さんありがとうございます。この場をお借りしてお礼申し上げます。
また、興味を持ってこのお話を読んでいただいた皆様に大変感謝しております。
評価や感想、質問等できる限り答えようと思いますのでよろしかったらお願い致します。

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