日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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生き延びるのは苦労の連続

「もうすぐ高速道路を降りて一般道路で向かいます」

「由美、出来るだけ速くしなさい」

 

 

ほのかの表情には焦りが見られる。時雨の風邪、先の見えない未来に対する不安、いつ感染するかわからない恐怖。それが今、ほのかに襲いかかる。彼女自身もどうしていいのか分からなかった。ただ、少しでも早く時雨を安静させたかった。彼は、皆の負担を減らそうと、無理してでも戦おうとするだろう。

車は高速道路を降り、一般道路を走行し始めた。町から人の気配はしない。まるで、ゴーストタウンになったようなものだ。道路には事故で破損した車があった。逃げている最中に感染して、発症したのだろう。

 

 

ドン!

 

 

「何の音?」

 

 

何かが車と接触したようだ。しかし、前方には人影が無い。一行が後方を見ると男性がしがみついていた。今までのゾンビと比べると(いく)らか顔には血の気がある。しかし、完全に目は普通では無かった。

 

 

「まさか、窓を割って食料を奪うつもりじゃ……」

 

 

みくが一つの仮定を立てる。確かにこの状況からはその線が濃厚だろう。それを聞いたくるみは素早く手作りの槍を持つ。窓が割られるタイミングを待ち、くるみは男性の右肩に突き刺す。男性は右肩を押さえ、バランスを崩す。

 

 

「由美、アクセルを踏み込みなさい!」

 

 

ほのかは、由美に対して叫ぶ。由美は頷き、アクセルを更に踏み込む。

 

 

「わっ!」

 

 

急に加速したため、男性は振り落とされた。

 

 

「畜生、でもGPSは付けた」

 

 

男性は、そう簡単に物が奪えないことは計算していた。だから第2の作戦として追跡する計画も立てていた。

 

 

「電話は使えるからな……。もしもし、付けたぞ。作戦実行だ」

 

 

男性は電話を切り、遥か先を走る車を追いかけ始めた。

 

 

「何だったんだ?」

「考えるに生存者でしょうね」

 

 

錬は納得したように、トランクから刀を取り出した。皆、改めて気を引き締め直した。この世界の脅威はゾンビだけではない、生存者が襲ってくる可能性もある。

 

 

「夏奈、早紀さんから銃を貰ったみたいだけど使えるのか?」

「錬さん、私これでも友達からサバイバルゲーム参加しないか声をかけられるくらいの精度はあるよ」

「そ、そうか、わかった」

「お嬢様、もうすぐで到着します」

「わかったわ」

 

 

 

 

蛍光灯がチカチカと点滅を繰り返し、やがて消灯する。壁には第3研究室と書かれている。床には血溜まりが出来ている。明らかにここで人が天に召されたというわけだ。その血だまりの近くに、画面が割れたタブレットが落ちていた。タブレットはメモ機能が起動していた。その画面には"大道寺グループの皆さん、すみません。あとはお願いします"と書かれていた。そして画面は真っ暗になる。

 

 

「ごふぅ……」

 

 

一瞬、黒い影が、ちらりと見えた。

 

 

 

 

 

「こちらが雅様が言っていた家です」

 

 

車の窓を開け、夏奈が確認する。雅が言っていた家は普通の家の2倍の大きさがあった。

 

 

「急ぐわよ、アイツらが食料を狙ってくるわ」

 

 

ほのかの一言で皆、テキパキと動いた。車をガレージの中に駐車した。家の鍵はパスワード式であったが、ほのかは、すんなりと施錠を解除した。

 

 

「ほのか、私ちょっと警戒してくる。さっきの奴らが来ない保障がない」

「どうして、そう言いきれるのかしら?」

「こいつがトランスグリッドに付いていた」

「これは?」

「GPS発信機だと思う、奴らは諦めていない」

「正解だ」

 

 

ガレージの外から声がした。その人物は先ほど振り払った男性だった。その後には(ナタ)(モリ)を持った人物が4人いる。この人達には良心の欠片もない。ただ、自分()()が生き残れればいいと思っている。

 

 

「まだ、車の中に多少は食料が残っているだろ、それ持って消えろ。この家のパスワード知らなかったから助かったぜ、お前らが開けてくれたんだからな」

「屑が……」

「おうおう、言いたければ言ってくれ。セミロングの姉ちゃん」

 

 

くるみは俯いた。彼女は既に怒りで手が震えている。男性はその様子を見て、喧嘩を売った。

 

 

「ほのか……家の中に入って貰えますか?」

「はいはい、程々にね」

 

 

ほのかは何かを察して駆け足で家の中に入っていった。

 

 

「おいおい、いいのか? この人数差だぞ」

「……さげ」

「あ?」

「その口先だけの口をふさげ!」

 

 

今までに何ほど、くるみは怒っていた。これが大人のすることかと。くるみは車の中から時雨が使っていた木刀を取り出し、構えた。そして、一番前にいた男性の頭に向け、めいいっぱいの力で振り下ろした。男性はその場に倒れた。

 

 

「この場で逃げるって思考はある?」

 

 

くるみは死んだ魚の様な目をしながら男性の仲間と思われる人物達に問いかけた。返答しだいでは、少し食料を分け、この場を去ってもらおうと考えていたからだ。

 

 

「き、貴様……!」

 

 

結局、男性の仲間と思われる人物達は戦うことを選んだ。数的にも有利だからだと判断したからだろう。その数を上回る戦闘経験を、くるみは積んでいる。

1人目は木刀で鳩尾(みぞおち)を突かれ、2人目はこめかみを強打され、最後の1人は顎を殴られ、それぞれ戦闘不能となった。

 

 

「さて、この人達どうするか……」

 

 

くるみは考えた末、門の前に並べて座らせた。そして早足で家の中に戻った。

 

 

 

 

「ここは?」

 

 

目を覚ました時雨は見慣れないベットに寝かされていることに気がついた。その時、自分達がどうして来たのか思い出した。

 

 

「よかった、()()来れたわけか」

 

 

時雨は体を起こし、額に貼られていた冷却シートを剥がした。冷却シートを捨てるためにゴミ箱を探そうとベッドの足元に1人の人物が寝息を立てていた。

 

 

「ほのかか」

 

 

近くにタオルがあったということから、時雨はほのかが看病してくれていたとわかった。時雨はほのかの頭を軽く撫でる。

 

 

「ん……」

 

 

まるで、日向ぼっこをしている猫の様な表情をみせた。

 

 

「ん……。ん……!?」

 

 

急に、ほのかは起き上がった。時雨は撫でるのを止めた。

 

 

「寝てしまったわ。それで時雨君、大丈夫かしら?」

「ああ、お陰様でな。明日くらいには治るだろう」

「そう、よかったわ」

 

 

ほのかは立ち上がり、部屋を後にしようとした。

 

 

「あら、開かない」

 

 

ほのかは何度も扉を押したり、引いたりした。しかし、扉は一向に開こうとしない。

 

 

「何かしら?」

 

 

扉の近くに落ちていた手紙を広い、内容に目を通す。

"ほのかさんへ

お兄ちゃんは、人にどう甘えていいのかわからないみたい。だから、ほのかさんガンガン行っちゃって! いつか、ほのかさんとお兄ちゃんの子供がみたいな、なんちゃって"

ほのかは無言で手紙を丸める。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

布団の中から、ほのかの方を見ながら時雨が問いかけた。ほのかは何でもないと言い、再びベッドの近くに置いてある椅子に座った。

 

 

「時雨君、甘えたかったら……甘えなさい」

「き、急にどうしたんだ? まあ、ありがとう」

 

 

困惑しながらも時雨は微笑みながら感謝の念を伝えた。

 

 

「ありがとな、ほのか」

「いいのよ、もっと私に頼りなさい」

「そうだな、いい加減背中を預けるくらいはしなきゃな」

 

 

時雨は再び横になった。その後すぐに睡魔が襲ってきた、その睡魔に抗わず従った。

 

 

「ふぅ……」

 

 

ほのかは1つ息をついた。ふと、時雨の体の1部が掛け布団から出ていた。ほのかはその腕を布団の中に入れる。そして掛け布団を軽く叩き、

 

 

「おやすみ」

 

 

と小声で言って、額に軽くキスをした。その後、扉を開けて夏奈を探し始める。

 

その後、小1時間 夏奈は、ほのかに説教されたのを時雨は知らない。




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