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対盗賊団編、ついに“お頭”と一騎討ちです!
フェアリーバードまでいるみたいですけど……?
どうするの……?
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アジト中央の大広場であっという間に盗賊5人を倒したアカリは、ふぅ……とひと息つきました。
アカリには、このアジトに踏み込む前からずっと気になっていた“懸念事項”が1つありました。
実はこのアジトに踏み込む前に、“見張り役”の他に外にいるノネズミを1匹捕まえてそれにも髪フゥ♡をかけ、自分の思いのままになる“駒”にしてから偵察要因としてアジトの中に放ったんです。
「やったぁ、ノネズミみたいな小動物にも髪フゥ♡って効くんですね♪
ひょっとすると、スライムみたいなどこが頭か分からないモンスターにも効くのでは……?」
とアカリは喜んでいたのですが、何時まで経っても偵察ネズミは帰って来ません。
「あれ……?遅いですねぇ……
まさか、アジトの中にはノネズミみたいな小動物を捕食するモンスターもいる、って事でしょうか……?」
最悪の場合、盗賊団の人達と捕食モンスターの混成コンビを相手にしなくちゃいけないかも知れない……
しかし、テイム出来る様な捕食モンスターだったなら、あの『実験』を試してみたいですね……
先ほども述べた、「髪フゥ♡」を使った、もう1つの試してみたい『実験』とは一体何なのでしょうか……
色々と思いを馳せながら、アカリは操った“見張り役”を連れて先ほど格闘を繰り広げた大広場を抜け、細い通路を走り抜けて、一番奥にある部屋に通じる扉を
「……壁ドン♡です!」
と、勢い良く破壊して中に入りました!
アカリが“見張り役”を前衛にして中に入ると、やはりと言うか何と言うか、想像通りの光景が広がっていました。
奥の部屋にて、部屋の隅に町娘の皆さんが4人とも肩を寄せあって座り込んで小さく震えています。
そして、部屋の中央には……
仁王立ちで立っている“お頭”と小型の鳥がいたんです。
その鳥はピンクの体躯に赤い羽根、そして脚にはカギ爪みたいなものが見えます。
嘴(くちばし)はワシみたいに尖端がちょこっと曲がっており、尻尾は“赤い垂(しだ)れ桜”みたいに幅広に綺麗な放物線を描いています。
見た目をひと言でいうと、
「少しだけ小さくした感じの赤いクジャク」
だと分かりやすいでしょうか……
そして、気のせいか、頭の上に透き通って向こうまで見える“ハート”が空中にプカプカ浮いている様な気が……
うわぁ、綺麗な鳥です……
絶対にテイムして、捕まえたいですね……
「何だぁ、お前は?
どっから入って来やがったんだぁ?」
いえ、アジトの入口から入って来たんですけど……
「お前、まさかこの町娘を取り返しに来たのかぁ?
渡せねぇなぁ!何故ならコイツらは高い金ヅルになるどれ……」
メキョ……
次の瞬間、景色がスローになり、“お頭”の顔面にアカリのブーツがメリ込んでいました。
「それから先のセリフ、絶対に言わせません……」
怒りのせいか、アカリの目……三角になっています……
「いってぇ~!
この小娘、オレの顔面にケリ入れやがってぇ!」
よく見ると、“お頭”の顔面にキュイぐるみのブーツの靴裏がくっきりと赤く残っています。
……笑ってはいけません。
「おいっ、フェアリーバード、あの小娘を襲うんだぁっ!」
「リュー!リュー!」
ひと声鳴いて、フェアリーバードはダッシュしながら口から炎を吐きました!
フェアリーバードの炎は溜めを作っているアカリの盾役、“見張り役”に当たり、火傷に悶絶して地面を転がり回り、気を失ってしまいました。
結構な火力の様です。
しかし、お陰でアカリにはかすり傷ひとつ無く、その時のタイムラグで冷静に物事を考える時間が出来ました。
今回の最大の関心事は、何と言ってもフェアリーバードなんですけど……
テイムする事が「決定事項」になりました!
って言っても、実際にテイム出来るかどうかは別問題なんですけどね……
しかも、今回ワタシがしたいのはただの“テイム“では無いんですよね……!
その為にも、今回のキーワードとなる「テイム」と「髪フゥ♡」について、ここでもう一度おさらいしておく事にします。
……1つ、髪フゥ♡でモンスターの意識を支配すると、アカリの意識とモンスターの意識が繋がります。
そして、モンスターが何を考えて何を欲しているのかが手に取る様に分かる様になります。
……2つ、モンスターのテイムに成功すると、その後はテイムモンスターとしてずっと仲間になってくれます。
……3つ、意識と『階層世界』は繋がっています。
管理人のキュイは、かつて母のタカコが絶体絶命のピンチになった時にそれを利用して母の意識を支配して代理として身体を動かしていた時がありました。
そう、『階層世界』にいる時に聞いたので間違いありません。
朧気(おぼろげ)ながら、どんなテイムをしたいのか浮かびかかってはいるんですけど……
まだイメージとして具体的な形にはなっていないんです。
でも、今やらなくちゃいけないのは、まず「髪フゥ♡を成功させてフェアリーバードの動きを止め」、その後に「“お頭”を仕留める」という手順なんです!
だって、“お頭”を何とかしないとテイムどころじゃないんですから!
でも……、たぶんアカリなら大丈夫です。
だって、アカリはどこまでも気丈な女の子ですから。
それに、どこまでも自分の成功を信じて疑わない“揺るぎない目”をしているし、ね。
え~と……
フェアリーバードの「動きを止める」技は、と……
アカリは、フェアリーバードのダッシュに合わせてカウンターの掌底突き、顎クイ♡を打ち込みました。
すると、顎クイ♡の追加効果でひるんで一瞬動きが止まります。
……最近、分かった事があるんです。
あの顎クイ♡、予備動作の溜めが長ければ長い程、どうやら追加効果の確率も上がるらしいんです!
そして、フェアリーバードがひるんで一瞬動きが止まったその瞬間を見逃さず、アカリはフェアリーバードの背後に回って羽交い締めにします。
「リュ……!リュ……!」
心配そうに鳴いているフェアリーバードを後ろから羽交い締めから優しく抱き締め直して、
「ねっ、怖がらなくていいんですよ……
ホラ、さぁ……」
そう言って手のひらで頭を優しくナデナデして、
「少しお休みしててね……髪フゥ♡」
おさらいの1つ目、髪フゥ♡です!
気を送り込み続けて暫くすると、フェアリーバードの目がグルグルうずまきになり静かに横たわってしまったのでした……
……さぁ、髪フゥ♡でフェアリーバードの脳内にたっぷり気を送り込んで、意識を完全に支配出来ました。
「後はアナタだけです!」
「お前、フェアリーバードに何をしやがったんだぁ!
オレがせっかく大枚を払って手に入れた……」
「黙ってて!」
キッと“お頭”を睨んでアカリは言い放ちました。
「ムッ、お前のその“眼”がムカつくんだよぉ!」
“お頭”はそう言って、巨体にモノを言わせて上から覆い被さる様に襲って来ました!
「顎クイ♡からの……!」
そう言って身構えたまま溜めを作り、迫って来た“お頭”の顎に掌底突きの顎クイ♡をクリーンヒットさせました。
この場面での顎クイ♡は、“お頭”の動きを止める為のモノではありません。
何と、渾身の顎クイ♡で“お頭”の身体を地面から引っこ抜く為のモノだったんです!
そして、少し“お頭”を宙に浮かせた状態で、
「お空の彼方まで飛んでいけーっ!……壁ドン♡!!!」
とドテっ腹に思いきり壁ドン♡をぶつけたら、巨体がぶっ飛んで頭から壁に激突し、頭から血を流して気を失ってしまいました。
……それを、部屋の隅で縮こまっている町娘の皆さんがポカーンとして見ています。
「さぁ、お姉さん達、逃げるなら今ですよ!」
「でも、貴女は……」
「ワタシは、ココに残って、もう少しやらなくちゃいけない事がありますから……!」
アカリは町娘の皆さんを全員アジトの外へ逃がしました。
たぶん、これからしようとしている事を他人に見せてはいけない様な気がするから。
さて、と……
アカリはスタスタ……と目を回しているフェアリーバードの傍に戻りました。
アカリは『実験』で何をしようとしているのでしょうか?
「3つのおさらい」の内容から推察すると……
たぶん、アカリはフェアリーバードを使って、キュイをこの異世界に『復活』させる気なのかも知れません。
まぁ、意味合い的には“復活”、というよりも“憑依”の方に近い様な気がしますが……
「ワタシがやってみたかったのは……
『髪フゥ♡でフェアリーバードの意識を完全に支配してからテイムしたら、どうなるか?』
っていう『実験』なんですよね。
実験結果は、キュイを復活させる事が出来る、って予想しているんですけどね……」
……ほら、やっぱりね。
ちなみに、テイムする時に一緒に「何かを仕込む」という考え方は、この異世界では存在していない様です。
……どちらに転ぶかはまだ分からないけど、どんな実験結果が出るか楽しみですね。
それともうひとつ、フェアリーバードへの“最後の一撃”は壁ドン♡か頭ポンポン♡、どちらがイイのでしょうか?
どちらにしようか迷ったのですが……
頭ポンポン♡は頭に直接大量の気を一気に流し込む技なので、過剰な量の気が頭の中に充満する事になり『実験』が失敗する確率が非常に高くなります。
なので、ソフト(?)にお腹への壁ドン♡になりました。
アカリの頬に、スウッと伝うものが一筋……
「どうか、予想通りになります様に……
フェアリーバードさん、ゴメンね……」
そう言って、アカリはフェアリーバードの目を片手で隠し、お腹に最後の壁ドン♡をしたのです!
《階層世界》──────────
さて、ここは『階層世界』の中……
管理人のキュイは、アカリの目を通して外の世界の事、この盗賊団の件(くだり)を全て見ていました。
「ほぉ、アカリ様、面白い闘い方を身に付けなさいましたねえ……
タカコ様といいアカリ様といい、一緒にいると常に新しい発見があって面白いですね。
また、生まれ変わったら一緒に冒険したいものです……」
ふぅ……とキュイはため息をつきました。
すると突然、何もないハズの空間から、
……………………………………
………………さん………………
……………………イさん……
…………キュイ……さん……
……キュ~イさ~ん!……
えっ、外の世界にいるハズのアカリの声が聞こえる?
「え……?あ……?」
そう感じた瞬間、突然キュイの身体(精神体)がシュンッと泡の様に消えてなくなったのです!
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アカリの壁ドン♡で、フェアリーバードに最後の一撃をしました。
さぁ、昇天でしょうか、テイムでしょうか……
アカリには、何となくテイムが成功しそうな予感はありましたが、それでも成功するかどうか心配でした。
しばらく観察していましたが、モンスターが昇天する時の様な「白い靄(もや)」は発生していない様です。
……おさらいの2つ目、テイム成功です!
しばらくして、フェアリーバードはゆっくりと起き上がりました。
アカリの髪フゥ♡で意識は支配されたままになっているので、目はぼ……としたままです。
しかし、アカリの実験の“真価”はココからです!
おさらいの3つ目、もしも意識で『階層世界』と繋がっているとしたら、呼び掛けにも応じる事が出来るハズです!
アカリはすうーっと息を吸って……
「キュイさん、聞こえます?
キュイさん!キュイさん!
キュ~イさ~んっ!
こっちの世界に来て下さ~い!」
アカリはあらん限りの声を振り絞って叫び続けました!
……しばらく叫び続けていると、ついに待ちに待った瞬間が訪れたのです!
「さっき、何もない空間なのにアカリの声が聞こえて来て……
んっ……ここは、さっきまで覗いていた……?」
フェアリーバードの口からキュイの声が……!
「キュイさんっ……!」
キュイが本当に、再びこの異世界に帰って来たのです……!
【ネタバレ♡】
『多重結合(ダブルセット)』
コレは、今現在はまだ明かしていないアカリの女神としての能力の1つです。
2つ以上の事柄、事情を1つの「新しい物」としてまとめると、成功する確率が大幅に上がります。
言わば、今回の実験の成功は“偶然”などではなく、この能力で仕組まれた“必然”だったのです!
アカリ本人は気付いていませんが……
本編のずっと先、『天界編』で初めて明らかになります♪