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ねぇ……
この空間の管理人さんはウサギさんなんですって……!
何故かきぐるみ着る事になっちゃったし……
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えっ、この世界は……
『不思議な○のアリス』?
『○の国のアリス』?
朱璃(あかり)は目の前のシロウサギを見て、そんな錯覚を起こしてしまいました。
「いえいえアカリ様、そんな絵本の中のお話ではありません。
全て、今現在目の前で起きている“リアル”なんですよ……」
ウサギがしゃべってるコト自体、もうすでにあり得ない事なんですけど……
っていうか……アナタ……誰?
「あ、すみません、申し遅れました……
ワタシ、この“閉ざされた空間“の管理人をしているキュイと言います。
タカコ様とアカリ様、お2人にお仕えする事が出来て、感慨ひとしおで御座います……」
そう言った管理人のキュイの顔は、喜びで緩みきっています。
……タカコ……様?
「ねぇ、キュイ……さん、まさかその人って、ワタシの……お母さん?」
「そうです。
アナタの母上の……タカコ様です。」
「ごめんなさい、キュイさん……
ワタシ、今の状況にまだ頭が追い付いていなくて……
分かる様に説明して……もらえません?」
キュイはうーん……と考え事をした後に、
「説明するよりもまず、アカリ様にして頂かなければならない事があるんです。」
「しなくちゃ……ならない事って?」
「これを開けてもらいます。
この……小型のアタッシュケースを、ね。」
でも、朱璃は今までも、何回も開けようと試みたのですが、まるで魔法で封印されているみたいで、力任せではことごとく失敗していたのです。
「キュイさん、どうやって開けるんですか……コレ?」
「このアタッシュケースは、“腕力”でも“魔力”でも開ける事は出来ません。
コレを開ける手段はただ1つ……
“命”だけなんです。」
えっ、“命”って……?
「ど、どうすれば……開けれるんですか?」
「アカリ様、目を閉じて下さい。
その状態のまま、自分の心臓の鼓動を感じて下さい。」
朱璃は、静かに目を閉じて……
そのまま、自分の手を胸の上、ちょうど心臓に当たる位置にそっと当てます。
トクン……トクン……
「そして、心臓の鼓動を感じ取る事が出来たら……
自分の両手を相手に向けて、そのまま心臓の鼓動ごと相手に投げ出す様なイメージを頭の中で作り出すんです!」
朱璃は、目を閉じたまま静かに両手をアタッシュケースの方に向かって広げて、そのまま自分の心臓の鼓動ごとアタッシュケースに投げ出すイメージをしてみました……!
すると、実際にはアタッシュケースを抱き締めていないのに、朱璃のココロがまるで水の様にそれにまとわり付いて優しく包み込む、その“感触”だけがダイレクトに伝わって来たのです!
さすが、アカリ様も母上讓り、いやそれよりも更に格上のモノをお持ちの様ですね……
キュイは朱璃の意識(なか)に眠る、まだ見ぬ潜在能力の高さに舌を巻いてしまいました。
水の様な“感触”のまま朱璃のココロがアタッシュケースを外からゆっくりジワジワと浸透して行き、その中に入っている“モノ”に触れる事が出来た様です。
「んっ……何かに触れた“感触”がありましたよ?」
朱璃のココロがアタッシュケースの中身と触れた途端、
カツン……!
とアタッシュケースの留め金が外れた音がしました。
朱璃がキュイの方を振り向くと、キュイはこちらを見てコクンと頷いています。
朱璃はそっと、ゆっくりアタッシュケースを開けてみると……
その中には、ウサギのきぐるみが入っていたのです!
感慨深そうにキュイは言いました。
「このきぐるみはね、『キュイぐるみ』っていうんですよ。」
キュイぐるみをよくよく見てみると、
キュイぐるみは全体的に純白で、キュイさんいわく、驚くべきは驚異の「撥水能力」らしいです。
汚れだけでなく、なんと血しぶきまで弾いてくれる“スグレモノ”なんだそうです。
キュイぐるみの頭部はカチューシャになっていて、ウサギの耳と長めの角が生えています。
キュイぐるみの胴部はデコルテの部分が大胆に空いており、胸を強調した作りになっています。
また、首から両肩にかけてモフモフのファーに覆われています。
更に後ろは丸く穴が空いており、キレイな背中を強調しています。
キュイぐるみの腰部はひらひらスカートになっており、先端はフリルになっています。
胴部も腰部も、裏地はきぐるみが男の子の場合はスカイブルー、女の子の場合はピンク、と統一されています。
キュイぐるみの腕部は軟らかく出来ていて、これのお陰でどんなモノでもしっかり握れ、極上の“肉球具合“の再現を可能にしています。
キュイぐるみの脚部はウサギのモフモフブーツが剥き出しの美脚をより引き立たせ、更にモフモフブーツにはダイヤルが付いており、リボンを添える事で可愛さを強調しています。
「この名前から、もうすでにお察し頂けたと思うのですが……
このきぐるみ、もともとの材質は“ワタシの身体”だったんです。
つまりこの世界の管理人をする前のワタシは、実はモンスターだったんですよね……」
……はひ?
「母上のタカコ様にテイムしてもらったんですよね……」
……うそっ?
「しかも今着てるキュイぐるみ、タカコ様が自身で作った“専用きぐるみ”ですからね……」
……えぇ~っ!!?
ホントですか、それぇ……?