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助けたお礼として……
座楽団の“弾き子”の皆さんから世界地図を貰いました……!
しかし、その様子を「兎」の一団も見ていたみたいで……?
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アカリとキュイは、仲良く盗賊団のアジトだった洞窟から外に出て来ました。
すると、木陰に隠れて様子を見ていたのか、盗賊団に捕らえられていた町娘の皆さんが4人とも、ゾロゾロとアカリの許に駆け寄りました。
「すみません、助けて頂いてありがとうございます。」
「本当に、私たちどうなるかと思いましたわ。」
「あっ、ワタシも……わひゃぁっ!」
「有難うござ……えっ、その鳥は!」
4人とも違う反応をしましたねぇ……
驚かすつもりは無かったのですが……
「大丈夫ですよ、このコは先ほど皆さんに地上に移動して貰った後にアジトの中でテイムしましたから。
もう皆さんに危害を加える事は有りませんよ……」
アカリはそっとキュイに寄り添い、耳許でヒソヒソ囁きました。
……キュイさん、“口裏会わせ”をして下さい……!
キュイはコクンと頷きました。
そして……
「りゅ、リュ……」
と町娘さん達に頭を垂れました。
それを見て安心したのか、4人ともキュイの頭を撫でてくれました。
……うひゃあ!
アカリ様、むず痒くてムズムズしますよ、コレ……
キュイは頭をナデナデされるのに慣れていない様です。
して、町娘さん達4人のうちの1人が落ち着いた口調で、こう自己紹介しました。
「改めて、先ほどは助けて頂き、本当に有難うございました。
私達は『かぐら座』という座楽団の“弾き子”をしている者です……」
あ、そういう事ですか……
この人は4人の中でも一番年上で、みんなこの人の口調に合わせています。
つまり、この人が“弾き子”グループのリーダーという事です……
「私達『かぐら座』は、町から町へと渡り歩き音楽を弾き歩いている、小さな座楽団ですわ。
なので、助けて頂いたお礼として、差し上げられる物が何もないのですが……」
「別に、お礼なんていいですよ……
それよりも、アナタ達座楽団は、確か“町から町へと渡り歩いている”って仰っていましたよね?
実はワタシ、この世界に来たばかりでこれから先どちらに向かって歩けばいいか分からないんです……」
「という事は……
すみません、旅のお方、もしかして『転移者』なのですか?」
「まぁ、そうですけど……
あまり声を大にして言えないんですが……」
「リュ……」
たぶん、キュイは
“あまり他人に秘密をベラベラ喋るな!”
と言っているのでしょう。
「大丈夫ですよ。
私達は町から町へと渡り歩く座楽団です。
それはもう色んな国と地域に行っていますわ。
行った町で『転移者』『転生者』の方と会う事も度々あったものですから……」
なるほど、だからいきなりワタシみたいな人間と出会っても“拒絶感“がなかったんですね。
「あっ、そうだ、イイ物があるから見せてあげますよ……」
そう言って、みんなで側にあった大きな木の切り株へ移動しました。
リーダーのお姉さんは胸元から折り畳んだ世界地図をファサ……と大きな切り株の年輪の上に広げました。
「見てお分かりの通り、この世界は5つの大陸に分かれています。
地図の真ん中に右斜めに連なって2つ、そして左上と右下、左下にそれぞれ1つずつ、で合計5つですわ。」
ふんふん、とアカリは地図を見て確認します。
「まず、真ん中にある2つからですね。
右上にあるのが“アルカディア大陸”と呼ばれています。
この大陸には、『転移者』『転生者』の人達が身を寄せあって暮らしている里がありますわ。
もし旅の目的がまだ決まっていないのなら、まずこの大陸を目指してみるのも手かも知れないですね。」
そうですね、この里に行けば“キュルミー”の事、“女神”の事が分かるかも知れません。
そして、本当にこの里に『転移者』がいるのなら、ひょっとするとお母さんの足跡もきっと……
「そして左下にある方の大陸は“トンポイ大陸”って呼ばれています。
ここはとにかく海岸線が多いから、バカンス目的で観光に来る人が多いんですよ。
私達も、この大陸に呼ばれる事が一番多いですね……
ちなみに、“アルカディア大陸”と“トンポイ大陸”の間には巨大な大橋があって、自由に行き来出来る様になっているんです。
通行料は、確か取られなかったと思いますわ。」
この2つの大陸はお互いに繋がってるみたいですけど、他の3つの大陸へはどうやって行けばいいのでしょうか……?
「あとは、地図の端に点在している3大陸を説明しますね。
まず、左下の大陸は“スメルクト大陸”って言います。
現在、私達がいる大陸もココですよ。
ココはとにかく伝承が多くて、分からない部分が多いんですわ。
その中でも昔からよく聞かされていたのが、
『幾重にも巡り張られた結界に守られている、“妖精の国”なるものが存在する』
『近付いた者の五感を奪い尽くす“魔の沼”が存在する』
『決して眼に映らない“透明なドラゴン”が、人を乗せて飛び回っている』
……この辺りが結構有名な伝承ですね。
誰もそんなもの、見た事も聞いた事も無いし、本当に存在するかもマユツバ物ですよね……」
それがあるんですよ……と喉の奥まで言葉が出かかったキュイでしたが、何とかゴクンと呑み込んで素知らぬふりをしていました。
「そして、右下にあるのが“魔法大陸マガンティ”って言います。
普通の人では見る事も叶わない“幻の大陸”なんて呼ばれていますわ。
それが何故かは……
自分の目で確かめて見た方が面白いかも知れないですね。
でも、『見る事も叶わない』ってあるけど、確かにそこに大陸は存在しているんですよ。
だって、地図にちゃんと描いてあるじゃない?
それとこの地図、よーく見てご覧なさい?
何故か、この大陸だけ薄く“影”が描いてあるでしょ?
それがお姉さんからのヒントですわ。」
そこまで言われちゃうと……
行きたくてうずうすしちゃうじゃないですか……
でも、“魔法大陸”ってあるから、まさか魔法が関係してるの……?
「そして、最後に残った左上の大陸が“デルジア大陸”って言います。
悪いけど、この大陸は全てが未開の“暗黒大陸”なんです。
いろんな国が『調査団』を派遣してこの大陸に送り込んでいるんだけど、誰も帰って来ないんですよ……」
そして、リーダーのお姉さんはニッコリと微笑んで、最後にこう付け足しました。
「私達『かぐら座』は、魔法大陸マガンティ、デルジア大陸を覗くほぼ全ての国と地域をくまなく渡り歩いていますわ。
ひょっとすると、また何処か別の地域で再会出来るかも知れませんね……」
アカリは、この異世界の事について教えてもらい、世界地図までプレゼントして貰いました。
「“弾き子”の皆さん、この辺りはまだモンスターがいるかも知れないので、ワタシと最寄りの町まで行きませんか?」
「あっ、すみません。
旅のお方、宜しくお願いしますわ……」
そして、アカリとキュイ、“弾き子”の皆さんの計6人で町に向かって歩き始めました。
その光景を、森の向こうにある小高い丘から遠眼鏡で眺めていた一団がありました。
♪ババンバンバンバン♪
平原から小高い丘へと吹き上げる突風!
突風が来ても仁王立ちで動じない、最高にアツい漢(オトコ)達!
突風が来てバタバタとたなびくマフラー!
たなびくとキラキラと7色に光るレインボーマフラー!
繰り出せ鼻息!たなびけマフラー!
【解説】────────────
そのマフラーの端、一番バタバタする部分に黒下地に緑のウサギのステッカーを“手縫い”で縫い付けたマフラー!
しかし、バタバタたなびくせいで全く見えないのだ!
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……小気味イイBGMと派手にスベった登場シーンでした!
しかし、遠巻きにアカリの様子を観察するだけで、襲ったりする様な形跡はありません。
アカリを確認してすぐ、先頭の男が手をクイッと振ると、全員スッと姿を消してしまったのです。
果たして、一体この一団は何者なんでしょうか……?