日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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今回は時雨達は出てきません。

スミマセン


それでは
『日常が崩壊した世界で。』第16話
すたーと


彼は生存者であり、警察官としての誇りがある

「上からは、何と?」

「ここは都市から100キロ以上離れた地だ。救援は無理だそうだ」

「そんな……」

 

 

彼がこの警察署に配属されて来年で3年になる。来年には昇級が囁かれていて、順風満帆であった。そんな時に、この騒動が起きた。国会も何も手出しが出来ないらしい。この国に研究所は数多く点在する。その1つ1つ回っている時間と予算がない。更に追い討ちをかけるように、問題の研究所が見つかったからといってその原因調査に時間と費用がかかる。

 

 

「問題は、山積みってわけですか」

「俺達は、避難誘導くらいしか出来ない。だがな、それでも俺達は俺達が出来ることをしなければならないんだ」

「そうですね」

 

 

彼はそう言って机の上に置かれた写真立てを手に取り、懐かしそうに眺めた。その目にはうっすらと涙が見られた。

 

 

「君には2人子どもがいたんだよね」

「ええ、男女1人ずつ。2人とも私には、なついてくれませんでしたがね」

「そういう年頃だったはずだよな」

「それもあると思うんですが兄の方は若干、不良になりかけましたからね……」

「しょうがないことだ、親が思うように子どもは育たない。それが子どもであり、個性だ」

 

 

彼の上司はそう言って微笑んだ。

 

 

「さて、そろそろゾンビ達と戦いますか」

 

 

そう言って彼の上司は拳銃を取り出した。

 

 

「しかし、俺は未だに解らないんだよ。今の国の(おさ)は何故、一般人の銃刀の所持を認めたのか。その前の長達は所持を禁止していたのに」

「確かにそうですね」

「まさか、こうなることが予測できて……」

 

 

言い切らないうちに、ゾンビが警察署の自動ドアのガラスを叩く。現在、電源を切っているため自動では開かない。他の職員は全員安全な場所に避難させたようで、この建物の中に居るのは2人だけである。彼も拳銃を構える。

 

 

「しかし、本当に噛まれたら絶対感染するのか?」

「わかりませんよ、噛まれたことないんですから」

 

そう言いながら自動ドアに近づく。遂に、彼らの数の暴力で強引に自動ドアが破壊される。

 

 

「射て!!」

 

 

上司の掛け声に合わせて彼もトリガーを引いた。乾いた発砲音と共に弾丸が発射される。狙いをしっかり定めたわけでは無かったため、ゾンビの肩に当たった。

 

 

「頭を狙え。奴らはソコが弱点らしい」

 

 

彼は頷き、上司の指示に合わせて照準をゾンビの頭に合わせる。ブレを最小限に抑えて、彼は再びトリガーを引いた。今度はゾンビの頭にに当たり、ゾンビは崩れ落ちた。

 

 

「あと何体いるんだ?」

「多分、あと50体ほどではないでしょうか?」

「弾丸が、もたないかもな」

 

彼らは、警棒を使わなかった。いや、使えなかった。現在、彼らが所持している警棒にはあまり攻撃力がない。更に、無駄に近ついて噛まれる危険性も併せ持っていたからだ。つまり、警棒を使った戦闘は、あくまでも最終手段ということである。

 

 

「アイツら無事に避難できたか……」

 

 

自身にも死の危険が迫っているのに、彼の上司は自分の部下や共に仕事をしてきた仲間のことを心配していた。

 

 

「死ぬかもしれないんですよ、自分のことを考えてくださいよ」

「俺が死んだとしても、妻は昔に他界してるし、子どもにも恵まれなかったからな。何も心配するものがない。だったら、同僚のことを心配するさ」

 

 

彼は何も言えず、無言で弾を装填した。そして再びゾンビに向かってトリガーを引く。数十分かけて、彼らは周囲のゾンビを殲滅した。

 

 

「よし、いつまでもここには居られない。俺達も避難誘導しつつ避難しよう」

「了解です、その前に持てる限りの物を持っていきましょう」

 

 

彼らは弾丸と予備の銃、少しの食料と金銭を持ち、警察署をあとにした。

 

 

 

彼はこの近辺の避難所となっている小学校を見て呆然とした。門は既に決壊して校庭にはゾンビで溢れかえっていた。

 

 

「可能性は少ないが、校舎の中に逃げ込めた人が居るかもしれない。探していこう」

「そうですね」

 

 

彼らは生存者であり、警察官だ。警察官としての誇りと使命感がある。だから、彼らは他の生存者を探そうとした。

敷地に足を踏み入れ、彼らは音を発てないように歩く。校舎の前にたどり着き、ドアを開けようとする。だが、施錠されているため開かない。彼らは裏口に回り、廊下の窓が1つだけ開いていることに気がついた。彼らは、その窓から校舎内に入り捜索を開始する。まだ昼前なので明るく照明は、いらなかった。

 

 

「このフロアにはいないようだな」

 

 

彼らは続けて2階、3階と捜索したが生存者は居なかった。来た道を戻り、入ってきた窓から出た。

 

 

「すみません、娘が通っている中学校に寄ってもいいですか? 私の母校でもあるのですが……」

「ふむ、かまわない。お前も1人の人間だ。身内を心配するのは当然のことだ。行こう」

「ありがとうございます」

 

 

彼は深く頭を下げる。彼の上司は肩を軽く叩き、歩き始めた。この小学校から彼の娘が通っている中学校まで歩いて20分は、かかる。彼らは車を探し、運よくキーが抜かれていない車を見つけた。

 

 

「ガソリンは、ほぼ満タンに入っていますし、エンジンも問題なくかかりそうです」

「そうか、では急ごう」

 

 

彼の運転で車は走り始めた。道路に信号は在るが、道路には動かなくなったゾンビと壊れた車しか無いため、意味がない。彼は鮮やかなハンドル捌きで車や動かなくなったゾンビを避けながら中学校に向かった。

 

 

 

 

「ここです」

 

 

正門に車を止め、彼の上司は敷地内を軽く覗いた。

 

 

「居なさそうだな」

「ここは私1人で行きます」

 

 

そう言って彼は活動帽をポケットから取りだし、拳銃のマガジンを外し残弾を確認する。

 

 

「16発か」

「予備に持ってきた弾も無限にある訳じゃないからな」

 

 

そう言って車の後ろに乗せた荷物を彼の上司は担いだ。

 

 

「ここは、私だけで行きますよ」

「寂しいこと言うなよ。幾多の現場で共に活動した仲じゃないか」

「ありがとうございます……」

 

 

彼らは拳銃を構えながら門に近付き、門を乗り越え敷地内に潜入した。こちらも小学校ほどでは無いが、やはり荒れていた。彼らは手始めに体育館の様子を見に行くことにした。震災等が起きた場合、基本的に体育館で生活することが主流となっていたからだ。その為、彼らは生存者が体育館に集まっているのではないかと思ったのだ。

 

 

「俺が扉を開ける、お前は万が一に備えて、いつでも射てるようにしておけ」

「了解です」

 

 

彼は素早く安全器(セーフティレバー)を解除する。掌底でしっかり包み、銃を握る。

 

 

「行くぞ……」

 

 

彼の上司は扉を開け、銃を構える。しかし、体育館の中には誰も居なかった。生徒の1人や2人は少なくとも居ると推測していたが、ゾンビすら居なかった。

 

 

「何かが、おかしい……。だが……」

「はっきりと説明は出来ないんですよね。野生の勘みたいなものでしょうね」

 

 

そう言って彼は安全器を設定し、ホルダーに戻した。そして、校舎の方に向かった。今度は窓も施錠されていたため、入れない。

 

 

「また裏口に回るか?」

「そうですね」

 

 

彼ら周囲を警戒しつつ、裏口に回った。

 

 

「この子は……」

 

 

裏口に回って彼らの目に飛び込んだものは女子中学生の死体だった。だが、重要な点はそこではない。彼にはこの子が見覚えがあった。彼は、思い出そうとするが霧がかかったように思い出せない。

 

 

「この子……」

 

 

彼の上司は手袋を付け、彼女の状態を確認する。

 

 

「頭部を強打しているようだな、3階の窓が開いていることを考えれば自殺だろう。もしかしたら、明るい未来があったはずなのにな……」

 

 

その時、彼は彼女の髪型がきっかけで思い出すことができた。

 

 

「この子は……田中(すず)ちゃんだ……」

「知り合いか?」

「娘の友人ですよ。運動神経がよくて……よく家に遊びに行っていたらしいです」

 

 

彼は自身のポケットから白い布を彼女の顔にかけ、そっと手を合わせた。

 

 

「行きましょう」

「そうだな、この窓からなら入れそうだ」

 

 

そう言って彼らは再び窓から校舎内に足を踏み入れる。廊下には物が散乱している。彼らは1つずつ教室を覗いていく。もしかしたら、動けなくて教室に立て籠っている人がいるかもしれない。

 

 

「居なさそうだな……」

 

 

人影を見つけたとしても十中八九、感染してゾンビになっている者だけだった。勿論ゾンビは音がする方に集まり、生存者を襲う。しかし、ゾンビも元生存者だ。殺す時、彼の良心を締め付ける。

 

 

「ん?」

 

 

彼が異変に気がついたのは3階を探索している最中である。地窓の近くにヘアピンが落ちていたのだ。拾ってみると、錆は無く落としたのはここ最近ではないかと、彼は推測した。そのままその教室の扉を開けた。

 

 

「君! 大丈夫か!?」

「……」

 

 

意識は失っているが、それでも彼らは1人の生存者を発見した。見たところ噛まれた痕跡も無く、ほぼ無傷である。

 

 

「……か……」

「意識が戻ってきたのか?」

「……あなたは……?」

「警察だ、もう安心していいぞ」

「ありがとうございます……」

 

そういうと彼女は再び、まぶたを閉じた。彼は彼女を抱き上げ捜索を再開した。しかし、あと見つかった生存者は居なかった。

 

 

「そう落ち込むな。お前は1人の生存者を発見したんだ。俺は本当に嬉しいぞ」

「いえ、この子も……この子も……娘の友人です……。なのに娘は居ない……」

「そうか……」

 

 

彼は自分の娘が今どこにいるか、わからない。だが、せめて友人の命くらいは守りたい、そう思っている。

 

 

「時雨、夏奈、必ず生き残ってくれ」

 

 

彼は嘘偽りない言葉を紡ぎ出した。




はい、あとがきのコーナーです。
さてさて、季節は出会いと別れの季節ですね。学生の皆さん、進級できそうですか?
まあ、僕はなんとか進級できそうです。

そして、終業式も終わり春休みに突入しました。休みですよ、ゆっくりしようと思ったらリア友のF君が……。

「春休みなら、毎日更新できるんじゃないの?」

と、伝説の一言を放ちましたよ……。まあ、なんと言いますか……文章にするのが大変なんですよね……。戦闘シーンとかワンパターン化になる要因は省いてみたり、考えているんですよね。

まあ、出来る限り毎日出しますよ! 出せばいいんでしょ!(逆ギレ)
と、言うわけでこれからも宜しくお願いします。


次回から、また時雨君達の物語が再開します。

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