女神さま、きぐるみ着るとスゴいんですっ♪   作:きぐるみん

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12縫. 巨大なうねりの中心

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長老さんは言います。

この異世界には、今現在大きなうねりがあると……

そのうねりの中心にあるのは、「桃兎団」と「緑兎団」……

 

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キュルムの町の長老さんから衝撃のひと言を聞き、明らかにへこんでいるアカリ……

 

すると今まで堅く口を閉ざしていたキュイが、高いトーンの声で軽快なジャブを繰り出しました。

 

「あのー、このままではあまりにもアカリ様が不憫ですねー。

なので母上のタカコ様、そしてアカリ様と2代に渡ってお供をさせてもらったワタシから言わさせてもらいまーす!」

 

そして、声のトーンを低くしてシリアスに言ってのけました。

 

「ハッキリ言って、潜在能力で較べたらアカリ様の方が断然上ですよ。」

「それは……この子の方がキョウコ様より能力値が高い、という事ですかな?

それとも、キョウコ様には無い能力をこの子が有している、とでも?」

 

何て言うか……アンタ達どれだけ“キョウコ様一筋“なんですか、とキュイは思いながら……

 

「正直言うとワタシもアカリ様とは出会ったばかりで、能力云々(うんぬん)はまだ掴みかねています。

しかし、ひとつ分かっている事があります。」

 

キュイは更に長老さんの耳に近付き、小声で囁(ささや)きました。

 

「アカリ様は……『天界』の扉を開ける事が出来るんです。

長老さんならこの意味、分かりますよね……?」

「なるほど、確かにそれは大きな声では言えませんわな。

その言葉の意味の重大さ……よく身に染みて分かっているのじゃ。

何せ、ワシもあの“場”に立ち会っておるんじゃからのぉ……」

 

キュイと長老さんは再び声のトーンをいつも通りに戻しました。

 

「では長老さん、今の事を踏まえて改めて協力を要請したいのですが……」

「うむっ、町の者に寝床と1日2回の食事は用意させよう。

その代わり、町の外から来た人間にそれ以上のもてなしは出来ないのじゃよ。」

 

アカリが首を傾(かし)げて聞きました。

 

「それはどうしてですか?

何か……あったのですか?」

「それはな、今この世界全体で大きなうねりとなる行動が起こっておるからなんじゃ。」

「大きなうねりって、何なのでしょうか?」

「それはな、第1次キュルミー大戦が終結した後に『白い巫女』を崇拝する若者たちの間で思想の違いから『桃兎(ピント)団』と『緑兎(ミント)団』という2つの団体に別れて激しい争いを繰り広げておるんじゃ……」

「その2つの団体って……何なんですか?」

「まず、ピント団からじゃが……

彼らは『白い巫女』の着るウサギのきぐるみ……すなわちアカリ様が今着ていらっしゃっておる“キュイぐるみ”こそ平和を導く力、と信じて疑わん若者たちが中心じゃ。

アカリ様もあの中央広場の掲示板に貼ってあるモノを見たじゃろ?

あの『ピンクの兎のステッカー』こそ、ピント団の象徴なのじゃ。」

 

あ、そのステッカーはさっき長老さんが持っていたラム酒のビンにも描かれていましたね……

 

「そしてもうひとつがミント団じゃ。

彼らは『白い巫女』と共に闘った仲間達の“絆の力”こそこの争いを終わらせる事が出来る、と頑なに考えを曲げぬ若者たちが中心じゃ。

ミント団に属する若者たちの身に付けておるモノのどこかに、『緑の兎のステッカー』を縫い付けておるから、見ればすぐ分かるはずじゃよ。」

 

ここまで説明を聞いても、アカリには全て納得出来た訳ではありませんでした。

 

「なーんか漠然としてますよね……他に特徴は無いんですか?」

「いやいや、これ以上の特徴は無いと思うんじゃがのぉ……」

 

そう言いながら、長老さんはアカリが納得出来る様により詳しく教えてくれました。

まず、最初はピント団からです。

 

「ピント団の若者たちは『白い巫女』が英雄になり得た理由が“きぐるみ”にあると思っているので、それにあやかろうと全員きぐるみを着用しているのじゃ。

しかし悲しいかな、彼らの着ているきぐるみは大半が“量産きぐるみ”で、本当の意味でテイムモンスターのドロップアイテムから作った“テイムきぐるみ”を着ているのは数える程しかいないのじゃよ……」

「ちなみに、今着てるキュイぐるみもワタシのドロップアイテムからキョウコ様が手作りしてくれた“テイムぐるみ”なんですよ!」

 

そう、キュイが補足してくれました。

 

……って事は、ピント団の中でも本当の意味で“能力”が使える人ってほんの一握りって事ですよね?

他の人たちはみんな、ミント団とどうやって闘っているんでしょう?

 

そして、次はミント団です。

 

「ミント団の若者たちは『白い巫女』が英雄になり得た理由が“仲間との絆”にあると思っているので、絆を確かめる為にグループを組みます。

今現在確認出来ているだけでも、10以上ものグループがあります。

しかも、それはこのスメルクト大陸だけに限定した数です。

ミント団を形成するグループには面白い特徴があって、1グループの団員は全員身体のどこかに同じ物を共通して身に付けるのです。

しかもグループごとに身に付ける物は異なりますが、身に付ける物には必ず『緑の兎のステッカー』を手縫いさせるのです。」

 

そう言えばアカリ達は結局気付かないままでしたが、アカリ達を尾行していた一団も全員首にレインボーマフラーを巻いていました。

しかも全員、レインボーマフラーのバタバタたなびく同じ部分に緑の兎のステッカーを手縫いしていました。

という事は、彼らはミント団のグループのひとつだったのでしょうか……

 

「この大きなうねりは、今を生きる若者たちが引き起こしておる。

だからワシら年寄りはこのうねりには今さら入れないし、加わろうとすると簡単に弾かれるじゃろう。

じゃから、ワシらは深くは肩入れする事が出来ないんじゃ……

しかし、アカリ達はまだまだ若い!

しかも英雄と呼ばれた『白い巫女』キョウコ様の娘、と分かれば……」

 

アカリもうんうんと頷きながら、

 

「どんな手を使ってでも仲間に引き入れようとする、でしょうね……」

「まぁ『与(くみ)して利有り』となれば双方とも全力で引き入れ工作に来るじゃろうし、害しかないと判断されれば全力で排除しようと画策して来るかも知れんじゃろう。」

 

長老さんがアカリに意思確認を求めて来ます。

 

「このうねりに身を任せるのか?それとも逆らって進むのか?

アカリ様はどうなされるおつもりなんじゃ……?」

 

 

どちらかの団の力を借りた方がいいのでしょうか……?

うねりを無視してひたすら天界を目指した方がいいのでしょうか……?

 

果たして、アカリの出した結論とは如何に……


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