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ピント団の実状も、ミント団の実状も両方とも見たアカリ。
その上で、行動を共にするのはどちらの組織……?
それとも……?
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アカリが『階層世界』から帰って来た様です。うっすら目を開けると……ソファーに座ったまま、全身ビショビショになっていました。
しかし、こんな状況でもしっかり水を弾くキュイぐるみ、スゴいです。弾いた水玉がキュイぐるみを伝ってアカリの素肌を滑ります。
さすが女子高生、若い素肌は張りが違います。腕の表面で滑る水玉を指で軽くプン!と払いながら、アカリは周りを見回しました。
すると、まず壁際にあるバルブの下で気を失っていたのはフィリルです。まだ『階層世界』に留(とど)まっているのでしょうか?
向こうの壁には、フェアリーバードが訳も分からずバタバタ走り回っています。キュイはまだ憑依し直していないのでしょうか?
あ、バタバタしてたフェアリーバードがピタと止まって、ぼ……としてたと思ったらいきなり目をパチクリし出したんです!
「ふぅ……、ようやくこの本体にコンタクトする事が出来ましたよ!馴れないですね……あ、アカリ様、ただ今戻りました!」
……何かコンタクトの瞬間がちょっと怖いですよ!!!あ、恥じらいもなく取り乱してしまいました、どうもすみません……
「ねぇキュイさん、この部屋全体ビショビショなんですけど……どうしてですか?何かあったんですか?」
「フィリルさんがそこのバルブを回して天井スプリンクラーでミストシャワーを発生させたんです。ワタシがまた閉めておきました。」
……ふ~ん、そんな事があったんですねぇ。ニヤリ。
そして、そこの擦りガラスの仕切りの向こうのソファーでは3人のキュルミー少女達のうち2人は立てますが1人はまだ腰が抜けています。
その時、フィリルが『階層世界』から戻って来た様です。髪を後ろで結い、ゆっくりと立ち上がりました。『にゃんモード』の様です。
「アカリさん、今回の心理バトルは全て貴女が裏で仕組んでいた事だったのね。向こうでキュイちゃんから聞いたのよ~!」
キュイはコクコク頷いています。フィリルはフッと笑って、手のひらを上にしてクルクル回しながら言いました。
「私、結局はひとりイイ気になっててさ~。その実、すっかり貴女の手のひらで転がされていたのね。ワルい……ヒ・ト!」
フィリルはそう言いながら、いとおしそうな顔をして語尾に合わせて優しくツンツン!と人差し指でアカリの鼻頭をつつきました。
「アカリさんにイイ事教えてあげるね!私が戦闘時以外で最初から『にゃんモード』でいるのは、相手を認めて依存してる証拠なのよ~!」
それと……とフィリルは人差し指をフリフリしながら言葉を繋げました。どうやら、本当は言いたくて仕方が無かった様です。
「私の『無限探査(インフィニティー)』は、自分の身体に“水”を取り込まないと発動出来ないの~!レアスキルの類いは発動条件が付加されるのよ。」
……ふ~ん、その為のミストシャワーだったんですねぇ。フフッ。
いい?と人差し指をピッと上に向け、アカリの顔を覗き込みました。その時のフィリルの顔、何だかとても嬉しそうです。
「レアスキルは、それだけ発動効果が優秀って事よ~!ちなみに、この事を知ってるのは私の『仲間』だけなんだからねっ!」
アカリはフィリルから自分の事を『仲間』、と言ってもらえてとても嬉しそうです。溢れ出る様なニコニコ顔がキュイにはたまりなく映ります。
こういう「秘密の共有」は、仲間意識の結束に大いに役に立ちます。でも……秘密の話の割にはフィリル、楽しそうですね。
「じゃあ私、ミント団に戻って事後処理をして来るね~!早くまたアカリさんと合流したいな。じゃっ、行って来るね~!」
「「いてら~!」」
アカリとキュイは手を振ってフィリルの後ろ姿を見送りました。アカリは3人のキュルミー少女達の元へ歩み寄りました。
「申し遅れました。ワタシの名前はアカリ、キュルムの町の長老さんの依頼で貴女達3人を助けに来ました。さあ、町に戻りましょう……」
本当は『ミント団の実状を探りに行く』のが本当の依頼だったんですけど、流れ的にこの娘達まで助けてしまいました……
アカリとキュイ、そしてピント団のキュルミー少女達3人は再び深い霧の中をアカリを頼りに歩き続け、キュルムの町に戻りました。
「長老さん、ただ今戻りました!そしてピント団のキュルミーの女の子3人を救出して来ました!どこにおられますか?」
「おぉ、ここじゃここじゃ!ワシは『ミント団の実状を見て来い』とまでは言ったんじゃが、まさかこの子らまで助けて来るとは……」
あ、やっぱり……同じ事言ってますよ、このヒト……
「この子たちが、またワタシが見て来たミント団の実状が、この先の『自分の進むべき道』をハッキリと照らし出してくれました!」
「む?どういう事じゃ?……さては、今回の偵察で得たモノはその2つだけではない、という事じゃな?どうじゃ、違うかの?」
さすがは長老さんです。この「洞察力」があるからこそ、この町の長老を務めておられるのでしょうか?なかなかの眼力です。
「では、そなたの“答え”を……聞かせて貰おうかの。そなたの導き出した“答え”……『進むべき道』とは……何ぞや?」
キュイの頭を撫でていたアカリは、しばしの沈黙の後……頭を上げてキッパリこう断言しました。
「ワタシは……“きぐるみ至上主義”を旗印に掲げるピント団の力を借りて『7世界の王』を探そうとは思っておりません。」
ピント団の力は借りない、とな……コホンっと咳をして長老さんは言葉を続けます。
「では……ミント団の力を借りるつもりかの?その方がいいかも知れんの。ワシが力になってやれのが残念なんじゃが……」
アカリはブンブンと首を振りながら、長老さんに丁重にお断りしました。それも“答え”ではないからです。
「いえ、“仲間の絆”に義を重んじるミント団に与(くみ)する事も……考えてはおりません。」
なに、ミント団の力も借りないのか!ならば、と長老さんがアカリに言葉を畳み掛けます。
「ならば……ピント団の力もミント団の力も借りず、そなたは独力で『7世界の王』を探し出すつもりなんじゃな?」
思わずムフッと笑みが溢れるアカリ。さあ長老さん、このひと言で盛大に驚いてもらいましょうねっ!
「いえいえ、この“世界のうねり”を無視してひたすら天界を目指す、とも言っていませんよ。ワタシは“もう1の道”を征きますので。」
アカリのあまりの予想の遥か上を行く解答に、長老さんは驚愕で目を見開き、思わず身を乗り出しちゃっています!
「……“もう1つの道”とは?選択肢に無き道とは何かの?もし本当にあるならワシも聞きたいのじゃ!ぜひ聞かせて欲しいのじゃ!」
さて、アカリの“もう1つの道”とは果たして……?
それを実現出来るプランを、アカリは考えてあるのでしょうか……?
【ネタバレ♡】
実は、アカリも『女神族』という上位種族であるが故に反則とも捉えられかねないレアスキルを所持しています。
しかも、1つだけでなく……
ちなみに、『人間族』である母キョウコはレアスキルを所持出来ません。