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ねぇ……
精神世界って、でっかい段々畑なんだって……!
そこには……ウサギさんが暮らしてるの?
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う……ん……んっ!
崖のあの高さから飛び降りたのにワタシ、まだ生きてる……
って言うか、ここはどこ……?
朱璃(あかり)は目が醒め、キョロキョロと周りを見回しながら起き上がりました。
朱璃の隣に小型のアタッシュケースは置いてあります。
えーっと……
確かワタシ、崖から飛び降りて……
空中で誰かにいきなり腰をわしづかみにされたままものすごい勢いで引っ張りあげられて……
そこで、記憶が途切れています。
今、朱璃がいる場所は……
部屋全体を支える柱が無く、部屋の奥が分からないくらい広い……そんな部屋。
しかも、部屋の床は一面に色と黒のタイルが市松模様みたいに張り巡らされています。
「む、無駄に広いよね……」
そして、よくよく目を凝らすと向こうに小さく塔みたいなモノが見えます。
「と、取り合えずあそこに行ってみれば、何か分かるかも……」
朱璃は小型のアタッシュケースを拾い上げ、塔の方に向かってトコトコと歩き出しました。
ところが、いくら歩いても一向に塔へは到着出来ません。
というか、正確に言うと塔に向けて近付いてると明らかに実感出来る時と、いくら歩いても一向に塔との距離が縮まらない時が交互に来る感じです。
こんな、誰も人気の感じられない広い空間に独りぼっち……
朱璃は孤独感を感じてしまい、歩きながら思わず小脇に抱えた小型のアタッシュケースをギュッと抱き締めてしまいます。
「もぉ……歩いても歩いてもキリが無いよぉ……」
朱璃は疲れてへたり込んでしまいました。
朱璃はその場に座り込んで、肩で息をしました。
よほど歩いて疲れたのでしょう、そのまま横に倒れ込んで、ゴロンとあお向けになりました。
「ハァ……ヒンヤリするよ……」
意外と、背中の床はヒンヤリとしていて気持ちいいです。
それと同時に
『今、確かに自分は生きている!』
という“生への実感”も確認出来ます。
その時、
また小型のアタッシュケースが淡く光ったかと思った瞬間、
自分の心情を確認し直せ、小娘……!
と、さっきみたいに頭の中だけに響く声では無く、今度は明らかに朱璃の耳に直接声が聞こえて来ます。
心情を確認し直す……?
どういう事なの?
どうすればイイの?
朱璃はしばらくじっと考え込み、その後おもむろに身を起こしました。
よーく考えてみたら……
トコトコ歩いている時でも、全然塔との距離が近付かないと感じる瞬間が時々あったの。
そう言う時って、ほとんどの場合実際にネガティブな感情に支配されていたんだよねぇ。
って事は……
試しに、逆に“塔の方からこちらに近付いて来る”とイメージしながら歩いてみました。
すると、今までの半分の時間で塔らしき場所に着いたではありませんか!
「やっぱり、“良いイメージ”って大事よね……
今回、身に染みて実感しちゃったからね。」
いざその場所に来てみると、塔ではありませんでした。
そこにあったモノ、それは……
螺旋階段でした。
階段が螺旋の様に高く高く繋がり、まるで“段々畑”の様に各階層を繋いでそびえ立っている
……ハズでした。
ところが、階段の途中が崩れ落ちています。
そのお陰で、1段上の階層には行けなくなってしまっているのです……
「えっ、階段が途中で……途切れてるの?」
朱璃は、本気でガックリ肩を落としてしまいました。
朱璃は塔のある場所へ行けさえすれば、螺旋階段を登りさえすれば元いた世界に帰れるのでは、と期待していただけに、落胆も大きかった様なのです。
ただでさえ、元いた世界にはゴブリンと応戦中の母の隆子を残したままにしているのですから……
その時、小型のアタッシュケースが本日3回目、淡く光りました。
よくココまでたどり着けたね……
キミをこの異世界へ呼んだのはワタシだよ……
朱璃は、声が聞こえた方を振り向きました。
振り向いた先は……螺旋階段。
カツン……コツン……
なんと、崩れ落ちて上の階層に登れないハズの螺旋階段なのに、その階段の上の方から何かが降りて来るんです。
降りてきたのは……何と純白のシロウサギ。
あらら……
よくよく見ると背筋をシャキッと伸ばしていて、全然ウサギっぽくないの……
しかも、その上から……
何と執事の制服を着ているのよ!
「これで、ようやくアタッシュケースを通さなくても会話出来る様になりましたね、アカリ様……!」
まるで、ワタシ……
アリスみたいじゃないの……!