日常が崩壊した世界で。   作:葉月雅也

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くるみとの賭けで、過去の事を話すことになった時雨。
今まで明かすことの無かった時雨の過去。
そして、ほのかとの接点は?


再確認となりますがとなりますが、この話は限りなく日本に近いが日本では無い場所です。
場所が変われば法律も変わります。
現実での人殺しは、本当にいけないことです。
あくまでも、小説の中のお話です。


縛り続ける運命

夕食は料理が出来る二人が作ってくれた為、味の心配は無い。

もしも、錬が作った場合の事を考えると時雨はゾッとした。

彼が生み出すものは、決して料理と呼べる代物ではない。

 

 

「皆に話がある」

 

 

皆が食べ終わった頃を見計らって、早紀は口を開いた。

 

 

「今後のことだけど、私はここに籠城(ろうじょう)しようと思う。食料の心配は無い。それに、現在ウイルスの分析を、ある人に依頼している。その結果を見て更に対策を取りたい」

 

 

早紀の発言に批難する人は居ない、それだけ正論であり早紀の権限の大きさを時雨達は再認識する。

 

 

「それと時雨、談話室の鍵を渡しておくから、そこで思う存分、話な」

 

 

そう言って、早紀は時雨の方に鍵を投げる。

時雨は片手で鍵を受け取り、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

夕食終了後、時雨達は談話室に居た。

 

 

「面倒だから、手短に話すからな」

 

 

 

 

 

~4年前~

 

 

「痛ってぇ……」

 

路地裏で時雨は左腕を押さえながら、うずくまっていた。

押さえている腕からは、紅い液体が絶えず流れている。

事の発端は些細なものである。

クラスのガキ大将に目を付けられた時雨は、虐めにあっていた。

 

殴る、蹴る等の暴行

集団無視や落書き

 

間違いなく、彼の居場所は何処にも無かった。

だからこそ彼は、虐めの主犯にナイフを突き立てた。

しかし運命の歯車は、そこで狂い出す。

ソイツには、不良の兄がいた。

結果、時雨はその兄にまで目を付けられ、こうなることになる。

 

 

傷は思いの外、深い。時雨は意識が朦朧になり始める。

そして不運にも、不良の手下に見つかってしまう。

 

 

「居たぞ、こっちだ」

 

 

わらわらと時雨が隠れていた路地裏に不良達が集まる。

時雨も、この時は己の死を悟った。

 

 

「俺の可愛い弟と同様に殺してやる」

「……」

 

 

最早、時雨は言葉の意味すら理解できないほど朦朧としていた。

大人しく目を瞑り、最後の時を待つ。

 

 

「な、なんだてめぇ!」

 

 

不良の手下は腹を抱え、くの字に折れ曲がる。

フードを被った人物が手招きで挑発をする。

そいつの近くに居た者は、ナイフを取りだしフードの人物に襲いかかった。

フードの人物は素早く木刀を構え、ナイフを弾く。

木刀で、不良の首を叩く。

不良共は、糸が切れた操り人形の如く崩れていった。

 

 

「だ、誰なんだ、お、お前は……」

 

 

残された不良は折り畳み式ナイフを取り出すものの、手は震え膝も笑っていた。

完全に先程までの余裕は無くなっていた。

フードの人物はフードを取り、素顔を見せる。

フードの中から現れた人物は、銀髪の長髪で、前髪の一部を赤に染めていた少女であった。

 

 

「ま、まさか、お前が、矛盾のシルバー……」

 

 

矛盾のシルバーは、表情一つ変えずに不良の腹部に落ちていたナイフを突き刺す。

崩れてた不良を尻目に、矛盾のシルバーは時雨に歩み寄った。

 

 

「息は……しているみたいね」

 

 

先程まで見せなかった、穏やかな表情を浮かべる。

応急措置をし、矛盾のシルバーは時雨を背負いどこかへ歩いていく。

時雨は、矛盾のシルバーの甘い香りは鮮明に焼き付いた。

 

 

 

 

「ここは……」

 

 

時雨が目を覚ますと、そこは知らない場所である。

無論、自宅では無いことは直ぐに察していた。

起き上がると、一人の男性が椅子に腰を掛けていた。

 

 

「起きたか少年、お前の傷は手当てしておいた。腹へっただろ食堂に行くぞ」

 

 

時雨は、この頃人を全くと言っていいほど人を信頼していない。

いじめられていた訳なんだがら当然んだろう。

 

 

先程の男性に案内されるがまま、渋々着いていく。

男は食堂に入っていった。

 

 

「実さん、昼食ですか?」

「ああ、オムライス2つくれ」

「はーい」

 

 

「ほら、食え」

 

 

実に言われるが、時雨はスプーンすら持とうとしなかった。

オムライスに何が入っているか解らないからだ。

時雨は、初対面の人間を信じる事は出来なかった。

 

 

「いただきます……」

 

 

蚊の鳴くような声で時雨は言葉を発した。

実も満足そうに頷き、自らも食べ始める。

 

 

「お父様はいらっしゃいますか?」

 

 

むさ苦しかった男の集団の中に一輪の薔薇(ばら)が現れる。

少女はキョロキョロし、時雨達を見つけた。

 

 

「いた。そうそう、君。食べ終わったら私の部屋に来なさい。案内は……由美お願い」

「承知しました、お嬢様」

 

 

そう言って矛盾のシルバーは、食堂を後にした。

彼女が食堂から姿が完全に見えなくなると、スプーンを持つ時雨の右手が震える。

 

 

「……やはり虐めか」

 

 

実は苦虫を潰した様な表情を浮かべた。

時雨は進まない手を、どうにか動かし完食した。

 

 

「行きますよ」

 

 

右手を由美に掴まれ時雨は食堂を出て、ほのかの部屋に連れていかれた。

 

 

「私は、ここで待機しています」

 

 

時雨は頷き、ドアをノックして部屋の中に入る。

 

 

「待っていたわ。あんた、名前は?」

「……」

「……警戒されてしまったわね、私は大道寺ほのか」

「……時雨」

 

 

時雨は名乗ったが、警戒は怠らなかった。

この人は普通に人を殺したのだから。

国の法律では、正当防衛を証明できれば殺したとしても罪は重くならない。

 

 

「言っておくけど私、あなた以外だったら庇ってないわ」

「……は?」

 

 

ほのかは時雨の首筋に触れ、手を放した。

時雨には、その意図が分からなかった。

 

 

「それと、暫くこの家で生活しなさい」

「嫌だ」

「あら、言って無かったわね。あなたに拒否権は無いわ」

 

 

そう言い、ほのかは指を鳴らした。

その後ドアが軽く叩かれ、由美が入って来て一礼する。

 

 

「お嬢様、相川家への連絡及び、時雨様の滞在の許可が出ました」

「は……」

 

 

時雨の顔はひきつっていた。

そして、ほのかの言っていた拒否権は無いと言う意味を理解する。

 

 

「……どうせ、お前も虐めるんだろ」

 

 

ほのかは実に不思議そうに首を傾げる。

まるで、コイツは何を言っているのか、と言うように。

由美が、ほのかの側に行き耳打ちをする。

ようやく理解したほのかは、時雨の顎を持ち上げ

 

 

「貴方にそんな真似はしないわ」

 

 

と言い微笑んだ。

時雨は、この人を信じていいのか判らなくなっていた。

しかし、昼食の借りがあるのも事実。

 

 

「で、俺は何をすればいいんだ?」

「由美、案内して」

「はい、お嬢様。時雨様こちらです」

 

 

またしても由美に連れていかれるがまま、時雨は歩いた。

案内されたのは道場である。

 

 

「ここで、力をつけていただきます」

「……メリット無いですよね」

「いいえ。努力次第では、お嬢様の右腕になる事が出来るかもしれません」

 

 

この時、時雨はほのかと会話できるという事は稀なのだと知る。

当然、右腕になれば共に行動する事になる。

助けてくれた借りを返せると時雨は考え、頷いた。

 

 

その日から血の(にじ)む様な練習が始まった。

時雨は他人以上に努力した。

そんな、ある日。

時雨は、実に呼び出される。

 

 

「お前の努力を買って私から剣術を教える」

「ありがたき幸せ」

 

 

時雨は胸に手をあて、頭を下げた。

その日から、時雨は剣術の練習もメニューの中に追加した。

 

 

「ちょっと、いいかい?」

 

 

剣術や刀の扱いを始めてから数ヵ月。

時雨は、早紀から銃の指導を受けた。

早紀は事細かく、出来るまでしつこく繰り返させた。

 

 

「時雨様、お嬢様がお呼びです」

「!?」

 

 

それは時雨が大道寺家に来てから1年が経った頃のこと。

あれから時雨は、ほのかの顔を見ることはなかった。

 

 

「お嬢様は自室にいらっしゃいます。私は他の用件で行けませんので」

 

 

由美は丁寧にお辞儀し、その場を去る。

時雨は分解してあった銃を素早く組み立て、ほのかの部屋に向かう。

 

 

コンコン

 

 

「開いているわ、入りなさい」

「失礼します」

 

 

部屋の中には、フードパーカーに下着だけの、ほのかが椅子に座っていた。

 

 

「用件は簡単よ。最近、頑張っているようだから、何かご褒美をあげるわ」

「……それでは、何も要らないです」

「あら、どうして?」

「既に、知識というものを頂いておりますので」

「待って」

 

 

部屋を出ていこうとする時雨に、ほのかは抱きつく。

暫く時雨は動かなかった、否動けなかった。

 

 

「合格よ、貴方私の右腕になりなさい」

「了解しました」

「あなたのことは『ライト』と呼ぶわ」

「了解です、『シルバー』」

 

そこから、ほのかが姿を現さない理由が嫌でも解った。

 

 

「坂野組からの喧嘩ね」

 

 

さらっと出た坂野組だが、国内屈指の不良グループである。

どうやら以前負けたのが悔しくて人質をとって待っているらしい。

素早く着替え、ほのかは家を後にした。

 

 

 

徒歩30分くらいの場所に、指定された倉庫はあった。

 

 

「気をつけなさい、初の喧嘩で死ぬわよ」

「問題ない」

 

 

ほのかの左後ろを時雨は歩く。

右側を歩かないのは、ほのかが木刀を持っているからである。

 

 

「来たかぁ~。あ? 誰だお前」

 

 

ほのかより先に動き、時雨は躊躇わず、犯人の胸にナイフを突き刺す。

 

 

「貴様に名乗る程、俺に与えられた名は価値が無いわけではない」

 

 

時雨は、無言で威圧を放つ。

 

 

「あら、終わったわね」

 

 

結局、他の人達は恐怖のあまり逃げ出した。

 

 

「大丈夫かしら?」

「は、はい。ありがとうございました」

「貴方、名前は?」

「"くるみ"です」

「貴方、私の家に来ない? 勿論、貴方が望むものも出来る限り用意するわ」

 

 

そう言って、ほのかはくるみに手を伸ばした。

その手を恐る恐る触れ、くるみは頷く。

こうして、時雨とくるみの関係が始まるのである。

 

 

 

彼女(くるみ)が、大道寺家に来たのは騒動から2週間が過ぎた日であった。

彼女が望んだ物、それは時雨の様な力だった。

くるみの父親は、母親とくるみに暴力を振るっていた。

その為、母親は家に帰ってくる回数が減る。

それでも、くるみに暴行を続けた、母親の分まで。

だから、そんな父親に復讐したいらしい。

 

そんな思いをバネに、くるみは死に物狂いで練習に明け暮れた。

くるみはメキメキと力を付け、対人戦では時雨と互角の成績を叩き出した。

 

 

時はゆっくりと流れた。

 

 

「ライト、たまには休みなさい。命令よ」

「承知しました」

 

 

ここ最近、時雨の行動は人間の限界を越すようなハードスケジュールで動いていた。

だから、ほのかから休めと言われたのである。

 

 

「しかし、休めと言われても……」

 

 

ふと、最近完成したショッピングセンターが出来たことを思いだし、行くことにした。

この日をキッカケに生活が変化する事も知らずに。

 

 

 

「結構な大きさだな」

 

 

周りの目は時雨を射ぬいている。

当時の時雨は、前髪の一部を赤く染めた黒髪だったからだ。

服装も服装で、パンキッシュで統一されているため余計に注目を集める。

 

 

「……チッ」

 

 

時雨はその視線に耐えきれず、気を紛らす為にゲームコーナーに向かって歩き出す。

 

 

「ん?」

 

 

中学生くらいの男子が、高校生に連れされれていくのが見えた。

時雨は無視してゲームコーナーに向かおうとしたが、連れ去った高校生に見覚えがあった。

 

 

「誰だったけ……!」

 

 

時雨は思い出した、坂野組の残滓(ざんし)の者に似ていると。

彼は無意識に拳に力が入る。

 

 

「……」

 

 

時雨は連れ去られた人の方向に走り出す。

 

 

 

「お兄さん、金持ってるだろ? 俺ら金欠なんだよ」

 

 

高校生はゲスい笑みを浮かべながら、催促した。

中学生は高校生を睨みつける。

高校生はその表情が気に食わなかったようで拳を作り、殴った。

中学生は、反動で壁に叩きつけられる。

 

 

「早く、金出せよ」

 

 

鈍い音が辺りに響くが、周りに誰もいないため高校生は殴り続ける。

もう1発殴ろうとする。

 

 

「待て」

 

 

その手を時雨が掴む、そしてその腕を持ち、投げる。

時雨は不良に受け身を取らせない。

そして、持ち歩いていたナイフを高校生の首に当てる。

 

 

「大丈夫か?」

「君は、そんな力を持って何がしたいんだ?」

「は?」

「力は、持ってればいいって問題じゃない。さっきみたいに人も簡単に殺せる。命の重みと人生について考えろ」

「チッ……せめて名乗れ」

「錬だ」

 

 

言って錬はその場を去った。

 

 

「……」

 

 

時雨は無機質な天井を眺める、その顔には悩みや迷いが見受けられた。

結局、時雨はゲームコーナーには行かずほのかの家に戻った。

 

 

「あら、早かったのね」

 

 

エプロンと三角巾を身につけた、ほのかが立っていた。

エプロンは少し汚れていたところを見ると、手こずったようだ。

 

 

「シルバー、何をされていたのですか?」

「由美に料理を習っていたのよ」

「なるほど」

 

 

時雨はほのかから貰った自室に戻り、ベットに潜り込む。

自分はこのままで良いのか、考えているうちに睡魔に襲われた。

 

 

「起きなさい、ライト」

「ん……」

「話があるわ、私の部屋に来なさい」

「了解しました」

 

 

伝言を伝えたほのかは足早に、時雨はの部屋を出た。

時雨はは急いで着替え身だしなみを整え、ほのかの部屋に向かった。

 

 

 

 

「ライト、入ります」

「簡単に言うわ。ライト、おかしいわよ」

 

 

この時点で時雨は中学3年生となっている。

 

 

「それは……」

 

 

その時、錬の言葉が脳裏をよぎる。

だからこそ時雨は思いを言葉で紡いだ。

 

 

「シルバー、いや……ほのか。俺は右腕を降りる」

「あら、どうしたの?」

「色々あったってことでご勘弁を」

「そう、ならいいわ」

 

 

時雨は荷物をまとめ、表の門の前に立った。

そして何も言わずに、ほのかに木刀を返す。

同様にほのかも無言で木刀を受け取る。

 

 

「じゃ、ちょっと行ってくるね」

 

 

早紀が運転席から手を振った。

由美は軽くお辞儀をし、ほのかの表情は長い前髪で見えない。

くるみは必死に涙をこらえていた。

そして、時雨を乗せた車は走り始めた。

 

 

 

こうして、時雨は再び自宅に戻り高校を受験したわけである。




まず、謝ります。すみませんでした。
期待させておいて、あまり良い展開になりませんでした。
本当にすみません。
次回から時間軸が現在に戻ります。

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