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ねぇ……
ウサギの管理人さんの「身の上話」を聞いちゃったよ……!
お母さんってとてもスゴい女性(ひと)だったのね……
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朱璃(あかり)はキュイぐるみを身に纏ってみて、改めて思いました。
うそ、コレめちゃくちゃ軽いっ……!
まるでワタシの身体に何も身に付けてないみたいじゃない……
それでいて何だか力もみなぎって来るし、空高く飛び上がる事だって出来そう……
何より、何時だってお母さんの温もりを感じる事が出来るの……!
キュイぐるみの腕部の肉球にいとおしそうに頬ずりしながら朱璃がうっとりしていると……
「どうですか、私の毛皮の抱き心地の方は?
中でも、そのプニプニの肉球が一番自慢なんです。
母上のタカコ様も大のお気に入りなんですよ。」
朱璃は周りを見渡して聞きました。
「あの、キュイさん、ひとつずつ聞いて行きたいんですけど……
まず、ココってどこですか?」
すると、キュイは両手を広げて天井を見上げながら、
「実はアカリ様が今いるこの空間、アカリ様の精神世界である“階層世界”と呼ばれる場所なんです。
この“階層世界”に行き来出来るのは、獣着師(キュルミー)と呼ばれる人達だけなんですよ。」
朱璃は“キュルミー”という言葉に喰い付いた様です。
「キュ、キュルミーって何……なんですか?」
「アカリ様みたいにきぐるみを着て、その“能力”を駆使してモンスターと闘う事が出来る人達の事を言います。」
「ちょ、ちょっと待って?
キュルミーって……ワタシが……?」
「そうです、このきぐるみを何の違和感も無く着こなしているのがその証拠です。
ちなみに、母上のタカコ様もキュルミーですよ?」
「お母さんも……キュルミーなの?」
「その通りですよ。
ちなみに、キュルミーの“能力”だと、稀に闘いで負かしたモンスターを自分と共に闘う仲間としてスカウトする事が出来ちゃいます。
これを『テイム』と言います。
かく言うワタシも、母上のタカコ様にテイムしてもらったんですよ。」
朱璃は、母の隆子の過去を少し知りたくなりました。
今まで教えてもらえなかった、母の本当の……姿。
「あのぉ、キュイさんはどんなきっかけで母と出会って、何で今こんな事をしてるんですか?」
すると、キュイは身の上話をしてくれたのです。
「もともとワタシは一角ウサギ、アルミラージでした。
しかし、他の仲間達の毛の色が赤褐色なのに対し、ワタシの毛は純白だったんです。
その事が原因で仲間達から疎外され、はぐれ生活を送っていました。
そんな時、母上のタカコ様にワタシは狙われ……もとい救われました。
そして、タカコ様にテイムしてもらった時に、初めて純白の毛を持つアルミラージのワタシが実は『亜種』だった事を教えてもらいました。
その後、気の合うテイム仲間が3匹に増えてワタシは人生を楽しく謳歌しました。
しかしある日、あの「忌まわしい出来事」が起こってしまうのです。
そう、『“漆黒の凶龍”ミリタリードラゴンの襲来』です!
冒険者になってまだ日も浅かったタカコ様を守る為、身を呈して凶龍に立ち向かったワタシは……
命を散らしてしまったのでした。」
そして、キュイはキュイぐるみを着た朱璃の頭を撫でながら、
「その時、タカコ様は
『ワタシがきぐるみの姿に変わったとしても、一緒にいたい気持ちは変わらない』
って言ってくれたんです。
すると、タカコ様のその願いに呼応する形で、タカコ様に新しく“キュルミーの力”が芽生えたんです。
この芽生えた新しい力のお陰で、ワタシはこの“階層世界”の中で、言わば精神体として生き永らえる事を許してもらえました。
その恩返しとして、ワタシは“階層世界”の管理人として、この中からタカコ様のバックアップをいろいろとさせて頂きました。
ワタシの補助で、タカコ様の危機を何度も救ってるんですよ?
例えば……
攻撃ダメージが一切通らなかった
『フォルフ城の器械兵』、
ワタシにタカコ様の身体を一時的に譲渡してもらった
『スナッサ峠の神経沼』、
究極の選択を何度も強要された
『城塞都市カーレの大攻防戦』、
言葉の通じない幻獣達と一触即発の危機になった
『妖精の里の消滅危機』、
などなど……
数を挙げたらきりがありませんね。
この階層ではそう大した事は出来ませんが、いずれアカリ様が“階層世界”の他の層にも行き来出来る様になれば、アカリ様にも徐々に、いろいろとバックアップする事が出来る様になりますよ。」
キュイの話を聞いていて、朱璃はハッと気付いた顔をして訊ねました。
「って事は、今いるこの“階層世界”って、要はワタシのココロの中の世界なんですよね?
何故なら、目の前にいるキュイさんだって実は“精神体”なくらいなんですから。
って事は、今現在ワタシの肉体はどうなってるんですか?」
キュイは、ドンと胸を張って言いました。
「今現在、異次元ホールに突入しているアカリ様の肉体はキュイぐるみにより全身を魔法コーティングされているので、異次元ホールを抜けるまでどこも無事ですので安心して下さい。」
朱璃は異世界の事について聞いてみました。
「ねぇ、キュイさん、この異次元ホールを抜けた先にある異世界って……
どんな場所なんですか?」
「今からアカリ様が向かう異世界は、主に5つの大陸から形成される『内界』と空の上にあると言われています『天界』が存在します。
アカリ様、目を閉じてみて下さい。
『内界』には、例えば人間族、妖精族、飛竜族、天使族など、多種多様な種族が自他共生で生活しております。
『天界』には、大天使族、女神族、魔神族など、直接内界と接触を持つだけで甚大な影響を与えてしまう者達が隔離されて生活しています。」
キュイは朱璃の頭の中にホログラム映像を見せながら説明します。
「これが……異次元ホールを抜けた先の異世界なんですよ。
この異世界では、誰も漢字は理解出来ません。
なので、この異世界ではより“響き”で認知されやすいカタカナで名乗って下さい。
それから、異世界にいる間は常にキュイぐるみを着ていて下さい。
丸裸のアカリ様の戦闘能力では、はっきり言ってモンスターと対峙したらひとたまりもありません。
キュイぐるみを着ている間だけアカリ様の戦闘能力をドーピング出来るんです。
それにもう1つ、このキュイぐるみをパジャマにして寝た時だけ、この“階層世界”に来る事が出来ます。
つまり、その時だけまたワタシと会う事が出来るんですよ……」
異世界にいる間じゅう、ずっとお母さんとキュイさんがワタシを守ってくれてるんだぁ……
朱璃はキュイぐるみに籠る母の隆子の優しいぬくもりを感じて、きゅっとキュイぐるみを着たままの自分の身体を抱き締めました。
「キュイさん、今現在ゴブリンと応戦中のお母さんは大丈夫なんですか?」
「……ん、繋がりました、大丈夫ですよ!
今のワタシと母上のタカコ様とはある人物のお陰で、きぐるみを介さなくても意思のやり取りが出来る様になりましたからね。」
「えっ、そんな事を出来る人がいるんですか?」
「えぇ、まぁ、ヒトではないんですがね……
その人物とは……」
その後、朱璃はキュイの口から衝撃のひと言を聞く事になるのです!
「現在『天界』に隔離されているアナタの父上、
“大天使”のシュージン様です……!」
……わ、ワタシのお父さん……???