11縫. きぐるみの町に潜入
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深い霧の中へ……
霧の中で見たのは……“きぐるみ“の町?
はたして、『7世界の王』へと繋がる足掛かりになるのでしょうか……?
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アカリとキュイと『かぐら座』の“弾き子”の皆さん、合計6人の大所帯で現在森を抜け、平原を進みます。
「さぁ、お日さまが顔を出している内に距離を稼いじゃいましょう!」
まだ明るい内に、行ける所まで行っちゃうつもりの様です。
しかし、そんなに考えは甘くなかった様です。
何故なら、歩き続けるに従ってだんだんと霧が立ち込めて来たからです……
ズキッ……
霧が立ち込めて来た時、アカリは少し頭痛でくらくらっと来ましたが、倒れる程ではありませんでした。
その頃、霧の外では……
アカリ達一行を尾行していたあのマフラーが、突然の霧で一行を完全に見失っていました。
「くっ……
親方様、“あの方”の行方が突然の霧で完全に分からなくなってしまいました……」
そして、悔しそうな顔をしてスッと姿を消してしまいました。
どうやら、あの一団の目的は“襲撃”ではなかったみたいです……
その頃、アカリ達は霧の中をさ迷っていました。
「霧のせいか、ちょっと寒いですね……」
「じゃ、座楽団『かぐら座』のガウンがあるから羽織らせてあげるよ……」
リーダーのお姉さんはアカリにガウンを貸してあげました。
これで寒さは凌(しの)げそうです。
「一体、どちらに向かって歩けばいいのでしょう……」
リーダーのお姉さんも困り顔です。
すると……
「たぶん、あっち向きかも……」
とアカリがある方向に指を指しました。
「あの方向に向かって歩くと、頭痛が楽になるから……
あ、次はこっち……
な、何か、誰かに呼ばれている様な気がしますね……」
アカリのナビ通りに進み、しばらく歩くと遠くにボヤ……と町らしき輪郭が見えて来ました。
「あっ、町が見えて来ました!」
「えっ……?
私達も座楽団として色んな町を渡り歩いて来たけど、こんな所に町なんて見た事も聞いた事も無いですわ!」
しばらく歩くと、町の入口に着きました。
「本当に、幻じゃなくて町だったんですね。
来れちゃいましたよ。」
「リュリュ……」
キュイは心配そうです。
「取り合えず、中に入ってみましょうよ。」
みんなで町の中に入ってみる事にしました。
町の中は整然としていて、真ん中に大通りが2本、十字に走っています。
この2本の大通りに平行に、まるで定規で線を引いたみたいに等間隔で家が配置されています。
2本の大通りが十字に交わった中央は丸い円形の広場になっています。
広場の真ん中には掲示板が設けられていて、そこにはピンクの兎ステッカーが貼られています。
「どうやら、人っこひとりいないみたいですわ。」
「……いえ、そんな事は無いと思いますよ。
だって、人の姿が見えないだけで、さっきから人の視線はそこかしこに感じていましたから。
……たぶん、家の中からワタシ達の事を覗いているんだって思うんです。」
「リュッ!」
キュイも同意見の様です。
すると、今までジッ……と考え事をしていたリーダーのお姉さんが、いきなりカラカラ笑い出しました。
「はははは……イイ事を思い付いちゃいましたわ。
この中央の広場で、座楽で音を鳴らしちゃいましょう!」
「えっ……ちょっと待って!
何をする気なんですか……?」
「ねぇ、旅のお方、『アマテラスのお話』って聞いた事……あります?」
「……?」
アカリは首を傾(かし)げます。
「昔むかしの大昔、『アマテラス』って麗しい太陽の女神さまがいたそうです。
だけど、その女神さまの弟君で在らせられる『スサノヲ』って乱暴者の破壊神さまが怖くて、洞穴に隠れて天岩戸(あまのいわと)って言う大きな岩でフタをして隠れてしまったそうなんですわ。」
あ、何か前の世界にいた時に、日本史の授業で同じよーな話を聞いた事がある様なない様な……
「太陽の女神さまが隠れてしまったせいで、いつまでも世界は真っ暗闇なままになってしまい、人々は困り果ててしまったそうなんですわ。
そこで、人々は一計を案じたそうなんです……」
そう言って、準備の出来た“弾き子”4人は座って楽器を弾き始めました。
それは最初、リーダーのお姉さんが弾く、静かな曲調から始まりました。
静かな、それでいて滑らかな音……
そのうち、弾く音が2つになって絡まり合い、3つの音で曲調がいきなり変わり、そして4つの音が高め合う……!
まるで楽器を使った、重厚な『起承転結』です。
しばらく聞いているうちにアカリも何だか楽しくなり、気付いたら……
自然と笑っていました。
それを見た“弾き子”の4人にも笑みが溢(こぼ)れます。
みんなで、笑顔の「大合唱」です!
すると、楽器の音色につられてなのか……
気が付いたら、町の人達がみんな家から外に出て、中央の広場に集まって来たではありませんか……
でも……
……なんでみんな“きぐるみ“を着てるの?
リーダーのお姉さんは、楽器を静かに弾きながら話してくれました。
「先ほどのお話の続きなのですが、天岩戸の奥に隠れてしまった太陽の女神さまを外の世界へとお戻しする為に、人々は天岩戸の前で楽器を演奏し始めたんです。
すると、その曲に合わせて『アマテラス』様も天岩戸を開けて外に出て下さった、って話なんですわ。
ね……このお話、今の状況に似てません?
旅のお方、『アマテラス』様は、何につられて天岩戸を開けて外に出たんだと思います?」
「岩の隙間から漏れ聞こえる“楽器の音色”……ですか?」
「いえいえ、『アマテラス』様を揺り動かしたのは“楽器の音色”などではなく、実は……」
と言いながらアカリのほっぺをツンツンとつつき、
「実は、楽器の音色を聞いた“人々の笑い声”だったんですよ!
つまり、町の人達をこの中央の広場に呼んだのは私達が弾いた楽器の音色じゃなくて、旅のお方が笑った笑い声を聞いてみんな出て来てくれたんですわ!」
周りを見渡すと……
座楽団を囲む様に町の人達がワイワイ踊っています。
右手前では、お互いの肩を組んで酒を呑み交わしています。
左では、輪を囲んで女性同士で談笑していたりしています。
でも何故か、みんな“きぐるみ”は着たままで……
そんな光景を微笑ましく見ていると、この町の長老が酒を持ってこちらにやって来ました。
この町で作られたラム酒の様です。
あ、この酒ボトルにも、あの掲示板で見たものと同じデザインのステッカーが貼ってあります……
「先ほどはどうも、すみませんでしたわい。
よく、この町に来る事が出来ましたなぁ。
迷い込む者から年に数人はおるから、その度に追い返しておるんじゃが……
旅のお方の様に、明確にこの町を目指して来る者は初めてだったんじゃ。
いや、2度目なのかのぉ……」
だから、みんな怖れて家の中から出て来なかったんだ……
「いえ、ワタシ達も深い霧に迷い込んでしまって……
気付いたらこの町に着いていたんです。」
突然起こった頭痛によって、この町に呼ばれる様にやって来た……
なんて事は、この際内緒にしておきましょう。
誰も信じてくれないでしょうし……
「あの、長老さん……
ひとつ、聞きたい事があるのですが、この町の人達は何でみんな“きぐるみ”を着ているんですか?」
「あぁ、それはな、この町には『きぐるみ信仰』、『獣着師(キュルミー)信仰』というものが根強く残っているからなのじゃ。
“キュルミー達の町”という意味も込めて、この町を『キュルムの町』と名乗っているほどなのじゃよ……」
ココは、『キュルムの町』って言うんですね……
「この町は一度、後に『白い巫女』と呼ばれ英雄と讃えられたあるお方によって壊滅の危機から救って頂いているのじゃよ。
その時の、あのお方の……」
と、長老さんはそこまで喋ってようやく、アカリもガウンの下にきぐるみを着ているのに気付いたみたいです。
「ちょ、旅のお方、ご無礼をお許しくだされ。
その純白のウサギのきぐるみ、もしや……」
「はい、確か……『キュイぐるみ』って言って……」
アカリは、借りていた座楽団『かぐら座』のガウンをファサッと脱ぎました。
思わず、長老は手に持ったラム酒の酒ボトルをストンと落としてしまいました。
町の人達の視線も、みんな一斉にこの『キュイぐるみ』にくぎ付けです!
「ま、まさか……そんな……
見間違うハズもない……ついに帰って来られたのじゃ……
その純白のウサギのきぐるみを見た時にはもう……」
長老の言葉に合わせて、町の人達が一斉に、
「お帰りなさいませっっっ、タカコ様っっっ!!!」
……はぁっ!?
今ワタシ、思いっきりお母さんと比較されちゃってます?
比較しないで下さい!
お母さんはお母さんっ、ワタシはワタシっ!
「皆さん、盛大なカン違いをしちゃってませんか?
タカコはワタシのお母さんですっ。
ワタシは娘のア・カ・リっ!」
すると、しばらくの沈黙の後、町の人達が一斉に、
「えぇぇぇ~~~っっっ!!!」
そして、手のひらを返す様な見事なまでのガッカリ感。
……はいっ、そこっ!
そんな露骨にガッカリしなーいっ!
あんまり露骨過ぎると傷つきますよぉ……