日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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持つべきものは友……?

「なるほど、お兄ちゃんとの空白の出来事がわかった気がする」

「そう言えば、兄貴知っています? お嬢様、兄貴が居なくなってから……」

「くるみ、余計なことは言わなくて良いのよ?」

 

 

くるみは蛇に睨まれた獲物のように動けなくなっていた。

時雨は、部屋に置かれている古い振り子時計を見る。

 

 

「そろそろ、お開きにしよう。明日から防衛戦が始めるからな。しかし、天候が悪いな……」

「私は、みくさんと打ち合わせがあるから、まだ起きてよっと」

 

頷き各々、由美に指定された部屋に行った。

時雨は部屋の照明を消し、早紀の部屋に鍵を返しに向かった。

ながい廊下を歩いていると、スマホが着信を知らせるために鳴り出す。

時雨は、かけてきた人物の名前を確認せず出る。

 

 

「もしもし。……!? わかりました、この事は早紀さんに必ず伝えます」

 

 

時雨は通話を終了すると駆け足で早紀の部屋に向かった。

 

 

「早紀さん、失礼します」

「どうした?」

 

 

早紀は眼鏡をかけ、書類に目を通していた。時雨は電話の内容を早紀に伝える。

彼女は表情を変えず、了解とだけ言う。

時雨は軽く頭を下げ自室に睡眠を取りに向かった。

 

 

 

しぐれのおへや

 

とある一室のドアにかけられたプレートに記された文字。これは、ほのかが書いたものだ。

時雨はドアノブを回し、部屋の中に入った。

中はクローゼットとベッド、その他雑貨しかない、至ってシンプルな部屋である。

しかし、そんな空間が時雨は好きだ。

着替えを済まし、時雨は布団の中に入った。

 

どのくらい経っただろうか、ドアをノックする音がする。

時雨は半分、寝惚(ねぼ)けた頭でドアを開けた。

 

 

「し、時雨君。ら、落雷怖いでしょう? 一緒に寝てあげるわ」

 

 

ここでハッキリと言えれば格好いいのだが、ほのかの足は内股になり、微かに震えていた。

更に目は既に涙目となっていた。

 

 

「勿論、時雨君が怖くないなら私は戻r……」

 

 

その時、空気を切り裂くような雷鳴が響く。

ほのかは涙を流しながら、時雨に抱きついた。

 

 

「わかったから、一緒にいてやるから」

 

 

時雨は、ほのかを自分の部屋に招いた。

 

 

「昔と変わらないな、雷が苦手っていうのは」

「そうよ、苦手よ」

 

 

ほのかは、いつもにしては珍しく表情が多彩に変化していた。

 

 

「しかし、よく過去の話をしようと思ったわね」

 

 

時雨はくるみとの賭けのことを簡潔にだが伝えた。

ほのかは納得したかのように頷いた。

 

 

「話が変わるけど、何でこんなことになったのかしら?」

「判らないな、インフルエンザみたいな感じか?」

「空気感染の線は薄いわね。実際、私達は感染してないわけだし」

 

 

ほのかは、手を顎に当て考えた。だが答えらしい答えは思い浮かばない。

時雨はスマホを取り出し、ある番号に電話をかける。

 

 

「そちらは、どうですか? なるほど……」

 

 

それだけ言うと時雨はさっさと電話を切った。

ほのかは、首を傾げていたが結局、睡魔には勝てずその場で寝てしまった。

 

 

「ほのか、これからのことについてだが……ん」

 

 

ほのかは安心した表情しながら、俯いて寝ていた。

 

 

「まったく、無茶しすぎだ」

 

 

時雨は、ほのかを抱えあげてベッドまで運んで丁寧に布団をかける。

ドアをノックする音を聞き、時雨は 開いているので、どうぞ。と言う。

 

 

「よっ」

 

 

ひょっこり顔を出したのは錬だった。

こちらを見るなり、彼はガタガタと震え始めた。

時雨は意味が解らなかった。

 

 

「し、時雨。とうとう、ほのかの寝込みを襲うようになったのか!?」

「そんなわけがあるか!!」

「まさか、その先に行ったのか!?」

 

 

時雨は近くにあったスーパーボールを指で弾いて錬に放つ。

彼が撃ったスーパーボールは錬の眉間に激突した。

錬は痛そうに眉間を押さえた。

 

 

「少し冷静になれ、バカ」

「すまない、すまない」

「で、何の用だ?」

「その事だが……」

 

 

錬は言葉を濁したが、首を左右に振るとハッキリと話始めた。

 

 

「長元のいた小学校が落ちたって連絡が来た」

「……そうか」

 

 

時雨は顔を反らした。

籠城は、場所を転在する必要がないというメリットがある。

しかし、一度でもバリケードが壊されてしまったら待ち受けているのは死。

 

 

「ちなみに、校長と長元は逃げたらしい」

 

 

時雨は鼻で笑った、長元は見栄っ張りということが判明したからだ。

それに釣られて錬も笑った。

 

 

「おっと、いけない。そろそろ寝ないと大変だな」

「そうだな、完全に肉体労働が待っているわけだし。錬、しっかり働けよ」

「はいはい」

 

 

そう言って錬は借りた部屋に戻っていった。時雨は、ほのかの寝顔を覗きこんだ。

安心した様子で眠っていた。

時雨は微笑み、ベッドを背もたれにして目を瞑った。

意外と早く睡魔が襲ってきた。

 

 

 

「ん……」

 

 

時雨は目を擦りながら起床した。どうやら誰かが毛布をかけてくれたようだ。

さらにマフラーまで巻かれている。

 

 

「ん?」

 

 

時雨は、自分の左側に温かみを感じる。

見るとベッドに寝せた筈の、ほのかが時雨の首に巻かれているマフラーの反対側を自分の首に巻いていた。

 

 

「んっ……」

 

 

ぼんやりとした表情だが、ほのかも起床する。

そして現状を見て、顔を真っ赤にしながらマフラーを外し、駆け足で廊下へと消えていった。

 

 

「何があったんだ?」

 

 

ほのかと入れ替わるように、今度は錬が時雨の部屋にやってきた。

彼は時雨の様子と先程のほのかの様子を見て、時雨の肩をポンポンと軽く叩いた。

 

 

「しぐれ、どん……「何か勘違いしているようだな」

「してないぞ、どうせ……」

 

 

そう言って彼は左手の親指と中指で輪を作る。

時雨はその次の行程を予測し、錬の手を本気で握り潰そうとした。

 

 

「痛い、痛いって。悪かった。それより、早紀さんの知り合いがこっちにくるんだって」

「そうか」

 

 

時雨は拘束を解除し、刀を持って外に出た。

幸いにも、ゾンビの数はそこまで多くない。

 

 

「あ、そこの君。そうそう(きみ)。ちょっと背中守ってもらっていいかな?」

 

 

時雨は黙って頷き、刀を鞘から抜いた。

ニット帽を被った人物の腰には鞘が付けられていて、辺りには動かなくなったゾンビが数体いた。

 

 

「ノルマは1人20体かな」

「了解」

 

 

時雨は慎重に距離と詰め、額に刺した。

そこで手を止めずに次のゾンビを斬りかかっていく。

ゾンビ戦において、時間のロスは大きな影響を及ぼす。

考えて動かなければ、直ぐに死ぬだろう。

 

 

「14体目」

 

 

ニット帽を被った人物はナイフと刀をうまく使い、ゾンビを倒していく。

この人物は完全にこの崩壊した世界に慣れていた。

呆然と立ち尽くす時雨に、ニット帽を被った人物は叫ぶ。

 

 

「君! 今見ている方向から5時の方向にゾンビがいる」

 

 

時雨は冷静に言われた方向に刀を突き刺した。

 

 

「うん、その調子」

 

 

このあと、ニット帽を被った人物のアドバイスと、時雨の判断力で周囲のゾンビを片付けることができた。

 

「さて、行こっか」

「どこにですか?」

「早紀に会いに」




更新の間隔が完全に不定期になってしまった。
それでも読んでくれる人がいると思い書いている……イルヨネ。

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